【完結】身代わりで男装した王女は宮廷騎士の手で淫らに健気に花開く

酉埜空音

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:身代わりの復活ー3:

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 どのくらいの時間がたったかーー。
 宰相とマティスは、淡々と話すローテローゼの話をじっと聞いた。
 王国内のこと、国交のこと、被害に遭っているであろう女の子たちのこと、兄のこと……気がかりの中に自分のことが何一つ入っていないのがいかにもローテローゼらしくもあり、宰相は唸った。

 語り終えたローテローゼは、ソファーに深く身を沈めた。
 手足が冷えて、体がこわばっているのが自分でもわかる。
 何度も深呼吸をしていたら、慣れ親しんだ薔薇の香りに気が付いた。
「どうぞ」
 いつの間にかマティスが、薔薇の紅茶を淹れてくれていたのだ。
「これは、わたしの母が作った薔薇の花びらの紅茶です」
「ありがとう……」
 そっと口をつける。一瞬にして薔薇の花に包まれたかのような、不思議な安心感があった。
「うん、美味しい!」
 宰相の前にもカップが置かれ、宰相も喉を潤す。
「なんと! これは美味ですな……」
「ええ、美味しいわ! 花びら独特の味もしないし、甘すぎない……素晴らしいわ!」
「母が喜びます」
 しばらく紅茶を楽しんでいたローテローゼの頬に赤みがさし、表情も少し晴れやかになった。マティスと宰相はそっと目線を交わらせて小さく頷きあう。
 あ、そうそう、と、ローテローゼが膝を打った。
「あのね――宰相。お兄さまに子がいない今、王位継承権第一位はわたしよね?」
「はい」
「じゃあ、もしも……お兄さまが駆け落ちしたままで、わたしがお城からいなくなったら、王位は空っぽのまま? それとも――ほら、あのお父さまの異母兄? あの方に継承権が移るのかしら?」
 宰相とマティスが、同時にローテローゼを見た。
「ローテローゼさま、何をお考えですか? というか、どこからそんなお考えが?」
 マティスが、思い切り眉根を寄せて尋ねる。宮廷騎士にあるまじき表情であるが、今は誰も咎めはしない。
「えっと、あのね。わたしはヴァーン皇子の側室になれという申し出を受け入れたことになるのかな、と思って……」
 なんだって? と、マティスが荒々しく立ち上がった。
「マティス、落ち着きなさい」
「失礼しました」
「まったく……。ローテローゼさまのことになると落ち着きを欠くのは相変わらずだな……」
「すみません……」
 マティスがソファーに腰を下ろす。
「わたし、皇子の申し出をきちんと断ったかどうか、自信が持てないの。断れていないのだとしたら、ヴァーン皇子の側室って話を了承したことになると思うの。他国に嫁いだら王位継承権は消滅するのか、それともそのままなのか……」
 言い終わらないうちにマティスが再び立ち上がった。
「脅されてかわした契約なんて、無効ですよ、無効! 有り得ない、そんなっ!」
「そ、そうかしら……」
「当たり前だ! なんて皇子だ、わかっちゃいたけど、とんでもない外道だぞ、アレは! どうやって制裁を……目に見えないところを斬りつけるか、決闘を申し込むか……いやいや、ちょん切って二度と抱けないようにするか、踏みつぶしてやるか……」
 マティスの目が完全に据わってしまっている。今にも腰の剣を抜いて皇子の部屋を襲撃しそうな勢いですらある。これにはローテローゼが慌ててしまった。
「ね、ね、マティス……わたし、今からでもちゃんとお断りしてくるから……」
 だが、怒れるマティスにはローテローゼの声すら届かないらしい。銀色の髪が、心なしか逆立っているようにも見える。
「鬼気迫るマティス、鬼の形相のマティス……珍しい物を見たわ……ってなんでマティス、そんなに怒るのよっ……」
 当たり前ですよ、と、喚いたマティスはローテローゼを抱きしめた。
「うっ!?」
「何度も言ったのに……! いいですか、俺は姫を愛しているんです。だから、姫が心から愛した男の元へ嫁に行くなら、たとえそれがどんな腐れ外道だろうが下種が服着て歩いているような変態男だろうが、不道徳に手足が生えたような下半身脳みそ直結男だろうが、俺は構わないんだ。それで姫が幸せでいられるなら、あなたが心穏やかにすごせるなら、異国でも地獄でもいい」
「え。あ、うん……」
「しかし、姫が望んでいないことを強いられるのは、見ていて俺もつらい。ベルナールさまの身代わりを押し付けておきながら、俺も勝手だけど……望まぬ男の元へ、しかも、側室だなんて許せない! それで姫が幸せになれるとは思えないから!」
 かぁ、と、ローテローゼが真っ赤になった。宰相に「助けて」と目線を送るが、どうしたことか素知らぬ顔をされてしまった。
「姫が幸せになれないのなら、俺は誰にだって歯向かうし、なんなら――姫をその男の元から浚ってやる」
「ちょっと、ま、マティス……なにその、強烈な愛の告白……」
 全部の歯が浮いてそこらに散らばりそうなセリフだが、今はローテローゼの心に届いてしまった。
「なんだ? 俺の愛に今頃気付いたのか?」
「……ごめんなさい……」
「だから俺は、ヴァーン皇子が許せない。やっぱり叩き切ってやりたい! いや、やるなら今だ……今こそ、愛する姫のために戦う! 俺は騎士だから」
 いまから敵陣へ突っ込んでいく騎士のようである。
 さすがに宰相が、「落ち着きなさい」と、無理やり座らせて紅茶のカップを持たせる始末だ。
「……ローテローゼさま、その契約が有効か無効かはさておき、我が国において王位継承権は生涯消えることはありません。マティスと夫婦になって市井で暮らしても、ヴァ……いや、異国の子弟と他国で暮らしても、ノワゼット王国の王位継承者であることにかわりはありません」
「……そうよね、だからお父さまの異母兄が玉座を狙うのよね……」
 そういえばそんな問題もあったな、と、マティスがため息をついた。
「怪しげな暗殺者、お兄さまの駆け落ち、ヴァーン皇子の騒動……戴冠式をやるだけなのにずいぶんな騒ぎになっちゃったわね……」
 ローテローゼの嘆きに、宰相とマティスが心底同意した。
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