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◇第四章 レイモンド編◇ 毒舌家で皮肉屋の彼の本心はどこにありますか?
第二十一話 「あんたにゃ関係ないことだって」
しおりを挟む「カレイドストーンは贈りたい相手を思いながら触り続けると、それに合わせて花に形を変えるんだ。一つしか存在しないプレゼントになるから、人気があるってわけ」
「……人気があるのも、わかります」
プレゼントが世界に一つしかないような物だったら、もらった人だって嬉しいよね。
……ただし、贈ってくる相手にもよるかもしれないけど。
もし、私がレイモンドさんにこれを渡したって……。
「……」
「お、どうした? んな暗い顔して。眉間にシワ寄ってんぞ?」
「え」
両手がふさがってるからとっさに確認なんてできないけど、そんな顔してたのかな。
「……作ったはいいですけど。どうしましょう、これ」
「は? やりたい奴にやればいいだろ」
うん、ハーヴェイさんの意見は最もなんだけど。それができたら苦労なんてしないよね。
渡しづらい、受け取ってもらえない可能性大ってことを考えたら、どうしてもこう、足踏みしちゃうよ。
「何困ってんだよ? 純度はまぁまぁだけど、形はすっげぇ細かい。上出来じゃんか」
「純度?」
「あ、言ってなかったな。色は透き通ったヤツ、形はハッキリしてんのがいいモンなんだよ。それも、相手への情によるけどな」
ってことは、透き通ってないから純度は微妙ってこと、なのかな。カーネーションの花にしっかり見えるから、形はたぶんハッキリしてるほうなんだよね。
ハーヴェイさんが励《はげ》まそうとしてくれてるってことはわかったけど。そういうことじゃないんだよね。
「んな浮かない顔すんなって。かわいい顔が台無しになってんぞ? あんたみたいな奴のを突っ返すのなんて、そうそういないだろ」
「ハーヴェイさんって」
「ん?」
「口だけは達者ですよね」
「ひでぇ!?」
憎まれ口を思わず叩いちゃうくらいには、彼の能天気な発言にはイラッとくるものがあったよ。こっちもしらないで……というより、ハーヴェイさんが知るはずもないよね。
私が考えた相手だって、わかってないんだろうし。
「……」
「……」
「……なんですか」
この沈黙、なにかな。まさか、気を悪くして拗ねたとか?
ううん……そんなことはなさそう、かな? ただ、考え事してるだけみたい。あごに手をあてて黙ってるから、たぶんそうだよね。
私の質問も、集中してて聞こえなかったみたい。ようやく右手をパチンって鳴らして、満足そうに笑った。
何か思いついたの?
「……ああそうか、わかった! あんたレイモンドに渡そうって思ってんだろ?」
「っ!? な……!?」
なんでバレたの!? 私、言ってなかったよねっ!?
というよりも、そんなこと考えてたの!?
「お、その顔は図星か? ふふん、俺の洞察力も大したもんだよな」
「っち、ちが……っ」
得意げそうに胸をそらしてるけど、こっちはそれどころじゃないよ。すぐに違いますって言っとけば誤魔化《ごまか》すことだってできたのかもしれないけど、今更無理だよね。
叫んで否定しようとしたら、意気込みすぎてむせそうになったし。もう散々すぎるよ!
「でもだとしたら渡しづれぇか。あいつだしなー」
「……」
もう否定したって、返って肯定することになるよね。このなるほどって納得しきった様子のハーヴェイさんからして、そんな未来しかなさそう。
「あ、じゃあさ。俺にそれくれね?」
「え?」
ハーヴェイさんに、これを?
差し出してきた手をヒラヒラと揺らして、ハーヴェイさんは気の抜けた笑顔を浮かべてる。
「これ、ハーヴェイさんを想っての物じゃないですよ?」
「わかってるって」
「……他の人を想像してできた物をもらうのって、なんだか微妙な気持ちになりませんか?」
「ん? あー、他の奴からのならそうだな。でも、あんたとレイモンド関連のだし。全然そんなんないって」
「……」
どういう意味なの? レイモンドさんは友人だからべつに平気ってことだよね。私については……気に入られてるからってこと?
どちらにしても、随分《ずいぶん》変わってるって思うよ。
「なぁ、いいだろ」
「……」
欲しがってる人に渡すのが、いいことなのかもしれない。ハーヴェイさんだって、気にしないっていってるし。
…………でも。
「それは、できません。ごめんなさい」
渡そうとしても、断られるかもしれない。ううん、その前にそもそも、レイモンドさんに持ちかけることだってできないかも。
だけど。それでも、何故かハーヴェイさんに渡すのは、気が引けるよ。
もらってくれる可能性がちょっとでもあるなら、頑張ってみたい。ダメだったとしても、いつか渡せるその日までそれまで持っておく。
もしその日が来なくたって、私が持っておいたら思い出として残るよね?
気を遣って言い出してくれたのかもしれない、ハーヴェイさんには申し訳ないけど。
「……へぇ、そっか。残念だな」
やけにあっさり引き下がったけど、もしかしたら断られるのを予測してたのかも。もしくは、そこまで欲しいって思ってなかった、とかかな。
……でも。そのどっちでもなさそう。どうして、そんなに安心したみたいな表情をしてるの。
「けど……そうか、そうだよな。あんたなら、断るよな。俺にあげたりなんかしないか」
「それは、私がケチだとでも言いたいんでしょうか」
え、暗《あん》にケンカを売られてるの? 今、貶《けな》されてる?
不愉快《ふゆかい》で睨《にら》んだら、ハーヴェイさんは軽くフッと笑んだ。
「違《ちげ》ぇよ。ただ、再確認っつうか、実感したっつうか、まぁ、そんなとこだな」
「? はぁ……?」
「まぁ、あんたにゃ関係ないことだって。こっちの話だ」
気の抜けた返事をしたのに、ハーヴェイさんは文句を言わなかった。
「そっか。あんたにとっての一番は、俺じゃないんだなー。うわヤバイ、案外ショックだ。これが娘を嫁に出す父親とかの気分なのか!?」
「あの、さっきから言ってることが全くわからないんですけど……?」
そもそも父親の気分って、何故? いきなりそんな気分にどうしてなったのかな。
胸を片手で押さえ、悲壮感漂う顔で呻《うめ》くハーヴェイさんはまるで聞いてない。
……聞く気がないのか、それとも話しかけたのに気づいてないだけなのか。どっちもありえそう。
「…………っガ! クガ!!」
「……?」
大声で名前を呼ばれたような気がしたけど。今の『クガ』って私のことを指してるよね?
この国の人達ってまさに外国の名前ばっかりだから、その名前は私しかいないと思う。
でもだとしたら、今の声って……?
「お、迎えが来たな。……っはは、めずらしいモン見たなー」
のん気な声を上げてるハーヴェイさんには、私を呼んだ人が見えたみたい。
彼が見ているほうに振り返る。
他の人達の中で、頭一つ分高い位置にあるのは、初夏によく見られるような若葉の色。陽の光を反射してて、その髪の毛の一本一本がキラキラ光ってるみたいに鮮やかで。
「……え?」
行き交う人混みをかき分けてこっちに駆けてくるのって、まさかレイモンド、さん?
違う、よね?
だって、レイモンドさんが焦ったり慌てたりなんかしたこと、見たことない。ましてや、走ったことでの服の乱れを気にもしないなんて。
でも、顔に装着したモノクルだって、深い緑色の瞳だって。どれも既視感というか、見慣れてるものにしか思えないんだけど。
しめった前髪がはりついてる額とかモノクルの横の頬に、いくつも線を描いて流れてる汗。ハンカチで拭《ぬぐ》うことくらい、普段の彼だったら他の人達に悟《さと》られる前にするんじゃないのかな。
レイモンドさんは、まさに取り乱してるって表現がピッタリ合うくらい、焦燥感が前面に出てた。
視線が交わったかと思ったら、ギュッと唇を噛みしめていつもよりも三割増しで眉間にシワを増やされた。
その表情を見て、この世界は西洋っぽいのに鬼の妖怪がいるのかもって感じた。……うん、そんな場合じゃないよね。
ズンズンこっちに向かってくるレイモンドさんの目的は、間違いなく私だよね。
絶対、怒られる……というより皮肉と文句のフルコースが待ち構えてるよ。あと、冷気のオプション付きだよね、たぶん!
「じゃ、俺はそろそろ行くな! このままいたってロクなことなさそうだし。あいつの説教って長いんだよなー」
「えっ、ちょっとハーヴェイさん!?」
一人だけ逃亡するつもりなの!? っていうより、元凶のあなたが消えたら怒られるのって私だけだよね!?
引きとめようとしたのに、捕まえようとした私の手をヒラリとかわした。
「ワリィなクガ! 頑張れよー!」
アハハハ笑い声をあげてるけど、これっぽっちも悪いなんて感じていないよね!?
逃走するべく駆け出しながら、彼は首だけこちらに向けてきた。
「一つだけ餞別《せんべつ》に教えといてやるよ。あいつ、動揺した時にモノクルいじる癖《くせ》あるんだよ。よーく観察しとけば、『不器用』って意味もわかるって」
今その知識が何に役立つって言うんですか!? それよりも一緒に弁解をしてくれたほうが、精神安全上大助かりなんだけど!
「じゃーあなー」なんて、気の抜けた別れのあいさつを去り際にしながら、彼の後ろ姿が人の群れに紛《まぎ》れていく。
その時になってようやっとたどり着いたレイモンドさんが、盛大に舌打ちをした。
「あのクソマッドエイプが……!!」
誰がその『マッドエイプ』とやらなのかは、彼の視線の先が人混みにあることからお察しだよね。
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