ガイアセイバーズ6 -妖艶の糸繰り人形-

独楽 悠

文字の大きさ
57 / 62
本編

第17話_決死-1

しおりを挟む
サルファーが見守る中、闇の影斗オニキスと氷の蒼矢アズライトがそれぞれに周囲へ霧を漂わせ、地上と上空から装具を構えながら互いを睨み合う。
双方微動だにせず、沈黙を守ったまま相手の出方をうかがっていた。

その実、オニキスの体力は限界を迎えていた。
度重なるアズライトからの氷撃で、戦闘スーツは全身が割け、隙間から見える肌は擦傷と凍傷にまみれていた。
追撃を防げず、身体の自由が利かないまま落とされ、地に叩きつけられた節々に激痛が走っていた。
その上で、残る力の全てを使い、今までのセイバー人生で経験が無いほどの濃い毒霧を噴出した。

倒れそうな身体をこらえ、あがりそうな息を抑え、オニキスはアズライトを睨み上げる。

「!!」

アズライトが先に動く。
氷柱の切っ先をまっすぐオニキスへ向け、急降下する。
高速で迫る彼を、『暗虚』を前で交差させ、オニキスは迎え撃つ。

轟音と共に地表が剥がれる勢いで激突したふたりは、互いの霧を混ざり合わせながら装具で押し合う。
すぐさま暗虚の爪に霜が降り、手甲を伝い、両腕へと広がっていく。

「…っの野郎…!!」

オニキスは身体能力のみでじわじわと押し返し、鉤爪で氷柱の刀身を掴むと、剣先を逸らせてアズライトへ近寄っていく。
得物を捕らえられたアズライトはその手元を一瞥した後、オニキスへ視線を戻し、目を見開いた。
瞬間アズライトを纏う氷気が膨れ上がり、オニキスの毒霧を上空へ吹き飛ばしていく。
紫黒色の霧が空中へ散りぢりにかき消え、辺り一帯が凍てつく薄青の霧に満たされる。

「っ…まじでクソ強ぇな、お前…。…俺らにメイン張らせて、上手いこと隠しやがってたな…畜生が…っ…」

息を白くしながら、オニキスは悪態をく。
霜は氷の結晶へ変わり、腕を覆い、音をたてながら身体へと伝っていく。

「オニキス!! 駄目だ、離れろっ…!!!」

少しずつ凍り付いていくオニキスの姿に、サルファーは向かいたい気持ちを懸命に抑えながら、遠くから喚く。

サルファーの制止を無視するように、オニキスは凍らされながらも少しずつアズライトへ近付いていく。

「…お前の実力は、痛いほど解った。実際今、全身痛ぇしな。もう体の感覚ほぼねぇよ…」

アズライトは鼻先まで辿り着いた彼を、青白い面差しの中から冷たい瞳で見やっていた。

「もう、俺の負けでいいよ。いいから…、そろそろ終わりにしようぜ」

顔中に霜が降り、オニキスは青く染まった唇を震わせながら、いつもの調子で語りかける。

「なぁ、蒼矢…」

オニキスの瞳がうつろになり、足許がぐらついていく。

「オニキスー!!」

サルファーが『閃光せんこう』を構え、ふたりの元へ飛ぶ。
金色の瞳を歪ませながら、躊躇なく細剣の切っ先をアズライトへ向ける。

「アズライト、やめろー!! 正気に戻れ!!」

アズライトは膝をつくオニキスから猛接近するサルファーへと視線を流し、周りの氷気から眼力だけで氷の刃を造る。
宙に浮かぶ無数の刃の切っ先が、向かってくるサルファーへ向けて鋭く光る。

が、次の瞬間アズライトの眼がわずかに揺れ、冷たく生気の無い瞳が鮮やかな藍色を取り戻していく。
そのまま目が閉じられ、傾いていく身体をオニキスはわずかに残った意識で受け止め、そのまま双方崩れ落ちる。
氷の霧も刃も、一瞬その場に時が止まったように動かなくなり、四方へ霧散した。

「…オニキスっ…アズライト!!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

完成した犬は新たな地獄が待つ飼育部屋へと連れ戻される

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

ふたなり治験棟

ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。 男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!

《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。

かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

処理中です...