ガイアセイバーズ2 -海の妖-

独楽 悠

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第5話_海底の華

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『転異空間』へ転送した4人は、それぞれ戦闘スーツに身を包んでふわりと空間に降り立った。

ここ『転異空間』は、普段普通に生きている『現実世界』と、現実世界に害をなす[異界のもの]たちの棲み処である[異界]の、ふたつの世界の狭間にあり、[異界のもの]から『現実世界』を護る使命を帯びた『彼ら』が造り上げる戦闘フィールドである。


『彼ら』――レツ蒼矢ソウヤアキラ影斗エイト、そして現在参加不能中の葉月ハヅキ――の5人は、普段は『現実世界』の人々と変わらずいち社会人または学生としての日常を送っているが、隔絶された地で異能を使う『ガイアセイバー』としての側面も持ち合わせている。

『現実世界』へ害なす[異界のもの]が世界線を越えて現れた時、つまり『選ばれた者』としての力が必要とされた時に、[それら]から『現実世界』を防衛するために戦っている。


彼らをセイバーたらしめるものが、覚醒と同時に身体の特定の部位に現れる『刻印』で、使命を受けた者としての証となる。
そして、『刻印』と同時にもたらされるものが、彼らの首から下がる銀鎖のペンダントで、『起動装置』と呼ばれるそれは、トップにはまる鉱石が[異界のもの]に反応して力を帯び、『転異空間』を作り『セイバー』に変身する動力となっている。

略奪・破壊目的で『現実世界』へと侵入した[異界のもの]は、『セイバー』が『転異空間』を造り出すと、問答無用で彼らとともに転送され、『現実世界』からは一旦追い出されることになる。
この『転異空間』で[異界のもの]と戦闘し、『ガイアセイバーズ』がこれらを撃破または[異界]へ強制送還できれば、防衛成功である。


セイバーたちは、『転異空間』内を見渡す。
抜けるような夏の青空だった『現実世界』から一変して、少し薄暗さのある、やや緑味を帯びた青の景色が、彼方まで広がっていた。
視界は良好とは言い難く、視線が一定に置けずふと捕らわれるような、緩慢とした揺らぎが感じられた。


「…なんか変な空間だな…」
「歩くとフワフワするんだけど! おちつかねー」
「視界もなんとなくぼやけるというか、あまりクリアじゃねぇな。…まるで水中潜ってる感じじゃね?」
「…そうですね」

それぞれが感想を漏らすと、正面にうごめく[異形]を見定める。

『現実世界』では海面からしかうかがえなかったが、その[異形]の全貌に少し背筋が寒くなるのを感じた。
さきほど陽が述べた"イカかタコの足"みたいなものは[異形]本体から伸びた触手でその数はおびただしく、地面にくっついた巨大な株本体から放射状に生え出るように伸びた姿はイソギンチャクに酷似し、ゆらゆらと空間に漂っていた。

「~~っきもちわりぃ~!! 早いとこっちまおうぜ!!」

前述通りこういったビジュアルに弱い陽――セイバー『サルファー』は、一足早く得物の装具『閃光センコウ』を呼び出し、その細剣の先を[異形]に向け構えた。

「『エピドート』いねぇんだからな、慎重に行けよ」

そうたしなめた烈――セイバー『ロードナイト』と影斗――セイバー『オニキス』も、それぞれ太刀の装具『紅蓮グレン』と篭手の装具『暗虚アンキョ』を呼び出す。

「今回はこいつだけかな? この塊一体なら陣形にこだわらないでもいいかもな。…とりあえずお前は後方にいろよ」
「わかってます」

オニキスにそう声掛けされた蒼矢――『セイバーアズライト』は、呼び出した短剣の装具『水面ミナモ』を[異形]を正面にして両眼の前に持ってくると、その透き通った刀身から透かし見るようにかざす。他三人は攻撃が主だが彼の位置づけは戦闘支援で、『索敵』という専用能力で[異界の者]の弱点を特定することが主な役目である。
アズライトが探る中、イソギンチャクようの[異形]へ向かった三人はそれぞれ別方向から目的を囲むように接近し、それぞれの得物で揺らめく触手を片っ端から切断していく。
切り落とされ始めると[異形]は咆哮のような轟音を響かせ、周りの触手をセイバーたちへ伸ばし捕まえようとするが、彼らは巧みにかわしていく。

「こんな動けない奴、即行で息の根止めてやる…!!」

機動の速さが特徴であるサルファーは、無数にうごめく触手の間を俊敏に縫い、『閃光』で切り散らしながら中心部へ動き進めていった。
セイバーズの戦法としては、急所を的確に突かない限り討伐できない可能性が高いため、アズライトがいる場合は原則索敵が済むまで攻撃手は敵の手数を減らしたり、撹乱するなどして時間を稼ぐことが定石であった。
しかし気持ちが急いてしまっているサルファーは、[異形]の株に急所があると想定して、触手の根元へと潜っていく。

「弱点属性は、雷です」

攻撃手たちの脳内へ、[異形]の属性を索敵し終えたアズライトから声が届くが、ロードナイトは目を丸くし、オニキスは舌を出した。
「『エピドート』か…!」
「…いねぇじゃんよ。マジ使えねぇな、あのカナヅチ」
「すみません、もう少し時間稼ぎお願いします。…急所の特定急ぎます」
「了解、頼んだ」

セイバー達の脳内へ返答し、アズライトは再び意識を集中させ、索敵を再開する。と、丁度アズライトから見える範囲にサルファーが攻撃する姿がぼんやり入り、彼の行動に思わず手を止めて目を見張った。

「…サルファー…? 駄目だ、そこ・・は違う…!」

アズライトは、サルファーの意図が急所狙いだと瞬時に見て取った。
別々の方向から攻めている他二人の攻撃手からは、現状のサルファーの姿を捉えられていない。逡巡する間にも、触手の中へ進んでいくサルファーの後方では数本の触手がうごめき、まるで槍を構えるようにその先端を彼の背中へ向ける。
意を決したアズライトは、『水面』を構え直して[異形]へ急接近する。
「サルファー!!」
アズライトの叫び声と同時に、先端がサルファーへ向けて一気に潜りこむ。一時動きが止まった後、埋まった触手は再びずるりと伸び、空間に漂った。そこには引き抜かれたサルファーが絡みつき、ぐったりとその身を預けていた。上半身を垂らし、動いている様子は無い。
「――!!」
アズライトは跳躍し、触手を切断するとサルファーを抱え、追う触手を振り切ってそのまま弧を描き、戦線を離脱する。[異形]から大きく離れたところに着地すると、失神しているサルファーを地に寝かせた。
まとわりつく触手の切れ端を払いのけながら身体を探るが、外傷は見当たらない。重度の打撲か、最悪どこか骨折しているかもしれない。
「どうした、サルファーに何があった?」
「[異形]にやられた…気を失ってる。戦闘は無理だ」
「あのお子様は…また出過ぎた真似でもしたんだろ。どうする、続けるか?」
「…微妙です。もう少しで急所特定できわかりそうではあるんですが…」
「『放逐』でもいいんじゃねぇか? 今のところ[侵略者]出てきてねぇし」
「お前、簡単に言ってくれるなよなー? 結構疲れるんだぜ、あれ」
動ける三人で脳内会話を続けていると、攻撃の手が少し緩む最中、[異形]の動きが変わり、ただゆらゆらと放射状に漂っていた触手の群れの一部がざわりと動きを揃え、その先端をある一点へ向ける。その先には、遠くで待機するアズライトとサルファーが見える。
と、次の瞬間、数本の触手が驚くべき速さで彼らへ向けて射出された。
「っ!?」
ふいに足許を引っ張られ、[異形]からやや背を向けていたアズライトが我に返ったように振り向くと、いつの間にか片脚に触手が絡みついていた。咄嗟に『水面』で断ち切ろうとしたが、脇から新たに伸びてきた別の触手に腕を取られ、上体を崩される。
「あぁっ…」
身体の自由を失ったアズライトは、一気に[異形]の方へと引きずられていった。
「っ!!」
一旦[異形]から離れて二人の方へ向かっていたロードナイトとオニキスは、触手に捕らわれるアズライトを眼前に捉える。
「!? やべぇっ…」
「っ…させるかぁっ!!」
二人は速度を増し、対面方向から同時に触手を断ち切ろうとしたが、あと一歩のところで届かずに装具は空を切り、アズライトの姿は[異形]の中に飲み込まれていった。
「アズライト!!」
ロードナイトはアズライトが消えた付近に『紅蓮』を切り込むが、さっきまで軽快に切れていたはずなのに表面に傷をつける程度にしかならない。オニキスも加わってしばらく攻撃を繰り返したが、次第に完全に刃をはじき返されるようになってしまった。[異形]は触手を硬化させ、獲物を引き込んだ途端さながら防御姿勢を取るかのように、表面を丸く覆ってしまった。
「……」
この変わり身の早さに、二人は呆然とその巨躯を見上げるしかなくなった。
「…どうすんだ、これ」
「…っオニキス、『放逐』は!?」
「できねぇよ、アズライトが中にいるだろうが…!」
「!! …そっか、くそっ…」
「…ふざけやがって…!」
ロードナイトは悔しそうに悪態をつき、オニキスが珍しく啖呵を切って『暗虚』で表皮を殴りつけた。
「~おい、ロード! こいつ燃やせ!! 出力最大で火炙りにしろ!!」
「!? 無理だって! 水属性相手には俺無力なんだって!!」
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