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◇第五章 レイモンド編◇ 毒舌家で皮肉屋の彼の本質はなんですか?
第三十八話 「私共の最高傑作でございます!」
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「さぁ、観念して!」
目を輝かせるアンナさんに、思わず後退《あとずさ》った。彼女の周囲には、同じようにニコニコと笑う女性の使用人仲間がいる。
普段は持ち場が違ってあんまり会話しない人も、こぞって集まってる。たぶん、屋敷の女性の使用人の半分がここにいる気がする。もう半分はきっとアンジェさんのところじゃないかな。
私の部屋のはずなのに、居場所がないんだけど。彼女達がここにいる訳はわかってはいる。もちろん、必要だってことも。
でも、どうしてこんな大事になってるのかな?
「皆さん、どうしてそんな気迫が……」
「だって! 年頃の女の子の仕度なんて、この屋敷に勤めてから初めてで! たしかに奥方様はそれはもう、若々しくてお美しいとはいえ、あれはもう完成してるし」
「……つまり?」
「磨《みが》きがいがあって、腕が鳴ります」
一見冷静そうなアンナさん以外のメンバーも、ソッと静かに頷《うなず》いてる。あ、これは逃げれないやつだ。
「と、いうわけで……」
アンナさんの目が、まるで獲物を前にした肉食獣みたいに光った。
「覚悟ぉおおおおおおおおっっ!!!!!」
◇◇◇
私の部屋の扉をノックする音が聞こえる。
「はい、ただいま!」
アンナさんが代わりに動いてくれた。申し訳ないとは思うけど、身体がグッタリして動かないんだから仕方ない。
座ってソファーに身を預けてても、疲れがとれない。生命が吸いとられたみたいな気分。
あまりにもな状態だから心配したアンナさんが付き添ってくれてるほど。部屋にいる人数が減ったから息はしやすいはずなのに、そんな感じは全然しない。
準備ってこんな大変なのが普通なの!? だとしたら、貴族の女の人ってすごすぎるよ。
全身野菜を洗うみたいに浴室で磨《みが》きに磨《みが》かれて、かと思ったら、なんか香油?みたいなの刷り込まれてマッサージ。
風呂から上がって一息つく暇もなく着替え。顔の肌の調子を化粧水で整えられたらすかさず化粧。それと同時進行で髪の乾かしとセッティング。
うん、思い出しても料理されてる気分にしかならない。
ともかく皆さんのおかげで、詐欺だと言われちゃいそうなほど仕上がった……と、私は思ってる。
鏡で初めて見た時、わからなすぎて思わず「誰!?」って言ったからね。それほど変われたと思う。
おとぎ話のシンデレラも、こんな気分だったのかな。でも私は、シンデレラってキャラではないけどね。第一、そんなの似合わないよ。
視線を下ろして、纏《まと》ってるドレスを見る。若葉みたいなパステルグリーン。胸元と袖にはオーガンジーの濃緑の上質なリボンに、繊細な花のステッチが舞ってる。
動けばたまに生地全体がキラッと光るのは、生地自体に何か配合してるのかも。……決して、宝石とかじゃないと信じたい。違うよね? そんな高価な物、着れないんだけど……深く考えるのも聞くのもやめておこう、うん。
頭だって繊細《せんさい》に編み込まれてて、絶対に背もたれに寄りかかったりできない。崩したりしたらもったいないし、絶対私自身の力で直せないし。
あとはあちこちに花のモチーフの飾りがついてるのはオシャレだなって思う。……だけど、この淡い乳白色の丸い粒って真珠…………? こっちも考えたくないから、無視しておこう。
扉が開く音が聞こえて、視線を動かす。
……っ!?
「悲鳴が聞こえましたが、大丈夫でした、か……?」
スッゴク綺麗《きれい》な美人と、目が合ってる。
スッと引き締《し》まったシルエットに、黒地のスーツ。シャツの白が際立ってて、それがセクシーさも感じさせてる。
彼の指先に触れてるモノクルは、普段より縁の線が細くてシャープな印象。もしかしたら、舞踏会のために用意したものなのかも。
映画から飛び出したみたい。テレビに出たら、一気に大ブレイク間違いなしだよ。
レイモンドさんは私を見て、眉間にシワを目一杯寄せた。うわ、凶悪そうな顔。
私の格好が気にくわないとか? 私的には自分の今の姿は、皆のお陰で似合ってるって思ってるんだけど。
……念のため、確かめよう。
「あの……レイモンドさん?」
「…………誰が」
「え?」
「誰がここまでしろと言いましたか!?」
「え、ええ?」
クワッと目と口を開いて叫ばれたよ。なんで?
「ふふん、レイモンド様いかがでしょうか? 彼女の美しい素質を生かすべく、清楚《せいそ》かつ可憐《かれん》な令嬢に仕上げました! 私共の最高傑作でございます!」
ドヤァという効果音が聞こえるくらい、胸を張って鼻高々にアンナさんが答えてる。
清楚《せいそ》かつ可憐《かれん》……そうなってたらいいけど。
でも元が私だし、ね。皆の技術を疑う訳じゃないけど、レイモンドさんの隣に立っても問題ないくらいになってるといいな。
「これでは、ただでさえ喧《やかま》しい害虫が……」
「害虫?」
え、何? 城って虫が大量発生でもしてるのかな?
こてんと首を傾けて聞いたら、レイモンドさんがますますギュッと眉を寄せた。なんで!?
かと思ったら、つかつか歩いてきて額をつついてきた。ちょ、え、地味に痛いですよ!?
「ですから! あなたは何度危機感を持ちなさいと言わせれば済むのですか!? この様子では、取って喰われて骨も残りませんよ!」
「!? そんな魔境なんですか、舞踏会って!?」
「近しいものはあります」
「!?」
え、生命の危険を感じないといけないレベルですか!? 怖っ!?
視界の奥でアンナさんが頷いてるのが信憑性《しんぴょうせい》を増してるんだけど!
「正直、こちらも手を尽くしてしまったという自覚はございます」
「……あったのにもかかわらず、あなた方使用人は修正をしなかったのですね」
「ですがレイモンド様! せっかくできたのに、それを崩《くず》すなんてもったいなくてできないです!」
「そういった職人気質は、あなたの恋人のアルヴェルトにそっくりですね」
え、今初耳なことがサラッと聞こえたよ!?
なに、ヴェルツさんとアンナさんって付き合ってるの!? もうちょっと詳しくお願いします!
でも全然聞ける雰囲気じゃない!
イライラしてるレイモンドさんを前に関係ない質問できるほど、肝は太くないよ!
「ふむ、素晴らしいですな。社交界デビューとはいえ、他の者に見劣りはしないでしょう」
「セバス、気配を消して反応をうかがう悪癖は、いい加減改善なさい」
!? いつの間に!? レイモンドさんも慣れてるかもしれないけど、苦言差すだけで平然と対応してるなんてすごすぎるよ!
「そういったことは不向きです故。それよりも坊っちゃま、そろそろお時間が……」
「……普通は気配を消すことのほうが困難に感じるものですが。ハァ、わかりました」
うん、セバスさんマイペース! レイモンドさんも手慣れた感じですね!
って、そうじゃない。そうじゃなくって今、なんだか気になるようなこと、言ってなかった……?
「馬車は屋敷前に停めてありますので、移動をお願い致します」
そっか、馬車が――……馬車?
それってもしかして、もしかしなくても。
レイモンドさんが、不機嫌そうな表情のまま、無情にも告げてきた。
「さぁ行きますよ。舞踏会というくだらない催しに」
「え」
もう行くのぉおおおおおおおおっっ!?
◇◇◇
「ステキよ、リオンちゃん! 本当に、かわいいわ!」
「ああ、そうだね。普段も愛らしいが、今日は一段とかわいらしい。まるで健気に開花を待つ、つぼみのようだとも。しかし、私の美しく咲き誇っている花のほうが、目を離せないがね」
「まぁ! うふふふふっ! あなたったら。私の最愛の方も他の花々に気を奪われないか心配になってしまうくらい、凛々しくて見惚《みほ》れるわ。どうか、手放さないでくださいな」
「もちろんだとも」
褒めてくれてるんだよね……? その割に、そんな感じゼロだけど。相変わらずの通常運転で、ちょっと緊張がほぐれたけど。
アンジェさんの手をすくい取って甲に口づけるジョシュアさん。互いに相手しか入ってないみたい。まさしく、二人っきりの世界って表現がしっくりくる。
「あのですね、そこのバカップル。ここは馬車の中で、私達もいるということをお忘れになってはいませんか」
ため息交じりのレイモンドさんの言葉にホッとする。ああ、気まずいのは彼の方が上か。だって、親のイチャつくのを間近に見る羽目になってるんだしね。
「そこのあなたも、何を憐れんだ目でこちらに向けているのですか」
「!? ご、ごめんなさい!」
バレてたっ!?
ジロッと睨《にら》まれて、圧力に負けて視線を逸《そ》らしとく。眼力いつもに増して強くなってるような……? 私の気のせい?
「あらあら、苛立《いらだ》ってはダメよ? レイちゃんったら。リオンちゃんを怖がらせたって解決にはならないでしょう?」
「そうだとも。妬《や》いたとしても、それを相手に差し向けて逃げられては元もないだろう。女性は優しく包み込んでこそ、微笑むというのに」
「妬《や》く……?」
「!? あ、あなた方は何を世迷い言を! 戯《たわむ》れと脳内お花畑も大概《たいがい》にしなさい!!」
あ、やっぱり違いますよね。間髪《かんぱつ》入れずにレイモンドさんが否定したからそうなんだ。二人の勘違いだってわかってはいたけど。
「違いますからね! あなたもゆめゆめ、取り違えないように!!」
「あ、はい。大丈夫です、そのくらいわかっていますよ?」
グリンと首を動かして言わなくても。わかってます。ただ単にレイモンドさんは舞踏会に行きたくないだけですよね?
「わかってないわね」
「わかってないだろうな」
「…………ハァ」
なんですかその反応!? どうして親子でそんなガッカリされてるんですか私!
「レイちゃん、あなた……」
「言わないでください。己《おのれ》を省みるつもりではあるので」
「全く、この子は。やはりマナーを一度学び直す機会でも設《もう》ける必要があるやもしれないな」
「マナーでは培《つちか》われないので、結構です」
え、なんでレイモンドさんは責められてるの? そういう会話の流れだったかな。
首を傾けたら、ジョシュアさんとアンジェさんからは苦笑が、レイモンドさんからはため息が返ってきた。
どうして三人とも揃えたみたいに似通った反応なのかな。それも、親子のなせる業なの?
目を輝かせるアンナさんに、思わず後退《あとずさ》った。彼女の周囲には、同じようにニコニコと笑う女性の使用人仲間がいる。
普段は持ち場が違ってあんまり会話しない人も、こぞって集まってる。たぶん、屋敷の女性の使用人の半分がここにいる気がする。もう半分はきっとアンジェさんのところじゃないかな。
私の部屋のはずなのに、居場所がないんだけど。彼女達がここにいる訳はわかってはいる。もちろん、必要だってことも。
でも、どうしてこんな大事になってるのかな?
「皆さん、どうしてそんな気迫が……」
「だって! 年頃の女の子の仕度なんて、この屋敷に勤めてから初めてで! たしかに奥方様はそれはもう、若々しくてお美しいとはいえ、あれはもう完成してるし」
「……つまり?」
「磨《みが》きがいがあって、腕が鳴ります」
一見冷静そうなアンナさん以外のメンバーも、ソッと静かに頷《うなず》いてる。あ、これは逃げれないやつだ。
「と、いうわけで……」
アンナさんの目が、まるで獲物を前にした肉食獣みたいに光った。
「覚悟ぉおおおおおおおおっっ!!!!!」
◇◇◇
私の部屋の扉をノックする音が聞こえる。
「はい、ただいま!」
アンナさんが代わりに動いてくれた。申し訳ないとは思うけど、身体がグッタリして動かないんだから仕方ない。
座ってソファーに身を預けてても、疲れがとれない。生命が吸いとられたみたいな気分。
あまりにもな状態だから心配したアンナさんが付き添ってくれてるほど。部屋にいる人数が減ったから息はしやすいはずなのに、そんな感じは全然しない。
準備ってこんな大変なのが普通なの!? だとしたら、貴族の女の人ってすごすぎるよ。
全身野菜を洗うみたいに浴室で磨《みが》きに磨《みが》かれて、かと思ったら、なんか香油?みたいなの刷り込まれてマッサージ。
風呂から上がって一息つく暇もなく着替え。顔の肌の調子を化粧水で整えられたらすかさず化粧。それと同時進行で髪の乾かしとセッティング。
うん、思い出しても料理されてる気分にしかならない。
ともかく皆さんのおかげで、詐欺だと言われちゃいそうなほど仕上がった……と、私は思ってる。
鏡で初めて見た時、わからなすぎて思わず「誰!?」って言ったからね。それほど変われたと思う。
おとぎ話のシンデレラも、こんな気分だったのかな。でも私は、シンデレラってキャラではないけどね。第一、そんなの似合わないよ。
視線を下ろして、纏《まと》ってるドレスを見る。若葉みたいなパステルグリーン。胸元と袖にはオーガンジーの濃緑の上質なリボンに、繊細な花のステッチが舞ってる。
動けばたまに生地全体がキラッと光るのは、生地自体に何か配合してるのかも。……決して、宝石とかじゃないと信じたい。違うよね? そんな高価な物、着れないんだけど……深く考えるのも聞くのもやめておこう、うん。
頭だって繊細《せんさい》に編み込まれてて、絶対に背もたれに寄りかかったりできない。崩したりしたらもったいないし、絶対私自身の力で直せないし。
あとはあちこちに花のモチーフの飾りがついてるのはオシャレだなって思う。……だけど、この淡い乳白色の丸い粒って真珠…………? こっちも考えたくないから、無視しておこう。
扉が開く音が聞こえて、視線を動かす。
……っ!?
「悲鳴が聞こえましたが、大丈夫でした、か……?」
スッゴク綺麗《きれい》な美人と、目が合ってる。
スッと引き締《し》まったシルエットに、黒地のスーツ。シャツの白が際立ってて、それがセクシーさも感じさせてる。
彼の指先に触れてるモノクルは、普段より縁の線が細くてシャープな印象。もしかしたら、舞踏会のために用意したものなのかも。
映画から飛び出したみたい。テレビに出たら、一気に大ブレイク間違いなしだよ。
レイモンドさんは私を見て、眉間にシワを目一杯寄せた。うわ、凶悪そうな顔。
私の格好が気にくわないとか? 私的には自分の今の姿は、皆のお陰で似合ってるって思ってるんだけど。
……念のため、確かめよう。
「あの……レイモンドさん?」
「…………誰が」
「え?」
「誰がここまでしろと言いましたか!?」
「え、ええ?」
クワッと目と口を開いて叫ばれたよ。なんで?
「ふふん、レイモンド様いかがでしょうか? 彼女の美しい素質を生かすべく、清楚《せいそ》かつ可憐《かれん》な令嬢に仕上げました! 私共の最高傑作でございます!」
ドヤァという効果音が聞こえるくらい、胸を張って鼻高々にアンナさんが答えてる。
清楚《せいそ》かつ可憐《かれん》……そうなってたらいいけど。
でも元が私だし、ね。皆の技術を疑う訳じゃないけど、レイモンドさんの隣に立っても問題ないくらいになってるといいな。
「これでは、ただでさえ喧《やかま》しい害虫が……」
「害虫?」
え、何? 城って虫が大量発生でもしてるのかな?
こてんと首を傾けて聞いたら、レイモンドさんがますますギュッと眉を寄せた。なんで!?
かと思ったら、つかつか歩いてきて額をつついてきた。ちょ、え、地味に痛いですよ!?
「ですから! あなたは何度危機感を持ちなさいと言わせれば済むのですか!? この様子では、取って喰われて骨も残りませんよ!」
「!? そんな魔境なんですか、舞踏会って!?」
「近しいものはあります」
「!?」
え、生命の危険を感じないといけないレベルですか!? 怖っ!?
視界の奥でアンナさんが頷いてるのが信憑性《しんぴょうせい》を増してるんだけど!
「正直、こちらも手を尽くしてしまったという自覚はございます」
「……あったのにもかかわらず、あなた方使用人は修正をしなかったのですね」
「ですがレイモンド様! せっかくできたのに、それを崩《くず》すなんてもったいなくてできないです!」
「そういった職人気質は、あなたの恋人のアルヴェルトにそっくりですね」
え、今初耳なことがサラッと聞こえたよ!?
なに、ヴェルツさんとアンナさんって付き合ってるの!? もうちょっと詳しくお願いします!
でも全然聞ける雰囲気じゃない!
イライラしてるレイモンドさんを前に関係ない質問できるほど、肝は太くないよ!
「ふむ、素晴らしいですな。社交界デビューとはいえ、他の者に見劣りはしないでしょう」
「セバス、気配を消して反応をうかがう悪癖は、いい加減改善なさい」
!? いつの間に!? レイモンドさんも慣れてるかもしれないけど、苦言差すだけで平然と対応してるなんてすごすぎるよ!
「そういったことは不向きです故。それよりも坊っちゃま、そろそろお時間が……」
「……普通は気配を消すことのほうが困難に感じるものですが。ハァ、わかりました」
うん、セバスさんマイペース! レイモンドさんも手慣れた感じですね!
って、そうじゃない。そうじゃなくって今、なんだか気になるようなこと、言ってなかった……?
「馬車は屋敷前に停めてありますので、移動をお願い致します」
そっか、馬車が――……馬車?
それってもしかして、もしかしなくても。
レイモンドさんが、不機嫌そうな表情のまま、無情にも告げてきた。
「さぁ行きますよ。舞踏会というくだらない催しに」
「え」
もう行くのぉおおおおおおおおっっ!?
◇◇◇
「ステキよ、リオンちゃん! 本当に、かわいいわ!」
「ああ、そうだね。普段も愛らしいが、今日は一段とかわいらしい。まるで健気に開花を待つ、つぼみのようだとも。しかし、私の美しく咲き誇っている花のほうが、目を離せないがね」
「まぁ! うふふふふっ! あなたったら。私の最愛の方も他の花々に気を奪われないか心配になってしまうくらい、凛々しくて見惚《みほ》れるわ。どうか、手放さないでくださいな」
「もちろんだとも」
褒めてくれてるんだよね……? その割に、そんな感じゼロだけど。相変わらずの通常運転で、ちょっと緊張がほぐれたけど。
アンジェさんの手をすくい取って甲に口づけるジョシュアさん。互いに相手しか入ってないみたい。まさしく、二人っきりの世界って表現がしっくりくる。
「あのですね、そこのバカップル。ここは馬車の中で、私達もいるということをお忘れになってはいませんか」
ため息交じりのレイモンドさんの言葉にホッとする。ああ、気まずいのは彼の方が上か。だって、親のイチャつくのを間近に見る羽目になってるんだしね。
「そこのあなたも、何を憐れんだ目でこちらに向けているのですか」
「!? ご、ごめんなさい!」
バレてたっ!?
ジロッと睨《にら》まれて、圧力に負けて視線を逸《そ》らしとく。眼力いつもに増して強くなってるような……? 私の気のせい?
「あらあら、苛立《いらだ》ってはダメよ? レイちゃんったら。リオンちゃんを怖がらせたって解決にはならないでしょう?」
「そうだとも。妬《や》いたとしても、それを相手に差し向けて逃げられては元もないだろう。女性は優しく包み込んでこそ、微笑むというのに」
「妬《や》く……?」
「!? あ、あなた方は何を世迷い言を! 戯《たわむ》れと脳内お花畑も大概《たいがい》にしなさい!!」
あ、やっぱり違いますよね。間髪《かんぱつ》入れずにレイモンドさんが否定したからそうなんだ。二人の勘違いだってわかってはいたけど。
「違いますからね! あなたもゆめゆめ、取り違えないように!!」
「あ、はい。大丈夫です、そのくらいわかっていますよ?」
グリンと首を動かして言わなくても。わかってます。ただ単にレイモンドさんは舞踏会に行きたくないだけですよね?
「わかってないわね」
「わかってないだろうな」
「…………ハァ」
なんですかその反応!? どうして親子でそんなガッカリされてるんですか私!
「レイちゃん、あなた……」
「言わないでください。己《おのれ》を省みるつもりではあるので」
「全く、この子は。やはりマナーを一度学び直す機会でも設《もう》ける必要があるやもしれないな」
「マナーでは培《つちか》われないので、結構です」
え、なんでレイモンドさんは責められてるの? そういう会話の流れだったかな。
首を傾けたら、ジョシュアさんとアンジェさんからは苦笑が、レイモンドさんからはため息が返ってきた。
どうして三人とも揃えたみたいに似通った反応なのかな。それも、親子のなせる業なの?
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