ガイアセイバーズ5 -歪な虚構の翅-

独楽 悠

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本編

第9話_姿現す憎悪-1

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翌日の昼過ぎ、蒼矢ソウヤは大人しく自宅で療養していた。
大学の友人たちへ、体調不良のため週末まで休むことを伝えると、こっちから頼まなくても休んでいる間の講義内容をまとめてやると進言され、それならばとレジュメや資料をメールで貰えるようお願いしておいた。
腹部には引き続きずきずきと不快な痛みがあり、何か食べないと薬が飲めないため朝食を適当に腹に入れる。
昼前に影斗エイトから話を聞いた葉月ハヅキが訪れ、具合を軽く診て、胃に優しい食事を夕飯までの2食分用意してくれた。
「ごめんね、付き添ってあげたいけど…午後から仕事が入ってるんだ。でも、何かあったらすぐに連絡してね」
そう済まなそうに引きあげていく彼を見送って、蒼矢は再び3階の自室へ戻る。
ベッドに腰を落とし、ごろりと寝転がったところでスマホの通知が鳴る。
「…烈…」
昨日の口ぶりから察せたが、影斗はレツへも伝えたらしく、彼からも同じように身を案じるSNSが届いていた。

""今日は一日店番にしてもらった。元気か?""

その、簡潔かつ端的過ぎな内容に少し噴き出し、怪我に響いたのか腹を押さえながらベッドの上で一時悶絶した後、返信しようと指を動かしかけたところでインターホンが鳴った。
「…はい」
応じた蒼矢は、モニターに映った人物を見て目を見開く。
『――こんにちは、先輩』
立羽タテハ…!?
「…どうして、ここが…、住所…」
『先輩のお友達に聞きました。すみません、勝手に聞き出したりして』
「…!?」
…誰に聞いたんだ…? 俺、誰かに教えたか…!?
『先輩、急に学校休まれたって聞いて…心配で居てもたってもいられなくなっちゃって…お見舞いに来たんです』
頭の中が混乱し、言葉を続けられない蒼矢の目の前で、モニター越しのリンが小首を傾げた。
『お家、入れてもらえませんか…?』



髙城タカシロ家へ通された鱗は、玄関から始終キョロキョロと中を見回し、頬を染めながら蒼矢へ微笑を浮かべた。
「すっごい広いお家ですね…! いいなぁ、憧れます。僕もこういうお家に住みたいなぁ…」
2階へ上がり、リビングに入るなり自分を追い越して小走りに進み、家具やキッチンを触って回る鱗を、蒼矢は少し気遅れ気味に目で追う。
「…あの、立羽…」
「! ああっ…ごめんなさい。僕約束しないで来ちゃったのに、手土産も無くて」
「いや、いいよ。こっちこそ、何もお構いできなくて…」
鱗は蒼矢の元へ戻ってくると、上目遣いに顔を眺めた。
「先輩、顔色悪いです」
「うん…まだ本調子じゃなくて」
「体調崩されたって聞きましたけど…体痛めたんですか?」
「! え…」
「ずっと、お腹押さえてます。歩き方も、少し引きずってる感じがしましたし」
そう指摘され、蒼矢は咄嗟に脇腹から手を外す。代わりに鱗の手が伸び、シャツの上から身体の曲線に沿わせるように撫で上げた。思いの外強めに触られ、蒼矢の顔がやや歪む。
「っ…」
「あっ、ごめんなさい。…どこかにぶつけたんですか?」
「…うん、ちょっと」
「寝てた方がいいかもしれませんね。寝室はどこですか? 僕、手伝います」
痛みに思考がぼやける面持ちを無邪気な顔で見上げ、鱗は蒼矢を引っ張るように3階へ上がっていった。
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