嘘つきクソ野郎だと追放され続けた幻影魔法使い、落ちこぼれクラスの教師となって全員〝騙〟らせる

フオツグ

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休日の遊び方

「少々試したいことがありまして」

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──一生、ピアノが弾けない……。
 ピエーロは手を見る度、その事実を思い知る。
 愛しい妻も、使用人も、隣人も、石化の被害は受けたが、無事だ。
 それだけ良いじゃないか。
 いくら自分を慰めても、指を失った虚無感は心の隅に居座っている。
 屋敷の廊下をあてもなく歩いているとき、玄関口の方が騒がしいのに気づいた。

「ピエーロさんに会わせて下さい!」

 玄関口で、シャルルルカがそう叫んでいた。
 ピエーロは急いで顔を出す。

「シャルルルカ様。今日は出立の日では?」
「ああ、ピエーロさん! 丁度良かった! ここを出る前に、少々試したいことがありましてね!」

 シャルルルカはキラキラとした笑顔で、ピエーロの手を掴んだ。

「試したいこと……?」
「ええ!」

 シャルルルカは空いた手でポケットから細長いものを取り出した。
 それを見て、ピエーロは背筋が凍りついた。

「ひ、人の指……?」
「ご安心を。本物ではありません。ゴーレム用の土で成形した指です」

 そう言われて、ピエーロは顔を近づけてよく見た。
 確かに、それは土で固められている指のようなものだ。
 仄かに土に匂いも感じる。

「奥方からピエーロさんの指が描かれている肖像画を複数見せて頂いたんです。それを元に指を再現しました」
「これをどうするつもりなのですかな?」
「端的に言えば、この土の指をピエーロさんの指として動かせるようにします。所謂、義指と呼ばれるものですね」
「は?」
「体を動かす際に発する微弱な魔力を、接着した土の指に伝えます。この方法なら、脳で描いた通りに指を動かせるはずです」
「……そんなことが可能なのですか?」
「試してみなければわかりません。何分、前例がないことですから……」

 前例がない、と言われて、ピエーロは返答に困る。
──もし失敗して、これ以上最悪な状況になってしまったら?

「無理にとは言いません。これは私がエゴですから。しかし、これだけは聞いて下さい」

 シャルルルカは真剣な目でピエーロを見る。

「私は貴方の弾くピアノの音色を聴いてみたい。貴方の手を貸してくれませんか」

 その金色の瞳に見覚えがある。
 石の壁に囲まれた中で見えた希望の光だ。
──この人ならば……。

「……まだ、石の壁に囲まれているようなのです」

 死を待つだけの時間の中、あの場所は広い棺桶だった。
 そこから救い出してくれたのは、紛れもなく、目の前の男だ。

「シャルルルカ様、どうか、どうか。もう一度、我が輩を救い出してはくれませんか……」

 シャルルルカは深く頷いた。

「手は尽くします」

 ピエーロとシャルルルカは向かい合って座った。

「ピエーロさん、こちらに手を」

 シャルルルカに促され、ピエーロは手のひらを置いた。
 シャルルルカはその手に合わせて、土で作った指を置いていく。

「まずは、簡易的な接着魔法を」

 シャルルルカは呪文を唱え、魔法の杖を振った。
 すると、土の指がピエーロの手を包み込むように繋がっていく。

「次に、指へ命を吹き込みます。……《ゴーレム生成マルシェ・ゴーレム》」

 一つずつ、使う魔法の説明をしながら、次々に魔法の呪文を唱えていく。
 ピエーロはシャルルルカに身を委ねていた。
 彼を信じると決めたからだ。

「……よし。ゆっくりと手を持ち上げてみて下さい」

 言われた通り、ピエーロは恐る恐る手を持ち上げる。

「おお、ちゃんと指がついてますな……」

 ただ、指はだらんと脱力していて、力を入れても動かない。
──失敗か。まあ、そう簡単に上手くいくはずがない……。

「ピエーロさん」

 シャルルルカに呼びかけられ、ピエーロは顔を上げた。

「力ではなく、魔力を込めてみて下さい」
「魔力を……?」
「はい。魔法を使うときに魔道具へ魔力を込めるように。こんな感じで……」

 シャルルルカはピエーロの手を握り、魔力を込める。
 すると、五本の指が手のひらの方に折れ曲がった。

「なっ!? 動いた!?」
「ふむ。魔力伝導は申し分ない……。あとは、他人の魔力で動かないようにする必要があるか……? 悪意のある人間に動かされたら事だ」

 シャルルルカはブツブツと呟いている。
 その間に、ピエーロも土の指を見つめる。
──魔法を使うときのように、指に魔力を込める……。
 シャルルルカの言う通りにしてみる。
 すると、震えながら、指が動き出した。
 それを見た瞬間、激情が込み上げ、ピエーロは立ち上がった。

「ピエーロさん?」

 シャルルルカの静止を振り切って、ピエーロはある場所へと駆け出していた。
 ピエーロが飛び込んだ部屋は、ピアノの置いてある部屋だった。
 椅子に座って、鍵盤の上に指を置いた。

「ピエーロさん、どうしたんですか!?」

 シャルルルカが入室する。
 ピエーロは彼に見向きもせず、息を吸った。
 そして、感情任せに鍵盤を叩き出した。
 テンポも崩れて、押す鍵盤を間違えて、散々な演奏だった。
 楽譜を一通り弾き終えると、シャルルルカは言った。

「すみません。上手くいかなかったようですね」

 がっくりと肩を落とすシャルルルカに、ピエーロは首を横に振った。

「いえ……。これだけで十分……」

 鍵盤の上に涙が落ちる。

「これなら、練習すれば、以前と同じように弾けるようになる……」

 シャルルルカは悲しげな表情から一転、パア、と表情を明るくさせた。

「本当ですか!? では、ピエーロさんのコンサート、楽しみにしています!」
「はは。コンサートですか。開けると良いですがね。何分、好きの横好きなものですから」
「立派なコンサートホールの中でなくとも構いません。貴方が聞かせたいと思ったとき、私にも聞かせて欲しいのです」
「……はは。もし我が輩がコンサートを開くときには招待させて下さい。勿論、立派なコンサートホールで聞かせてやりますとも!」

 シャルルルカは少し驚いた顔をしたあと、花が咲くように笑った。

「ええ。是非」
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