497 / 729
連載
猫耳の聴力
しおりを挟む
さらにレイチェルは言葉を続ける。
「心配は慣れましたが、愛おしいという気持ちには慣れそうにもありません」
倉野の頭の中に自分の心音が響いた。それが音楽であるかのように心地よく感じる。
そんな言葉に倉野は微笑んで答えた。
「僕もこの胸の高鳴りには慣れそうにありません」
「クラノ様・・・・・・」
見つめ合う二人。交わる視線は鉄さえも溶かしてしまうほどの温度を保っている。
そのまま流れるようにレイチェルを抱きしめようとする倉野。しかし、その行動は視界に入ってきた者によって遮られた。
髭面に似合わぬ猫耳の男。レオポルトである。
「帰ってきたか、クラノ」
「うわっ、レ、レオポルトさん!」
思わず倉野はレイチェルから離れ、彼の名前を呼んだ。
ここまでの行動を見られていたのか、と倉野たちは同時に赤面する。だがレオポルトは気にせず話を続けた。
「うわっ、とはなんだ。ワシは出迎えにきただけだろう。長旅ご苦労だったな」
倉野たちが抱き合っていたことを気にせずに話すレオポルト。その背後からグランダー伯爵家の執事シラムが現れた。
「レオポルト様、場には空気というものがございまして。声をかけていいタイミングがあるでしょう」
「ん? 何を言っているのでしょうか?」
シラムに忠告されるがレオポルトは理解できないという表情を浮かべてから笑い、言葉を続ける。
「はっはっは、ともかくクラノたちが帰ってきたんだ。今宵の酒は美味いぞ」
レオポルトの言葉を聞いたシラムは軽く頭を抱えてからため息をついた。
「はぁ・・・・・・いつだって美味しそうに飲まれるではないですか。さて、疲れた体を冷やしてはなりませぬからな。レイチェル様もクラノ様も中へ入りましょう」
シラムに促され倉野たちは屋敷の中に入っていく。先にシラムとレイチェルが屋敷に入り、倉野とレオポルトがその背中を追いかける。
二組の距離が開いたところでいきなりレオポルトが倉野の肩を抱いた。
突然の衝撃に驚いた倉野は思わず声を漏らす。
「レ、レオポルトさん? どうしたんですか?」
「シラム殿の言う通りワシは邪魔をしてしまったのか? それとも、お前を冷静にする時間を与えたのか?」
「え?」
「いくらなんでもレイチェル殿の気持ちが分からぬわけがないだろう。恋する乙女の瞳くらい見ればわかる。お前さんたちが抱き合っていた理由もな。あのままだとお前さんは流されていただろう? 数日ぶりに再開し気持ちが盛り上がっているのもわかるが、冷静ではない状態で答えを決めていいのか。それでお前さんが幸せになれるのか? レイチェル殿を・・・・・・リオネを幸せにできるのか? 男であるのならば筋を通すべきだ。行動は決断の上になければならない。言っている意味はわかるな?」
そうレオポルトは場の空気を読まず出迎えにきたわけではない。
レイチェルとリオネ。二人との関係を曖昧にしたままレイチェルを抱きしめようとした倉野を止めにきたのだった。
「心配は慣れましたが、愛おしいという気持ちには慣れそうにもありません」
倉野の頭の中に自分の心音が響いた。それが音楽であるかのように心地よく感じる。
そんな言葉に倉野は微笑んで答えた。
「僕もこの胸の高鳴りには慣れそうにありません」
「クラノ様・・・・・・」
見つめ合う二人。交わる視線は鉄さえも溶かしてしまうほどの温度を保っている。
そのまま流れるようにレイチェルを抱きしめようとする倉野。しかし、その行動は視界に入ってきた者によって遮られた。
髭面に似合わぬ猫耳の男。レオポルトである。
「帰ってきたか、クラノ」
「うわっ、レ、レオポルトさん!」
思わず倉野はレイチェルから離れ、彼の名前を呼んだ。
ここまでの行動を見られていたのか、と倉野たちは同時に赤面する。だがレオポルトは気にせず話を続けた。
「うわっ、とはなんだ。ワシは出迎えにきただけだろう。長旅ご苦労だったな」
倉野たちが抱き合っていたことを気にせずに話すレオポルト。その背後からグランダー伯爵家の執事シラムが現れた。
「レオポルト様、場には空気というものがございまして。声をかけていいタイミングがあるでしょう」
「ん? 何を言っているのでしょうか?」
シラムに忠告されるがレオポルトは理解できないという表情を浮かべてから笑い、言葉を続ける。
「はっはっは、ともかくクラノたちが帰ってきたんだ。今宵の酒は美味いぞ」
レオポルトの言葉を聞いたシラムは軽く頭を抱えてからため息をついた。
「はぁ・・・・・・いつだって美味しそうに飲まれるではないですか。さて、疲れた体を冷やしてはなりませぬからな。レイチェル様もクラノ様も中へ入りましょう」
シラムに促され倉野たちは屋敷の中に入っていく。先にシラムとレイチェルが屋敷に入り、倉野とレオポルトがその背中を追いかける。
二組の距離が開いたところでいきなりレオポルトが倉野の肩を抱いた。
突然の衝撃に驚いた倉野は思わず声を漏らす。
「レ、レオポルトさん? どうしたんですか?」
「シラム殿の言う通りワシは邪魔をしてしまったのか? それとも、お前を冷静にする時間を与えたのか?」
「え?」
「いくらなんでもレイチェル殿の気持ちが分からぬわけがないだろう。恋する乙女の瞳くらい見ればわかる。お前さんたちが抱き合っていた理由もな。あのままだとお前さんは流されていただろう? 数日ぶりに再開し気持ちが盛り上がっているのもわかるが、冷静ではない状態で答えを決めていいのか。それでお前さんが幸せになれるのか? レイチェル殿を・・・・・・リオネを幸せにできるのか? 男であるのならば筋を通すべきだ。行動は決断の上になければならない。言っている意味はわかるな?」
そうレオポルトは場の空気を読まず出迎えにきたわけではない。
レイチェルとリオネ。二人との関係を曖昧にしたままレイチェルを抱きしめようとした倉野を止めにきたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。
もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。
異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。
ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。
残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、
同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、
追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、
清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。
樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。
ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。
国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。
「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。