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◇第五章 レイモンド編◇ 毒舌家で皮肉屋の彼の本質はなんですか?
第二十七話 「メロメロって、なんだろう」
しおりを挟むレイモンドさんの風邪は見事に悪化した。
おかげで、3日経った今でも彼はベットの住人になってる。
うん、当然といえばそうだよね。だって倒れたばかりの人が起き続けて長話をしたんだから。それは症状もひどくなるよ。
その原因をつくった私としては、心苦しい。いっそのこと、風邪を代われたらいいのに。
この世界の医療は、そこまで発達はしていないみたい。
ううん、正確には内側からくるものはあんまりってところ。薬を処方はしてくれる。でも、メスを使った手術とか、そういったことは全くしてないみたい。
ただ外からの傷なら、そこにかけて治す薬がある。ゲームでいうポーションみたいな回復薬っていうのかな? さすがは魔法が存在するファンタジーな世界。
ちなみに、なくなった腕を生やしたり、死んだ人を生き返らせるような薬はないみたい。当たり前だよね。あったらあったで、倫理観とか崩壊しちゃうんじゃないのかな。
回復させる魔法は、一応は存在してるみたい。ただそれも、教会の一部の人しか使えなかったりするから、滅多なことでは呼ばない。それが許されるのなんて王家くらいの、貴重な人材なんだって。
こっちの世界にも、何でも治すような都合の良い物なんて存在しないのは、一緒なんだって思った。
風邪をひいてるレイモンドさんは、医師に診察を受けて煎《せん》じてもらった薬をもらってる。
つまり、それを飲んで回復を待つしか完治の方法はないってこた。あと大事なのは、ゆっくり休むとか?
……だけどそれも厳しいよね。休憩中とかに様子見に会いに行くたび、「仕事が溜《た》まるのは避けたいのですが……」ってぼやいてるから。
気もそぞろだったら、なかなか治せないんじゃないのかな。
彼の気持ちも、わからなくはないよ? ずっと寝たっきりも、気分が滅入っちゃうよね。
でもだからって彼の主張通りに仕事を渡すのなんて、本末転倒だと思う。
身体に負担をかけないような気晴らしの方法って、何かないかな?
読書? でも、ずっと目を使ってたら疲れるし。
あと、風邪を治すときにするようなことと言ったら……?
「あ、いいかも」
一つパッとひらめいた。良い案だとは思ったけど、通るかはわからない。
とりあえず、さっそくセバスチャンさんに提案しに行こうかな。善《ぜん》は急げっていうもんね。
◇
「坊ちゃまの食事を変えたい、ですか」
ふむ、と呟いてるセバスチャンさんはあごに指をあててる。生えそろってる白ヒゲをなでつけて、思考にふけってるみたい。
「臥《ふ》せてる者には適した物をご用意しておりますが、それでは無い物をということですかな?」
「はい。あ、いえもちろん、病人食をとは思ってます。だけどいつも同じ物だと、さすがにどうかなと思ったんですけど」
食事に変化があったら、少しは気も紛《まぎ》れるんじゃないかなって思うんだけど。
それに私ができそうなことと言ったら、これしか浮かばなくて。本を用意するにしても、彼の好みがわからないし。
「なるほど。であれば、よろしいかと思います。坊っちゃまのあなたからの申し出とあらば、断りはしないでしょう」
「! ありがとうございます!」
「いやいや、なんのこれしきのこと」
セバスチャンさんはそう言うと、楽しそうにヒゲを揺らして笑った。
「ときにクガ様。坊ちゃまとはその後、いかがですかな?」
「? レイモンドさんと、ですか?」
何を聞きたいのかな? いまいち、セバスチャンさんが言いたいことがわからないんだけど。
「昨日お会いしたときは、仕事ができないことに文句言ってましたけど」
昨日どころか、お見舞いに行くたびに愚痴られてる気がする。どれだけ仕事を求めてるのかな。レイモンドさんって元の世界で言うワーカーホリックだよね、完全に。
「おや。私めが問いたかったのは坊ちゃまの仕事中毒とは異なるものでしたが、上手く伝わらなかったようですな」
「? 違うこと、ですか?」
何かな? ああ、もしかして数日前の私みたいに思い違いしてて、レイモンドさんと険悪なんじゃないかって心配してる、とか?
「レイモンドさんとは仲直り……ううん、正確には和解? したので大丈夫ですよ?」
「お尋《たず》ねしたかったこととはまたもや異なりましたが、それはよろしゅうございました」
え、これも違うの? それなら、一体何のこと?
「ふむ……この様子ならば、未《いま》だその域まで達してない、ということでしょうな。やれやれ、坊ちゃまの甲斐性《かいしょう》なしっぷりに、私めは涙がこぼれそうです」
「? どうして急にレイモンドさんの甲斐性《かいしょう》の話になったんですか?」
「ああ、爺《じい》やは情けないですぞ。成人した男としては致命的すぎます。最も、異性に関心を抱かない姿勢に一番の要因がございますねぇ」
って、全然人の話を聞いてないですね……。質問したのに、それすら気づいてなさそう。
あらぬ方向に嘆いてるけど、全く話が読めない。セバスチャンさんが何に情けなさを感じてるのかも不明。
とりあえず、もう行ってもいいかな? レイモンドさんの食事も用意したいし。
「クガ様っ!」
「!? っはいぃっ!!」
なになに!? もしかして逃亡しようとしてたのがバレたとかっ!?
すっごく眼力込められてるんだけど、やっぱり怒らせちゃったのかな?
セバスチャンさんの気迫に圧《お》されてたら、両肩をガッシリつかまれた。逃亡防止の手かな、これって!?
「もはや坊ちゃまには、そういったことは期待できませぬ! 何卒《なにとぞ》、クガ様の方から水を向けてはいただけませぬか!」
「は? いえ、その」
「よろしくお頼み申しますぞ!」
だからあの、聞いてください。
私はそもそも、セバスチャンさんが何をよろしく頼みたいのかまだわかってないんですけど。
「坊ちゃまの心を射抜いて、ぜひともメロメロに仕立てあげるのです!」
「っ!? それはどういう――っ」
「任せましたぞぉぉおおおおっっ!!」
ちょっと待って!? なんだかよくわからないうちに頼まれたよ!?
しかも、言うやいなやすぐさまどっか去っていった!? っていうか早いよ、セバスチャンさん! 早歩きでなんで一瞬で姿が見えなくなるの!?
これって間違いなく、言い逃げ?
だけど、結局セバスチャンさんが何を言いたかったのか、サッパリわからなかったんだけど。
「メロメロって、なんだろう」
壮齢のセバスチャンさんの口から出るには、パワーワードすぎるんだけど。
とりあえず。たぶんだけど、レイモンドさんともっと仲良くしてって言いたかったのかな?
……うん。きっと、そうだと思う。そう思うことにしよう。
決して、深く考えるのが面倒になったって訳じゃない。……たぶん。
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