復讐代行者、陰影累の道

契約

第1話 「俺と契約させてやるよ」

　暗雲が広がる空。雨で視界が悪い道には、帰宅途中の学生や、サラリーマンが走っていた。

　そんな中、雨に打たれているにも拘わらず走ろうとしない一人の女子学生が、建物が並ぶ道をゆらりゆらりと歩く。

「許さない、絶対に……。裏切りやがって……」

　目を赤く充血させ、憎悪が込められている言葉をブツブツと呟いている。
　
　雨に打たれているため、黒髪は水が滴り、セーラー服は肌に張り付き、色が変わる。
　
　それでも、彼女は走らない。
　周りの視線を気にせず、ゆっくりと歩く。

　────トンッ

　前を見ていなかった女性は、前を歩いていた男性にぶつかった。

　その男性も、女性と同じで傘を差していないため、せっかくの銀髪が濡れてしまっていた。

　白いインナーシャツの上には、黒いロングコートを着用。雨に濡れ、色が濃くなっていた。

　そんな男性は、女性の様子を見てにやりと笑う。

「────おい、女。その恨み、俺が代わりに晴らしてやろうか？　この、復讐代行者様がなぁ」

　低く、掠れている男性の声。
　はっきりと言い切った彼の言葉に、女性は顔を上げた。

　死んでいるような黒い瞳、生気を失った顔。
　そんな顔を見て、より一層男性は楽しげに口角を上げた。

　男性が差し出した手を、女性は見る。
　数秒考えた後、下唇を噛み、縋るように両手で掴んだ。

「お願いします。私の友達を、私の、彼氏を寝取った桐友恵きりともえを――殺してください！！」

　今まで我慢していた感情が、涙と共にあふれ出た。

　充血している目を向けられ、彼は右側だけ赤い瞳を銀色の前髪から覗かせ、笑った。

「了解だ。俺と契約させてやるよ――……」