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恋せよタゲツくん!

「外見が変われば、見る目が変わる」

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 図書館にて。
 レイとタゲツくんはマジョアンヌを発見した。

「マジョ子さん、いましたね……!」
「同意」

 マジョアンヌは机に向かって、羽根ペンを走らせている。
 勉強熱心だな、とレイは感心した。
 レイはマジョアンヌに見つからないよう、本棚の影に身を隠した。

「よし! タゲツくん! マジョ子さんに話しかけてみて下さい! 君がタゲツくんだと知ったら、きっと驚きますよ!」
「了解」

 そう言って、タゲツくんは本棚の影から出た。
 ぎこちない歩き方でマジョアンヌに近寄る。
 マジョアンヌはそれに気付いて、顔を上げた。
──頑張れ、タゲツくん!
 レイは心の中で応援した。

「こんにちは」

 タゲツくんは勇気を出して、マジョアンヌに挨拶をした。
 マジョアンヌは笑顔を返した。

「はい。こんにちはぁ」
「貴女、好意。貴女、守る」
「え? ええとぉ……」

 タゲツくんの言葉に、マジョアンヌは困ったように笑った。

「あの……すみません。どちら様でしたかしらぁ?」
「自分、的。生成、新しい、肉体」

 レイは何してるんだろうと思った。
──普通に『自分はタゲツくんだ』って言えば良いのに……。

「……って、ああ!」

 レイは小さく声を上げた。

「タゲツくんに自分の名前をインプットしてないから、自己紹介が出来ないんだ!」

──どうしよう。これじゃあ、マジョ子ちゃんにあの子がタゲツくんだって伝わらない!
 レイは「どうしよう、どうしよう」と言いながら、その場をぐるぐると回る。

「……すみませんわぁ。よくわかりませんのぉ」

 マジョアンヌは苦笑いをした。

「マジョ子、これから用事がありますのぉ。失礼致しますわねぇ」

 マジョアンヌは机に広げていたノートと筆記用具を片付ける。
 立ち上がってタゲツくんに一礼すると、彼の横を通り抜け、早足で図書館を出た。

「待機。待機」

 タゲツくんは追いかけて呼び止めるが、マジョアンヌが足を止めることはなかった。
 今のタゲツくんの見た目は人間とそっくり。
 知らない人が話しかけてきて、単語でしか話さなかったら、関わりたくないと思うのは当然だろう。

「そんな……」

 呆然とその場に立ち尽くすタゲツくんを見て、レイの心はずんと重くなった。

「だから、言ったじゃないか」

 シャルルルカが言った。
 レイ達を追いかけてきていたらしい。
 いつの間にか、後ろにいた。

「外見が変われば、見る目が変わる。こうなることは予想出来たことだろう」
「そ、そうだ! あたしがマジョ子ちゃんに『この子はタゲツくんだ』って説明すれば……! ちょっと行ってきます!」

 レイはマジョアンヌを追って、図書館を出た。

「マジョ子さ──!」
「おい、お前、マジョアンヌだろ」

 レイが図書館を出ると、誰かがマジョアンヌと話していた。
 咄嗟に、レイは身を隠す。

「はい。そうですけれどぉ」
「キョーマに勝ったぐらいで調子に乗んなよ。あいつはD組落ちする落ちこぼれ。あいつに勝ったからって、C組に勝ったとは思わないことだな!」

 レイは「うわあ」と呆れ顔をする。
──キョーマくんみたいな人だなあ……。
 マジョアンヌは嫌な顔せずに、笑顔で応対した。

「ええ、勿論。C組の皆さんにはまだまだ敵いませんわぁ。これからも精進しませんとねぇ」
「わかれば良いんだよ。あいつよりもな、俺の方が火魔法を上手に使えるんだ! 《火炎フラム》!」
「なっ!」

──あの人、いきなり火魔法を使うなんて何考えてるの!?
 レイは杖を掴む。
 そのとき、バシャ、と火の魔法と男子生徒の顔に水がかけられた。

「……え?」
「マドンナ」

 タゲツくんがマジョアンヌを前に立つ。

「今のは……貴方の魔法ですのぉ?」
「肯定」
「どうして……」

 マジョアンヌは困惑した目でタゲツくんを見つめた。

「な、何だよ、お前!」

 いきなり水をかけられて放心していたC組の男子生徒が我に返る。
 タゲツくんはC組の男子生徒の顔に再び水魔法をかけた。

「ブッ!」
「マヌケー」

 タゲツくんは録音された音声で、彼を罵倒した。

「……てめえ!」

 C組の男子生徒はタゲツくんの襟を掴む。
 タゲツくんは怯まず、彼の顔に水をかけ続けた。
 細い筒から出る水のように襲いかかる水魔法に、C組の男子生徒は咽せた。

「や、止め。止めろ! 息出来ないって!」
「命令、去る」
「わかった、わかったから!」

 彼は「何なんだよもう!」と吐き捨て、走って逃げていった。
 タゲツくんはチラリとマジョアンヌの顔を見た。

「あの……ありがとうございましたわぁ」

 タゲツくんは首を横に振った。

「ない、必要、感謝」

 そう言うと、マジョアンヌに背を向けた。

「さようなら」

 そう言って、タゲツくんは去ろうとする。

「──お待ちになって!」

 マジョアンヌはタゲツくんの腕を取る。
 タゲツくんは驚き、振り向いた。

「もしかして、貴方……タゲツくん、ではないかしらぁ?」

 タゲツくんは目を丸くして、こくこくと頷いた。

「強い、肯定」
「やっぱり! 水魔法と『マヌケー』という言葉、きっとそうだと思ったんですわぁ」

 マジョアンヌはからからと笑った。

「さっきは気付かなくてすみませんでしたわぁ。こんな立派な人間の体、一体どうされましたのぉ?」
「クラスメイト、協力」
「クラスメイトに協力して貰ったのですわねぇ。誰かしらぁ? お体の材料は何ですのぉ?」
「利用、ゴーレム生成」
「まあ、ゴーレム作りのように? では、この体はゴーレム用の土で出来てるんですわねぇ。うふふ。もっとお話、聞かせて頂けますかしらぁ?」
「勿論」

 マジョアンヌとタゲツくんは楽しそうに話している。
 レイは物陰でその様子を見て、ホッとした。

「普通に会話出来てますね! 良かったあ。一時はどうなることかと! ね、先生!」

 レイがシャルルルカに笑いかける。

「こんなこともあるんだな……」

 シャルルルカは仲睦まじく話す二人を細めた目で見つめていた。

 □

「……ということで、タゲツくんが仲間入りしました!」
「よろしく、クラスメイト」

 レイは四年D組の生徒達にタゲツくんを紹介した。

「この子、本当にあのタゲツくんなの!?」
「人間そっくり! どうやって作ったノ?」

 好奇心旺盛な生徒達がタゲツくんを囲う。
 タゲツくんは片言ながらに彼らと会話を交わしている。
 その様子を、シャルルルカは遠巻きにして見ていた。

「そいつに授業料払えるのか? 私の授業をタダで聞けると思っているのか」

 シャルルルカは憎まれ口を叩く。
 そんな彼にレイはこう答えた。

「学園の備品が学園にいるのは当たり前ですよね。授業内容が聞こえちゃっても、それは不可抗力です!」
「生意気な……」

 シャルルルカは納得のいかない顔をしていた。
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