6 / 23
本編
第5話_出動
しおりを挟む
運動場に着くと、人々が土まみれになりながら敷地外へ逃げ出して来るのが見えた。中には傷だらけになり、何事か叫びながら走っている人もいる。
場内へ視線を移すと、その場に不釣り合いに巨大な樹木群がまるで生き物のようにうごめいていて、おびただしい数の太い根が土から這い出て波打っていた。根に叩きつけられた地面からは土埃が舞い上がり、一帯がもやが掛かったように黄色くなっていた。
およそ、ありえない光景が広がっていた。
パトカーや救急車のサイレンが近付いてきている中で、烈と蒼矢に葉月が合流し、三人はいたって冷静に惨状を見る。
「蒼矢、[侵略者]の気配は?」
「…わかりません。こんなに[異形]がいるのに…」
「考えててもけが人が増えるだけだ、移動しようぜ」
烈の一声に二人は呼応し、胸元のペンダントを手に取る。それぞれの手に握られて、ペンダントトップにはまった鉱石が、光を増す。
次いで一瞬空間が暗転し…人々の前にはめくられた地面と瓦礫だけが残された。
『転異空間』――そう呼ばれる、『現実世界』とは隔絶された空間に降り立った三人は、同じく転送されてきた[異形]達…うごめく巨木の大群を前にし、戦闘態勢を取る。
転異空間に転送してくると同時に戦闘スーツに身を包んでいた三人は、銘々の専用装具を呼び出す。
『ガイアセイバーズ』――現実世界の誰にもそう呼ばれたことはないが、それが彼らのもう一つの名である。
現実とは別の世界線からなる[異界]から、征服あるいは略奪目的でやってくる[侵略者]達と、その手足となる[異形]の侵入をいち早く察知し、それぞれが所持する鉱石を起動装置として『転異空間』を造って[彼ら]と自らを送り、現実世界と異界の狭間であるその空間で対峙する。
彼らが転異空間に[異形]と呼ばれる巨木を転送することで現実世界からは消えて無くなり、その時点で侵略によるダメージを打ち消すことが出来る仕組みだ。
あとは転異空間でこの招かれざる者達を撃破する、または異界へ強制送還すれば、防衛成功である。
突如場所を移された巨木達はどよめき立ったが、すぐセイバー達へ焦点を合わせ、根をうねらせながら接近し始めた。
すぐさま葉月――セイバー『エピドート』が、斧槍の装具『雷嵐』を一振りし、暴風の防護壁を造り上げる。
巨木らは自らの枝をねじ切ると槍のように構え、一斉にセイバー達に浴びせかける。しかしエピドートの厚い風の前に跳ね返され、上空へ巻き上げられ粉々に飛び散っていく。
「弱点属性は、多分"炎"だろうな。相性バッチリだぜ」
そして暴風壁から勢い良く飛び出した烈――『ロードナイト』は、両手に構えた太刀の装具『紅蓮』に炎をまとわせ、巨木の群れめがけて勢いよく放つ。ブーメランのように弧を描きながら巨木の太い幹を両断し、同時に炎が着火して、密集する可燃物に瞬く間に延焼していく。
その間、エピドートの後方に立っていた蒼矢――『アズライト』は、短剣の装具『水面』を両眼の前に構え、『索敵』し続けていた。弱点属性は見た通り。あとは、弱点部位…つまり、急所である。
もはや山火事のようになっている巨木の異形達は、のたうちまわりながらもわずかに残る防衛本能から、アズライトへの妨害行動に焦点を絞ろうとしていた。燃え残っている根を地中からまっすぐアズライトの真下へ伸ばしていく。
「! アズライト、そこから離れるんだ!」
地の揺れに気付いたエピドートが叫んだが、ほぼ同時にアズライトの足もとが盛り上がり、噴き出た無数の根が身体を空中に絡め取る。
「っく…」
硬い根に全身を締め上げられ、アズライトの顔が苦痛に歪む。
「アズライト!!」
「ロード、動くな!」
アズライトの窮地に、思わず前方から戻ろうとするロードナイトを、エピドートが鋭く制する。
「…ろ」
「!」
アズライトが、声を振り絞る。
「…中心の…洞」
「…! 了解!!」
そのかすかな声が頭の中に届き、ロードナイトが最高火力をもって巨木に急接近する。
思い切り放たれた『紅蓮』が、網の目状に広がる大量の枝の間を巧妙に縫い、巨木の洞を次々に貫いていく。そして、群れの最奥に位置していた巨木へ見定めたロードナイトは、その中心にある一際大きな洞めがけて跳躍し、渾身の炎拳を叩き込んだ。
そのままの軌道で着地したロードナイトの背面で、巨木の[異形]達は爆散した。同時に、アズライトにまとわりついていた根も消し炭となって散り、解放されて地面に落ちるところで、真下に控えていたエピドートに抱きとめられる。
ロードナイトもすぐさま二人の元へ戻り、エピドートの腕の中に横たわるアズライトへ駆け寄った。
「アズライト!」
「…悪い、油断した。エピドート、毎回すみません」
「いや、良くやってくれた。…お疲れ、防衛成功だ」
エピドートはそう二人に声掛けし、にっこり笑う。
「帰ろう、現実世界に」
現実世界に戻り、三人は改めて運動場を眺める。
怪我人などの搬送も終わっているようで既にひと気は無く、敷地内は非常線が張られ立ち入り出来なくなっており、重機が投入されてがれきの撤去が始まっていた。
少し前この場に『転異空間』が造られ、そこで起きたことは、誰も知らない。
[異形]達を殲滅したことで『現実世界』での脅威は無くなったので、セイバーである彼らの役目はひとまず終わっている。事後処理は専門機関に任せればいい。
気がかりなのは、目に見えて実際撃破できたのが[異形]だけだったことだ。
蒼矢は、何かに感覚を巡らすように、周囲を見渡す。
「結局、[侵略者]は姿を現さなかった。…この件はこれで終わらないと思います」
「…そうだね。しばらくこの辺りを警戒した方がいいかもしれない」
「了解」
葉月と烈が呼応し、頷いた。
場内へ視線を移すと、その場に不釣り合いに巨大な樹木群がまるで生き物のようにうごめいていて、おびただしい数の太い根が土から這い出て波打っていた。根に叩きつけられた地面からは土埃が舞い上がり、一帯がもやが掛かったように黄色くなっていた。
およそ、ありえない光景が広がっていた。
パトカーや救急車のサイレンが近付いてきている中で、烈と蒼矢に葉月が合流し、三人はいたって冷静に惨状を見る。
「蒼矢、[侵略者]の気配は?」
「…わかりません。こんなに[異形]がいるのに…」
「考えててもけが人が増えるだけだ、移動しようぜ」
烈の一声に二人は呼応し、胸元のペンダントを手に取る。それぞれの手に握られて、ペンダントトップにはまった鉱石が、光を増す。
次いで一瞬空間が暗転し…人々の前にはめくられた地面と瓦礫だけが残された。
『転異空間』――そう呼ばれる、『現実世界』とは隔絶された空間に降り立った三人は、同じく転送されてきた[異形]達…うごめく巨木の大群を前にし、戦闘態勢を取る。
転異空間に転送してくると同時に戦闘スーツに身を包んでいた三人は、銘々の専用装具を呼び出す。
『ガイアセイバーズ』――現実世界の誰にもそう呼ばれたことはないが、それが彼らのもう一つの名である。
現実とは別の世界線からなる[異界]から、征服あるいは略奪目的でやってくる[侵略者]達と、その手足となる[異形]の侵入をいち早く察知し、それぞれが所持する鉱石を起動装置として『転異空間』を造って[彼ら]と自らを送り、現実世界と異界の狭間であるその空間で対峙する。
彼らが転異空間に[異形]と呼ばれる巨木を転送することで現実世界からは消えて無くなり、その時点で侵略によるダメージを打ち消すことが出来る仕組みだ。
あとは転異空間でこの招かれざる者達を撃破する、または異界へ強制送還すれば、防衛成功である。
突如場所を移された巨木達はどよめき立ったが、すぐセイバー達へ焦点を合わせ、根をうねらせながら接近し始めた。
すぐさま葉月――セイバー『エピドート』が、斧槍の装具『雷嵐』を一振りし、暴風の防護壁を造り上げる。
巨木らは自らの枝をねじ切ると槍のように構え、一斉にセイバー達に浴びせかける。しかしエピドートの厚い風の前に跳ね返され、上空へ巻き上げられ粉々に飛び散っていく。
「弱点属性は、多分"炎"だろうな。相性バッチリだぜ」
そして暴風壁から勢い良く飛び出した烈――『ロードナイト』は、両手に構えた太刀の装具『紅蓮』に炎をまとわせ、巨木の群れめがけて勢いよく放つ。ブーメランのように弧を描きながら巨木の太い幹を両断し、同時に炎が着火して、密集する可燃物に瞬く間に延焼していく。
その間、エピドートの後方に立っていた蒼矢――『アズライト』は、短剣の装具『水面』を両眼の前に構え、『索敵』し続けていた。弱点属性は見た通り。あとは、弱点部位…つまり、急所である。
もはや山火事のようになっている巨木の異形達は、のたうちまわりながらもわずかに残る防衛本能から、アズライトへの妨害行動に焦点を絞ろうとしていた。燃え残っている根を地中からまっすぐアズライトの真下へ伸ばしていく。
「! アズライト、そこから離れるんだ!」
地の揺れに気付いたエピドートが叫んだが、ほぼ同時にアズライトの足もとが盛り上がり、噴き出た無数の根が身体を空中に絡め取る。
「っく…」
硬い根に全身を締め上げられ、アズライトの顔が苦痛に歪む。
「アズライト!!」
「ロード、動くな!」
アズライトの窮地に、思わず前方から戻ろうとするロードナイトを、エピドートが鋭く制する。
「…ろ」
「!」
アズライトが、声を振り絞る。
「…中心の…洞」
「…! 了解!!」
そのかすかな声が頭の中に届き、ロードナイトが最高火力をもって巨木に急接近する。
思い切り放たれた『紅蓮』が、網の目状に広がる大量の枝の間を巧妙に縫い、巨木の洞を次々に貫いていく。そして、群れの最奥に位置していた巨木へ見定めたロードナイトは、その中心にある一際大きな洞めがけて跳躍し、渾身の炎拳を叩き込んだ。
そのままの軌道で着地したロードナイトの背面で、巨木の[異形]達は爆散した。同時に、アズライトにまとわりついていた根も消し炭となって散り、解放されて地面に落ちるところで、真下に控えていたエピドートに抱きとめられる。
ロードナイトもすぐさま二人の元へ戻り、エピドートの腕の中に横たわるアズライトへ駆け寄った。
「アズライト!」
「…悪い、油断した。エピドート、毎回すみません」
「いや、良くやってくれた。…お疲れ、防衛成功だ」
エピドートはそう二人に声掛けし、にっこり笑う。
「帰ろう、現実世界に」
現実世界に戻り、三人は改めて運動場を眺める。
怪我人などの搬送も終わっているようで既にひと気は無く、敷地内は非常線が張られ立ち入り出来なくなっており、重機が投入されてがれきの撤去が始まっていた。
少し前この場に『転異空間』が造られ、そこで起きたことは、誰も知らない。
[異形]達を殲滅したことで『現実世界』での脅威は無くなったので、セイバーである彼らの役目はひとまず終わっている。事後処理は専門機関に任せればいい。
気がかりなのは、目に見えて実際撃破できたのが[異形]だけだったことだ。
蒼矢は、何かに感覚を巡らすように、周囲を見渡す。
「結局、[侵略者]は姿を現さなかった。…この件はこれで終わらないと思います」
「…そうだね。しばらくこの辺りを警戒した方がいいかもしれない」
「了解」
葉月と烈が呼応し、頷いた。
0
あなたにおすすめの小説
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
優しい檻に囚われて ―俺のことを好きすぎる彼らから逃げられません―
無玄々
BL
「俺たちから、逃げられると思う?」
卑屈な少年・織理は、三人の男から同時に告白されてしまう。
一人は必死で熱く重い男、一人は常に包んでくれる優しい先輩、一人は「嫌い」と言いながら離れない奇妙な奴。
選べない織理に押し付けられる彼らの恋情――それは優しくも逃げられない檻のようで。
本作は織理と三人の関係性を描いた短編集です。
愛か、束縛か――その境界線の上で揺れる、執着ハーレムBL。
※この作品は『記憶を失うほどに【https://www.alphapolis.co.jp/novel/364672311/155993505】』のハーレムパロディです。本編未読でも雰囲気は伝わりますが、キャラクターの背景は本編を読むとさらに楽しめます。
※本作は織理受けのハーレム形式です。
※一部描写にてそれ以外のカプとも取れるような関係性・心理描写がありますが、明確なカップリング意図はありません。が、ご注意ください
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
僕と教授の秘密の遊び (終)
325号室の住人
BL
10年前、魔法学園の卒業式でやらかした元第二王子は、父親の魔法で二度と女遊びができない身体にされてしまった。
学生達が校内にいる時間帯には加齢魔法で老人姿の教授に、終業時間から翌朝の始業時間までは本来の容姿で居られるけれど陰茎は短く子種は出せない。
そんな教授の元に通うのは、教授がそんな魔法を掛けられる原因となった《過去のやらかし》である…
婚約破棄→王位継承権剥奪→新しい婚約発表と破局→王立学園(共学)に勤めて生徒の保護者である未亡人と致したのがバレて子種の出せない体にされる→美人局に引っかかって破産→加齢魔法で生徒を相手にしている時間帯のみ老人になり、貴族向けの魔法学院(全寮制男子校)に教授として勤める←今ここ を、全て見てきたと豪語する男爵子息。
卒業後も彼は自分が仕える伯爵家子息に付き添っては教授の元を訪れていた。
そんな彼と教授とのとある午後の話。
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する
あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。
領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。
***
王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。
・ハピエン
・CP左右固定(リバありません)
・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません)
です。
べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。
***
2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる