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本編

第3話_世話焼きが紡ぐ縁-6

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うつむいたまま小さく鼻をすする蒼矢ソウヤの姿を見、沈黙したリョウ啓介ケイスケは一時互いに視線を送り、何事かを合意し合ったのか双方頷くと、諒から口火を切った。

髙城タカシロ、それじゃあ俺たちで送ってくよ」
「…えっ…!?」

蒼矢はハンカチを外して顔を上げ、痛ましい目を出来る限り見開いて彼らを見る。

「もうすぐクラス撮影の時間だけど、どのみちその目じゃ満足いくショットは残せないだろ?」
「いや、撮影はいいんだけど…君たちまで俺に付き合う必要はない。撮影には参加していってくれ、ひとりで帰れるから」
「全員集合は難しくても、クラスの連中との写真なんてこの先いくらでも撮れるよ。どうせ毎日のように会うんだから」
「でも…送りなんて。そこまで世話になる訳には…」
「裸眼でひとりで帰れんのか?」

諒の勧めに渋る蒼矢の言を、啓介も少し声量を強めて遮った。

「目が満足に開けられなくて、そのうえ視界も悪いんだろ? 結構な不自由具合だと思うけどな」
「…!」
「この場に俺たちがいるのって、お前にとってかなりラッキーだと思うぞ? 遠慮してたら要らない事故に遭うかもしれないんだ、素直に甘えとけって」
沖本オキモトの言う通りだ。俺たちふたりとも、割と論理的な観点から髙城のこと心配してる。…付き添わせてくれないかな」

そう言うふたりの顔を、蒼矢は戸惑った面持ちで交互に見ていたが、やがて半目しか開けられない目を閉じながら頭を下げた。

「…ありがとう。付き添いお願いします」

小さくもしっかりした返答を受け、啓介は満足気に頷くと、蒼矢の荷物を拾う。

「じゃ、行こうぜ。最寄りは?」
「□□線乗って、I駅」
「俺の通学経路と途中まで同じだな。そっから歩きか?」
「うん。だけど、そこからは迎えに来て貰うようにするよ」

立ち上がろうとする彼らを引き止め、蒼矢はスマホの液晶に顔をくっつけんばかりに寄せ、急ぎいずこかへメッセージを送る。

…最寄から"迎え"か。両親じゃないとは思うけど、誰かな?

そう内で考えつつ、啓介の先導の下、諒は蒼矢を支えながら大学正門へと向かった。
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