52 / 80
犬宮賢と陰陽師
『構わぬ。久しい感覚だ』
しおりを挟む
黒田と共に森の中に入る心優は、体が震え顔が青い。
「…………心優ちゃんって、自分が女性という自覚はある?」
「関係ありません」
「えぇ~。結構関係あると思うんだけどなぁ~」
苦笑いを浮かべながら歩いている黒田の腕には、心優はがっちりと抱き着いていた。
「ん~。じゃぁ、もう一つ質問しようか。俺が男で、女性が好きという設定であることは覚えてる?」
何を言っているんだというように、心優は怪訝そうな顔を浮かべ黒田を見上げた。
ニコニコ顔を浮かべ下を指さす彼を見て、すぐに視線を下げる。
「わかったぁ~? 俺も一応男なんだよねぇ。さすがに心優ちゃんみたいな可愛い女性に胸を押しつけられるのは、ちょっとねぇ~」
「……………………~~~~~~~変態!!!!」
バッと黒田から離れ、自身の胸を抑え赤面しながら黒田を睨む。
その言葉には些か納得できない部分があり、黒田は顔を引きつらせため息をついた。
「はぁ、それで、手を握るのは大丈夫だから、ほれ」
「……………………変なところは絶対に触らないでくださいね」
「俺から触ったわけじゃねぇだろうが……」
心優が差し出された黒田の手を握り、薄暗い森の中を進む。
奥に進めば進むほど暗くなっていき、体が重くなる。
鴉の泣き声や草木が重なりあう音で心優はビクビクと肩が上がり、黒田の手を引っ張っていた。
「やれやれ」と肩を竦めつつ、空いている方の手で自身の首を確認。
包帯でしっかり巻いてはいるが、糸で皮膚を縫い合わせる時間はなかったためアンバランス。
小さな衝撃があればすぐにでも落ちてしまう。
心優の震えだけでも、いつ首が落ちてしまうのかわからずひやひやしていた。
ため息を吐き歩みを進め数十分後、心優は恐怖心とはまた別の何かにより足を止めてしまった。
「あ、あの、黒田さん。ここって…………」
「おっ、感じたか? 普通の人間にもわかるんだなぁ~」
黒田はなぜ心優が歩けなくなったのか察し、周りを見回した。
陽光の届かない薄暗い森の中。
空気が冷たく、肌寒い。
二人の周りには冷たい空気だけでなく瘴気まで漂い、心優の身体に圧を与えていた。
足は震え、力が抜けてしまいその場に倒れ込みそうになるが、すぐに黒田が「おっと」っと、倒れ込みそうになった心優の腕を掴み支えてあげた。
「あー、そうか。普通の人間だと立ってすらいられなくなるのか……。すっかり忘れてた」
――――な、何を言っているの?
うっ、体が重たい、力が入らない。
ここ、普通じゃない。普通の、空気じゃない。
息が荒くなっていく心優を見下ろし、優しく地面へ下ろし眉を顰めた。
「賢を相手にする時と同じ考えだったわ。そういやあいつ、憑き人だもんな、普通の人間である心優ちゃんと一緒に考えては駄目だったか」
言いながら黒田は、ポケットの中に手を入れ何かを掴み取り出した。
「ほれ、もうそろそろ効力がなくなってきてはいるみたいだが、少しくらいは守ってくれるだろう」
言いながら取り出したのは、半分以上黒く染まってしまった心優のお守り。
――――え、なんで黒田さんがこのお守りを持っているの?
確か、これは巴ちゃんに取られてしまったはず……。
目を丸くし差し出されているお守りを見ていると、黒田は無理やり心優の手にお守りを握らせた。
「さっき、氷柱女房との戦闘の時に、どさくさに紛れて奪っておいたんだ。もう効力はほとんどないが、ここに居る間だけなら守ってくれるだろう。話しを付けるまで頑張ってくれ」
お守りを握りしめ目を丸くしている心優をよそ目に、黒田は立ちあがり何もない空間を見つめ始めた。
「――――来てくれて嬉しいぞ、呪異」
誰かの名前を呼ぶと、何もないと思っていた空間に突如、黒い霧が現れ一つに集まり始める。
人一人くらいの大きさに集まったかと思うと、四方に弾けた。
「っ、な、誰?」
中から姿を現したのは、膝まで長い滅紫色の髪を後ろで一つに結っている男性。組みひもでまとめられており、シャラシャラと後ろで揺れていた。
黒い法衣を身に着け、左手には錫杖。
目にあるはずの眼球がなく、暗闇が広がっていた。
「ヒッ」
心優は異様な見た目の男性が突如姿を現したため、小さな悲鳴を上げ黒田の腕に抱きついた。
「おっと、首落ちるから、抱き着くのならせめて一声かけてくれ」
「一声かける余裕があると思いますか!? 無理です無理無理! 誰か出てきましたよ!! お化け、お化けです!! 祟られる!!」
「…………やっぱり、連れてこない方が良かったかなぁ~」
黒田は犬宮の反応に慣れてしまい、この程度のことでは人間全般はたじろがないものと思っていた。
そのため、今の心優の反応は意外な物。
めんどくさいと思いながらも心優のことを無視、黒田はない目を丸くしている呪異と呼んだ男性を見上げた。
「うるさくて悪いな」
『構わぬ。久しい感覚だ』
低く、響きのある声。
見た目は怖いが、声は優しくまったりとした口調。
心優をじぃ~と見たかと思うと、ゆっくりと近づき始めた。
――――な、なに? なんで私は見られているの?
もしかして、怯えてしまっているのが気に障ったの!?
いや、でも事前に教えてくれていない黒田さんが悪いと思うんだけどぉぉぉおお!!
恐怖と困惑で頭が動いていない心優に手を伸ばしたかと思うと、なぜか”ぽんっ”と、頭に手を乗せられた。
「――――ほえ??」
『…………やはり、人間のおなごはかわいいのぉ~』
なぜか口角を上げ心優の頭を撫でたかと思うと、おじいちゃんみたいな口調でそんなことを言い出した。
「――――へっ?」
――――な、何が起きたの???
「…………心優ちゃんって、自分が女性という自覚はある?」
「関係ありません」
「えぇ~。結構関係あると思うんだけどなぁ~」
苦笑いを浮かべながら歩いている黒田の腕には、心優はがっちりと抱き着いていた。
「ん~。じゃぁ、もう一つ質問しようか。俺が男で、女性が好きという設定であることは覚えてる?」
何を言っているんだというように、心優は怪訝そうな顔を浮かべ黒田を見上げた。
ニコニコ顔を浮かべ下を指さす彼を見て、すぐに視線を下げる。
「わかったぁ~? 俺も一応男なんだよねぇ。さすがに心優ちゃんみたいな可愛い女性に胸を押しつけられるのは、ちょっとねぇ~」
「……………………~~~~~~~変態!!!!」
バッと黒田から離れ、自身の胸を抑え赤面しながら黒田を睨む。
その言葉には些か納得できない部分があり、黒田は顔を引きつらせため息をついた。
「はぁ、それで、手を握るのは大丈夫だから、ほれ」
「……………………変なところは絶対に触らないでくださいね」
「俺から触ったわけじゃねぇだろうが……」
心優が差し出された黒田の手を握り、薄暗い森の中を進む。
奥に進めば進むほど暗くなっていき、体が重くなる。
鴉の泣き声や草木が重なりあう音で心優はビクビクと肩が上がり、黒田の手を引っ張っていた。
「やれやれ」と肩を竦めつつ、空いている方の手で自身の首を確認。
包帯でしっかり巻いてはいるが、糸で皮膚を縫い合わせる時間はなかったためアンバランス。
小さな衝撃があればすぐにでも落ちてしまう。
心優の震えだけでも、いつ首が落ちてしまうのかわからずひやひやしていた。
ため息を吐き歩みを進め数十分後、心優は恐怖心とはまた別の何かにより足を止めてしまった。
「あ、あの、黒田さん。ここって…………」
「おっ、感じたか? 普通の人間にもわかるんだなぁ~」
黒田はなぜ心優が歩けなくなったのか察し、周りを見回した。
陽光の届かない薄暗い森の中。
空気が冷たく、肌寒い。
二人の周りには冷たい空気だけでなく瘴気まで漂い、心優の身体に圧を与えていた。
足は震え、力が抜けてしまいその場に倒れ込みそうになるが、すぐに黒田が「おっと」っと、倒れ込みそうになった心優の腕を掴み支えてあげた。
「あー、そうか。普通の人間だと立ってすらいられなくなるのか……。すっかり忘れてた」
――――な、何を言っているの?
うっ、体が重たい、力が入らない。
ここ、普通じゃない。普通の、空気じゃない。
息が荒くなっていく心優を見下ろし、優しく地面へ下ろし眉を顰めた。
「賢を相手にする時と同じ考えだったわ。そういやあいつ、憑き人だもんな、普通の人間である心優ちゃんと一緒に考えては駄目だったか」
言いながら黒田は、ポケットの中に手を入れ何かを掴み取り出した。
「ほれ、もうそろそろ効力がなくなってきてはいるみたいだが、少しくらいは守ってくれるだろう」
言いながら取り出したのは、半分以上黒く染まってしまった心優のお守り。
――――え、なんで黒田さんがこのお守りを持っているの?
確か、これは巴ちゃんに取られてしまったはず……。
目を丸くし差し出されているお守りを見ていると、黒田は無理やり心優の手にお守りを握らせた。
「さっき、氷柱女房との戦闘の時に、どさくさに紛れて奪っておいたんだ。もう効力はほとんどないが、ここに居る間だけなら守ってくれるだろう。話しを付けるまで頑張ってくれ」
お守りを握りしめ目を丸くしている心優をよそ目に、黒田は立ちあがり何もない空間を見つめ始めた。
「――――来てくれて嬉しいぞ、呪異」
誰かの名前を呼ぶと、何もないと思っていた空間に突如、黒い霧が現れ一つに集まり始める。
人一人くらいの大きさに集まったかと思うと、四方に弾けた。
「っ、な、誰?」
中から姿を現したのは、膝まで長い滅紫色の髪を後ろで一つに結っている男性。組みひもでまとめられており、シャラシャラと後ろで揺れていた。
黒い法衣を身に着け、左手には錫杖。
目にあるはずの眼球がなく、暗闇が広がっていた。
「ヒッ」
心優は異様な見た目の男性が突如姿を現したため、小さな悲鳴を上げ黒田の腕に抱きついた。
「おっと、首落ちるから、抱き着くのならせめて一声かけてくれ」
「一声かける余裕があると思いますか!? 無理です無理無理! 誰か出てきましたよ!! お化け、お化けです!! 祟られる!!」
「…………やっぱり、連れてこない方が良かったかなぁ~」
黒田は犬宮の反応に慣れてしまい、この程度のことでは人間全般はたじろがないものと思っていた。
そのため、今の心優の反応は意外な物。
めんどくさいと思いながらも心優のことを無視、黒田はない目を丸くしている呪異と呼んだ男性を見上げた。
「うるさくて悪いな」
『構わぬ。久しい感覚だ』
低く、響きのある声。
見た目は怖いが、声は優しくまったりとした口調。
心優をじぃ~と見たかと思うと、ゆっくりと近づき始めた。
――――な、なに? なんで私は見られているの?
もしかして、怯えてしまっているのが気に障ったの!?
いや、でも事前に教えてくれていない黒田さんが悪いと思うんだけどぉぉぉおお!!
恐怖と困惑で頭が動いていない心優に手を伸ばしたかと思うと、なぜか”ぽんっ”と、頭に手を乗せられた。
「――――ほえ??」
『…………やはり、人間のおなごはかわいいのぉ~』
なぜか口角を上げ心優の頭を撫でたかと思うと、おじいちゃんみたいな口調でそんなことを言い出した。
「――――へっ?」
――――な、何が起きたの???
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
付喪神狩
やまだごんた
キャラ文芸
古い道具には年月と共に人の情念が蓄積され、それが意思を持ったものが付喪神と呼ばれる。
容姿端麗だが口も性格も女癖も悪い大和御門は日本で唯一の付喪神狩として、付喪神を祓う能力者。
自分に取り憑いた大口真神を引き連れ、同居中の相方・棚橋亨と繰り広げる現代異能バトル
お隣さんはヤのつくご職業
古亜
恋愛
佐伯梓は、日々平穏に過ごしてきたOL。
残業から帰り夜食のカップ麺を食べていたら、突然壁に穴が空いた。
元々薄い壁だと思ってたけど、まさか人が飛んでくるなんて……ん?そもそも人が飛んでくるっておかしくない?それにお隣さんの顔、初めて見ましたがだいぶ強面でいらっしゃいますね。
……え、ちゃんとしたもん食え?
ちょ、冷蔵庫漁らないでくださいっ!!
ちょっとアホな社畜OLがヤクザさんとご飯を食べるラブコメ
建築基準法と物理法則なんて知りません
登場人物や団体の名称や設定は作者が適当に生み出したものであり、現実に類似のものがあったとしても一切関係ありません。
2020/5/26 完結
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
冷たい舌
菱沼あゆ
キャラ文芸
青龍神社の娘、透子は、生まれ落ちたその瞬間から、『龍神の巫女』と定められた娘。
だが、龍神など信じない母、潤子の陰謀で見合いをする羽目になる。
潤子が、働きもせず、愛車のランボルギーニ カウンタックを乗り回す娘に不安を覚えていたからだ。
その見合いを、透子の幼なじみの龍造寺の双子、和尚と忠尚が妨害しようとするが。
透子には見合いよりも気にかかっていることがあった。
それは、何処までも自分を追いかけてくる、あの紅い月――。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
煙草屋さんと小説家
男鹿七海
キャラ文芸
※プラトニックな関係のBL要素を含む日常ものです。
商店街の片隅にある小さな煙草屋を営む霧弥。日々の暮らしは静かで穏やかだが、幼馴染であり売れっ子作家の龍二が店を訪れるたびに、心の奥はざわめく。幼馴染としてでも、客としてでもない――その存在は、言葉にできないほど特別だ。
ある日、龍二の周囲に仕事仲間の女性が現れ、霧弥は初めて嫉妬を自覚する。自分の感情を否定しようとしても、触れた手の温もりや視線の距離が、心を正直にさせる。日常の中で少しずつ近づく二人の距離は、言葉ではなく、ささやかな仕草や沈黙に宿る。
そして夜――霧弥の小さな煙草屋で、龍二は初めて自分の想いを口にし、霧弥は返事として告白する。互いの手の温もりと目の奥の真剣さが、これまで言葉にできなかった気持ちを伝える瞬間。静かな日常の向こうに、確かな愛が芽吹く。
小さな煙草屋に灯る、柔らかく温かな恋の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる