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◇第二章◇ 知人は友人になりますか?
第二十八話 「『お爺ちゃま♪』とお呼びくださいませ」
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使用人として働く三日目。今日のシフトは、午前は前回と同じように清掃を担当して、午後は厨房を手伝うってことになってる。
午後に厨房に入ることになったのは、前にアルにご飯を作ったのがジョシュアさんに伝わったからみたい。調理ができるんだったらそっちに配属を、って。
料理は嫌いじゃない。アルに今度作る機会があったら、もっとおいしいのを作ってみせたいから、今回の件はちょうどよかった。
午後からの調理が楽しみで、鼻息混じりに私は窓を乾いた布で磨いていた。
「~~♪」
「せいが出ますな。大変、結構でございます」
「え……」
窓ガラス越しに、後ろに誰かが立ってるのを確認した。慌てて振り向くと、執事服を着た高齢の男性がいた。
ナイスミドルって言葉がピッタリの、白髪と白鬚が似合ってる年配の人。年を取ってる人なのに、背は曲がっていなくて、むしろ私より姿勢がいいんじゃないのかな?
全然後ろにいるなんて、気づかなかったよ……!
そういえば、鼻歌聞かれちゃった? ……恥ずかしい!
この人って、執事服を着てるってことは同じように使用人の人なのかな?
「あ、あの……?」
「申し遅れました。私めはセバスチャン・トラバーという者です。こちらのマクファーレン家の執事を務めさせていただいております」
「しつじ……?」
頭の中で「メェー」っと、クルクルと渦を巻いてる角がついた羊が鳴いた。
羊……って、違う、違うよ。そうじゃなくって、執事って言ってたよ。
首を左右に振って、脳内で鳴き続ける動物の姿をかき消した。
「わかりました。セバスチャンさん、ですね?」
「いえ、気軽に『お爺ちゃま♪』とお呼びくださいませ」
「え……」
お爺、ちゃま?
え、えっと、私の、聞き間違いだよね?
「さぁクガ様、遠慮なさらず。さぁさぁ」
「え、え? あ、あの……セバスチャン、さん?」
真顔で言ってるってことは、本気なの?
そんな……お爺ちゃまだなんて、恥ずかしくって呼べないよ。
で、でもセバスチャンさんってば待ち構えてるみたいに、私をうながしてるし……これって、呼ぶしかないの?
「え、ええっと……」
ど、どうしよう……。
セバスチャンさんは私が呼ぶのを待ってるみたい。……それがセバスチャンさんのお願いだったら、呼ぶしかない、のかな?
「あ、あの。お、おじい――」
「……何をしているんですか。セバス?」
「!?」
ヒヤリと、静かな声が聞こえた。
び、ビックリした……! だって、この声ってたぶん……。
後ろを確認してみると、モノクルを片手で直す彼がいた。
「……レイモンド、さん」
「おや、坊ちゃま」
「坊ちゃまはやめなさい」
レイモンドさんは嫌そうに表情をしかめていた。セバスチャンさんはそれを見て、嬉しそうに目を細めてる。……どうして、楽しそうにしてるのかな?
「それよりセバス。お前、ここで何をしているんですか?」
「何とは失礼な物言いですな。私めはただ、クガ様と交流を図ろうとしていただけでおります」
「……私には口説いていただけにしか見えないですが」
「男の嫉妬は、見苦しいですぞ。坊ちゃま」
「誰も嫉妬なんかしてません。妄想も大概にしなさい。それと、坊ちゃまもやめなさい」
「承知いたしました、坊ちゃま」
「……」
レイモンドさんもセバスチャンさんも、流れるみたいに会話していくね。掛け合いから、長年の付き合いなんだなって思うよ。
それに、レイモンドさんがこんなに言い負かされそうになってるなんて……。
「ご安心ください、坊ちゃま。私めは、クガ様よりも坊ちゃまの方が好みでございますゆえ」
「……お前に嫉妬でなく、彼女に嫉妬するのですか。それに、何に安心しろと? あと、その言い方は誤解を招くからやめなさい」
「承知いたしました。私めは、クガ様よりも坊ちゃまの方がお慕いしております」
「……ワザとですね」
ハァと、額を指で抑えながらレイモンドさんは深い溜息をついた。
「……あなたも。コレの言うことなど、まともにとり合う必要性は一切ありません。適当に頷くだけで構いませんから」
「おや、坊ちゃま。それは酷いですな」
「黙りなさい。それと、いい加減に坊ちゃま呼びもやめなさい」
フォフォッと笑うセバスチャンさんを、レイモンドさんは横目で睨みつけた。
……え、ええっと、つまり。
「お爺ちゃま呼びは、しなくていいってこと、ですか?」
「ええ。それとも、したいのですか?」
「え!? いえ、それは……あの……ちょっと……やめておきます」
さすがに、恥ずかしいよ。
口ごもって、やんわりとお断りの言葉を伝えた。
「おや、残念ですな。遠慮なさらずとも、結構ですぞ?」
「彼女は決して遠慮しているわけでないことくらい、理解している上での発言ですよね? セバス」
「フォフォフォ……。はて、何のことでしょうか?」
セバスチャンさんって……もしかして、愉快犯?
午後に厨房に入ることになったのは、前にアルにご飯を作ったのがジョシュアさんに伝わったからみたい。調理ができるんだったらそっちに配属を、って。
料理は嫌いじゃない。アルに今度作る機会があったら、もっとおいしいのを作ってみせたいから、今回の件はちょうどよかった。
午後からの調理が楽しみで、鼻息混じりに私は窓を乾いた布で磨いていた。
「~~♪」
「せいが出ますな。大変、結構でございます」
「え……」
窓ガラス越しに、後ろに誰かが立ってるのを確認した。慌てて振り向くと、執事服を着た高齢の男性がいた。
ナイスミドルって言葉がピッタリの、白髪と白鬚が似合ってる年配の人。年を取ってる人なのに、背は曲がっていなくて、むしろ私より姿勢がいいんじゃないのかな?
全然後ろにいるなんて、気づかなかったよ……!
そういえば、鼻歌聞かれちゃった? ……恥ずかしい!
この人って、執事服を着てるってことは同じように使用人の人なのかな?
「あ、あの……?」
「申し遅れました。私めはセバスチャン・トラバーという者です。こちらのマクファーレン家の執事を務めさせていただいております」
「しつじ……?」
頭の中で「メェー」っと、クルクルと渦を巻いてる角がついた羊が鳴いた。
羊……って、違う、違うよ。そうじゃなくって、執事って言ってたよ。
首を左右に振って、脳内で鳴き続ける動物の姿をかき消した。
「わかりました。セバスチャンさん、ですね?」
「いえ、気軽に『お爺ちゃま♪』とお呼びくださいませ」
「え……」
お爺、ちゃま?
え、えっと、私の、聞き間違いだよね?
「さぁクガ様、遠慮なさらず。さぁさぁ」
「え、え? あ、あの……セバスチャン、さん?」
真顔で言ってるってことは、本気なの?
そんな……お爺ちゃまだなんて、恥ずかしくって呼べないよ。
で、でもセバスチャンさんってば待ち構えてるみたいに、私をうながしてるし……これって、呼ぶしかないの?
「え、ええっと……」
ど、どうしよう……。
セバスチャンさんは私が呼ぶのを待ってるみたい。……それがセバスチャンさんのお願いだったら、呼ぶしかない、のかな?
「あ、あの。お、おじい――」
「……何をしているんですか。セバス?」
「!?」
ヒヤリと、静かな声が聞こえた。
び、ビックリした……! だって、この声ってたぶん……。
後ろを確認してみると、モノクルを片手で直す彼がいた。
「……レイモンド、さん」
「おや、坊ちゃま」
「坊ちゃまはやめなさい」
レイモンドさんは嫌そうに表情をしかめていた。セバスチャンさんはそれを見て、嬉しそうに目を細めてる。……どうして、楽しそうにしてるのかな?
「それよりセバス。お前、ここで何をしているんですか?」
「何とは失礼な物言いですな。私めはただ、クガ様と交流を図ろうとしていただけでおります」
「……私には口説いていただけにしか見えないですが」
「男の嫉妬は、見苦しいですぞ。坊ちゃま」
「誰も嫉妬なんかしてません。妄想も大概にしなさい。それと、坊ちゃまもやめなさい」
「承知いたしました、坊ちゃま」
「……」
レイモンドさんもセバスチャンさんも、流れるみたいに会話していくね。掛け合いから、長年の付き合いなんだなって思うよ。
それに、レイモンドさんがこんなに言い負かされそうになってるなんて……。
「ご安心ください、坊ちゃま。私めは、クガ様よりも坊ちゃまの方が好みでございますゆえ」
「……お前に嫉妬でなく、彼女に嫉妬するのですか。それに、何に安心しろと? あと、その言い方は誤解を招くからやめなさい」
「承知いたしました。私めは、クガ様よりも坊ちゃまの方がお慕いしております」
「……ワザとですね」
ハァと、額を指で抑えながらレイモンドさんは深い溜息をついた。
「……あなたも。コレの言うことなど、まともにとり合う必要性は一切ありません。適当に頷くだけで構いませんから」
「おや、坊ちゃま。それは酷いですな」
「黙りなさい。それと、いい加減に坊ちゃま呼びもやめなさい」
フォフォッと笑うセバスチャンさんを、レイモンドさんは横目で睨みつけた。
……え、ええっと、つまり。
「お爺ちゃま呼びは、しなくていいってこと、ですか?」
「ええ。それとも、したいのですか?」
「え!? いえ、それは……あの……ちょっと……やめておきます」
さすがに、恥ずかしいよ。
口ごもって、やんわりとお断りの言葉を伝えた。
「おや、残念ですな。遠慮なさらずとも、結構ですぞ?」
「彼女は決して遠慮しているわけでないことくらい、理解している上での発言ですよね? セバス」
「フォフォフォ……。はて、何のことでしょうか?」
セバスチャンさんって……もしかして、愉快犯?
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