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嗅覚が海馬に送る信号:感情に干渉
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気づけば帝都を出てから半日以上が経とうとしていた。
日の光も強くなり、そろそろ昼だなと感じ始める頃、レインが地図を広げて現在地を確認する。
「ルニアという町の近くを通り過ぎてから結構進んだはず。今はこの辺りかな・・・・・・うん。道も間違っていないし、そろそろ見えてくるはずだよ」
状況を確認してからレインがそう言うと倉野もとあることに気づいた。
風に乗って香ってくる懐かしい匂いである。
「あれ、この匂い」
倉野がそう呟くとリオネは外の匂いを取り入れるように鼻を突き出した。
香ってきたのは薄い硫黄のような匂い。
倉野と同じように気づいたリオネは嬉しそうに笑みを浮かべて口を開く。
「あ、そうですよ! これは湯畑の匂いです」
「・・・・・・懐かしい硫黄の匂いだ」
思わず懐かしさに浸る倉野。匂いと記憶の結びつきは強く深い。嗅覚が記憶の保管庫のような働きをしている海馬という部位に素早く信号を送るからだ。
さらにその記憶とは当時の感情をも復活させると言われている。
そんな倉野にレインが声を掛ける。
「うっとりしているけどクラノはこの匂いが好きなのかい? 癖のある匂いだからね、苦手な者もいるはずだよ」
「そうですね。一般的には卵が腐った匂いに近いと言われていますし、嫌いな人もいるかもしれません。でも僕が生まれた国はほとんどの人が温泉好きですから、そこまで抵抗を示したりはしませんね。ちなみに僕は大好きです」
倉野がそう答えるとレインは微笑みながら言葉を返した。
「卵が腐った・・・・・・そうだな、確かにそんな感じかもしれないね」
「匂いの正体は湯に含まれた成分と空気が合わさって生まれたガスらしいですよ。だから硫黄泉に浸かる時は換気が大切なんです」
「ガス? カンキ?」
言葉の意味が分からずレインが首を傾げる。
温泉の懐かしさから倉野は思わず元いた世界でするような説明をしていたと気づき、訂正した。
「えっと、目に見えない物質なんです。あまり吸いすぎると体に悪いので空気を入れ替えたほうがいいってことですね」
「ほう、なるほど」
納得したように頷くレイン。それと同時にリオネも何かに納得したようだった。
「ああ、そういうことだったんですね」
「ん?」
「いえ、私が知っているおとぎ話の中にアンゼロスが出てくるんですよ。元々『死の土地』と呼ばれていた、みたいな話なんですけどその正体は今クラノさんが言っていたガス? なんですね」
「そうかもしれませんね」
リオネの言葉に微笑んで答える倉野。
そんな話をしていると段々と硫黄の匂いは強くなり、観光都市アンゼロスが見えてきた。
都市全体が要塞であるかのように周囲に壁がそびえ、至る所から暖かそうな湯気が立ち上っている。
都市の大きさは帝都にも引けをとらない。
倉野たちを乗せたフォンガ車はアンゼロスの入口に向かって走った。
日の光も強くなり、そろそろ昼だなと感じ始める頃、レインが地図を広げて現在地を確認する。
「ルニアという町の近くを通り過ぎてから結構進んだはず。今はこの辺りかな・・・・・・うん。道も間違っていないし、そろそろ見えてくるはずだよ」
状況を確認してからレインがそう言うと倉野もとあることに気づいた。
風に乗って香ってくる懐かしい匂いである。
「あれ、この匂い」
倉野がそう呟くとリオネは外の匂いを取り入れるように鼻を突き出した。
香ってきたのは薄い硫黄のような匂い。
倉野と同じように気づいたリオネは嬉しそうに笑みを浮かべて口を開く。
「あ、そうですよ! これは湯畑の匂いです」
「・・・・・・懐かしい硫黄の匂いだ」
思わず懐かしさに浸る倉野。匂いと記憶の結びつきは強く深い。嗅覚が記憶の保管庫のような働きをしている海馬という部位に素早く信号を送るからだ。
さらにその記憶とは当時の感情をも復活させると言われている。
そんな倉野にレインが声を掛ける。
「うっとりしているけどクラノはこの匂いが好きなのかい? 癖のある匂いだからね、苦手な者もいるはずだよ」
「そうですね。一般的には卵が腐った匂いに近いと言われていますし、嫌いな人もいるかもしれません。でも僕が生まれた国はほとんどの人が温泉好きですから、そこまで抵抗を示したりはしませんね。ちなみに僕は大好きです」
倉野がそう答えるとレインは微笑みながら言葉を返した。
「卵が腐った・・・・・・そうだな、確かにそんな感じかもしれないね」
「匂いの正体は湯に含まれた成分と空気が合わさって生まれたガスらしいですよ。だから硫黄泉に浸かる時は換気が大切なんです」
「ガス? カンキ?」
言葉の意味が分からずレインが首を傾げる。
温泉の懐かしさから倉野は思わず元いた世界でするような説明をしていたと気づき、訂正した。
「えっと、目に見えない物質なんです。あまり吸いすぎると体に悪いので空気を入れ替えたほうがいいってことですね」
「ほう、なるほど」
納得したように頷くレイン。それと同時にリオネも何かに納得したようだった。
「ああ、そういうことだったんですね」
「ん?」
「いえ、私が知っているおとぎ話の中にアンゼロスが出てくるんですよ。元々『死の土地』と呼ばれていた、みたいな話なんですけどその正体は今クラノさんが言っていたガス? なんですね」
「そうかもしれませんね」
リオネの言葉に微笑んで答える倉野。
そんな話をしていると段々と硫黄の匂いは強くなり、観光都市アンゼロスが見えてきた。
都市全体が要塞であるかのように周囲に壁がそびえ、至る所から暖かそうな湯気が立ち上っている。
都市の大きさは帝都にも引けをとらない。
倉野たちを乗せたフォンガ車はアンゼロスの入口に向かって走った。
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