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ダイキリ
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「このような場所に来るのは初めてですか?」
「あ、はい」
「では、BARとはどのような場所であるか、知っていますか?」
「えっと、お酒を飲むところ・・・・・・ですか」
「半分正解です」
男性はそう言いながら楓に背を向けた。
カウンターの向こう側には無数のお酒が並んでいる。
そこから二つの瓶を手にとった男性は楓に微笑みかけた。
「BARという場所は、お酒を飲む場所であり、いつでもお客様の居場所になるところです」
「居場所・・・・・・ですか?」
楓がそう聞き返すと、男性は銀色のコップのようなものを取り出し、そこに先ほどの瓶から液体を注いだ。
注ぐ際には銀色の小さな入れ物で量を測っている。
丁寧に動きをしながらも男性は言葉を続けた。
「そうです。世の中とは決して甘くない。辛いことも悲しいこともあるでしょう。しかし、人は自分の居場所があれば大抵のことは乗り越えられるものです。帰るべき場所、いて良い場所。しかし、その居場所を見失ってしまうことがあります。自分はここにいて良いのか・・・・・・生きていて良いのか、と。そんな時必ずお客様の居場所になり味方になるのがBARです」
「居場所で、味方・・・・・・」
楓は男性の言葉を繰り返すので精一杯である。
世の中に自分は必要なのか、不安に思っていた楓にとってその言葉は深く心に入り込んできた。
「そうです。そんな味方からお嬢さんに飲んで頂きたいお酒がこちらです」
そう言いながら男性は先ほどの銀色のコップのようなものに蓋をして、振り始める。
上下させるように一定のリズムで振ると、心地のいい音が店内に響いた。
その動きは無駄がなく、美しいとさえ感じる。
楓が男性の動きに見惚れていると、次第にその動きはゆっくりになり、止まった。
男性はその混ぜた液体をグラスに注ぐ。
透明と白の中間のような液体からは爽やかな柑橘の香りがした。
「どうぞ」
男性はそう言ってグラスを楓の前に差し出す。
「あ、ありがとうございます」
グラスを受け取った楓は恐る恐る口をつけた。
ライムの香りが鼻を抜け、その爽やかな味わいが口の中いっぱいに広がる。
そして最後にアルコール独特の風味が追いかけてきた。
いつも楓が飲むチューハイよりも明らかにアルコールが強い。しかし、爽やかな香りと甘さが飲みやすいお酒に仕上げている。
「美味しい・・・・・・」
楓がそう呟くと男性は嬉しそうに微笑んだ。
「どうですか?少し元気が出ましたか?」
「え?」
「先ほど、この世の終わりのような顔をしていたので、カクテルから希望を差し上げられたらと思いましてね」
男性にそう言われた楓は、自分が先ほどまで絶望していたのだと気付く。
少し落ち込んでいる、くらいに思っていたが周りからはそう見えていたのか、と冷静になった。
先ほどの自分を客観視できるのは少し元気になったからなのかもしれない。
楓の様子を察した男性は再び微笑んだ。
「ホワイトラムとライムジュース、そして砂糖少々をシェーカーに入れ、シェイク。すると、それは名前を変えるのです。先ほどまでホワイトラムとライムジュースと砂糖だったものはダイキリと呼ばれるカクテルになります」
「ダイキリ・・・・・・」
「お口に合いましたか?」
「はい。初めて飲みましたが、飲みやすくて・・・・・・ごくごくいけちゃいそうです」
楓がそう言うと男性は笑う。
「あ、はい」
「では、BARとはどのような場所であるか、知っていますか?」
「えっと、お酒を飲むところ・・・・・・ですか」
「半分正解です」
男性はそう言いながら楓に背を向けた。
カウンターの向こう側には無数のお酒が並んでいる。
そこから二つの瓶を手にとった男性は楓に微笑みかけた。
「BARという場所は、お酒を飲む場所であり、いつでもお客様の居場所になるところです」
「居場所・・・・・・ですか?」
楓がそう聞き返すと、男性は銀色のコップのようなものを取り出し、そこに先ほどの瓶から液体を注いだ。
注ぐ際には銀色の小さな入れ物で量を測っている。
丁寧に動きをしながらも男性は言葉を続けた。
「そうです。世の中とは決して甘くない。辛いことも悲しいこともあるでしょう。しかし、人は自分の居場所があれば大抵のことは乗り越えられるものです。帰るべき場所、いて良い場所。しかし、その居場所を見失ってしまうことがあります。自分はここにいて良いのか・・・・・・生きていて良いのか、と。そんな時必ずお客様の居場所になり味方になるのがBARです」
「居場所で、味方・・・・・・」
楓は男性の言葉を繰り返すので精一杯である。
世の中に自分は必要なのか、不安に思っていた楓にとってその言葉は深く心に入り込んできた。
「そうです。そんな味方からお嬢さんに飲んで頂きたいお酒がこちらです」
そう言いながら男性は先ほどの銀色のコップのようなものに蓋をして、振り始める。
上下させるように一定のリズムで振ると、心地のいい音が店内に響いた。
その動きは無駄がなく、美しいとさえ感じる。
楓が男性の動きに見惚れていると、次第にその動きはゆっくりになり、止まった。
男性はその混ぜた液体をグラスに注ぐ。
透明と白の中間のような液体からは爽やかな柑橘の香りがした。
「どうぞ」
男性はそう言ってグラスを楓の前に差し出す。
「あ、ありがとうございます」
グラスを受け取った楓は恐る恐る口をつけた。
ライムの香りが鼻を抜け、その爽やかな味わいが口の中いっぱいに広がる。
そして最後にアルコール独特の風味が追いかけてきた。
いつも楓が飲むチューハイよりも明らかにアルコールが強い。しかし、爽やかな香りと甘さが飲みやすいお酒に仕上げている。
「美味しい・・・・・・」
楓がそう呟くと男性は嬉しそうに微笑んだ。
「どうですか?少し元気が出ましたか?」
「え?」
「先ほど、この世の終わりのような顔をしていたので、カクテルから希望を差し上げられたらと思いましてね」
男性にそう言われた楓は、自分が先ほどまで絶望していたのだと気付く。
少し落ち込んでいる、くらいに思っていたが周りからはそう見えていたのか、と冷静になった。
先ほどの自分を客観視できるのは少し元気になったからなのかもしれない。
楓の様子を察した男性は再び微笑んだ。
「ホワイトラムとライムジュース、そして砂糖少々をシェーカーに入れ、シェイク。すると、それは名前を変えるのです。先ほどまでホワイトラムとライムジュースと砂糖だったものはダイキリと呼ばれるカクテルになります」
「ダイキリ・・・・・・」
「お口に合いましたか?」
「はい。初めて飲みましたが、飲みやすくて・・・・・・ごくごくいけちゃいそうです」
楓がそう言うと男性は笑う。
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