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異世界の客
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普通ならもっと取り乱していてもおかしくない状況だが、一緒にいる神谷が落ち着いていること、更に集中できることがあったということが楓にこの状況を受け入れさせた。
神谷と一緒ならばどんな状況でも大丈夫だ、と楓は思ったのである。
「なんか、不思議です。こんなおかしな状況なのに、バーテンダーの勉強をすると落ち着くんです」
「それは楓さんがバーテンダーだからです。どんな状況でもバーテンダーはバーテンダー。仕事ではなく生き方なんですよ。使い古されたセリフですけどね」
そう言いながら神谷は微笑んだ。
更に神谷は言葉を続ける。
「そもそもBARとは現実世界から離れた別の世界みたいなものです。疲れや悲しみ、辛さを忘れてこの空間を楽しむ。ですから私はこの店にパラレルワールド、と名付けました」
「そうだったんですね」
「ええ、だから本当に別の世界に繋がってもそれほど驚くことではありません」
「いや、それはまた別の話じゃないですか?」
時々神谷は突拍子もないくらい状況を受け入れる。
それもまた神谷の魅力でもあるが、楓にはついていけない瞬間があった。
そんな話をしていると、店の扉が開く。
「いらっしゃいませ」
習慣になっているのか神谷はすぐにそう言って扉の方に視線を送った。
楓もすぐに椅子から立ち上がり、扉の方に挨拶をする。
「い、いらっしゃいませ!」
扉を開けたのは、革製の防具に身を包んだ二十代くらいの男性だった。
いかにもファンタジーと言うような格好である。
男性は店の中を見渡してから口を開く。
「妙な店構えだが、ここは酒場なのか?ずいぶん気取った場所だが」
男性にそう問いかけられた神谷は頷き、答える。
「はい、ここはお酒を嗜んでいただく場所でございます」
神谷の言葉を聞いた男性はなるほど、と言う顔をして椅子に座ろうとした。
しかし、神谷は男性を引き止める。
「申し訳ございませんお客様。そちらのものを置いてもらえませんか?」
神谷はそう言って、男性の腰の剣を指し示す。
言われた男性は少し不満そうな顔をし、言い返した。
「何があるかわからんのだから武器を手放すことはできない」
男性の言葉を聞き、神谷は力強い声で答える。
「こちらのお店では何も起きないよう全力で努めさせていただきます。お客様に快適に楽しんでいただくためにご協力いただけませんか?」
そう言った神谷は優しい表情をしていたが、それだけは譲れないという目をしていた。
そんな神谷の想いを察した男性は、仕方ないという顔をして剣を腰から外し、壁に立てかける。
「これでいいか?」
「ありがとうございます。楓さん、おしぼりとチャームを」
神谷に指示された楓はカウンターの内側に入り、おしぼりを取り出した。
「どうぞ、お客様」
「これは?」
楓からおしぼりを受け取った男性はなんだろうという表情を浮かべる。
おしぼりというものを知らなければ、これはただの濡れた布だ。
「そちらはおしぼりと言いまして、手を拭いていただくものです」
楓がそう言うと男性はおしぼりを開いて手を拭く。
「これはいい。手が汚れていると落ち着かないからな。いいサービスだ」
男性は嬉しそうにそう話した。
神谷と一緒ならばどんな状況でも大丈夫だ、と楓は思ったのである。
「なんか、不思議です。こんなおかしな状況なのに、バーテンダーの勉強をすると落ち着くんです」
「それは楓さんがバーテンダーだからです。どんな状況でもバーテンダーはバーテンダー。仕事ではなく生き方なんですよ。使い古されたセリフですけどね」
そう言いながら神谷は微笑んだ。
更に神谷は言葉を続ける。
「そもそもBARとは現実世界から離れた別の世界みたいなものです。疲れや悲しみ、辛さを忘れてこの空間を楽しむ。ですから私はこの店にパラレルワールド、と名付けました」
「そうだったんですね」
「ええ、だから本当に別の世界に繋がってもそれほど驚くことではありません」
「いや、それはまた別の話じゃないですか?」
時々神谷は突拍子もないくらい状況を受け入れる。
それもまた神谷の魅力でもあるが、楓にはついていけない瞬間があった。
そんな話をしていると、店の扉が開く。
「いらっしゃいませ」
習慣になっているのか神谷はすぐにそう言って扉の方に視線を送った。
楓もすぐに椅子から立ち上がり、扉の方に挨拶をする。
「い、いらっしゃいませ!」
扉を開けたのは、革製の防具に身を包んだ二十代くらいの男性だった。
いかにもファンタジーと言うような格好である。
男性は店の中を見渡してから口を開く。
「妙な店構えだが、ここは酒場なのか?ずいぶん気取った場所だが」
男性にそう問いかけられた神谷は頷き、答える。
「はい、ここはお酒を嗜んでいただく場所でございます」
神谷の言葉を聞いた男性はなるほど、と言う顔をして椅子に座ろうとした。
しかし、神谷は男性を引き止める。
「申し訳ございませんお客様。そちらのものを置いてもらえませんか?」
神谷はそう言って、男性の腰の剣を指し示す。
言われた男性は少し不満そうな顔をし、言い返した。
「何があるかわからんのだから武器を手放すことはできない」
男性の言葉を聞き、神谷は力強い声で答える。
「こちらのお店では何も起きないよう全力で努めさせていただきます。お客様に快適に楽しんでいただくためにご協力いただけませんか?」
そう言った神谷は優しい表情をしていたが、それだけは譲れないという目をしていた。
そんな神谷の想いを察した男性は、仕方ないという顔をして剣を腰から外し、壁に立てかける。
「これでいいか?」
「ありがとうございます。楓さん、おしぼりとチャームを」
神谷に指示された楓はカウンターの内側に入り、おしぼりを取り出した。
「どうぞ、お客様」
「これは?」
楓からおしぼりを受け取った男性はなんだろうという表情を浮かべる。
おしぼりというものを知らなければ、これはただの濡れた布だ。
「そちらはおしぼりと言いまして、手を拭いていただくものです」
楓がそう言うと男性はおしぼりを開いて手を拭く。
「これはいい。手が汚れていると落ち着かないからな。いいサービスだ」
男性は嬉しそうにそう話した。
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