人質花嫁と冷遇騎士の背徳愛

酉埜空音

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夕闇の騎士

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 馬車の揺れと、急な出発による疲れから、アイリーンはうとうとと微睡んだ。
「アイリーンさま……ゆっくりお休みくださいましね」
 幼き頃よりずっと傍にいてくれる乳母の声が心にしみる。

 微睡の中、夢に出てくる王城。そこには、アイリーンの実父であるアブルス国王と、アイリーンの母で今は亡きマリーヌ王妃が寄り添っている。
 アイリーンの美貌、陶器のような白い肌と大きな目に果実のような唇はマリーヌに瓜二つ、すらりと背が高く手足が長いのは父譲りである。
「絹のような手触りの銀の髪は月からの贈り物、貴女のルビー色の右目は太陽からの贈り物。能力は創造神からの贈り物。誇りなさい」
 そういって母はいつもアイリーンを撫でてくれた。
 穏やかだったのはそのころまで、その後アブルス王国は戦乱の時期に突入してしまい、父は妻子を顧みることなく領土拡大に勤しむようになった。
 そして、婚姻による同盟・停戦を条件に国王の第三夫人として嫁いできたのが隣国のフーリ王女、なぜかその娘たちも一緒だった。彼女たちは目鼻立ちのくっきりした華やかな美人で、引き締まった褐色の肌を惜しげもなくさらし、陽気で派手な暮らしを好んだ。
 たちまち王は彼女の虜になり、質素で控えめで賢い正妃と大人しく病弱な第二夫人、正妃によく似た娘を遠ざけた。
 そして正妃と第二夫人が相次いで亡くなったあと、フーリたちは本性を剥き出しにした。
 次期国王として期待されていた王女アイリーンを「左右色の異なるデビルアイを持つ呪われた異能の娘」として王城から追放し、巫女として神殿へおいやったのだ。
 そして今のアブスル城には、フーリが女王然として君臨し、彼女の娘たちがアブスル王女として暮らしている。

 それでも神殿警護には、一応、王城から警備隊が派遣されてくる。
 最初の頃は、アイリーンが呪われた娘だなどと信じる者はいなかったため誰もがアイリーンに同情的だったが、今では兵の大半がアイリーンを呪われた異能の巫女だと信じている。
 普通に接してくれるのは警備隊を率いてくる騎士たちくらいだった。
 彼らは皆、アイリーンを王女として敬い、共に亡きマリーヌ妃の思い出を語り合い、元の国王に戻って欲しいと願った。
 しかしそれも、帝国が謂れなき反逆の罪で兵を送ってきたことで、途絶えてしまった。

「――帝王陛下……どうか、我が国をお守りください」




 そのころ、アイリーンが乗る馬車を遠くから眺めている者があった。
 夕闇に包まれた小高い丘の上、帝国騎士団の紋章がついた紺のマントを羽織って黒い馬に跨った男がいた。
 低く「あれが王女の馬車か」と呟く。
 白い布で顔を覆っているため、若いのか年を重ねているのかすらわからない。
 が、布の隙間から覗く目は明るいブルーだが目つきは鋭く、昏い光を宿している。
 手綱を握る手に力がこもり、それが愛馬に伝わったのだろう、馬が嘶く。
「ジュール、すまない。駐屯地へ戻ろう」
 馬首を巡らせ、頭部の布を外す。と、先輩騎士がのんびりやってくるのに出会った。
「カズール、どこへ行っていたんだ? 陛下の新しい側室がそろそろ到着するぞ」
「いや、ジュールの機嫌が悪くて」
 先輩騎士は、ジュールをちらりと見て小さく頷く。
「そろそろお前も、側室の警備を割り振られると思うから、そのつもりでいてくれよ」
「え? 俺、まだ入隊2年目の22歳ですよ?」
「仕方ないだろう、人手不足だ」
 なるほど、と、カズ―ルは苦笑を浮かべた。このところ皇帝は、あちこちへ頻繁に兵を派遣するし、側室は増やすし、兵そのものがたらないのだ。
「まぁ、滅ぼす予定の小国の王女だ……多少警備が手薄でも誰も咎めやしないさ」
 
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