52 / 56
第三部 決着をつけてやろう!
第五十一話 魔王城に行ってやろう!《コレール視点》
しおりを挟む
「ウィナが、魔王だったなんて……」
俺は信じられなかった。
でも、ウィナのあんな姿を見せられたら信じるしかなかった。
人間ではない、魔物の姿。
ウィナは魔王だったんだ。
人間に擬態して、俺達に近づいたんだ。
妹を殺した魔族もそうだったのだから。
確かに、腑に落ちる部分はあった。
魔法に関する造詣が深さ。
高度な魔法を次々に使える程の恐ろしい魔力量。
魔王に物怖じしない姿勢。
ラウネン──魔族と親しそうだったこと。
心の何処かで、ウィナは魔族なのではないかと思っていたんだ。
俺はそれから目を逸らしてきた。
ウィナを人間だと信じていたんだ。
ウィナが魔族だと信じなくなかったんだ。
そう思っていた俺を、ウィナはどんな気持ちで裏切っていたんだろう……。
「逃げられましたな」
バレット先生はウィナが飛び出して行った窓を見つめてそう呟いた。
ウィナは逃げてしまった。
弁明も、開き直りも、謝罪もせずに。
「せめて、何か言ってくれよ……」
俺は拳を握り締めるしかなかった。
「──さて」
バレット先生は俺達の方を向いた。
俺達は咄嗟に身構えた。
バレット先生──バレットは魔族だ。
それを明かしたということは、俺達と戦うつもりなんだろう。
しかし、バレットはこう続けた。
「お三方にも、【始まりの王】クヴァールより、伝言を預かっております」
「伝言……?」
「『コレール、ボースハイト、グロル──貴方方を魔王城にご招待します』──と」
□
魔族が住まう魔族大陸の上には真っ赤な空が広がっている。
魔王城はその赤い空に浮かんでいた。
人間には到達出来ない未知の境地。
バレットの《転移》魔法で俺達はその城の前まで来ていた。
「ここが魔王城……」
ボースハイトが魔王城を見上げて呆けている。
俺とグロルは千年前に行ったときに一瞬だけ見ているが、改めて見ても、大きな城だと思う。
ウィナはここに住んでいたんだな……。
バレットは魔王城の扉を開いて、城の中に入る。
「ついてきて下さい。この地で私から離れたら、死ぬと思って下さいな」
そう言われて、俺達はバレットの後に続いた。
城内に一歩足を踏み入れると、炎の息吹が飛んできた。
「え」
城の中にいた魔族が、俺達を排除しよう攻撃してきたのだ。
俺達は咄嗟に防御しようとしたが、もう遅い。
俺を焼き殺そうとする炎は目の前まで来ていた。
が、炎が目の前で消えた。
何が起こったのかと思い周囲を見渡すと、炎はバレットの手の中にあった。
バレットは何食わぬ顔で手の中の炎を握り潰して揉み消す。
「この人間達は客です。その手を下ろしなさい」
バレットがそう言うと、魔族達は暗闇の中に消えていった。
……バレット先生も本当に魔族なんだ。
「失礼しました。こちらですな」
バレットが歩き出し、俺達は慌てて後ろをついて行く。
バレットから離れたら死ぬと、身を持って理解した。
□
暫くして、バレットはある扉の前で立ち止まる。
どうやら、ここが目的地らしい。
バレットは「くれぐれも失礼のないように」と言い、扉を開けた。
部屋の中心には長机があり、椅子に二人の魔族が座っている。
小さな白いスライム。
黒いドレスに身を包んだ血色の悪い女性。
白いスライムの方には見覚えがあった。
「あ! 魔王ルザ!」
「ひいっ!? あのときの人間……!」
ルザはぷるぷると身体を震わせる。
黒いドレスの女性が気怠そうにルザを見た。
「あらルザぁ……。あんた、いつの間に魔王になったのぉ……?」
「なってないですよお、ぷるぷる……」
バレットが答えた。
「それは【掌握王】ラウネンが人間達に流布した偽の情報ですな。今はメプリが魔王ということになってますよ」
「あたしが魔王ぉ……? あたしは魔王の器じゃないわよぉ……」
黒いドレスの女性──メプリは呆れたようにため息をついた。
俺達が会話についていけず呆けていると、バレットがこちらを向いた。
「紹介が送れましたな。彼らは四天王の【最弱王】ルザ、【生殺王】メプリですな」
「最弱……? 最弱なのに四天王?」
「はい。ルザは【剿滅の魔王】が唯一勝てない相手ですな」
「その言い方だとルザが強いみたいじゃないですかあ!」
ルザはぽよんぽよんと飛び跳ねて抗議する。
「ぬるぬる……。ルザは弱いので直ぐに逃げちゃうんですう。だから、実際負けてるようなものなんですよお」
確かに、この小ささだとウィナに勝てそうもない。
しかし、俺達は知っている。
ルザは形態を変えて、恐ろしい魔族になれるということを。
弱そうだからと、油断は出来ない相手だ。
「ところで、ラウネン様は欠席ですかあ? クヴァール様は最近欠席しますけど、ラウネン様が欠席するなんて珍しいですねえ」
「【掌握王】ラウネンは魔王に殺されました」
ルザが「ぴゃっ」と声を上げた。
「こ、殺されたあ!?」
「あらぁ……ついに殺ったのねぇ……。あいつ、うるさかったしぃ……」
メプリはくすりと笑う。
「ぷるぷる。ルザも殺されちゃうよお……」
ルザは小さい体を更に縮こめる。
「前から魔王は人間に手を貸すような真似をしていました」
バレットは淡々と語る。
「人間への魔法の伝授。人間を強化する【経験値システム】。そして先程、魔王は魔王軍の創立に貢献したラウネンを私情で殺しました。これは我々魔族の裏切りです。『魔王を殺せ』……クヴァール様からの通達です」
「クヴァールの逆鱗に触れたのねぇ……。じゃあ、仕方ないわぁ……」
魔王を──ウィナを殺す。
通達が出されたということは、魔族全員でウィナを殺すつもりなのか。
だが、たった一人の魔族の一存で自分達の王を殺そうとするものだろうか?
【始まりの王】クヴァールという魔族は一体何者なんだ……?
「で、でもお、魔王様を殺すことなんて出来ないですよお。すっごくすっごく強いですからあ」
ルザはぽよぽよと体を動かす。
「ええ。ですから、彼らがいるのですな」
バレットは俺達を手で示した。
ルザとメプリの視線が俺達に向いて、俺は少し怯んだ。
「ご紹介します。コレール、ボースハイト、グロル。彼らは【剿滅の魔王】を討つ〝秘策〟ですな」
「え……?」
……俺達がウィナを討つ秘策だって?
「無理ですよお。弱い彼らじゃイチコロですよお」
「魔王は彼らを殺せません──いえ、殺しません、と言うべきですか。魔王は彼らに情を移しています。それは即ち、彼らは魔王の弱みになるということです。それを利用して、魔王を討ちます。魔力がなくなっている今が絶好のチャンスです」
「お、俺達を盾にして、ウィナを殺すつもりなのか」
「貴方達にとっても、悪い話ではないでしょう?」
確かに、魔王を討つことは人類の悲願だ。
バレット達魔族が協力している今、魔王を討つまたとないチャンスだ。
真の魔王を討ったら、俺達は真の勇者になれる。
そうしたら、追い出された母国にも戻れるかもしれない。
でも、本当にそれが正しいことなのか……?
「待ちなよ」
ボースハイトが声を上げた。
「なんで僕達がお前らに協力するの前提で話を進めてるのかなあ? 魔王を討つのが魔族にとって得になるなら、僕達が協力するはずなくない?」
「ちょ、ちょっと、ボース!」
俺は慌ててボースハイトの口を塞いだ。
「敵陣の真ん中で、そんな生意気なこと言ったら、殺される!」
ボースハイトは俺の手を口から剥がして、鼻で笑った。
「馬鹿だね。僕達が魔王を討つ秘策ってことは殺されないよ。殺したらウィナの弱みがなくなっちゃうからね」
そのとき、サッと俺の血の気が引く感覚がした。
立っていられなくなり、その場に倒れ込む。
呼吸が浅くなって、強烈な寒気に襲われた。
直感的にわかる。
死ぬ。
「浅はかですな。死んだら生き返らせれば良いだけの話ですよ」
バレットの冷たい声が聞こえて、俺の意識は途切れた。
□
頬には冷たく固い感触があるのに、ふわふわと身体は暖かい。
まるで、夢でも見ているような心地だった。
おかしいな。
俺は死んだんじゃなかったのか?
死後でも夢は見るんだな……。
「全く困るわよねぇ……。あのラウネンを殺すなんてぇ……」
声が聞こえて、バッと飛び起きる。
急に起き上がったせいで眩暈がして、手で頭を押さえた。
その手を見て、驚く。
生きている……どうして?
見回すと、そこは牢獄の中だった。
鉄格子の内側にはボースハイトとグロルが倒れている。
「ボース! グロル!」
二人に声をかけて、肩を揺らす。
すると、二人は唸り声を上げて、身体を起こした。
「良かった。生きてる……」
「──ちょっとぉ……。うるさいわよぉ……?」
その声にハッとして、鉄格子の外を見た。
そこにはメプリが気怠そうに立っていた。
「お前は……メプリ!」
俺は咄嗟にボースハイトとグロルの前に出る。
さっき起きたときに聞こえた声は、メプリの声だったのか。
「だから、うるさい……。これだから生きてる者は嫌いなのよぉ……。今、あんたはあたしに生かされてるんだから大人しくしときなさいよねぇ……」
メプリはため息をついた。
この口振りからすると、俺達を生き返らせたのはメプリらしい。
メプリ……一体何が目的なんだ?
「魔王様もそうよぉ……。クヴァールに生かされてるんだから、大人しくしとけば良かったのぉ……」
「それってどういう……」
「ちょっとぉ……。これは独り言よぉ……? 勝手に会話にしないでくれるかしらぁ……」
俺が黙ると、メプリは独り言を続けた。
──それはウィナの誕生にまつわる話。
ウィナ──【剿滅の魔王】はクヴァールによって生み出された存在だった。
複数の魔族を異空間に閉じ込めて、殺し合わせ、最強の魔王を創る魔王育成計画。
その生き残りが、ウィナだったという。
ウィナが生きるには戦うしかなかった。
戦って強くなるしかなかった。
敵だらけの戦場を生き延びて、魔王に祭り上げられて、今は反逆されて、命を狙われている。
結局、ウィナの周りには敵しかいなかった。
「何故、それを俺達に……?」
「……あたしもそうだから」
「え……」
メプリも魔王育成計画で生まれた……?
「ママ──クヴァールはまた、魔王を作るわぁ……。あんた達なら、止められるでしょう……?」
「【始まりの王】クヴァールを倒す……? 俺達三人が……?」
メプリは頭を振った。
「あんた達が倒せる訳ないでしょう……? 倒せるのは……〝最強の魔王〟ぐらいでしょうね……」
ウィナがいれば、【始まりの王】クヴァールを倒せる……。
俺とボースハイトとグロルは顔を見合わせた。
「任せたわよぉ……」
メプリがそう言うと、ガチャンと牢屋の鍵の外れる音がした。
俺は信じられなかった。
でも、ウィナのあんな姿を見せられたら信じるしかなかった。
人間ではない、魔物の姿。
ウィナは魔王だったんだ。
人間に擬態して、俺達に近づいたんだ。
妹を殺した魔族もそうだったのだから。
確かに、腑に落ちる部分はあった。
魔法に関する造詣が深さ。
高度な魔法を次々に使える程の恐ろしい魔力量。
魔王に物怖じしない姿勢。
ラウネン──魔族と親しそうだったこと。
心の何処かで、ウィナは魔族なのではないかと思っていたんだ。
俺はそれから目を逸らしてきた。
ウィナを人間だと信じていたんだ。
ウィナが魔族だと信じなくなかったんだ。
そう思っていた俺を、ウィナはどんな気持ちで裏切っていたんだろう……。
「逃げられましたな」
バレット先生はウィナが飛び出して行った窓を見つめてそう呟いた。
ウィナは逃げてしまった。
弁明も、開き直りも、謝罪もせずに。
「せめて、何か言ってくれよ……」
俺は拳を握り締めるしかなかった。
「──さて」
バレット先生は俺達の方を向いた。
俺達は咄嗟に身構えた。
バレット先生──バレットは魔族だ。
それを明かしたということは、俺達と戦うつもりなんだろう。
しかし、バレットはこう続けた。
「お三方にも、【始まりの王】クヴァールより、伝言を預かっております」
「伝言……?」
「『コレール、ボースハイト、グロル──貴方方を魔王城にご招待します』──と」
□
魔族が住まう魔族大陸の上には真っ赤な空が広がっている。
魔王城はその赤い空に浮かんでいた。
人間には到達出来ない未知の境地。
バレットの《転移》魔法で俺達はその城の前まで来ていた。
「ここが魔王城……」
ボースハイトが魔王城を見上げて呆けている。
俺とグロルは千年前に行ったときに一瞬だけ見ているが、改めて見ても、大きな城だと思う。
ウィナはここに住んでいたんだな……。
バレットは魔王城の扉を開いて、城の中に入る。
「ついてきて下さい。この地で私から離れたら、死ぬと思って下さいな」
そう言われて、俺達はバレットの後に続いた。
城内に一歩足を踏み入れると、炎の息吹が飛んできた。
「え」
城の中にいた魔族が、俺達を排除しよう攻撃してきたのだ。
俺達は咄嗟に防御しようとしたが、もう遅い。
俺を焼き殺そうとする炎は目の前まで来ていた。
が、炎が目の前で消えた。
何が起こったのかと思い周囲を見渡すと、炎はバレットの手の中にあった。
バレットは何食わぬ顔で手の中の炎を握り潰して揉み消す。
「この人間達は客です。その手を下ろしなさい」
バレットがそう言うと、魔族達は暗闇の中に消えていった。
……バレット先生も本当に魔族なんだ。
「失礼しました。こちらですな」
バレットが歩き出し、俺達は慌てて後ろをついて行く。
バレットから離れたら死ぬと、身を持って理解した。
□
暫くして、バレットはある扉の前で立ち止まる。
どうやら、ここが目的地らしい。
バレットは「くれぐれも失礼のないように」と言い、扉を開けた。
部屋の中心には長机があり、椅子に二人の魔族が座っている。
小さな白いスライム。
黒いドレスに身を包んだ血色の悪い女性。
白いスライムの方には見覚えがあった。
「あ! 魔王ルザ!」
「ひいっ!? あのときの人間……!」
ルザはぷるぷると身体を震わせる。
黒いドレスの女性が気怠そうにルザを見た。
「あらルザぁ……。あんた、いつの間に魔王になったのぉ……?」
「なってないですよお、ぷるぷる……」
バレットが答えた。
「それは【掌握王】ラウネンが人間達に流布した偽の情報ですな。今はメプリが魔王ということになってますよ」
「あたしが魔王ぉ……? あたしは魔王の器じゃないわよぉ……」
黒いドレスの女性──メプリは呆れたようにため息をついた。
俺達が会話についていけず呆けていると、バレットがこちらを向いた。
「紹介が送れましたな。彼らは四天王の【最弱王】ルザ、【生殺王】メプリですな」
「最弱……? 最弱なのに四天王?」
「はい。ルザは【剿滅の魔王】が唯一勝てない相手ですな」
「その言い方だとルザが強いみたいじゃないですかあ!」
ルザはぽよんぽよんと飛び跳ねて抗議する。
「ぬるぬる……。ルザは弱いので直ぐに逃げちゃうんですう。だから、実際負けてるようなものなんですよお」
確かに、この小ささだとウィナに勝てそうもない。
しかし、俺達は知っている。
ルザは形態を変えて、恐ろしい魔族になれるということを。
弱そうだからと、油断は出来ない相手だ。
「ところで、ラウネン様は欠席ですかあ? クヴァール様は最近欠席しますけど、ラウネン様が欠席するなんて珍しいですねえ」
「【掌握王】ラウネンは魔王に殺されました」
ルザが「ぴゃっ」と声を上げた。
「こ、殺されたあ!?」
「あらぁ……ついに殺ったのねぇ……。あいつ、うるさかったしぃ……」
メプリはくすりと笑う。
「ぷるぷる。ルザも殺されちゃうよお……」
ルザは小さい体を更に縮こめる。
「前から魔王は人間に手を貸すような真似をしていました」
バレットは淡々と語る。
「人間への魔法の伝授。人間を強化する【経験値システム】。そして先程、魔王は魔王軍の創立に貢献したラウネンを私情で殺しました。これは我々魔族の裏切りです。『魔王を殺せ』……クヴァール様からの通達です」
「クヴァールの逆鱗に触れたのねぇ……。じゃあ、仕方ないわぁ……」
魔王を──ウィナを殺す。
通達が出されたということは、魔族全員でウィナを殺すつもりなのか。
だが、たった一人の魔族の一存で自分達の王を殺そうとするものだろうか?
【始まりの王】クヴァールという魔族は一体何者なんだ……?
「で、でもお、魔王様を殺すことなんて出来ないですよお。すっごくすっごく強いですからあ」
ルザはぽよぽよと体を動かす。
「ええ。ですから、彼らがいるのですな」
バレットは俺達を手で示した。
ルザとメプリの視線が俺達に向いて、俺は少し怯んだ。
「ご紹介します。コレール、ボースハイト、グロル。彼らは【剿滅の魔王】を討つ〝秘策〟ですな」
「え……?」
……俺達がウィナを討つ秘策だって?
「無理ですよお。弱い彼らじゃイチコロですよお」
「魔王は彼らを殺せません──いえ、殺しません、と言うべきですか。魔王は彼らに情を移しています。それは即ち、彼らは魔王の弱みになるということです。それを利用して、魔王を討ちます。魔力がなくなっている今が絶好のチャンスです」
「お、俺達を盾にして、ウィナを殺すつもりなのか」
「貴方達にとっても、悪い話ではないでしょう?」
確かに、魔王を討つことは人類の悲願だ。
バレット達魔族が協力している今、魔王を討つまたとないチャンスだ。
真の魔王を討ったら、俺達は真の勇者になれる。
そうしたら、追い出された母国にも戻れるかもしれない。
でも、本当にそれが正しいことなのか……?
「待ちなよ」
ボースハイトが声を上げた。
「なんで僕達がお前らに協力するの前提で話を進めてるのかなあ? 魔王を討つのが魔族にとって得になるなら、僕達が協力するはずなくない?」
「ちょ、ちょっと、ボース!」
俺は慌ててボースハイトの口を塞いだ。
「敵陣の真ん中で、そんな生意気なこと言ったら、殺される!」
ボースハイトは俺の手を口から剥がして、鼻で笑った。
「馬鹿だね。僕達が魔王を討つ秘策ってことは殺されないよ。殺したらウィナの弱みがなくなっちゃうからね」
そのとき、サッと俺の血の気が引く感覚がした。
立っていられなくなり、その場に倒れ込む。
呼吸が浅くなって、強烈な寒気に襲われた。
直感的にわかる。
死ぬ。
「浅はかですな。死んだら生き返らせれば良いだけの話ですよ」
バレットの冷たい声が聞こえて、俺の意識は途切れた。
□
頬には冷たく固い感触があるのに、ふわふわと身体は暖かい。
まるで、夢でも見ているような心地だった。
おかしいな。
俺は死んだんじゃなかったのか?
死後でも夢は見るんだな……。
「全く困るわよねぇ……。あのラウネンを殺すなんてぇ……」
声が聞こえて、バッと飛び起きる。
急に起き上がったせいで眩暈がして、手で頭を押さえた。
その手を見て、驚く。
生きている……どうして?
見回すと、そこは牢獄の中だった。
鉄格子の内側にはボースハイトとグロルが倒れている。
「ボース! グロル!」
二人に声をかけて、肩を揺らす。
すると、二人は唸り声を上げて、身体を起こした。
「良かった。生きてる……」
「──ちょっとぉ……。うるさいわよぉ……?」
その声にハッとして、鉄格子の外を見た。
そこにはメプリが気怠そうに立っていた。
「お前は……メプリ!」
俺は咄嗟にボースハイトとグロルの前に出る。
さっき起きたときに聞こえた声は、メプリの声だったのか。
「だから、うるさい……。これだから生きてる者は嫌いなのよぉ……。今、あんたはあたしに生かされてるんだから大人しくしときなさいよねぇ……」
メプリはため息をついた。
この口振りからすると、俺達を生き返らせたのはメプリらしい。
メプリ……一体何が目的なんだ?
「魔王様もそうよぉ……。クヴァールに生かされてるんだから、大人しくしとけば良かったのぉ……」
「それってどういう……」
「ちょっとぉ……。これは独り言よぉ……? 勝手に会話にしないでくれるかしらぁ……」
俺が黙ると、メプリは独り言を続けた。
──それはウィナの誕生にまつわる話。
ウィナ──【剿滅の魔王】はクヴァールによって生み出された存在だった。
複数の魔族を異空間に閉じ込めて、殺し合わせ、最強の魔王を創る魔王育成計画。
その生き残りが、ウィナだったという。
ウィナが生きるには戦うしかなかった。
戦って強くなるしかなかった。
敵だらけの戦場を生き延びて、魔王に祭り上げられて、今は反逆されて、命を狙われている。
結局、ウィナの周りには敵しかいなかった。
「何故、それを俺達に……?」
「……あたしもそうだから」
「え……」
メプリも魔王育成計画で生まれた……?
「ママ──クヴァールはまた、魔王を作るわぁ……。あんた達なら、止められるでしょう……?」
「【始まりの王】クヴァールを倒す……? 俺達三人が……?」
メプリは頭を振った。
「あんた達が倒せる訳ないでしょう……? 倒せるのは……〝最強の魔王〟ぐらいでしょうね……」
ウィナがいれば、【始まりの王】クヴァールを倒せる……。
俺とボースハイトとグロルは顔を見合わせた。
「任せたわよぉ……」
メプリがそう言うと、ガチャンと牢屋の鍵の外れる音がした。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~
北条新九郎
ファンタジー
三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。
父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。
ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。
彼の職業は………………ただの門番である。
そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。
ブックマーク・評価、宜しくお願いします。
貧乏奨学生の子爵令嬢は、特許で稼ぐ夢を見る 〜レイシアは、今日も我が道つき進む!~
みちのあかり
ファンタジー
同じゼミに通う王子から、ありえないプロポーズを受ける貧乏奨学生のレイシア。
何でこんなことに? レイシアは今までの生き方を振り返り始めた。
第一部(領地でスローライフ)
5歳の誕生日。お父様とお母様にお祝いされ、教会で祝福を受ける。教会で孤児と一緒に勉強をはじめるレイシアは、その才能が開花し非常に優秀に育っていく。お母様が里帰り出産。生まれてくる弟のために、料理やメイド仕事を覚えようと必死に頑張るレイシア。
お母様も戻り、家族で幸せな生活を送るレイシア。
しかし、未曽有の災害が起こり、領地は借金を負うことに。
貧乏でも明るく生きるレイシアの、ハートフルコメディ。
第二部(学園無双)
貧乏なため、奨学生として貴族が通う学園に入学したレイシア。
貴族としての進学は奨学生では無理? 平民に落ちても生きていけるコースを選ぶ。
だが、様々な思惑により貴族のコースも受けなければいけないレイシア。お金持ちの貴族の女子には嫌われ相手にされない。
そんなことは気にもせず、お金儲け、特許取得を目指すレイシア。
ところが、いきなり王子からプロポーズを受け・・・
学園無双の痛快コメディ
カクヨムで240万PV頂いています。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる