五年前に生まれたキミと一ヶ月後に死ぬ俺。

澤檸檬

文字の大きさ
7 / 8

思い出のある場所

しおりを挟む

「すみません」
「はい。どうされましたか?」

 受付の警察官にそう聞かれて、俺はどうしたんだろうかと考えた。
 五年前に別れた彼女に実は子どもがいて、いきなり一緒に暮らすように言われたんですけど、ってか。
 難しいな、それ。
 俺は必死に考え、自分の目的を簡単に話す。

「人を探したいんですが」
「えっと捜索願いということでしょうか?」

 捜索願い。
 そんな本格的な言葉が出てきてしまうのか。
 そうか。警察で人探しとなるとそうなってしまうのだろう。
 気軽に住所を教えてもらえるとは思っていなかったが、捜索願いを出せるものなのだろうか。
 言ってしまうと元恋人にすぎない。
 そこで俺は次の言葉を考えた。
 元恋人の住所を知りたいんですが。
 いや、これでは完全にストーカーだな。
 じゃあ、この子の親を探したいのですが。
 下手したら誘拐を疑われないか?
 それにナギを警察に保護されて、俺は何もできなくなるかもしれない。
 これ以上この子を一人にするわけにはいかないだろう。
 そこまで考えてから俺は口を開いた。

「元恋人にどうしても連絡しなければならないことがあるのですが、探してもらったりできないですか」

 すると受付の警察官は少し困った表情を浮かべる。

「うーん。そうですね警察で個人の住所を簡単にお教えすることはできないんです。元恋人という関係を証明することもできないでしょうし」

 確かにそうだ。
 ここで食い下がっては不審がられてしまうだろう。
 そう考えた俺は警察で探してもらうことを諦めた。

「そうですよね。わかりました」

 そう言ってそそくさと警察署を出る。
 警察署から出た俺はため息をついた。
 どうしようか。おそらく役所に行っても元恋人の戸籍なんて調べられないだろう。
 ナギが本人を証明する身分証を持っていればそこから彩乃の住所を特定できるかもしれないが、そんなものを持っている様子もない。
 俺が落胆していることに気付いたナギが話しかけてくる。

「どうしたの、パパ」

 こんな小さな子に気を遣わせてしまった。
 一番不安で一番困っているのはナギだ。
 俺が落胆してどうする。

「ちょっと深呼吸しただけだよ。深呼吸すると空気の味がするんだ。あーうまい」
「え?本当?」

 そう言ってナギは一生懸命に深呼吸し始めた。
 百点の深呼吸と言っても過言ではないくらいに可愛い。
 ナギが可愛さを追いかけ、可愛さを置き去りにした。
 何を言っているんだろうか。それくらいに可愛い深呼吸をしてからナギは不満そうに俺を見上げる。

「味しないよ?」
「大人になると分かるんだよ」
「むぅ」

 ナギは唇を尖らせた。
 その癖は彩乃と同じものである。
 彩乃は集中したり、困ったりすると唇を尖らせる。
 そんな姿を思い出してしまった。
 ともかく、何とかして彩乃を探さなければならない。
 ナギを可愛いと思うたびに、自分が一ヶ月後にはこの世を去ってしまうという事実がチクチクと胸を刺す。
 もっと早くナギのことを知っていれば。
 そんな思いが俺の中で芽生えた。
 
 彩乃の姿を思い出した俺の頭の中に高校生の頃の彩乃の姿が浮ぶ。
 
「そうだ、地元だ」

 俺は思いついたことをそのまま言葉にした。

「じもと?」

 首を傾げるナギ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...