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思い出のある場所
しおりを挟む「すみません」
「はい。どうされましたか?」
受付の警察官にそう聞かれて、俺はどうしたんだろうかと考えた。
五年前に別れた彼女に実は子どもがいて、いきなり一緒に暮らすように言われたんですけど、ってか。
難しいな、それ。
俺は必死に考え、自分の目的を簡単に話す。
「人を探したいんですが」
「えっと捜索願いということでしょうか?」
捜索願い。
そんな本格的な言葉が出てきてしまうのか。
そうか。警察で人探しとなるとそうなってしまうのだろう。
気軽に住所を教えてもらえるとは思っていなかったが、捜索願いを出せるものなのだろうか。
言ってしまうと元恋人にすぎない。
そこで俺は次の言葉を考えた。
元恋人の住所を知りたいんですが。
いや、これでは完全にストーカーだな。
じゃあ、この子の親を探したいのですが。
下手したら誘拐を疑われないか?
それにナギを警察に保護されて、俺は何もできなくなるかもしれない。
これ以上この子を一人にするわけにはいかないだろう。
そこまで考えてから俺は口を開いた。
「元恋人にどうしても連絡しなければならないことがあるのですが、探してもらったりできないですか」
すると受付の警察官は少し困った表情を浮かべる。
「うーん。そうですね警察で個人の住所を簡単にお教えすることはできないんです。元恋人という関係を証明することもできないでしょうし」
確かにそうだ。
ここで食い下がっては不審がられてしまうだろう。
そう考えた俺は警察で探してもらうことを諦めた。
「そうですよね。わかりました」
そう言ってそそくさと警察署を出る。
警察署から出た俺はため息をついた。
どうしようか。おそらく役所に行っても元恋人の戸籍なんて調べられないだろう。
ナギが本人を証明する身分証を持っていればそこから彩乃の住所を特定できるかもしれないが、そんなものを持っている様子もない。
俺が落胆していることに気付いたナギが話しかけてくる。
「どうしたの、パパ」
こんな小さな子に気を遣わせてしまった。
一番不安で一番困っているのはナギだ。
俺が落胆してどうする。
「ちょっと深呼吸しただけだよ。深呼吸すると空気の味がするんだ。あーうまい」
「え?本当?」
そう言ってナギは一生懸命に深呼吸し始めた。
百点の深呼吸と言っても過言ではないくらいに可愛い。
ナギが可愛さを追いかけ、可愛さを置き去りにした。
何を言っているんだろうか。それくらいに可愛い深呼吸をしてからナギは不満そうに俺を見上げる。
「味しないよ?」
「大人になると分かるんだよ」
「むぅ」
ナギは唇を尖らせた。
その癖は彩乃と同じものである。
彩乃は集中したり、困ったりすると唇を尖らせる。
そんな姿を思い出してしまった。
ともかく、何とかして彩乃を探さなければならない。
ナギを可愛いと思うたびに、自分が一ヶ月後にはこの世を去ってしまうという事実がチクチクと胸を刺す。
もっと早くナギのことを知っていれば。
そんな思いが俺の中で芽生えた。
彩乃の姿を思い出した俺の頭の中に高校生の頃の彩乃の姿が浮ぶ。
「そうだ、地元だ」
俺は思いついたことをそのまま言葉にした。
「じもと?」
首を傾げるナギ。
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