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:助けて、マティスー3:
しおりを挟むしかし、王として、皇子のお見舞いにいかないわけにはいかない。
己に手ひどいことをした男にどんな顔をして会えばいいのか――と、ローテローゼが至極まっとうなことを悩んでいると、
「少しよろしいでしょうか」
と、控えめな声がした。宰相だ。
「どうぞ」
ベッドの上に上半身を起こしたローテローゼが声をかけると、困ったような顔の宰相がしずしずと近寄ってきた。
「宰相、なんだかいろいろと、ごめんなさいね」
宰相が、さっと手を振り人払いをする。周囲に残っていたわずかな人々が、そっと頭を下げて退室する。
「ローテローゼさま、お加減はいかがでしょうか?」
「体がまだ上手く動かないわ。マティスは、無理矢理飲まされた薬の影響だろうって。で、その手紙はなに?」
「皇子の乳母と名乗る老女が、どうしても今回の騒動を陛下とローテローゼさまに謝罪したい、と……」
「……謝罪?」
「はい。加害者としてローテローゼさまが疑われていると聞いて慌てて書いたようです」
どういうことかしら、と、ローテローゼがわずかに首を傾げた。
「どうやら、ヴァーン皇子に暴行を働き、その挙句、めった刺しにしたのは別の国の姫だった模様――」
えええ? と、ローテローゼの目と口が丸くなる。
「俄かには信じられませんが……とにかく、その、騒動のお詫びだそうです。ローテローゼさま宛ての書状と、国王宛ての書状にございます」
まって、とローテローゼは片手をあげた。
「そもそも……なんだけど。ヴァーン皇子は王女ローテローゼを襲った、そういうことになってるのね?」
「はい。ヴァーン皇子が『ローテローゼ王女を抱いていたら背後から殴られて刺された助けてくれ』と血まみれの姿で廊下で喚きましたもので……」
カッとローテローゼの顔が赤くなった。城のものに、ロストバージンしたことを知られてしまったわけである。恥ずかしいが、知れてしまったものは致し方ない。
「すぐに箝口令をしき、王女は極秘任務先から一時帰還したところを運悪く皇子に襲われた――としてあります」
「そう……。で、よその姫が皇子を襲ったのね」
「はい。乳母どののお手紙には姫君のお名前は書かれてありませんが、どうやら我が国へ到着してから皇子が口説いた姫の一人らしく、外道皇子にすっかり惚れ込み、皇子が他の女、それも自分より身分の高い女性を抱くのは許せぬと凶行に及んだようです」
どこぞの宮廷物語、貴族の醜聞より生々しい話である。
「こっそりと乳母殿に話を聞いて参りましたが――その姫の言い分によりますと、皇子は我が国に到着して以来、毎日、違う女性にせっせと声をかけ、隙あらば空き部屋に連れ込んでいるとか……」
ローテローゼとマティスが顔を見合わせた。互いに目がまん丸になっている。開いた口が塞がらないとはこのことであろうか。
「空き部屋の管理の徹底をお願いね、宰相」
「は、かしこまりました」
「それにしても……女癖の悪い下郎と言うか、なんと言うか……タフすぎる男も困ったものだな」
「まぁ、自国の皇子の手癖の悪さから流血沙汰になったわけで、謝罪したいという乳母殿のお気持ちもわかりますな。いかがいたしましょうか」
そうね、と、ローテローゼはため息を吐いた。
「王としては……出来るだけ早急に謝罪を受けなければいけないわね。皇子の容体が安定してからでいいと思うのだけれど――。うーん、そうね、まず王として会いましょう。しばらく対外的には、ローテローゼは今回の事件のショックから離宮に静養に出たことにしておいてちょうだい」
「承知いたしました――それで、よろしいのですね? あなたさまには、ずっと男装でベルナールさまとしてふるまっていただかねばなりません」
宰相が心底心配そうにローテローゼの顔を見つめる。大丈夫よ、と、ローテローゼは気丈に笑った。
「男装一本に絞った方がわたしも楽だと思うの。それに、マティスも宰相も、わたしを助けてくれるでしょう?」
もちろんです、と、二人が頷く。
「では心強いわ。宰相、手配を」
「承知いたしました。それからローテローゼさま、一つお伺いいたします」
「なに?」
「皇子は――なぜ、ローテローゼさまを襲ったのでしょうか? ローテローゼさまがそのような隙をお与えになるとは思えず……」
そうよねぇ、と、ローテローゼは力なく笑った。
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