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復讐編 あなたは絶世のファム・ファタール!
口下手王子と口上手王子の作戦会議
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放課後、キュリオ学園の教室にて。
ゼニファーとシュラルドルフは向かい合って座っていた。
お互い、暗い表情を突き合わせている。
理由は双方理解していた。
【博愛の聖女】レンコについてだ。
ゼニファーは無言で紙の束を差し出した。
「ゼニファー、これは?」
シュラルドルフが尋ねる。
「アナスタシア嬢がレンコ嬢に嫌がらせをしていた、という目撃者をリストアップしたものです」
シュラルドルフはリストを手に取り、目を通す。
捲っても捲っても、終わりがない。
シュラルドルフは眉を顰めた。
「これほど多くの人が目撃していたのか」
「ええ。そして、最近になって、ほぼ全員が、証言が虚偽のものであったと言い出したのです」
シュラルドルフは目を見開き、顔を上げる。
「何故、今更……」
「アナスタシア嬢が亡くなったのは自分が嘘の証言をしたせいではないかと、怖くなったそうです」
「……嘘をついた理由は?」
「【博愛の聖女】に頼まれたからだと」
シュラルドルフはリストを机の上に置き、とふうと息をつく。
「妙、だな」
「ええ。妙です」
ゼニファーは頷いた。
「いくら、【博愛の聖女】という特別な肩書きの人間から頼まれたからと言って、美国の王子の婚約者を貶めるような虚偽の証言をするでしょうか」
アナスタシアもアデヤも制裁を下さなかったから良かったが、自分達の立場が危うくなる可能性は大いにあった。
ゼニファーは頭を抱えて言う。
「そして、何より……その証言を一方的に信じた我々も、今思えばおかしかった」
「そうだな。何故、付き合いの長いアナスタシア嬢ではなく、レンコ嬢を信じたのだろうか……」
「私の直感が効かない、あのミステールもレンコ嬢に懐柔されていました。レンコ嬢には、何か特殊な力があると見て良いのかもしれません」
この世界には、常識から外れた能力を持つ者達が確かに存在する。
軍国の身体能力、商国の直感といった、国民性と呼ばれるものだ。
【博愛の聖女】に選ばれた者に、特殊な力が備わっていたとしてもおかしくはない。
「魅了……人の心を操る力……そういった力でしょう。現に私達はレンコ嬢に操られるように、アナスタシア嬢を悪く思い込んでしまっていた」
「その憶測が正しければ、【博愛の聖女】の意味合いが大きく変わってしまう」
「ええ。我々は、【博愛の聖女】について、詳しく知る必要があります」
「そのためには、聖国出身の人間に話を聞かなくてはなるまい」
「そうなのですが……。聖国は秘密主義です。話を聞けるかどうか……」
「アナスタシア嬢の知り合いに聖国の者がいたはずだ。確か……ラヴィスマンという名前の」
アナスタシアのアリバイを証明した人物だ。
シュラルドルフは話を聞きに行ったことがある。
「……ああ。六年前、剣術大会で怪我をした時、傷の手当てをしてくれた御仁ですね。彼女の六年来の友人ならば、協力してくれるかもしれません。話を聞いてみます」
ゼニファーは顔の前で指を組む。
「レンコ嬢の目的はおそらく……アナスタシオス・フィラウティア」
「ああ」
シュラルドルフは頷く。
「アナスタシア嬢を陥れたのも、そのためなのだろう」
「どうシオ殿に繋がるかは疑問ですが。アデヤ様は利用されただけなのでしょう」
アデヤはレンコに言われ、アナスタシアと婚約破棄をした。
その準備する過程で、アデヤはレンコに好意を抱くようになっていた。
ゼニファーはそれを間近で見ていたから知っている。
「レンコ嬢がシオ殿に靡き、軽くあしらわれたことで、アデヤ様は深く傷ついています」
ゼニファーは歯噛みする。
「アナスタシア嬢の無念を晴らすためにも、彼女の魔の手からシオ殿を遠ざけなければと、私は考えています」
「俺も同意見だ」
シュラルドルフは頷いた。
「レンコ嬢の異常性に気づいた者同士、手を組みましょう」
「元より、そのつもりで呼び出したんだろう」
ゼニファーはフッと笑う。
「レンコの悪意に対抗しましょう、シュラルドルフ」
ゼニファーは手を差し出した。
「異論はない」
迷うことなく、シュラルドルフはゼニファーの手を掴んだ。
「シオはアナスタシア嬢から何も聞かされていない。アナスタシア嬢がシオに心配をかけさせまいと、墓場まで持っていったのだ」
「彼女は何処までも優しい人だったんですね……」
自分があらぬ疑いをかけられ、学園内で孤立していたのにも関わらず。
病床に伏せている双子の弟に、心配をかけさせまいと振る舞っていたのだ。
その苦労を無駄にはさせたくはない。
「アナスタシア嬢の遺志を尊重し、シオにはまだ伝えないでおこう」
「しかし、いつかは真実を伝えなければなりませんよ」
「いつか、はな。それは今ではない。今は、学園での生活を平和に過ごして貰おう」
「……そうですね。我々が全力でシオ殿をお守りしましょう」
──アナスタシアを守りなかった分まで。
ゼニファーとシュラルドルフは決意を固める。
「必ず、アナスタシア嬢の汚名を晴らし、レンコ嬢の野望を打ち砕きましょう」
ゼニファーとシュラルドルフは向かい合って座っていた。
お互い、暗い表情を突き合わせている。
理由は双方理解していた。
【博愛の聖女】レンコについてだ。
ゼニファーは無言で紙の束を差し出した。
「ゼニファー、これは?」
シュラルドルフが尋ねる。
「アナスタシア嬢がレンコ嬢に嫌がらせをしていた、という目撃者をリストアップしたものです」
シュラルドルフはリストを手に取り、目を通す。
捲っても捲っても、終わりがない。
シュラルドルフは眉を顰めた。
「これほど多くの人が目撃していたのか」
「ええ。そして、最近になって、ほぼ全員が、証言が虚偽のものであったと言い出したのです」
シュラルドルフは目を見開き、顔を上げる。
「何故、今更……」
「アナスタシア嬢が亡くなったのは自分が嘘の証言をしたせいではないかと、怖くなったそうです」
「……嘘をついた理由は?」
「【博愛の聖女】に頼まれたからだと」
シュラルドルフはリストを机の上に置き、とふうと息をつく。
「妙、だな」
「ええ。妙です」
ゼニファーは頷いた。
「いくら、【博愛の聖女】という特別な肩書きの人間から頼まれたからと言って、美国の王子の婚約者を貶めるような虚偽の証言をするでしょうか」
アナスタシアもアデヤも制裁を下さなかったから良かったが、自分達の立場が危うくなる可能性は大いにあった。
ゼニファーは頭を抱えて言う。
「そして、何より……その証言を一方的に信じた我々も、今思えばおかしかった」
「そうだな。何故、付き合いの長いアナスタシア嬢ではなく、レンコ嬢を信じたのだろうか……」
「私の直感が効かない、あのミステールもレンコ嬢に懐柔されていました。レンコ嬢には、何か特殊な力があると見て良いのかもしれません」
この世界には、常識から外れた能力を持つ者達が確かに存在する。
軍国の身体能力、商国の直感といった、国民性と呼ばれるものだ。
【博愛の聖女】に選ばれた者に、特殊な力が備わっていたとしてもおかしくはない。
「魅了……人の心を操る力……そういった力でしょう。現に私達はレンコ嬢に操られるように、アナスタシア嬢を悪く思い込んでしまっていた」
「その憶測が正しければ、【博愛の聖女】の意味合いが大きく変わってしまう」
「ええ。我々は、【博愛の聖女】について、詳しく知る必要があります」
「そのためには、聖国出身の人間に話を聞かなくてはなるまい」
「そうなのですが……。聖国は秘密主義です。話を聞けるかどうか……」
「アナスタシア嬢の知り合いに聖国の者がいたはずだ。確か……ラヴィスマンという名前の」
アナスタシアのアリバイを証明した人物だ。
シュラルドルフは話を聞きに行ったことがある。
「……ああ。六年前、剣術大会で怪我をした時、傷の手当てをしてくれた御仁ですね。彼女の六年来の友人ならば、協力してくれるかもしれません。話を聞いてみます」
ゼニファーは顔の前で指を組む。
「レンコ嬢の目的はおそらく……アナスタシオス・フィラウティア」
「ああ」
シュラルドルフは頷く。
「アナスタシア嬢を陥れたのも、そのためなのだろう」
「どうシオ殿に繋がるかは疑問ですが。アデヤ様は利用されただけなのでしょう」
アデヤはレンコに言われ、アナスタシアと婚約破棄をした。
その準備する過程で、アデヤはレンコに好意を抱くようになっていた。
ゼニファーはそれを間近で見ていたから知っている。
「レンコ嬢がシオ殿に靡き、軽くあしらわれたことで、アデヤ様は深く傷ついています」
ゼニファーは歯噛みする。
「アナスタシア嬢の無念を晴らすためにも、彼女の魔の手からシオ殿を遠ざけなければと、私は考えています」
「俺も同意見だ」
シュラルドルフは頷いた。
「レンコ嬢の異常性に気づいた者同士、手を組みましょう」
「元より、そのつもりで呼び出したんだろう」
ゼニファーはフッと笑う。
「レンコの悪意に対抗しましょう、シュラルドルフ」
ゼニファーは手を差し出した。
「異論はない」
迷うことなく、シュラルドルフはゼニファーの手を掴んだ。
「シオはアナスタシア嬢から何も聞かされていない。アナスタシア嬢がシオに心配をかけさせまいと、墓場まで持っていったのだ」
「彼女は何処までも優しい人だったんですね……」
自分があらぬ疑いをかけられ、学園内で孤立していたのにも関わらず。
病床に伏せている双子の弟に、心配をかけさせまいと振る舞っていたのだ。
その苦労を無駄にはさせたくはない。
「アナスタシア嬢の遺志を尊重し、シオにはまだ伝えないでおこう」
「しかし、いつかは真実を伝えなければなりませんよ」
「いつか、はな。それは今ではない。今は、学園での生活を平和に過ごして貰おう」
「……そうですね。我々が全力でシオ殿をお守りしましょう」
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