異世界で俺だけレベルが上がらない! だけど努力したら最強になれるらしいです?

澤檸檬

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覚えのある匂い

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 その後、倉野とノエルは近くの街を目指し歩き始める。
 少し歩いたところでノエルが驚きの声をあげた。

「え、何、どうやってエスエ帝国に帰るかも知らないで行動に出たってこと?」

 倉野が無策でオランディの首都ウルステルダンを出たと知ったノエルはそう言いながら体をのけ反らせる。
 まさに驚きを表現する動きだ。
 ノエルの言葉を聞いた倉野は苦笑いしながら答える。

「だって、あの空気で聞けないじゃないですか。あんなに爽やかに別れて盛大な見送りを受けたのに」
「ほんっと男って何でこう・・・・・・カッコつけてないで聞きなさいよ。ていうか、船くらい準備してくれたでしょうに」
「返す言葉もございません」

 ノエルにそう答えながら倉野はあることに気づき、言葉を続けた。

「あ、そういえばノエルさん、褒賞というか礼金というか謝礼もらってませんよね。よかったんですか?」
「さすがに私といえどそこまで守銭奴じゃないわよ。あれだけ国がゴタゴタしてる中で謝礼が欲しいなんて言えないでしょう。オランディが立ち直ったら取り立てに行くわよ」

 ノエルは答えながら悪い笑みを浮かべる。その笑みすらもノエルらしいなと思いながら倉野は再び苦笑いをした。
 そんな話をしながら進んでいくと、遠くから煙が上がっているのが見える。
 だが、次の街まではまだまだかかるはずだ。その途中に集落のようなものはない。

「あれ、煙が立ち昇ってますね。何でしょう」

 そう倉野が話しかけるとノエルが真剣な表情で腰の剣に手を添えた。

「気をつけなさい、クラノ。次の街までは遠く、集落もないはず。まだ明るい時間だから焚き火って線も薄い。そう考えると野盗とか盗賊とかの可能性が高いわ。周辺のオランディ国軍はウルステルダンに集まってるはずだし、ならず者にとってはチャンスタイムってとこよね」

 ノエルの言葉を聞いた倉野はなるほどと頷く。彼女の言う通り、ルージュ軍と対峙するために周辺の国軍はウルステルダンに集められた。街と街を繋ぐ道の警備などは手薄になっているだろう。
 盗賊の可能性を考えた倉野はそうだ、と自分の持っているスキルを思い出した。

「スキル探知発動」

 スキル探知は倉野がこの世界に来てすぐに手に入れたものの一つ。スキル説明と同じタイミングで取得したものだ。周囲の建物や人の気配を探知するものである。
 煙があがっている場所を探知すると、十人ほどの人間の気配があった。

「人がいますね。十人くらいでしょうか」
「へぇ、そんなスキルも持っていたのね。万能すぎてなんかもう驚かないわ。とにかく、警戒しながら進みましょう」

 ノエルにそう言われた倉野はそのまま歩みを進める。
 煙に近づいていくと感じたのは風に乗って漂ってくる鉄の匂い。それは倉野にもノエルにも覚えがある匂いだ。

「血の匂いよ」

 ノエルは言いながら剣を抜いた。倉野も警戒しながら歩く速度を徐々に上げ、走り始める。

「あ、ちょっと待ってよ」

 そう言いながらノエルも倉野の背中を追うように走った。
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