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◇第二章◇ 知人は友人になりますか?
第二十九話 「私めは坊ちゃまとは相思相愛ですな」
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「あの……セバスチャンさんって、ここに勤めて長いんですか? レイモンドさんと、仲がよさそうですけど」
「仲がいい? つまらない冗談ですね」
「おっしゃる通り、私めは坊ちゃまとは相思相愛ですな。何を隠そう、坊ちゃまのおしめを換え、給仕をしたのは私めなのです」
「気色の悪い発言は慎みなさい、不快です。幼い頃の件に関しては威張る必要は皆無でしょう」
胸を張るセバスチャンさんを、レイモンドさんは相変わらずの極寒の眼差しで見やってた。
セバスチャンさん、よく彼のあの視線に耐えられるね。私だったら、心が折れそうになっちゃうよ。それとも、これが二人の付き合いの長さの証なのかな?
「つまり、レイモンドさんが生まれた時からの付き合いなんですか?」
「誠に遺憾ですが」
「……あ、あの。そんなに、苦渋の顔をするほど、ですか?」
「ええ」
「私めは、坊ちゃまに会えて僥倖ですぞ」
「……」
でしょうね、と言わなかった私を、誰か褒めてほしい。そしてそんなセバスチャンさんを見るレイモンドさんは、まるで虫けらを見るような目だった。
「ああ、昔の素直でお優しかった坊ちゃまはいずこに行かれたのでしょう。『爺や、爺や』と事あるごとに私めを追いかけてくださったあの幼い頃のお姿は、それはそれは愛らしかったというのに」
ポケットから取り出したシルクのハンカチで目元をそっと拭う、セバスチャンさん。レイモンドさんから少し距離をおかれちゃって、寂しいのかな?
でも……あの、レイモンドさん。どうして、呆れているの?
「それはお前が『ほうら、捕まえてごらんなさい。お坊ちゃま☆』と、わけのわからない場所に潜んでいたからでしょう。しかもそれも、私はちっとも追いかけていた覚えはありませんが」
「え……」
なんだろう、その、ウザったいカップルの彼女さんみたいなセリフ……。
なんでもきっちり真面目にしてそうなこの見た目で、そんなことを言ったのかな?
棒読みでセバスチャンさんの真似をするレイモンドさんがシュールすぎるよ。
「何故、クローゼットの中から飛び出したり、屋根裏からぶら下がってきたり、外の壁を這い上がって現れるのですか。そんな必要性も暇もなかったはずですが?」
「執事ですから」
「……お前の執事の定義は正さなければなりませんね。今後のマクファーレン家の執事のために」
首を振るレイモンドさんに同意です。だけど、初対面の人にそんな本音を言えるはずがないから、無言で肯定しとくね。
「それにあの頃は……」
そう呟いて、レイモンドさんは固まった。
「? あの、レイモンドさん?」
「……! ……なんでも、ありません」
どうしたのかな? 呼びかけたら、ハッとしたみたいに我に返ったみたいだけど。
慌てた様子でモノクルを直して、レイモンドさんは目つきを鋭くした。
「……急用を思い出しました。これで、私は失礼します。セバス、からかうのも程々にしなさい」
「ならば、お坊ちゃまが傍で見ていればよろしいかと」
「……用があると、言っているでしょう。クガのように暇ではないので」
「!? え……」
レイモンドさんに、名前で呼ばれた。……でも、嫌味言われちゃったよ。
思わず顔を勢いよく上げると、彼と目が合った。
冷たい空気をまとう彼の瞳に、私のポカンと口を開けた姿が映ってる。
レイモンドさんはすぐに、瞳を動かして視線が逸れた。
「……では」
あっさりとしたあいさつを残して去っていくレイモンドさんを、ぼんやりと見送っちゃったよ。
「あ……」
あいさつくらい、最後しとけばよかったかも。ビックリしすぎて忘れちゃったけど。
「……やれやれですな。坊ちゃまときたら、いつまでも反抗期の小僧のようでございます」
「せ、セバスチャンさん……」
この人も、レイモンドさんを素直じゃないだけって言うのかな?
セバスチャンさんはため息をついて、やれやれって感じで首を振ってるけど。
「まだまだ足りぬ坊ちゃまではありますが、どうぞクガ様。よしなにお願いいたします」
「え!? あ、あの……よしなにって」
そんなこと言われても、私、嫌われてるはずじゃないのかな?
さっきも嫌味だって……。
でも、私の不安に反して、セバスチャンさんは「フォフォフォ」と快活な笑い声を上げた。
「大丈夫でございます。クガ様ならば、あの坊ちゃまを篭絡できることでしょう」
「!? ろ、篭絡……!?」
無理! 無理です、そんなこと!
だ、第一、嫌われてなくたって、レイモンドさんが表情をゆるくしてデロデロになってる姿なんて想像できないよ!
「いえいえ、謙遜なさらず。それに、おそらく坊ちゃまにそんな姿をさせることが可能になるのは、あなたしかいないかと」
「……無理、です。それに、どうして私なんですか?」
きっと、レイモンドさんがもっと気を許す人がいると思うのに。
私の問いに、セバスチャンさんは答えてくれずに、ニヤリと不敵な笑みを浮かべてしまった。
「それは、秘密でございます」
誤魔化されちゃった。教えてくれる気はないってことなのかな? それとも、単なるカンなのかも。
あ、もしかしたらからかわれただけ、ってこともあるよね。
「ああ、そうでございました。私めは執事長でもありますので、困り事があれば何でもご相談くださいませ」
「執事長……!?」
執事長って、執事の役職の中では一番偉い人ってこと!?
そんなこと知らないで対応したけど、大丈夫なのかな?
「客人に手料理を振る舞われることに関しては、すでに了承事項でございますゆえ、ご安心を。必要な器具や魔道具があれば、マクファーソン家にあるものでしたら、貸し出しも可能ですぞ」
「!?」
アルに手料理を出したことも知ってる!?
了承事項ってことはおとがめなしってことなんだよね?
むしろ、推奨してる、の?
微笑みながらセバスチャンさんが、私を次々混乱させる元を告げる。
からかってきたかと思えば、予測できないことを口にするなんて、すっごくつかめない人かも。こういうのを、喰えない人っていうのかな?
「仲がいい? つまらない冗談ですね」
「おっしゃる通り、私めは坊ちゃまとは相思相愛ですな。何を隠そう、坊ちゃまのおしめを換え、給仕をしたのは私めなのです」
「気色の悪い発言は慎みなさい、不快です。幼い頃の件に関しては威張る必要は皆無でしょう」
胸を張るセバスチャンさんを、レイモンドさんは相変わらずの極寒の眼差しで見やってた。
セバスチャンさん、よく彼のあの視線に耐えられるね。私だったら、心が折れそうになっちゃうよ。それとも、これが二人の付き合いの長さの証なのかな?
「つまり、レイモンドさんが生まれた時からの付き合いなんですか?」
「誠に遺憾ですが」
「……あ、あの。そんなに、苦渋の顔をするほど、ですか?」
「ええ」
「私めは、坊ちゃまに会えて僥倖ですぞ」
「……」
でしょうね、と言わなかった私を、誰か褒めてほしい。そしてそんなセバスチャンさんを見るレイモンドさんは、まるで虫けらを見るような目だった。
「ああ、昔の素直でお優しかった坊ちゃまはいずこに行かれたのでしょう。『爺や、爺や』と事あるごとに私めを追いかけてくださったあの幼い頃のお姿は、それはそれは愛らしかったというのに」
ポケットから取り出したシルクのハンカチで目元をそっと拭う、セバスチャンさん。レイモンドさんから少し距離をおかれちゃって、寂しいのかな?
でも……あの、レイモンドさん。どうして、呆れているの?
「それはお前が『ほうら、捕まえてごらんなさい。お坊ちゃま☆』と、わけのわからない場所に潜んでいたからでしょう。しかもそれも、私はちっとも追いかけていた覚えはありませんが」
「え……」
なんだろう、その、ウザったいカップルの彼女さんみたいなセリフ……。
なんでもきっちり真面目にしてそうなこの見た目で、そんなことを言ったのかな?
棒読みでセバスチャンさんの真似をするレイモンドさんがシュールすぎるよ。
「何故、クローゼットの中から飛び出したり、屋根裏からぶら下がってきたり、外の壁を這い上がって現れるのですか。そんな必要性も暇もなかったはずですが?」
「執事ですから」
「……お前の執事の定義は正さなければなりませんね。今後のマクファーレン家の執事のために」
首を振るレイモンドさんに同意です。だけど、初対面の人にそんな本音を言えるはずがないから、無言で肯定しとくね。
「それにあの頃は……」
そう呟いて、レイモンドさんは固まった。
「? あの、レイモンドさん?」
「……! ……なんでも、ありません」
どうしたのかな? 呼びかけたら、ハッとしたみたいに我に返ったみたいだけど。
慌てた様子でモノクルを直して、レイモンドさんは目つきを鋭くした。
「……急用を思い出しました。これで、私は失礼します。セバス、からかうのも程々にしなさい」
「ならば、お坊ちゃまが傍で見ていればよろしいかと」
「……用があると、言っているでしょう。クガのように暇ではないので」
「!? え……」
レイモンドさんに、名前で呼ばれた。……でも、嫌味言われちゃったよ。
思わず顔を勢いよく上げると、彼と目が合った。
冷たい空気をまとう彼の瞳に、私のポカンと口を開けた姿が映ってる。
レイモンドさんはすぐに、瞳を動かして視線が逸れた。
「……では」
あっさりとしたあいさつを残して去っていくレイモンドさんを、ぼんやりと見送っちゃったよ。
「あ……」
あいさつくらい、最後しとけばよかったかも。ビックリしすぎて忘れちゃったけど。
「……やれやれですな。坊ちゃまときたら、いつまでも反抗期の小僧のようでございます」
「せ、セバスチャンさん……」
この人も、レイモンドさんを素直じゃないだけって言うのかな?
セバスチャンさんはため息をついて、やれやれって感じで首を振ってるけど。
「まだまだ足りぬ坊ちゃまではありますが、どうぞクガ様。よしなにお願いいたします」
「え!? あ、あの……よしなにって」
そんなこと言われても、私、嫌われてるはずじゃないのかな?
さっきも嫌味だって……。
でも、私の不安に反して、セバスチャンさんは「フォフォフォ」と快活な笑い声を上げた。
「大丈夫でございます。クガ様ならば、あの坊ちゃまを篭絡できることでしょう」
「!? ろ、篭絡……!?」
無理! 無理です、そんなこと!
だ、第一、嫌われてなくたって、レイモンドさんが表情をゆるくしてデロデロになってる姿なんて想像できないよ!
「いえいえ、謙遜なさらず。それに、おそらく坊ちゃまにそんな姿をさせることが可能になるのは、あなたしかいないかと」
「……無理、です。それに、どうして私なんですか?」
きっと、レイモンドさんがもっと気を許す人がいると思うのに。
私の問いに、セバスチャンさんは答えてくれずに、ニヤリと不敵な笑みを浮かべてしまった。
「それは、秘密でございます」
誤魔化されちゃった。教えてくれる気はないってことなのかな? それとも、単なるカンなのかも。
あ、もしかしたらからかわれただけ、ってこともあるよね。
「ああ、そうでございました。私めは執事長でもありますので、困り事があれば何でもご相談くださいませ」
「執事長……!?」
執事長って、執事の役職の中では一番偉い人ってこと!?
そんなこと知らないで対応したけど、大丈夫なのかな?
「客人に手料理を振る舞われることに関しては、すでに了承事項でございますゆえ、ご安心を。必要な器具や魔道具があれば、マクファーソン家にあるものでしたら、貸し出しも可能ですぞ」
「!?」
アルに手料理を出したことも知ってる!?
了承事項ってことはおとがめなしってことなんだよね?
むしろ、推奨してる、の?
微笑みながらセバスチャンさんが、私を次々混乱させる元を告げる。
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