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休日の遊び方
「デートしないか?」
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朝の職員室は慌ただしい。
授業に使う資料の作成やら道具の準備やらで、忙しなく教師達は動き回っている。
シャルルルカはその教師の内の一人。
そのはずなのに、職員室内をふらふらと歩き回り、呑気に同僚達へ朝の挨拶をして回っていた。
「おはよう、ピエーロくん」
「は、はいぃ! おはようございます! シャルルルカ様!」
シャルルルカに話しかけられ、ピエーロは背筋をピンと伸ばした。
「今日ウチのクラスで使う資料をお願いしたいんだけどやってくれるかい?」
「何故、我が輩がやらないといけんのだ……」
ピエーロはシャルルルカに聞こえないように小声で文句を言う。
「ん? 何か言ったか?」
「い、いえ! 何でもありません! お任せ下さいぃ!」
シャルルルカの笑顔にピエーロは縮み上がった。
──彼奴の機嫌を損ねて、またあのとんがり帽子の中に入れられたら……。
そう思うと、シャルルルカには逆らおうとは思えない。
ピエーロは他の作業をほっぽり出し、シャルルルカに頼まれた資料作りに取り掛かった。
シャルルルカは満足そうに頷いて、次にアーヒナヒナへと近付いた。
「やあ、アーヒナちゃん。次の休みにデートしない?」
へらへらと笑いながら、そう言う。
「断る」
アーヒナヒナはシャルルルカに目もくれず、ばっさりとそう言った。
「休日ぐらい貴様を視界に入れたくない」
「嫌われたもんだな」
「自業自得だ。他の人を誘うんだな」
「先にアレクを誘ったんだが、断られた」
「アレクシス学園長は忙しいんだ! 誘うな!」
シャルルルカはやれやれ、と首を横に振った。
やれやれ、と言いたいのはアーヒナヒナの方であった。
「仕方ない。ホムホムでも誘うか……。おーい、ホムホムー」
シャルルルカはホムホム──ホムラフラムにフラフラと近付く。
この二人は、中庭を半壊させるほど大喧嘩したのにも関わらず、仲が良いらしい。
「今度の休み、デートしないか?」
「誰が野郎となんかデートするかよ」
ホムラフラムは心底嫌そうに顔を歪めて言う。
シャルルルカは自身のとんがり帽子の内側に手を入れ、二枚の紙を取り出した。
「ここに二枚のコンサートチケットがある。演奏者が一番よく見える席だぞ?」
ヒラヒラと二枚のチケットを揺らす。
ホムラフラムはチケットを奪うように取ると、眼鏡のテンプルを掴み、まじまじと見た。
それは確かにピアニストによるソロコンサートのチケットであった。
「……へえ。俺ァ音楽鑑賞が趣味なんだ」
「顔に似合わず洒落た趣味をお持ちのようで」
「弾ぶち込まれたいみてえだなァ?」
ホムラフラムはシャルルルカの脳天に銃口を向けた。
「物騒だな」
とシャルルルカは両手を挙げて、争う意思がないことを示した。
「じゃあ、決まり?」
シャルルルカは首を傾げる。
「おう。いつ?」
「今週末」
「ちゃんと来いよ」
「そっちもな」
ホムラフラムはチケットを懐にしまうと、上機嫌で職員室を出た。
「……喧嘩するなよ」
一連の流れを見守っていたアーヒナヒナが言う。
「それはホムホム次第だな?」
アーヒナヒナは深いため息をついた。
□
「──という訳で、私は今週末ホムホムとデートに行くことになった」
シャルルルカは生徒兼同居人のレイにそう言った。
「じゃあ、遅くなるんですね。夜ご飯はどうします?」
「バーで飲んで、そのまま酔っ払いの介抱だ。お家訪問もついてくる。腹いせに泊まってやるさ」
「えっ。泊まるんですか? 命狙ってた人の家によく泊まれますね。そもそも、二人で出かけるのも意味わかんねえです……」
シャルルルカはレイの顔をじっと見つめる。
「……何ですか。じっと見つめて」
「一人で留守番、出来るか?」
「出来ますよ! あたしのこと、いくつだと思ってんですか」
「いくつだっけ?」
「……今年で二桁になります」
弟子の年齢すら覚えていないシャルルルカに、レイは呆れた。
「──話は聞かせて貰ったわ!」
足を踏み鳴らし、ブリリアントが現れる。
「レイちゃん! 次の休日は、リリの部屋でパジャマパーティーするわよ!」
「ええ!? パジャマパーティー!? ……って、何ですか?」
「え、知らないの!?」
「パーティーは知ってますよ! 貴族の人の社交場……ですよね」
「それとはちょっと違いますわぁ」
ブリリアントの後ろから、ひょっこりとマジョアンヌも顔を出した。
「お友達の家にお泊まりして、パジャマでたくさんお話するのがパジャマパーティーですのぉ」
社交場と言ったら社交場だが、気心の知れた者しか集まらない。
ただ楽しいだけのパーティーだと、マジョアンヌは説明した。
「レイちゃんったら『シャルルルカ先生の世話があるから~』って、お部屋に遊びに来てくれないんですものぉ」
「今週末、シャルル先生は帰って来ないんでしょ? 家で一人なんて寂しいじゃない! ね、リリ達の寮部屋でパジャマパーティーしましょ?」
「先生……」
レイはシャルルルカの様子を伺った。
シャルルルカは腕を組む。
「何度も言わせるな。私はその日、家に帰らない。お前が家にいなくても、知りようがない」
「……ありがとうございます」
レイはブリリアントとマジョアンヌの二人に笑いかけた。
「リリさん、マジョ子さん! パジャマパーティー、参加します! 楽しみにしてますね!」
授業に使う資料の作成やら道具の準備やらで、忙しなく教師達は動き回っている。
シャルルルカはその教師の内の一人。
そのはずなのに、職員室内をふらふらと歩き回り、呑気に同僚達へ朝の挨拶をして回っていた。
「おはよう、ピエーロくん」
「は、はいぃ! おはようございます! シャルルルカ様!」
シャルルルカに話しかけられ、ピエーロは背筋をピンと伸ばした。
「今日ウチのクラスで使う資料をお願いしたいんだけどやってくれるかい?」
「何故、我が輩がやらないといけんのだ……」
ピエーロはシャルルルカに聞こえないように小声で文句を言う。
「ん? 何か言ったか?」
「い、いえ! 何でもありません! お任せ下さいぃ!」
シャルルルカの笑顔にピエーロは縮み上がった。
──彼奴の機嫌を損ねて、またあのとんがり帽子の中に入れられたら……。
そう思うと、シャルルルカには逆らおうとは思えない。
ピエーロは他の作業をほっぽり出し、シャルルルカに頼まれた資料作りに取り掛かった。
シャルルルカは満足そうに頷いて、次にアーヒナヒナへと近付いた。
「やあ、アーヒナちゃん。次の休みにデートしない?」
へらへらと笑いながら、そう言う。
「断る」
アーヒナヒナはシャルルルカに目もくれず、ばっさりとそう言った。
「休日ぐらい貴様を視界に入れたくない」
「嫌われたもんだな」
「自業自得だ。他の人を誘うんだな」
「先にアレクを誘ったんだが、断られた」
「アレクシス学園長は忙しいんだ! 誘うな!」
シャルルルカはやれやれ、と首を横に振った。
やれやれ、と言いたいのはアーヒナヒナの方であった。
「仕方ない。ホムホムでも誘うか……。おーい、ホムホムー」
シャルルルカはホムホム──ホムラフラムにフラフラと近付く。
この二人は、中庭を半壊させるほど大喧嘩したのにも関わらず、仲が良いらしい。
「今度の休み、デートしないか?」
「誰が野郎となんかデートするかよ」
ホムラフラムは心底嫌そうに顔を歪めて言う。
シャルルルカは自身のとんがり帽子の内側に手を入れ、二枚の紙を取り出した。
「ここに二枚のコンサートチケットがある。演奏者が一番よく見える席だぞ?」
ヒラヒラと二枚のチケットを揺らす。
ホムラフラムはチケットを奪うように取ると、眼鏡のテンプルを掴み、まじまじと見た。
それは確かにピアニストによるソロコンサートのチケットであった。
「……へえ。俺ァ音楽鑑賞が趣味なんだ」
「顔に似合わず洒落た趣味をお持ちのようで」
「弾ぶち込まれたいみてえだなァ?」
ホムラフラムはシャルルルカの脳天に銃口を向けた。
「物騒だな」
とシャルルルカは両手を挙げて、争う意思がないことを示した。
「じゃあ、決まり?」
シャルルルカは首を傾げる。
「おう。いつ?」
「今週末」
「ちゃんと来いよ」
「そっちもな」
ホムラフラムはチケットを懐にしまうと、上機嫌で職員室を出た。
「……喧嘩するなよ」
一連の流れを見守っていたアーヒナヒナが言う。
「それはホムホム次第だな?」
アーヒナヒナは深いため息をついた。
□
「──という訳で、私は今週末ホムホムとデートに行くことになった」
シャルルルカは生徒兼同居人のレイにそう言った。
「じゃあ、遅くなるんですね。夜ご飯はどうします?」
「バーで飲んで、そのまま酔っ払いの介抱だ。お家訪問もついてくる。腹いせに泊まってやるさ」
「えっ。泊まるんですか? 命狙ってた人の家によく泊まれますね。そもそも、二人で出かけるのも意味わかんねえです……」
シャルルルカはレイの顔をじっと見つめる。
「……何ですか。じっと見つめて」
「一人で留守番、出来るか?」
「出来ますよ! あたしのこと、いくつだと思ってんですか」
「いくつだっけ?」
「……今年で二桁になります」
弟子の年齢すら覚えていないシャルルルカに、レイは呆れた。
「──話は聞かせて貰ったわ!」
足を踏み鳴らし、ブリリアントが現れる。
「レイちゃん! 次の休日は、リリの部屋でパジャマパーティーするわよ!」
「ええ!? パジャマパーティー!? ……って、何ですか?」
「え、知らないの!?」
「パーティーは知ってますよ! 貴族の人の社交場……ですよね」
「それとはちょっと違いますわぁ」
ブリリアントの後ろから、ひょっこりとマジョアンヌも顔を出した。
「お友達の家にお泊まりして、パジャマでたくさんお話するのがパジャマパーティーですのぉ」
社交場と言ったら社交場だが、気心の知れた者しか集まらない。
ただ楽しいだけのパーティーだと、マジョアンヌは説明した。
「レイちゃんったら『シャルルルカ先生の世話があるから~』って、お部屋に遊びに来てくれないんですものぉ」
「今週末、シャルル先生は帰って来ないんでしょ? 家で一人なんて寂しいじゃない! ね、リリ達の寮部屋でパジャマパーティーしましょ?」
「先生……」
レイはシャルルルカの様子を伺った。
シャルルルカは腕を組む。
「何度も言わせるな。私はその日、家に帰らない。お前が家にいなくても、知りようがない」
「……ありがとうございます」
レイはブリリアントとマジョアンヌの二人に笑いかけた。
「リリさん、マジョ子さん! パジャマパーティー、参加します! 楽しみにしてますね!」
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