悪役令嬢♂〜彼は婚約破棄国外追放死亡の運命を回避しつつ、ヒロイン達へ復讐を目論む〜

フオツグ

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幼少期編 攻略対象達を攻略せよ

溺愛王子と買い物デート

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 休日。
 クロードとアナスタシオスは美国の王子アデヤに連れられ、商店街に来ていた。

「アナスタシア、今まで君に嫌な思いをさせてすまない。そのお詫びとして、街で好きなものを買ってくれ!」

 アデヤはいつも通りのキラキラとした笑顔でそう言った。
 アナスタシオスはニコニコと笑いながらクロードを見た。

「だそうよ。良かったわね、クロード」
「おれも? 殿下が嫌なんじゃ……」

 クロードはアデヤの顔色を伺った。
 アデヤは嫌な顔はせず、優しく微笑んだ。

「構わないよ。弟君にも助けられたからね」
「……そうですか?」

──アデヤは顔に出るタイプ……。嫌そうな顔をしないってことは、本心からそう言っているのか?
 クロードはアナスタシオスに耳打ちする。

「ねえ、兄さん。なんか、殿下のおれを見る目が変わった? いつもは邪魔者を見るような目をしてたのに」
「心変わりでもしたんかねー」

 アナスタシオスは興味なさそうに言った。

「何買って貰おうかなあ。高え剣のレプリカとか? インテリアに欲しいって言やあ、男だと怪しまれねえだろ」

 アナスタシオスはニヤニヤと意地悪く笑っていた。

「あんまり高価な買い物は……」

 アナスタシオスを諭そうとしたとき、クロードは菓子店に目を止めた。

「ん、どうした?」
「お菓子が売ってるなって……」
「あー、本当だ。アデヤに強請るの、美味い菓子でも良いな。まあ、ばあやのクッキーより美味いもんはなかなか売ってねえだろうけど」

──そういえば、親しい男子にお菓子を贈る、バレンタインっぽい季節イベントがゲームにあったな……。
 攻略対象には、好きなお菓子が一つある。
 それをあげることによって、好感度が上がるのだ。
 アデヤにはカップケーキ。
 シュラルドルフにはバウムクーヘン。
 ゼニファーにはマカロン。
 ラヴィスマンにはプリン。
 シルフィトにはビターチョコレートを渡すと喜ぶ。
 クロードは記憶を頼りに、メモ帳に記録していく。
──えーと、ミステールは何だったかな……?

「何を書いてるの?」

 アナスタシオスがクロードのメモ帳を覗き込んだ。

「にっ、お姉様!?」

 クロードは飛び退く。
 隣にアデヤの姿が見えて、更に驚いた。
──危ねえ。咄嗟に『お姉様』と言い換えられて良かった……。

「ええと。折角街に来たので、みんなにお土産のお菓子を買って行こうかと……」
「あら! とっても素敵な考えね!」

 アナスタシオスは「どれどれ」と再びクロードのメモ帳を覗き見る。

「シュラルド王子にはバウムクーヘン。ラヴィ様にはプリン」

 アナスタシオスは「うふふ」と笑う。

「シルフィトにビターチョコレートは早いんじゃないかしら? ビターチョコレートって苦いチョコレートなのよ?」
「勉強にぴったりだと思ったんだ。ほら、苦いチョコレートって集中力が高まるって言うだろ?」
「そうなの? よく知ってるわね、クロード。……あら?」

 アナスタシオスはゼニファーの隣のお菓子を指差した。

「ねえ、この『まかろん』ってのは何かしら? 聞いたことないわ」
「え? えーと。マカロンってのはカラフルで、甘い焼き菓子だよ」

 クロードは指で丸を作り「これくらいの大きさの」と説明した。

「うーん。姉さんは知らないわね」

 アナスタシオスはアデヤに顔を向けた。

「アデヤ殿下はご存じかしら?」
「最近、美国で流行しているお菓子さ。『可愛くて美味だ』とご令嬢に大人気なんだ」
「殿下は物知りですのね」
「それにしても、弟君。メモに僕の名前もあるけど、僕の分のお土産はいらないんじゃないかい? こうして一緒に来ているんだし」
「あ、確かにそうですね。あははは……」

 クロードは笑って誤魔化した。

「この菓子店に全てあると良いね。入ってみようか」

 クロード達は菓子店に入った。
 店内に甘い匂いが充満している。

「良い匂いね」
「うん。必要以上にお菓子を買ってしまいそうだ……」

 クロードはディスプレイされたお菓子を見て回る。
 バウムクーヘン、プリン、ビターチョコレート、と買い物用のバスケットに入れていく。
 そして、マカロンを見つけた。

「あ、あった。マカロン……」

 そして、マカロンの値札にも目が入り、目玉が飛び出そうになった。

「お、お高っ……!」
「マカロンってこんなにお高いものだったのね……」

──ゲームのときはこの世界の紙幣価値があまりわからなかったけど、学生が手ぇ出して良い値段じゃないぞ!?
 クロードは何回も桁を確認するが、数字はやはり変わらなかった。
──流石、守銭奴王子ゼニファー。美味しいから好きってより、高いから好きって感じだな……。

「ねえ、クロード。ゼニファー王子に送るお菓子、これじゃなくても良いんじゃないかしら?」
「……いや! 妥協はしない! おれはこのためにバイトしてるんだ……!」

 クロードはマカロンをバスケットに入れた。
 買ったお菓子はメッセージカードをつけて、各々に送ることにした。
──送り主は、兄さんと連名にして……。シレッと一番上に兄さんの名前を……。

「あら? メッセージカードにわたくしの名前もあるわ?」
「お、おれって地味だから、名前を覚えられてないと思うんだ。お姉様の名前も書いた方がわかりやすいかなって」
「そんなことないと思うけど……。シルフィトはクロードのお友達でしょう?」
「……シルはお姉様もいた方が喜ぶだろうから」
「そんな悲しいこと言わないで、自分の名前で贈りなさい。貴方が贈るんだから」
「もう書いちゃったから! 今更書き直すのも面倒だし、これで贈る!」
「全く……」

 アナスタシオスは呆れたようにため息をつく。

「クロードは本当に自己評価が低いわよね」

 □

 後日。
 各々に贈り物が届いた。
 一人は、表情を変えずに心の中で喜んだ。
 一人は、二人の友人から贈り物が届いたことに微笑んだ。
 一人は、食べずに保存しておこうと、ガラスケースの中に入れた。
 そして、一人は、食べたことのないとびきり甘いお菓子に目を丸くしたのだった。
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