年下のイケメンを拾いまして。

澤檸檬

文字の大きさ
1 / 4

年下のイケメンを拾いまして。

しおりを挟む
 体にのし掛かる疲労感。
 夜よりも朝に近い午前三時に俺は家に向かっていた。
 もはや生きるために働いているのか、働くために生きているのかわからない。
 就職して五年。二十七歳。保険会社の営業として働いてきたが、求めらているのは人間性よりも結果。
 もちろん社会では結果が全てだ。
 だが、今の俺に欠けているのは自分の人間性を認めてくれる存在である。

「癒されてぇ」

 思わず俺はそう呟いていた。
 家の近くにある自動販売機の前。誰もいない場所で吐き出した心の声。
 もちろん返事などあるわけがない。
 しかし、思わぬ返事が返ってきた。

「じゃあ僕が癒すので、拾ってくれませんか?」

 いきなりの返答に俺は驚いて声を上げてしまう。

「うわっ!な、何?誰?」
「えっと、綾人、二十二歳です」

 自動販売機の光に照らされた声の正体は、座り込んだ細身の男性だった。
 紫色の派手なシャツを着た彼は、声を聞かなければ性別がわからないほど可愛らしい顔をしている。
 疲れ果てた俺は面倒だと思いながらも聞き返した。

「え、何?綾人?二十二歳?」

 すると、綾人は人懐っこい笑顔を見せる。

「はい、綾人です。噛みつかないし、ご飯もトイレも自分でできます」
「どう見たって犬じゃないから、そりゃできるだろうよ」

 俺がそう言い返すと綾人は頷いた。

「ははっ、ですよね。あ、でも特技は癒すことです。お手もできますけど」
「何言ってるんだよ。こんな時間に男が男に拾ってくれって、怪しすぎるだろ。しかも派手な服・・・・・・新手の詐欺か何かか?」

 そう言いながら、綾人に疑いの眼差しを向けると彼は自分の服装を見てから笑う。

「そんなに派手ですかねぇ、ってか怪しいですか?」
「怪しさしかないだろうよ。疲れてるんで他の人に拾ってもらってくれ。自分のことでいっぱいいっぱいなんだ」
「こんな時間に他の人なんて通りませんよ。このままだとここで餓死してしまいます」

 そう言いながら綾人は立ち上がり、顔を近づけてきた。

「な、何?」
「お願いです。拾ってくれませんか?」

 懇願する綾人の表情はまるで餌をねだる子犬のようでもあり、妖艶な花のようでもある。
 色気と可愛らしさを醸し出していた。
 既に仕事で疲れ果てていた俺は問答が面倒になり、ため息をつく。

「はぁ・・・・・・分かったよ。男同士なんだし、何もないだろ。言っとくけどうちに金目の物なんてないからな」
「じゃあ、ついて行ってもいいんですか!」
「早く寝たいだけだ。明日も朝早いからな。ここでお前と言い合いするよりも効率的ってだけだ」

 俺がそう言いながら家に向かって歩き始めると、綾人は軽い足取りでついてきた。

「明日っていうか、もう今日ですよね」
「やめろ、現実を突きつけるな。現実離れした存在のくせに」
「そういえば、名前教えてくださいよ」
「馴れ馴れしいな、捨て犬のくせに」
「わん!で、名前は?」

 そう尋ねてくる綾人。
 俺はあくびをしながら答えた。

「伊達 和馬だ」
「和馬さんですね」
「伊達さん、な」
「和馬さん」
「うぜぇ、捨ててくぞ」
「クーリングオフ対象外です」

 そこから俺と綾人の奇妙な同居は始まったのである。
 言っていた通り、綾人は料理が出来た。
 毎日深夜遅く帰る俺に温かみのある手料理を用意して待っている。
 長らく手料理など食べていなかった俺は不意に泣きそうになってしまった。

「う、うまいな、これ」
「でしょ?料理得意なんですよ」

 俺が褒めると綾人は屈託のない笑顔を浮かべる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

オメガなパパとぼくの話

キサラギムツキ
BL
タイトルのままオメガなパパと息子の日常話。

兄弟カフェ 〜僕達の関係は誰にも邪魔できない〜

紅夜チャンプル
BL
ある街にイケメン兄弟が経営するお洒落なカフェ「セプタンブル」がある。真面目で優しい兄の碧人(あおと)、明るく爽やかな弟の健人(けんと)。2人は今日も多くの女性客に素敵なひとときを提供する。 ただし‥‥家に帰った2人の本当の姿はお互いを愛し、甘い時間を過ごす兄弟であった。お店では「兄貴」「健人」と呼び合うのに対し、家では「あお兄」「ケン」と呼んでぎゅっと抱き合って眠りにつく。 そんな2人の前に現れたのは、大学生の幸成(ゆきなり)。純粋そうな彼との出会いにより兄弟の関係は‥‥?

敵国の将軍×見捨てられた王子

モカ
BL
敵国の将軍×見捨てられた王子

大事な呼び名

夕月ねむ
BL
異世界に転移したらしいのだが俺には記憶がない。おまけに外見が変わった可能性があるという。身元は分からないし身内はいないし、本名すら判明していない状態。それでも俺はどうにか生活できていた。国の支援で学校に入学できたし、親切なクラスメイトもいる。ちょっと、強引なやつだけどな。 ※FANBOXからの転載です ※他サイトにも投稿しています

姉の男友達に恋をした僕(番外編更新)

turarin
BL
侯爵家嫡男のポールは姉のユリアが大好き。身体が弱くて小さかったポールは、文武両道で、美しくて優しい一つ年上の姉に、ずっと憧れている。 徐々に体も丈夫になり、少しずつ自分に自信を持てるようになった頃、姉が同級生を家に連れて来た。公爵家の次男マークである。 彼も姉同様、何でも出来て、その上性格までいい、美しい男だ。 一目彼を見た時からポールは彼に惹かれた。初恋だった。 ただマークの傍にいたくて、勉強も頑張り、生徒会に入った。一緒にいる時間が増える。マークもまんざらでもない様子で、ポールを構い倒す。ポールは嬉しくてしかたない。 その様子を苛立たし気に見ているのがポールと同級の親友アンドルー。学力でも剣でも実力が拮抗する2人は一緒に行動することが多い。 そんなある日、転入して来た男爵令嬢にアンドルーがしつこくつきまとわれる。その姿がポールの心に激しい怒りを巻き起こす。自分の心に沸き上がる激しい気持に驚くポール。 時が経ち、マークは遂にユリアにプロポーズをする。ユリアの答えは? ポールが気になって仕方ないアンドルー。実は、ユリアにもポールにも両方に気持が向いているマーク。初恋のマークと、いつも傍にいてくれるアンドルー。ポールが本当に幸せになるにはどちらを選ぶ? 読んでくださった方ありがとうございます😊 ♥もすごく嬉しいです。 不定期ですが番外編更新していきます!

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

声なき王子は素性不明の猟師に恋をする

石月煤子
BL
第一王子である腹違いの兄から命を狙われた、妾の子である庶子のロスティア。 毒薬によって声を失った彼は城から逃げ延び、雪原に倒れていたところを、猟師と狼によって助けられた。 「王冠はあんたに相応しい。王子」 貴方のそばで生きられたら。 それ以上の幸福なんて、きっと、ない。

処理中です...