128 / 164
◇第四章 レイモンド編◇ 毒舌家で皮肉屋の彼の本心はどこにありますか?
第二十話 「もしかしたら、あいつも」
しおりを挟む「……それ以前に、礼儀として一言断ってから離れるべきです」
ハーヴェイさんから視線を逸《そ》らしつつも答えた。
レイモンドさんが心配してるかどうかは、正直わからない。彼が嫌ってる私を、それほど気にするのかなって疑問もある。
だけど……普通ってさっきまでそばにいた人が急に消えたら、ビックリするし、探すよね?
相手が誰だとしても、行方は気にすると思う。
「迷惑は、かけたくないです」
脳裏に深々とため息を吐いて、モノクルを押さえる姿が浮かんだ。
「……ふぅん、なるほどなー」
「なんでニヤニヤ笑ってるんですか?」
「いやさ? あんたはいなくなることで、迷惑をかけると思ってんだろ? なら、答えが出てんのになーって」
「……? どういうことですか」
「あんたが、あいつにとって守りたい奴の一つになってるっつうことだよ」
「え?」
目が合ったら、ハーヴェイさんはニヤッと思わせぶりな笑みを返してきた。
「あいつは、関係ない奴は切り捨てるし、容赦がない。けどな、内側に入ったのに対しては、デロデロにあまいんだって」
「……私が、その内側に入ってるとでも言うんですか?」
まさか、ね。でも、ハーヴェイさんの言い方からして、そうとれるんだけど。
レイモンドさんにとって、あまやかす対象になってるってこと?
「そうだな」
「……そんなわけ、ないと思いますけど」
レイモンドさんにとって、私はそんな存在なわけないと思う。だって、屋敷に来たときに、ハッキリと信用できないって感じのことを言われた。
私が異世界から来たって事情を話してからは、少しだけ態度がやわらかくなったような気もするけど……。ただ単に、私の知識を手に入れるための取引を楽にするって目的なのかもしれない。
自信満々のハーヴェイさんには悪いけど、眉唾《まゆつば》すぎて困惑しかないよ。
「ま、あんたが納得してんのも無理ないか。あいつって、超不器用だしひねくれてっからなー」
「不器用、ですか?」
「そそ」
レイモンドさんが?
神経質そうだし、細かい作業だって丁寧にやってるイメージがするけど。ひねくれてるってことに関しては、否定しないけど。
ハーヴェイさんが話すたびに疑問が増えるんだけど……。それとも、昔からの学友だって聞いてたから、友人からしか見えないようなことがあるのかも。
「……ああ、そうか。もしかしたら、あいつも――」
何かを言いかけて、ハーヴェイさんは半ばでやめた。かわりに、私の顔をジッと見つめてくる。
彼のくもりない空色の瞳が、知り合ってから見たことないくらいの真剣そうな光を宿してる。まるで、私を見透かして、何かを見つけようとしてるみたいに。
「……ハーヴェイ、さん?」
「んー、なんでもねぇ! あ、そうだ! せっかく俺に付き合わせてんだし、何かおごってやるって!」
「…………?」
ごまかされた? 一体、何を言いかけたのかな。それに、『あいつも』って?
掘り下げたくても、ハーヴェイさんがガラッと雰囲気を変えてしまったから、聞けるような感じじゃない。……深くは、聞かれたくないってことなのかな。
ニカッと歯を見せて笑うハーヴェイさんはいつもと変わらない、いたって普通の陽気な青年にしか思えない。
だけど、一瞬だけ見えた彼の姿は、思わず背筋が凍りそうなほど、冷たかったような……。
…………気にしちゃ、いけないよね。ハーヴェイさん自身が流してほしそうなんだから、忘れなくちゃ。
「なぁなぁ、クガ。あんたはどれに興味あるんだ? あ、店全部冷やかすっつうのもべつにいいぞ?」
「あの、とりあえずそれはちょっと。そもそも、レイモンドさんのところに早く戻らないと……」
「えー? つれねぇなぁ。んじゃ、店一つ見るくらいいいだろ?」
ブーブー文句言われても……ここにいるのだって、ほとんど拉致《らち》状態だったんだけど。
でも、ハーヴェイさんが素直に元の場所に誘導してくれるのかだって、気分次第だよね。このまま絶対ダメって拒否してたら、へそを曲げちゃうかもしれないし……。
「…………一つ、くらいなら」
「よし!」
心底楽しそうに笑うなんて、そんなに嬉しいのかな?
「なら、定番のあれだな。カレイドストーン!」
「カレイドストーン、ですか?」
「あれ、知らね? ……ああそっか! あんたって遠くから来たんだっけか。っつうことは、花祭りも初めてだよな」
ハーヴェイさんの問いかけに頷《うなず》く。すると、彼は笑って私の腕を引っ張った。
「じゃあ絶対やんないとな! この時期しか出回んない、貴重なヤツだから」
「っ!? ハ、ハーヴェイさん!?」
グイグイ引かれて連れていかれた先には、木製のワゴンの店があった。
こじんまりしてるのに、店の周りに人が集まってる。それも、心なしか女の子が多いような。
他のお客さんの間を縫いながら店舗に近づいていくと、商品の載った棚が見えた。いくつも並んだバケツに、ぎっしり詰め込まれてたのは。
「灰色の、石?」
これが、カレイドストーン?
灰色の何の変哲もないような小石が、バケツの中に無数に入ってる。大きさだって、色合いだって特に変わらない。どれも同じように見える。
これが人気なの?
「女の子が誰かにプレゼントにするのに人気なんだよ。恋人とか友人、あとは身内とかにあげたりすんだ」
「……これが、ですか?」
正直、信じられないよ。だって、単なる灰色の石だよ?
元の世界での、宝石みたいな扱いなのかな? それにしたって、地味な気がするのは私だけ?
首を傾げてたら、いつの間にかハーヴェイさんが会計を済ませてた。行動が早すぎるよ。
それに、プレゼントって……。私が誰かにこれを渡すってこと?
…………うーん、もらって嬉しいのかな、これ。
「人気の理由は、手に取ったらわかるって。あ、けど、誰にあげるから決めてから触れよ?」
「……? はい」
触る前に誰にプレゼントするか決めろってこと? 余計に困る要素が増えたよ。
……誰に渡そうかな。
パッと思い浮かんだのは――
「えっ……?」
「お、どうした? 誰にあげるのか決めたか?」
とっさに声を上げたら、ハーヴェイさんの耳には聞こえてたみたい。ワクワクした様子でこっちを見守ってるのに申し訳ないけど、決めたわけじゃなくって……。
どうして私、レイモンドさんの顔を思い浮かべちゃったのかな?
レイモンドさんが私からの贈り物なんて受け取ってくれるはずなんてない。ましてや、それがただの灰色の石にしか見えないのに。すげなく『いりません』って言われる未来しか考えられない。
……ううん、花祭りで人気な物だとしたら、余計にもらってはくれない気がする。『あなたからはもらう義理など毛頭ありません』なんて。
頭ではグルグル悩んでるはずなのに、気づいたら手が伸びてた。
ヒンヤリとした石の感触が、手のひらから伝わってくる。つかめるけど、片手の上にのせたらこぼれ落ちそうな大きさ。
つかんだ石を、両手ですくい取るみたいに持ってみる。
……うん、やっぱり普通の石、だよね。
でも、ハーヴェイさんが手に取ったら人気の理由がわかるって言ってたような。
飾り気のかけらもないけど、でも、それでもレイモンドさんが受け取ってくれたらいいのに。
せめて、灰色の石じゃなくって、もっとキレイな宝石とかアクセサリーだったら、渡せるのかな?
見た目が変わるなら、彼が気に入ってくれるような物になればいいのに……。
暗くなった気分につられて、思わずうつむいた。
買ってもらったのに、こんなことグジグジ考えることだって失礼だって思うけど……。
どうして、こんなモヤモヤ考えちゃうのかな。
さっき初めてこの石を見たときは、特に思わなかったのに。
自分のことが、よくわからないよ。
心の中でコッソリため息をつく。手はポカポカするのに、心は極寒だよ。
……? ポカポカ? なんで、手があったかいの?
「っ!? え……!?」
石が、光ってる……!? もしかして、石がこの熱を出してるの?
ジワジワと微熱が、石を通して伝わってくる。どんどん温度が上がって、それにつられるみたいに光の強さも増してる。
やけどをする前に手を離すのが正しい選択なのかもしれないけど……。
落として割ったら、おごってくれたハーヴェイさんの気持ちも無駄になる。
……それに、レイモンドさんのことがちらついて。手放したく、ないよ。
怖いけど、グッと気持ちを押し込める。大丈夫……危険な物が人気なはずない、よね?
目に少し痛みが走りそうなほど、眩《まぶ》しいくらいだったのに。石の放っていた白い輝きは、ゆっくり弱まっていく。
「お、これはまた上等なのができたな」
ハーヴェイさんの感心した声に、入ってた肩の力が、フッと抜けた。無意識に身構えてたみたい。
口からため息みたいに、つまってた息がこぼれた。
……あれ? 石が、石じゃなくなってる?
薄くクリームがかかった緑色の、半透明のガラスみたいなのに変わってる。なにこれ。
「もしかして、変化する石ですか?」
「そ、正解」
にしたって、すっごく変わっちゃったような……。
今、私の手のひらにあるのって完全に別物だと思う。色だけじゃなくって、形だって変わってるし。
さっきは何の細工もない、どこの地面にでもありそうな素朴《そぼく》さあふれる見た目だった。だけど、今は職人に彫られたみたいな繊細《せんさい》なかたちをしてる。
どこからどう見ても、カーネーションの花にしか見えないよ。
手のひらにチョコンとのってる石の花は、一枚一枚の花びらが今にも本当にとれそうなくらい。どの角度から見たって瑞々しく咲いた、つんだばかりの一輪の花。
ほんの一瞬前まの姿形からは想像もつかない。今は、白みをおびてる薄い緑のカーネーションの花の形をしてる。
レイモンドさんの瞳の色を薄くしたら、こんなキレイな緑になるんじゃないのかな。
色が似てるのはもしかして、私が彼を思い浮かべてたせい?
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
乙女ゲームの正しい進め方
みおな
恋愛
乙女ゲームの世界に転生しました。
目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。
私はこの乙女ゲームが大好きでした。
心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。
だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。
彼らには幸せになってもらいたいですから。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
サトシ先生は美しき十代の乙女に手を出さない
白神ブナ
恋愛
高校一年一学期から三年三学期まで続く長編です。気になるサブタイトルを見つけて途中からでもお楽しみいただけます。
女子校あるあると、先生あるある、受験あるあるを描く学園恋愛ドラマ。
佐藤サトシは30歳の独身高校教師。
一度は公立高校の教師だったが心が折れて転職し、私立白金女子学園にやって来た。
一年A組の受け持つことになったサトシ先生。
その中の一人、桜井美柑はガチでサトシ先生に恋してしまった。
サトシ先生は、桜井美柑という生徒の存在を意識してしまいつつ、あくまで職務に忠実であろうと必死に適度な距離を保とうとするが……
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる