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ゲーム本編編 ヒロインの座を奪い取れ
歯車が狂い出す
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とある日。
アナスタシオスとクロードは昼食を取るべく、食堂へと向かっていた。
そのとき、シュラルドルフが立ちはだかる。
いつもと変わらず、何を考えているのかわからない顔だった。
「……アナスタシア嬢」
「あら、シュラルド王子。貴方から声をかけてくるなんて、嬉しいこともあるものですわね」
アナスタシオスは笑顔でそう言った。
シュラルドルフはアデヤにかばわれて以降、アデヤだけでなくアナスタシオスをも避けていた。
挨拶は交わすが、それだけ。
──それが一体、どういう心変わりだ?
「……ここでは人目につく。場所を変えよう」
シュラルドルフはそう言って、背を向けて歩き出した。
何だろう、とクロードとアナスタシオスは顔を見合わせた。
そのあと、シュラルドルフの後ろをついていく。
人気のない美術室につき、そこで話を始めた。
「……君に聞きたい。この教科書についてだ」
バサリと、テーブルの上に切り裂かれた教科書を机の上に落とす。
アナスタシオスとクロードは教科書を覗き込んだ。
「これは……教科書? 意図的に切り裂かれているようですわ。一体誰がこんな酷いこと……」
「……身に覚えはないか」
そう聞いて、はたとクロードは気付く。
──まさか、疑っているのか? 兄さんがこんなことをしたと?
アナスタシオスは首を横に振る。
「全くありませんわ」
「では、昨日の放課後、何をしていた?」
「昨日は乗馬クラブの活動をしていましたわ。同じクラブに所属している、ラヴィスマンという生徒に確認して頂ければわかるかと」
「……そうか。やはり、君ではないのだな」
シュラルドルフは安心したようにそう言った。
「君がこんなことをするとは、どうしても思えなかった」
「しゅ、シュラルド王子? わたくし、話が全く読めないのですけれど……。これは一体誰の教科書ですの?」
「……【博愛の聖女】レンコのものだ」
──レンコだって……!?
クロードは顔をこわばらせた。
「昨日の放課後、破れた教科書を抱えて泣いている彼女を見かけてな。心当たりを聞いたら、君だと」
「……そういうことでしたの」
「乗馬クラブにいたのなら、君ではないな」
「確認しなくてもよろしいんですの?」
「君を信頼している。……疑った身で何だが」
アナスタシオスは「それにしても」と小首を傾げる。
「レンコ嬢は何故わたくしが犯人だと思ったのでしょう」
「君に嫌われているようだと言っていた」
「嫌うも何も、あまり話したことがありませんわ。何か誤解があるのかしら……」
「……君は近寄り難い雰囲気があるからな」
「ええ!? わたくし、そう思われてましたの!?」
ショックを受けたように、アナスタシオスは顔を青ざめさせた。
「しかし、一度君と話せば、そんなことをする人ではないと直ぐにわかる」
シュラルドルフは柔らかい表情で言った。
「レンコは平民出身で、貴族のマナーを知らない。非常識なことをしても、優しく諭してやってくれないか」
シュラルドルフのその言葉に、クロードは少し違和感を覚えた。
「……ええ。わかりましたわ」
アナスタシオスは笑顔で了承した。
シュラルドルフは感謝を述べると、美術室を出た。
「おい、ミステール」
「はい、ここに」
ミステールは机の下から這い出てきた。
「なんでそんなところに!?」
「坊ちゃん達を見守るためですよ」
クロードは驚きを隠せない。
アナスタシオスは驚くことなく、神妙な面持ちでミステールに言った。
「シュラルドルフの好感度を確認しろ」
「お代は?」
「給金に色をつけてといてやる」
「毎度あり」
ミステールは少しの間黙り、虚空を見つめた。
攻略対象達の好感度を見ているのだろう。
「おや、これは……」
「どうした?」
「シュラルドルフ王子の好感度が上がっている」
「えっ!?」
クロードは思わず足を踏み出してしまう。
そのとき、机に足をぶつけ、痛みに悶絶した。
「ここ数日で急激に親密になっているみたいだ。一体何があったのやら」
「やっぱりな。最後にレンコをかばうようなことを言ってたから、もしかしてとは思ったんだが」
アナスタシオスは美術室の椅子に腰掛ける。
「あんな礼儀知らずと親密になるなんて、主人公補正って奴は凄えな。まあ、人目のないとこで事実確認をしたのは褒めておいてやるぜ、シュラルド」
「教科書を破った犯人って……」
クロードはアナスタシオスをチラリと見た。
「俺じゃねえぞ。乗馬クラブにいたっつったろうが」
「いや、そうなんだけど。ゲームでは〝アナスタシア〟だったから……」
放課後、主人公は教室内で破られた教科書を発見する。
悲しむ主人公を〝アナスタシア〟が嘲笑う。
そこに、颯爽とシュラルドルフが現れる……というイベントがあった。
「ふうん。そういうシナリオだった訳か。それは勿論、レンコも知ってるんだろうなあ」
アナスタシオスが意味ありげにニヤニヤと笑う。
「自作自演……なんだろうか」
「そうに決まってらあ。シュラルドは今のところ孤立してっからな。丸め込められると思ったんだろ」
「そして、まんまと、か」
──今まで好感度を下げないようにしてきたおれ達の苦労って何だったんだ……?
そう思って、クロードは項垂れる。
「ま、シュラルドもレンコの話をそこまで真に受けてねえみてえだし、次にレンコがどう動くかだな。そのままシュラルドルートに行くようなら……」
クロードは頷いた。
「シュラルドルフ対策計画を始めるしかない、か」
アナスタシオスとクロードは昼食を取るべく、食堂へと向かっていた。
そのとき、シュラルドルフが立ちはだかる。
いつもと変わらず、何を考えているのかわからない顔だった。
「……アナスタシア嬢」
「あら、シュラルド王子。貴方から声をかけてくるなんて、嬉しいこともあるものですわね」
アナスタシオスは笑顔でそう言った。
シュラルドルフはアデヤにかばわれて以降、アデヤだけでなくアナスタシオスをも避けていた。
挨拶は交わすが、それだけ。
──それが一体、どういう心変わりだ?
「……ここでは人目につく。場所を変えよう」
シュラルドルフはそう言って、背を向けて歩き出した。
何だろう、とクロードとアナスタシオスは顔を見合わせた。
そのあと、シュラルドルフの後ろをついていく。
人気のない美術室につき、そこで話を始めた。
「……君に聞きたい。この教科書についてだ」
バサリと、テーブルの上に切り裂かれた教科書を机の上に落とす。
アナスタシオスとクロードは教科書を覗き込んだ。
「これは……教科書? 意図的に切り裂かれているようですわ。一体誰がこんな酷いこと……」
「……身に覚えはないか」
そう聞いて、はたとクロードは気付く。
──まさか、疑っているのか? 兄さんがこんなことをしたと?
アナスタシオスは首を横に振る。
「全くありませんわ」
「では、昨日の放課後、何をしていた?」
「昨日は乗馬クラブの活動をしていましたわ。同じクラブに所属している、ラヴィスマンという生徒に確認して頂ければわかるかと」
「……そうか。やはり、君ではないのだな」
シュラルドルフは安心したようにそう言った。
「君がこんなことをするとは、どうしても思えなかった」
「しゅ、シュラルド王子? わたくし、話が全く読めないのですけれど……。これは一体誰の教科書ですの?」
「……【博愛の聖女】レンコのものだ」
──レンコだって……!?
クロードは顔をこわばらせた。
「昨日の放課後、破れた教科書を抱えて泣いている彼女を見かけてな。心当たりを聞いたら、君だと」
「……そういうことでしたの」
「乗馬クラブにいたのなら、君ではないな」
「確認しなくてもよろしいんですの?」
「君を信頼している。……疑った身で何だが」
アナスタシオスは「それにしても」と小首を傾げる。
「レンコ嬢は何故わたくしが犯人だと思ったのでしょう」
「君に嫌われているようだと言っていた」
「嫌うも何も、あまり話したことがありませんわ。何か誤解があるのかしら……」
「……君は近寄り難い雰囲気があるからな」
「ええ!? わたくし、そう思われてましたの!?」
ショックを受けたように、アナスタシオスは顔を青ざめさせた。
「しかし、一度君と話せば、そんなことをする人ではないと直ぐにわかる」
シュラルドルフは柔らかい表情で言った。
「レンコは平民出身で、貴族のマナーを知らない。非常識なことをしても、優しく諭してやってくれないか」
シュラルドルフのその言葉に、クロードは少し違和感を覚えた。
「……ええ。わかりましたわ」
アナスタシオスは笑顔で了承した。
シュラルドルフは感謝を述べると、美術室を出た。
「おい、ミステール」
「はい、ここに」
ミステールは机の下から這い出てきた。
「なんでそんなところに!?」
「坊ちゃん達を見守るためですよ」
クロードは驚きを隠せない。
アナスタシオスは驚くことなく、神妙な面持ちでミステールに言った。
「シュラルドルフの好感度を確認しろ」
「お代は?」
「給金に色をつけてといてやる」
「毎度あり」
ミステールは少しの間黙り、虚空を見つめた。
攻略対象達の好感度を見ているのだろう。
「おや、これは……」
「どうした?」
「シュラルドルフ王子の好感度が上がっている」
「えっ!?」
クロードは思わず足を踏み出してしまう。
そのとき、机に足をぶつけ、痛みに悶絶した。
「ここ数日で急激に親密になっているみたいだ。一体何があったのやら」
「やっぱりな。最後にレンコをかばうようなことを言ってたから、もしかしてとは思ったんだが」
アナスタシオスは美術室の椅子に腰掛ける。
「あんな礼儀知らずと親密になるなんて、主人公補正って奴は凄えな。まあ、人目のないとこで事実確認をしたのは褒めておいてやるぜ、シュラルド」
「教科書を破った犯人って……」
クロードはアナスタシオスをチラリと見た。
「俺じゃねえぞ。乗馬クラブにいたっつったろうが」
「いや、そうなんだけど。ゲームでは〝アナスタシア〟だったから……」
放課後、主人公は教室内で破られた教科書を発見する。
悲しむ主人公を〝アナスタシア〟が嘲笑う。
そこに、颯爽とシュラルドルフが現れる……というイベントがあった。
「ふうん。そういうシナリオだった訳か。それは勿論、レンコも知ってるんだろうなあ」
アナスタシオスが意味ありげにニヤニヤと笑う。
「自作自演……なんだろうか」
「そうに決まってらあ。シュラルドは今のところ孤立してっからな。丸め込められると思ったんだろ」
「そして、まんまと、か」
──今まで好感度を下げないようにしてきたおれ達の苦労って何だったんだ……?
そう思って、クロードは項垂れる。
「ま、シュラルドもレンコの話をそこまで真に受けてねえみてえだし、次にレンコがどう動くかだな。そのままシュラルドルートに行くようなら……」
クロードは頷いた。
「シュラルドルフ対策計画を始めるしかない、か」
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