異世界で俺だけレベルが上がらない！ だけど努力したら最強になれるらしいです？

連載

チキンレース

　そんなレインに少しばかりの動揺を見せながらも、呪いを解こうとしないジュアル。
　まるでチキンレースだ。
　攻めすぎても、引きすぎても勝てない。
　そして、おそらくジュアルに対して、命を握っているという脅しは効果がないのだろうことを倉野たちは理解した。

「どうあっても呪いを解かないつもりか」

　倉野がそう問いかける。
　ジュアルはその言葉を鼻で笑い飛ばし、答えた。

「ああ、解かない。殺すなら殺せばいい。ただしあのお嬢様も死ぬことになるがな」
「どうして、それほどレイチェルさんの命を奪おうとするんだ。貴族に依頼されたからか！」

　感情的になった倉野が怒鳴りつけるように言葉を放つ。
　するとジュアルは眉間にシワを寄せて声を荒げた。

「違うっ！」
「じゃあ、何故なんだ！」

　更に言い返す倉野。
　しかしジュアルの言葉はそこで止まってしまった。
　脅しても効果がないジュアルに対してどうすればいいのか。
　倉野は深呼吸をし、落ち着いて考える。
　どうすれば呪いを解かせることができるのか。
　何故、ジュアルは自分の身を捨ててでも呪いを解かないのか。
　貴族に依頼されたからではない、というのはどういう意味なのか。
　考えることで冷静さを取り戻した倉野は自分に出来ることを思い出す。

　知らないことは知ればいい。

　先ほどまでスキルを封じられていた倉野は、そんなことも忘れていた。
　イスベルグの魔法によってバジルは氷の中にいる。
　スキル無効化の効果が任意で発動するのであれば、その意識が途切れている以上、無効化は無効化されているはずだ。
　倉野はスキル説明を発動させる。

「スキル説明発動・・・・・・対象はジュアルに呪いを解かせる方法」

　そう倉野が唱えると画面が現れ、文字が表示された。

「何をしてるんだ」

　ジュアルに問いかけられた倉野はそのまま画面の文字を読み上げる。

「ジュアル・リークに呪いを解かせる方法。ジュアルのとって最も大切なのは妹カタリーナ・リークである。呪術師であるジュアルは幼い頃から命を狙われ、他人に利用され生きてきた。そんなジュアルにとってカタリーナは唯一の家族であり、生きる意味そのものと言える。カタリーナを人質にとれば呪いを解かざるを得ない」

　倉野がそう話した途端、ジュアルの顔色が変わった。

「何故それをっ！やめろ！カタリーナには手を出すなっ！」

　喉が裂けるほど叫ぶジュアル。
　そんなジュアルに対してレインは剣を向けたまま言い返す。

「お前にとって妹が大切なように、レイチェル嬢を大切に思っている者もいる！妹が大切ならばレイチェル嬢にかけた呪いを解け！」
「・・・・・・できない！」

　苦しそうにジュアルはそう答えた。
　何がジュアルをそこまで頑なにさせるのか。
　倉野は再びスキル説明を発動させる。
　対象は、ジュアルがレイチェルに呪いをかけた理由だ。
　表示された文字を読んだ倉野は言葉を失う。
　そんな倉野の様子を察したレインが声をかけた。

「どうしたんだい、クラノ」
「レインさん・・・・・・倒すべき相手を間違っていたようです。この男は・・・・・・ジュアルは被害者なのかも知れません」
「どういうことだ？」

　問いかけられた倉野は表示されている文字を読み上げる。