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本編
第2話_師弟の語らい-1
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それからまた日が改まった某日。
都内某所の住宅街に、小さくもおごそかな空気をまとって鎮座する楠神社は、境内をこんもりと囲う木々が紅葉真っ盛りで、ひらひらと絶えず舞い落ちる葉が、石畳の参道と白い玉砂利を紅や黄に染めていた。
まだ陽が落ちきらない時分だったが、神社敷地内の奥にある古武術道場入口から白い道着姿の人がぱらぱら外へ出、隣接されている更衣室へと消えていく。
やがて出てくるひとの波が収まり、周囲が静寂をとり戻すものの、依然として道場には煌々と明かりが灯っている。
ひと気が失せたと思われた道場内には、やはり道着姿の人物が、ふたりだけ残っていた。
彼らは入口側と奥側にそれぞれ少し距離を置いて立ち、ごく自然なたたずまいで対面していた。
道場奥側に立っているのは、楠神社の宮司・楠瀬 葉月で、併設されているこの古武術道場『楠道場』の運営者兼師範でもある。
趣味で道場の運営を始めたもののその実力は確かで、幼少期より肉親から教えを受けていた古武術のほか空手と柔道も有段者で、また神道にたずさわる立場から気持ちの入れ方の指南やメンタルサポートもこなし、弱冠26歳であったが指導者の立場にふさわしい傑物だった。
対面しているのは、近隣に住む19歳の大学生・髙城 蒼矢で、彼の生徒のひとりである。
護身術を身につけることを目的に、楠道場の門をたたいてから4年半ほどになる。
それほど熱心には通えていないものの着実に成長しつづけ、今では全くの未経験者から通い始めた生徒の範囲でいえば上位の実力を備えるほどになっていて、ときには葉月の補佐として、通い始めたばかりの生徒を指導する側に回ったりもするようになっている。
道場はいつもは日暮れ頃まで開いているが、今日はふたりの希望で指導時間を短縮し、蒼矢以外の生徒には早めに切り上げてもらえるようにしていた。
依頼通り、まだ夕日が照っている頃に他生徒は去り、いつもより広く見える道場に居残ったふたりが向かい合う。
「――お願いします」
蒼矢が深くお辞儀をし、片足を引き、両腕を構える。
静かでいて鋭さを帯びる面差しを受け、対面の葉月も姿勢を整える。
一抹の沈黙を置いてから、ふたりは模擬試合を始めた。
都内某所の住宅街に、小さくもおごそかな空気をまとって鎮座する楠神社は、境内をこんもりと囲う木々が紅葉真っ盛りで、ひらひらと絶えず舞い落ちる葉が、石畳の参道と白い玉砂利を紅や黄に染めていた。
まだ陽が落ちきらない時分だったが、神社敷地内の奥にある古武術道場入口から白い道着姿の人がぱらぱら外へ出、隣接されている更衣室へと消えていく。
やがて出てくるひとの波が収まり、周囲が静寂をとり戻すものの、依然として道場には煌々と明かりが灯っている。
ひと気が失せたと思われた道場内には、やはり道着姿の人物が、ふたりだけ残っていた。
彼らは入口側と奥側にそれぞれ少し距離を置いて立ち、ごく自然なたたずまいで対面していた。
道場奥側に立っているのは、楠神社の宮司・楠瀬 葉月で、併設されているこの古武術道場『楠道場』の運営者兼師範でもある。
趣味で道場の運営を始めたもののその実力は確かで、幼少期より肉親から教えを受けていた古武術のほか空手と柔道も有段者で、また神道にたずさわる立場から気持ちの入れ方の指南やメンタルサポートもこなし、弱冠26歳であったが指導者の立場にふさわしい傑物だった。
対面しているのは、近隣に住む19歳の大学生・髙城 蒼矢で、彼の生徒のひとりである。
護身術を身につけることを目的に、楠道場の門をたたいてから4年半ほどになる。
それほど熱心には通えていないものの着実に成長しつづけ、今では全くの未経験者から通い始めた生徒の範囲でいえば上位の実力を備えるほどになっていて、ときには葉月の補佐として、通い始めたばかりの生徒を指導する側に回ったりもするようになっている。
道場はいつもは日暮れ頃まで開いているが、今日はふたりの希望で指導時間を短縮し、蒼矢以外の生徒には早めに切り上げてもらえるようにしていた。
依頼通り、まだ夕日が照っている頃に他生徒は去り、いつもより広く見える道場に居残ったふたりが向かい合う。
「――お願いします」
蒼矢が深くお辞儀をし、片足を引き、両腕を構える。
静かでいて鋭さを帯びる面差しを受け、対面の葉月も姿勢を整える。
一抹の沈黙を置いてから、ふたりは模擬試合を始めた。
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