57 / 62
本編
第17話_決死-1
しおりを挟む
陽が見守る中、闇の影斗と氷の蒼矢がそれぞれに周囲へ霧を漂わせ、地上と上空から装具を構えながら互いを睨み合う。
双方微動だにせず、沈黙を守ったまま相手の出方をうかがっていた。
その実、オニキスの体力は限界を迎えていた。
度重なるアズライトからの氷撃で、戦闘スーツは全身が割け、隙間から見える肌は擦傷と凍傷に塗れていた。
追撃を防げず、身体の自由が利かないまま落とされ、地に叩きつけられた節々に激痛が走っていた。
その上で、残る力の全てを使い、今までのセイバー人生で経験が無いほどの濃い毒霧を噴出した。
倒れそうな身体をこらえ、あがりそうな息を抑え、オニキスはアズライトを睨み上げる。
「!!」
アズライトが先に動く。
氷柱の切っ先をまっすぐオニキスへ向け、急降下する。
高速で迫る彼を、『暗虚』を前で交差させ、オニキスは迎え撃つ。
轟音と共に地表が剥がれる勢いで激突したふたりは、互いの霧を混ざり合わせながら装具で押し合う。
すぐさま暗虚の爪に霜が降り、手甲を伝い、両腕へと広がっていく。
「…っの野郎…!!」
オニキスは身体能力のみでじわじわと押し返し、鉤爪で氷柱の刀身を掴むと、剣先を逸らせてアズライトへ近寄っていく。
得物を捕らえられたアズライトはその手元を一瞥した後、オニキスへ視線を戻し、目を見開いた。
瞬間アズライトを纏う氷気が膨れ上がり、オニキスの毒霧を上空へ吹き飛ばしていく。
紫黒色の霧が空中へ散りぢりにかき消え、辺り一帯が凍てつく薄青の霧に満たされる。
「っ…まじでクソ強ぇな、お前…。…俺らにメイン張らせて、上手いこと隠しやがってたな…畜生が…っ…」
息を白くしながら、オニキスは悪態を吐く。
霜は氷の結晶へ変わり、腕を覆い、音をたてながら身体へと伝っていく。
「オニキス!! 駄目だ、離れろっ…!!!」
少しずつ凍り付いていくオニキスの姿に、サルファーは向かいたい気持ちを懸命に抑えながら、遠くから喚く。
サルファーの制止を無視するように、オニキスは凍らされながらも少しずつアズライトへ近付いていく。
「…お前の実力は、痛いほど解った。実際今、全身痛ぇしな。もう体の感覚ほぼねぇよ…」
アズライトは鼻先まで辿り着いた彼を、青白い面差しの中から冷たい瞳で見やっていた。
「もう、俺の負けでいいよ。いいから…、そろそろ終わりにしようぜ」
顔中に霜が降り、オニキスは青く染まった唇を震わせながら、いつもの調子で語りかける。
「なぁ、蒼矢…」
オニキスの瞳がうつろになり、足許がぐらついていく。
「オニキスー!!」
サルファーが『閃光』を構え、ふたりの元へ飛ぶ。
金色の瞳を歪ませながら、躊躇なく細剣の切っ先をアズライトへ向ける。
「アズライト、やめろー!! 正気に戻れ!!」
アズライトは膝をつくオニキスから猛接近するサルファーへと視線を流し、周りの氷気から眼力だけで氷の刃を造る。
宙に浮かぶ無数の刃の切っ先が、向かってくるサルファーへ向けて鋭く光る。
が、次の瞬間アズライトの眼がわずかに揺れ、冷たく生気の無い瞳が鮮やかな藍色を取り戻していく。
そのまま目が閉じられ、傾いていく身体をオニキスはわずかに残った意識で受け止め、そのまま双方崩れ落ちる。
氷の霧も刃も、一瞬その場に時が止まったように動かなくなり、四方へ霧散した。
「…オニキスっ…アズライト!!」
双方微動だにせず、沈黙を守ったまま相手の出方をうかがっていた。
その実、オニキスの体力は限界を迎えていた。
度重なるアズライトからの氷撃で、戦闘スーツは全身が割け、隙間から見える肌は擦傷と凍傷に塗れていた。
追撃を防げず、身体の自由が利かないまま落とされ、地に叩きつけられた節々に激痛が走っていた。
その上で、残る力の全てを使い、今までのセイバー人生で経験が無いほどの濃い毒霧を噴出した。
倒れそうな身体をこらえ、あがりそうな息を抑え、オニキスはアズライトを睨み上げる。
「!!」
アズライトが先に動く。
氷柱の切っ先をまっすぐオニキスへ向け、急降下する。
高速で迫る彼を、『暗虚』を前で交差させ、オニキスは迎え撃つ。
轟音と共に地表が剥がれる勢いで激突したふたりは、互いの霧を混ざり合わせながら装具で押し合う。
すぐさま暗虚の爪に霜が降り、手甲を伝い、両腕へと広がっていく。
「…っの野郎…!!」
オニキスは身体能力のみでじわじわと押し返し、鉤爪で氷柱の刀身を掴むと、剣先を逸らせてアズライトへ近寄っていく。
得物を捕らえられたアズライトはその手元を一瞥した後、オニキスへ視線を戻し、目を見開いた。
瞬間アズライトを纏う氷気が膨れ上がり、オニキスの毒霧を上空へ吹き飛ばしていく。
紫黒色の霧が空中へ散りぢりにかき消え、辺り一帯が凍てつく薄青の霧に満たされる。
「っ…まじでクソ強ぇな、お前…。…俺らにメイン張らせて、上手いこと隠しやがってたな…畜生が…っ…」
息を白くしながら、オニキスは悪態を吐く。
霜は氷の結晶へ変わり、腕を覆い、音をたてながら身体へと伝っていく。
「オニキス!! 駄目だ、離れろっ…!!!」
少しずつ凍り付いていくオニキスの姿に、サルファーは向かいたい気持ちを懸命に抑えながら、遠くから喚く。
サルファーの制止を無視するように、オニキスは凍らされながらも少しずつアズライトへ近付いていく。
「…お前の実力は、痛いほど解った。実際今、全身痛ぇしな。もう体の感覚ほぼねぇよ…」
アズライトは鼻先まで辿り着いた彼を、青白い面差しの中から冷たい瞳で見やっていた。
「もう、俺の負けでいいよ。いいから…、そろそろ終わりにしようぜ」
顔中に霜が降り、オニキスは青く染まった唇を震わせながら、いつもの調子で語りかける。
「なぁ、蒼矢…」
オニキスの瞳がうつろになり、足許がぐらついていく。
「オニキスー!!」
サルファーが『閃光』を構え、ふたりの元へ飛ぶ。
金色の瞳を歪ませながら、躊躇なく細剣の切っ先をアズライトへ向ける。
「アズライト、やめろー!! 正気に戻れ!!」
アズライトは膝をつくオニキスから猛接近するサルファーへと視線を流し、周りの氷気から眼力だけで氷の刃を造る。
宙に浮かぶ無数の刃の切っ先が、向かってくるサルファーへ向けて鋭く光る。
が、次の瞬間アズライトの眼がわずかに揺れ、冷たく生気の無い瞳が鮮やかな藍色を取り戻していく。
そのまま目が閉じられ、傾いていく身体をオニキスはわずかに残った意識で受け止め、そのまま双方崩れ落ちる。
氷の霧も刃も、一瞬その場に時が止まったように動かなくなり、四方へ霧散した。
「…オニキスっ…アズライト!!」
0
あなたにおすすめの小説
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ふたなり治験棟
ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。
男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!
《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。
かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる