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帝国のやり方
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滅ぼす予定? と、カズールが首を傾げる。乾いた風がカズールの茶色い髪を巻き上げる。
「ああ。陛下の三番目の王子がこないだの戦で大手柄をあげただろう? 褒美に城を欲しがったらしくてな」
「じゃあ、あの王女はなんのために嫁いで来たんですか?」
「民や兵の抵抗を防ぐための人質だな。自分たちが抵抗したら側室になっている王女が殺されることくらいわかるだろ」
「そんなバカな……」
「親子ほど歳の離れたジジイに若い体を蹂躙されたあげく、祖国のために殺される王女なんて今まで何人もいたさ」
それが帝国のやり方さ、と、先輩が投げやりに言う。カズールは唇を強く噛んで、握った布の下で拳を固く握りしめた。憤り、悲しみ、そんな感情が、胸の奥で暴れる。帝国はいつも、勝手なのだ。
「そういえばカズール、あの王女なんだがな」
「はい」
「呪われているらしい」
はい? と、カズールが首を傾げた。
「なんでも右目が赤くて、オッドアイらしいぞ。その上、神の声と動物の声が聞こえる異能の持ち主なんだそうだ。これらを王家に災いなす存在だと決めつけたらしい」
本当に呪われているかどうかはさておき、アイリーンを城から追い払う口実だろう、と、二人の騎士には察しがつく。
「なかなか気の毒な王女殿下ですね」
「だよなぁ……王族ってのも、楽じゃない」
「はい。民のために生きる生き物ですから、それを利用されます」
おそらく馬車に乗っている王女も同じだろう、と、カズールは馬車の中のまだみぬ王女に僅かに心を寄せた。
その少し前、フーリ王妃と娘たちは、離れゆく馬車を城の露台から眺めていた。
「これで邪魔者は全て消えた」
隣国ふうの、派手な髪飾りとメイクを施した顔を醜く歪めて笑う王妃は、部屋に飾ってある国王一家の肖像画を手にした。テーブルに置き、アイリーンを黒く塗りつぶした。
「ようやく手に入れた国を小娘にくれてやるものか」
このところ残虐化している帝国から、王女を一人差し出せと命令が来た時、王はフーリの長女を指名した。しかし、大国への輿入れとはいえ冷遇されることが明らかである。下手をしたら、反逆の罪で見せしめに首を切られるかもしれない。そんなところに愛娘を行かせるわけにはいかなかった。
「……我が祖国を蹂躙した一族の血など根絶やしになってしまえばいいのだ」
フーリは鮮やかな黄色のドレスを翻して、娘たちがくつろぐ居間へと移動した。
「お母さま、アイリーンは二度とここへは戻らないのですよね?」
「もちろんだよ……」
扇の影でくすりと笑う。
アイリーンが戻ってくることがあったとしてもその頃には、この国はフーリのものになっている。
贅沢な暮らしを維持するために王になにかとねだった。たちまち正妃と第二夫人に嫌われたが、気にならなかった。
謂れなき反逆の罪で帝国が突如派兵してきた後も変わらず、国庫はたちまち苦しくなった。にもかかわらず王妃たちはまったくお構いなしで民に重税を課し、徴兵まで行い、王家は見事に民に嫌われた。すべてフーリの計算どおりだったなどと知るものはない。
しかし国王の前ではしおらしい女を演じたのが奏功したのか、国王はマリーヌ妃が亡くなったあと空位だった正妃の座にフーリを昇格させたのだ。いい意味での誤算だった。
「お前たち、国王をやりたい者はいるかい?」
娘たちは驚き、お互いに顔を見合わせた。
「ああ。陛下の三番目の王子がこないだの戦で大手柄をあげただろう? 褒美に城を欲しがったらしくてな」
「じゃあ、あの王女はなんのために嫁いで来たんですか?」
「民や兵の抵抗を防ぐための人質だな。自分たちが抵抗したら側室になっている王女が殺されることくらいわかるだろ」
「そんなバカな……」
「親子ほど歳の離れたジジイに若い体を蹂躙されたあげく、祖国のために殺される王女なんて今まで何人もいたさ」
それが帝国のやり方さ、と、先輩が投げやりに言う。カズールは唇を強く噛んで、握った布の下で拳を固く握りしめた。憤り、悲しみ、そんな感情が、胸の奥で暴れる。帝国はいつも、勝手なのだ。
「そういえばカズール、あの王女なんだがな」
「はい」
「呪われているらしい」
はい? と、カズールが首を傾げた。
「なんでも右目が赤くて、オッドアイらしいぞ。その上、神の声と動物の声が聞こえる異能の持ち主なんだそうだ。これらを王家に災いなす存在だと決めつけたらしい」
本当に呪われているかどうかはさておき、アイリーンを城から追い払う口実だろう、と、二人の騎士には察しがつく。
「なかなか気の毒な王女殿下ですね」
「だよなぁ……王族ってのも、楽じゃない」
「はい。民のために生きる生き物ですから、それを利用されます」
おそらく馬車に乗っている王女も同じだろう、と、カズールは馬車の中のまだみぬ王女に僅かに心を寄せた。
その少し前、フーリ王妃と娘たちは、離れゆく馬車を城の露台から眺めていた。
「これで邪魔者は全て消えた」
隣国ふうの、派手な髪飾りとメイクを施した顔を醜く歪めて笑う王妃は、部屋に飾ってある国王一家の肖像画を手にした。テーブルに置き、アイリーンを黒く塗りつぶした。
「ようやく手に入れた国を小娘にくれてやるものか」
このところ残虐化している帝国から、王女を一人差し出せと命令が来た時、王はフーリの長女を指名した。しかし、大国への輿入れとはいえ冷遇されることが明らかである。下手をしたら、反逆の罪で見せしめに首を切られるかもしれない。そんなところに愛娘を行かせるわけにはいかなかった。
「……我が祖国を蹂躙した一族の血など根絶やしになってしまえばいいのだ」
フーリは鮮やかな黄色のドレスを翻して、娘たちがくつろぐ居間へと移動した。
「お母さま、アイリーンは二度とここへは戻らないのですよね?」
「もちろんだよ……」
扇の影でくすりと笑う。
アイリーンが戻ってくることがあったとしてもその頃には、この国はフーリのものになっている。
贅沢な暮らしを維持するために王になにかとねだった。たちまち正妃と第二夫人に嫌われたが、気にならなかった。
謂れなき反逆の罪で帝国が突如派兵してきた後も変わらず、国庫はたちまち苦しくなった。にもかかわらず王妃たちはまったくお構いなしで民に重税を課し、徴兵まで行い、王家は見事に民に嫌われた。すべてフーリの計算どおりだったなどと知るものはない。
しかし国王の前ではしおらしい女を演じたのが奏功したのか、国王はマリーヌ妃が亡くなったあと空位だった正妃の座にフーリを昇格させたのだ。いい意味での誤算だった。
「お前たち、国王をやりたい者はいるかい?」
娘たちは驚き、お互いに顔を見合わせた。
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