悪役令嬢♂〜彼は婚約破棄国外追放死亡の運命を回避しつつ、ヒロイン達へ復讐を目論む〜

フオツグ

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幼少期編 攻略対象達を攻略せよ

シナリオ改変の後に

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「うう……」

 シュラルドルフは瞼を開ける。
 長い間眠っていたのか、体が重く、直ぐには起き上がれなかった。

「シュラルドルフ王子! 目を覚まされたのですね!」

 シュラルドルフの顔を心配そうに覗き込んだのは美しい人。
 アナスタシア・フィラウティアとその弟クロードの顔があった。
 シュラルドルフはゆっくりと上体を起こした。

「ここは……」
「学園の保健室ですじゃ」

 そうシュラルドルフに話しかけたのは、桃色の長髪の男子生徒・ラヴィスマンであった。
 ラヴィスマンは優しく微笑みかける。

「我は聖国の者ですじゃ。勝手ながら、貴方の診察をさせて頂きました。自分の名前は言えますかな?」
「……シュラルドルフ・ジーグ・ストルゲだ」
「ご出身は?」
「……軍国。俺は軍国の第一王子だ」
「ほうほう。では、この二人が誰だか覚えてますかの?」

 この二人、と言って指を差したのはアナスタシオスとクロードだった。

「……アナスタシア・フィラウティアとその弟……クロードだ」
「ふむ」

 ラヴィスマンは頷く。

「受け答えに問題はないようじゃ。もう大丈夫じゃろう」
「良かった……本当に!」

 顔の全く違う姉弟は抱き合って喜びを分かち合う。

「診て下さってありがとうございます、ラヴィ様」
「何の、何の。友人の頼みとあらば、直ぐに駆けつけるでな」

 そう言ってからからと笑いながら、ラヴィスマンは後ろに下がった。
 シュラルドルフは今の状況を掴めず、ただただ困惑する。

「一体何が……」
「貴方は剣術大会の最中に、錯乱してしまったようです」

 フィラウティア姉弟の後ろにアデヤとゼニファーがいた。
 彼らは厳しい表情をしていたが、安堵が隠せていない。

「……俺は何をしたんだ」
「私達に襲いかかってきたのです。覚えていらっしゃいませんか」
「……すまない」
「……そうですか」

 ゼニファーは険しい顔で続けた。

「貴方は、このキュリオシティでの不戦協定を破りました。私はこのことを、商国王に報告せねばなりません」
「え!? 報告!?」

 クロードは驚きの声を上げる。
──そんなことしたら、大事になるじゃないか! 三人は仲が良かったのに……! おれがなんとかしなければ……!

「報告なんて大袈裟な……! 剣術大会でちょっと行き違いがあっただけじゃないですか!?」
「行き違い?」
「そ、そうです! シュラルドルフ王子は試合が終わったことに気づいてなくて、それで……!」
「試合の延長だったと? 私は既に降伏し、剣すら持っていなかったのに? アデヤ様が乱入し、貴方方がしがみついて止めていたのに?」
「そ、それは……」

 クロードは言葉に詰まってしまう。

「話になりませんね」

 ゼニファーは首を横に振った。

「では、私はこれで失礼します」

 ゼニファーは踵を返し、扉へと向かう。
 そして、保健室の扉に手をかけた。

「──本当によろしいのですか?」

 アナスタシオスが冷たい声でそう尋ねる。

「……何です?」
「ゼニファー王子には言いたいことがあるように見えますわ。貴方の御父上に報告してしまったら、言えないままになるかもしれません。今ここで言うべきです」

 ゼニファーは眼鏡を押し上げながら、ため息をつく。

「アナスタシア嬢、王族同士の関係というのは難しいのですよ。貴女には理解出来ないでしょうが……」
「ええ! 何もわかりませんわ! 辺境の男爵令嬢ですもの!」

 アナスタシアは胸を張って言った。

「でもね、これだけはわかります。お二人には言葉が足りない! ……言いたいことがあるなら、直ぐに言えってんだ! うだうだ面倒臭えな!」

 急に口調が崩れたアナスタシオスに、ゼニファーは面食らった顔をする。

「おっと、失礼。田舎の乱暴な言葉遣いが出てしまいましたわ」

 アナスタシオスはおほほ、と上品に笑った。

「ゼニファー王子、シュラルドルフ王子の言葉に耳を傾けてあげて下さい。彼はのんびり屋さんですから、直ぐに言葉は出て来ないかもしれませんけれど」

 ゼニファーはグッと唇を噛む。
 そして、ズカズカとシュラルドルフに近づいた。

「シュラルドルフ王子、私に刃を向けたのはどうしてですか?」
「……それは」
「答えられませんか?」
「ゼニファー王子、少し落ち着いて……」

 焦るゼニファーをクロードは窘める。
 ゼニファーはばつが悪そうな顔した。

「……すみません。ゆっくりで構いませんので、正直に答えて下さい」

 ゼニファーはシュラルドルフの顔を見て、彼の言葉を待った。

「……声が」

 シュラルドルフはたっぷりと間を開けた。
 話そうか迷いながら、言葉を選びながら、ポツポツと語り出す。

「声が、聞こえたのだ。父の声が」
「貴方の父……軍国王ですか」
「そうだ。その声は、『他国の王子の首を取れ』と言ってきた」
「他国の王子……私達のこと」

 シュラルドルフは頷いた。

「父は愛国心が非常に強いお人だ。我が軍国が世界を支配すると信じてやまない。だから父は、俺に言い聞かせたのだ。『負けは許されない』──そう何度も」

 シュラルドルフは目を瞑り、天を仰いだ。

「俺はあの人の言うことが正しいと思っていた。ここ、キュリオ学園に来る前までは……」
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