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逃避と蒸気
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ノエルはそう言いながら地面に落とした剣を拾った。
既に男たちにはノエルの声は届かない。残ったのは火の壁に包まれた女性と商人を見張っていた男だけである。
だが、その男はこれまでのノエルの攻撃を見て怯えていた。
手に持っている剣を震わせ、逃げるタイミングを測っているように見える。
その男に対してノエルは剣と左手を向け言い放った。
「どうする。まだ戦う? 私の方は準備も戦う気も万端で満々だけど?」
「ひっ!」
戦闘態勢で放ったノエルの言葉を聞いた男は情けない悲鳴をあげ、怯えた表情を浮かべる。
そんな男に追い討ちをかけるようにノエルは一歩近づいた。
「ひいっ、た、戦いません。か、勘弁してください」
ノエルを恐れた男は言いながら剣を地面に落とす。降伏を表したのだろうか。
その姿を見たノエルはため息をつく。
「はぁ・・・・・・なっさけないわね。やり返される覚悟もなく襲うんじゃないわよ。ほら、さっさと寝てる奴ら連れてどっか行きなさい」
「は、はいいいい」
呆れて放ったノエルの言葉を聞き、男は慌てて倒れている男たちを抱えまたは引きずり去っていった。一人で九人を抱え引きずるのは難しいらしく、手間取っていたが最後は男の一人が持っていたロープに数人をくくりつけ引っ張ることにしたらしい。
男たちが情けなく去っていくとノエルは剣を納め、倉野の方向に振り返った。
「終わったわよ」
「す、凄すぎませんか。相手にならないじゃないですか」
ノエルの強さに驚く倉野。だが、これまでもノエルはその強さの片鱗を見せていた。エスエ帝国での戦いでは何人もの犯罪者集団を相手に戦い倉野たちを助けている。ノエルからすれば戦闘訓練もろくに積んでいない盗賊十人くらい大した相手ではなかったのだ。
「戦闘訓練を積んでるかどうかは大切なの。これくらいなら鍛錬を積めば誰でもできるわよ。私からすれば、戦闘訓練を積んでない素人同然の動きで馬鹿みたいに強いクラノの方が凄すぎって感じ」
「戦闘訓練・・・・・・確かにノエルさんの動きは戦闘慣れしてますよね」
「まぁ、家庭の事情ってやつよ。それよりほら、早く助けてあげないとね」
そう答えてノエルは女性たちを囲む火の壁を指差す。言葉に反応した倉野は頷き火の壁に近づいた。
「そうですね。早く出してあげないと。おーい、大丈夫ですか?」
倉野が話しかけると火に囲まれている女性が答える。
「は、はい、大丈夫です。盗賊たちがいなくなればこれくらい・・・・・・」
女性は言いながら右手を上に向けた。その状態で女性は魔法を唱える。
「ウォーター・ベール」
その瞬間に女性の右手に魔力が集まり、そこから水が溢れた。その水はまるで女性たちを包むように広がり、周囲の火を消していく。
水が蒸発する音と蒸気が広がったが、水の勢いに負け火の壁は消えてしまった。
発生した蒸気が風に流されると女性の姿がはっきりと見え、倉野は近づく足を止める。
その女性に見覚えがあったからだ。驚きのあまり止まったのである。
いきなり足を止めた倉野に疑問を持ったノエルが問いかけた。
「どうしたのよ、クラノ。元カノにでも会っちゃったみたいな顔してるけど」
「いえ、そんなんじゃないですけど、その」
ぎこちなく答える倉野。その姿を確認した女性も同じく動きを止め、口を開く。
「ク、クラノさん?」
既に男たちにはノエルの声は届かない。残ったのは火の壁に包まれた女性と商人を見張っていた男だけである。
だが、その男はこれまでのノエルの攻撃を見て怯えていた。
手に持っている剣を震わせ、逃げるタイミングを測っているように見える。
その男に対してノエルは剣と左手を向け言い放った。
「どうする。まだ戦う? 私の方は準備も戦う気も万端で満々だけど?」
「ひっ!」
戦闘態勢で放ったノエルの言葉を聞いた男は情けない悲鳴をあげ、怯えた表情を浮かべる。
そんな男に追い討ちをかけるようにノエルは一歩近づいた。
「ひいっ、た、戦いません。か、勘弁してください」
ノエルを恐れた男は言いながら剣を地面に落とす。降伏を表したのだろうか。
その姿を見たノエルはため息をつく。
「はぁ・・・・・・なっさけないわね。やり返される覚悟もなく襲うんじゃないわよ。ほら、さっさと寝てる奴ら連れてどっか行きなさい」
「は、はいいいい」
呆れて放ったノエルの言葉を聞き、男は慌てて倒れている男たちを抱えまたは引きずり去っていった。一人で九人を抱え引きずるのは難しいらしく、手間取っていたが最後は男の一人が持っていたロープに数人をくくりつけ引っ張ることにしたらしい。
男たちが情けなく去っていくとノエルは剣を納め、倉野の方向に振り返った。
「終わったわよ」
「す、凄すぎませんか。相手にならないじゃないですか」
ノエルの強さに驚く倉野。だが、これまでもノエルはその強さの片鱗を見せていた。エスエ帝国での戦いでは何人もの犯罪者集団を相手に戦い倉野たちを助けている。ノエルからすれば戦闘訓練もろくに積んでいない盗賊十人くらい大した相手ではなかったのだ。
「戦闘訓練を積んでるかどうかは大切なの。これくらいなら鍛錬を積めば誰でもできるわよ。私からすれば、戦闘訓練を積んでない素人同然の動きで馬鹿みたいに強いクラノの方が凄すぎって感じ」
「戦闘訓練・・・・・・確かにノエルさんの動きは戦闘慣れしてますよね」
「まぁ、家庭の事情ってやつよ。それよりほら、早く助けてあげないとね」
そう答えてノエルは女性たちを囲む火の壁を指差す。言葉に反応した倉野は頷き火の壁に近づいた。
「そうですね。早く出してあげないと。おーい、大丈夫ですか?」
倉野が話しかけると火に囲まれている女性が答える。
「は、はい、大丈夫です。盗賊たちがいなくなればこれくらい・・・・・・」
女性は言いながら右手を上に向けた。その状態で女性は魔法を唱える。
「ウォーター・ベール」
その瞬間に女性の右手に魔力が集まり、そこから水が溢れた。その水はまるで女性たちを包むように広がり、周囲の火を消していく。
水が蒸発する音と蒸気が広がったが、水の勢いに負け火の壁は消えてしまった。
発生した蒸気が風に流されると女性の姿がはっきりと見え、倉野は近づく足を止める。
その女性に見覚えがあったからだ。驚きのあまり止まったのである。
いきなり足を止めた倉野に疑問を持ったノエルが問いかけた。
「どうしたのよ、クラノ。元カノにでも会っちゃったみたいな顔してるけど」
「いえ、そんなんじゃないですけど、その」
ぎこちなく答える倉野。その姿を確認した女性も同じく動きを止め、口を開く。
「ク、クラノさん?」
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