悪役令嬢♂〜彼は婚約破棄国外追放死亡の運命を回避しつつ、ヒロイン達へ復讐を目論む〜

フオツグ

文字の大きさ
45 / 79
ゲーム本編編 ヒロインの座を奪い取れ

時が経つのは速いもので

しおりを挟む
「男だってバレたぁ!?」

 クロードは一連の出来事を聞いて、ひっくり返った。

「大丈夫だって。何とか言いくるめたからよ」

 アナスタシオスがラヴィスマンについた嘘をまとめて教えた。
 アナスタシアには〝アナスタシオス〟という双子の兄弟がいた。
 あまりにもそっくりな双子は父親から不気味に思われ、存在を隠されていた。
 昔から、アナスタシアは心の調子を崩しやすかった。
 それが原因で、アデヤとの婚約を破棄されるかもしれない。
 そう恐れた両親とアナスタシアは、隠していたアナスタシオスをアナスタシアの代わりに仕立てた。

「よくもまあ、こんなデタラメを……」
「長年嘘ついてりゃこんくらい余裕よ、余裕」
「褒められたことじゃないんだけどな……」

 クロードは呆れながらも、アナスタシオスの頭の回転の速さに感心する。

「それにしても、初恋の人、か……」
「『そなたが【博愛の聖女】だと思っておる』っつってたのも、初恋の人が【博愛の聖女】だったからなんだろうなあ。なんか、俺に似てるっつってたし?」
「そういえば、ラヴィスマンルートのシナリオで初恋の人がどうとか言ってた気がする……」
「重要な情報じゃねえか。早く言えよ」
「ラヴィ先輩のシナリオはただただイチャイチャが続くだけの単調なものだったから記憶が曖昧で……ごめん。アナスタシアもほぼ出て来なかったし」
「でも、俺は断罪されるんだろ?」
「ポッと出て来て、さっくり断罪される」
「雑過ぎねえ?」
「どのシナリオでもアナスタシアの扱いは雑だぞ。モノローグであっさりと死んだことが伝えられるし」
「モノローグ……モノローグなァ」

 アナスタシオスは鼻で笑った。

「とりあえず、今の話が真実ってことになったから、辻褄合わせよろしくな?」
「辻褄合わせって……何するんだ?」
「ラヴィと話すときは話し合わせてくれってこった」
「う、上手く出来るかな、おれ……」
「大丈夫だって。ラヴィとは挨拶する程度だろ? 校舎も違えし、乗馬クラブでもねえし。滅多に会って話さねえだろ」
「今の内はそうだけど……。来年になったら、おれも高等部校舎に出入りするんだぞ」
「そんな直ぐには来ねえだろ。一年後だぞ」

 そのときは思ったよりも直ぐに来ることになるのだが。

 □

 あれよあれよと言う間に、毎年恒例の学園パーティー。
 アナスタシオスは紫色のドレスに身を包み、パーティーに挑む。
──ドレス姿の兄さんはやっぱり眼福だなあ……。
 クロードは緩む口元を手で隠した。
 アナスタシオスが入場すると、ご令嬢達がヒソヒソと話し出す。

「ねえ、聞きまして? アナスタシア様の話……」
「ええ! 【博愛の聖女】様を陰で嫌がらせしているって話でしょう?」
「次期【博愛の聖女】と呼ばれていたアナスタシア様がねえ……」
「だからこそ、でしょう。選ばれなかったことによる嫉妬で……」
「怖ぁい。でも、そうよね。外見も中身も完璧な淑女なんて、いるはずなかったのよ」

 アナスタシオスは噂話をしている令嬢達に目を向ける。
 彼女らは彼と目が合うと笑って誤魔化し、そそくさとその場を離れた。

「ったく、好き勝手言いやがってよお」
「お姉様、口調が崩れているぞ」
「小声じゃ聞こえやしねえよ。遠巻きに噂話をするしか脳がねえ奴にゃあな」

 アナスタシオスはクロードと共にパーティー会場を歩く。
 人とすれ違う度、侮蔑や嘲笑といった、気持ちの良くない視線を向けられる。

「『嫌がらせの事実はない』ってきっぱり否定したってのに、噂されるもんだな」
「噂は尾ひれがついて広がるものだからな」
「にしたってよ、明らかに噂の広がり方が異常だ。これも主人公補正って奴か?」
「これはどちらかと言うと、シナリオの強制力の方かも……」
「俺の悪評もシナリオ通りってか」
「むしろ、遅過ぎるくらい……。ゲーム開始時点で、〝アナスタシア〟の評価は地の底まで落ちてたから」
「マジかよ」

 アナスタシオスは周囲を顧みない〝アナスタシア〟に呆れた。

「まあ、クロードに話を聞いてなきゃ、そうなってたかもしれねえなァ……」

 アナスタシオスとレンコとのヒロインの座争奪戦は冷戦状態が続いていた。
 レンコは徹底的にアナスタシオスを避け、シナリオ通りの噂を流す。
 根も葉もない噂は何故か瞬く間に広がっていった。
 レンコと関わりを持ってしまったシュラルドルフとゼニファーは、完全にレンコの手中に収まっている。
 アナスタシオスと話す機会もめっきり減った。
 この二人のイベントを進めようにも、上手くいかない状態だ。

 アナスタシオスは噂を否定し続けた。
 彼を信じてくれる人はほとんどいなかったが……。
 全てを知るミステール、味方だと豪語したラヴィスマン、中等部にいたシルフィトの三人は、アナスタシオスの無実を信じているようだ。
 前と変わらず接してくれている。
 ミステールのシナリオは既に崩壊している。
 アナスタシアの専属執事だなんて、シナリオにはなかったのだから当然。
 ラヴィスマンのシナリオは順調に進んでいるように思える。
 シルフィトのシナリオはこれからだ。

「来年のパーティーまでに、兄さんが主人公ヒロインの座を奪う。そうすれば、断罪イベントは回避出来るはず。だけど、噂が心配だな……」

 レンコをいじめた事実はない。
 なのに、周りはまるで真実のように話している。
──もし、アデヤが噂を鵜呑みにして兄さんを断罪したら……。
 アナスタシオスは「ふう」とため息をつく。

「レンコと接触でも出来りゃあ、悪評も払拭出来るんだがなァ」
「どうするんだ?」
「後ろから笑顔で抱きつくんだよ」
「ホラーか?」
「『百聞は一見にしかず』っつうだろ? 仲良しこよしを見せつけりゃあ、だだの噂だったんだなって思うじゃん」
「レンコにはなんて言うんだよ?」
「『あの噂はきっと、レンコちゃんとわたくしを仲違いさせるために真犯人が流してるんだわ。でも、残念……。レンコちゃんとわたくしはお友達! 噂ぐらいで友情が壊れたりしないわ!』っつってやるんだよ」
「いきなり淑女に後ろから抱きつくのはちょっとどうかと思う」
「あら、異性じゃないんだから良いでしょう?」

 アナスタシオスは〝アナスタシア〟のように上品に笑う。

「異性だろうが」

 クロードはため息をつく。

「あまり接触すると骨格からまた男だとバレるぞ」
「一人も二人もそう変わんねえだろ」
「変わるが!?」

「──アナスタシア!」

 アナスタシアの婚約者、アデヤは輝かんばかりの笑顔でアナスタシオス達に近寄る。

「ああ! 今回仕立てたドレス、僕の女神の美しさを存分に引き立たているね! プレゼントして良かったよ!」

 アデヤのよく通る声でそう言ったものだから、噂好きの令嬢達にも聞かれていたようだ。
 水を得た魚のように、また噂話を再開した。

「新しいドレスですって」
「アデヤ殿下にねだったのかしら」
「貧乏貴族は卑しいわね」

 聞こえないふりをして、アナスタシオスはアデヤに微笑みかけた。

「素敵なドレスをありがとうございます、アデヤ殿下」

 アデヤは満足そうに頷いた。
 彼はまだレンコに魅了されていないようだ。
 それもそのはず。
 アデヤは断罪イベントの際、〝アナスタシア〟を裏切るのだから。
──こいつが、最大の敵だ。
 アナスタシオスとクロードが冷ややかな目で見つめているのを、アデヤは全く気づいていないようだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません

れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。 「…私、間違ってませんわね」 曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話 …だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている… 5/13 ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます 5/22 修正完了しました。明日から通常更新に戻ります 9/21 完結しました また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

悪役令嬢のビフォーアフター

すけさん
恋愛
婚約者に断罪され修道院に行く途中に山賊に襲われた悪役令嬢だが、何故か死ぬことはなく、気がつくと断罪から3年前の自分に逆行していた。 腹黒ヒロインと戦う逆行の転生悪役令嬢カナ! とりあえずダイエットしなきゃ! そんな中、 あれ?婚約者も何か昔と態度が違う気がするんだけど・・・ そんな私に新たに出会いが!! 婚約者さん何気に嫉妬してない?

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

悪意には悪意で

12時のトキノカネ
恋愛
私の不幸はあの女の所為?今まで穏やかだった日常。それを壊す自称ヒロイン女。そしてそのいかれた女に悪役令嬢に指定されたミリ。ありがちな悪役令嬢ものです。 私を悪意を持って貶めようとするならば、私もあなたに同じ悪意を向けましょう。 ぶち切れ気味の公爵令嬢の一幕です。

処理中です...