ドS変態若社長に調教溺愛されそうなので全力で回避したいけど無理かもしれない

酉埜空音

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:メイド、逃走開始:

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 彩葉いろは が近頃愛読している小説は『ティーンズラブ小説』である。ネットだとTL小説と表記されることも多い。
 そして、愛読している漫画は『ティーンズラブコミック』である。
 ティーンズとあるが中を開いてみれば主人公は二十歳前後、大学生だったりOLだったり、つまりは彩葉と同世代の女の子たちだ。
 なぜかというと、恋愛小説であるがもれなく官能シーンがついているから。
 しかし女性向けのため、多少過激ではあっても下品ではない。いや、多少どころかかなり激しいものもあり――彩葉はそっちの方が好みである。

 嘘か本当かは知らないが、かつてはこのジャンル、その名の通りティーンたちの恋愛模様がセックス込みで描かれていたそうである。
 だが、保護者達からのクレームが『然るべきところ』にガンガン入ったらしく、已む無く主人公の年齢が二十歳前後に引き上げられたらしい。

 とはいえ、エロキュンな小説や漫画であることには変わりがない。
 表紙を見るだけでキラキラしていて、あらすじをよむだけでワクワクする。
 そのうえ、近頃ではいろんなシチュエーションがあって、身分差歳の差体格差人外出来婚異世界転生……などなどなんでもある。

「はぁぁ、素敵……」

 と、夜な夜なベッドの中できゅんきゅんしているのである。

 特に彩葉は、溺愛モノも政略結婚モノも好きではあるが、その中でも『ドS』な『暴君』に強引に身も心も愛されるようなストーリーが大好物なのだ。
 嫌だと言いながら強引に王子様に迫られたり縛られたりトロトロに甘やかされたり、夜じゅう大きなベッドで抱かれて放してもらえなかったり所かまわず挿入されてみたり――。
 それらの甘くて淫らなストーリーは読んでいるこちらまで卑猥……ではなく、幸せな心地になってくる。そう、はっきり言って彩葉は『暴君』や『S系』が大好きなのだ。
 強引に身も心も愛されるヒロインが羨ましいとさえ思う。命令されて逆らえなくて……でも気付いたら惹かれていて……そういうシチュエーションに憧れる。

 しかしながら――。

 現実世界では『ドS』や『暴君』や『肉食系』とお近づきになってはいけないと、父に口うるさく言われていた。簡単に食われてしまって大変なことになるからね、と。
 それを信じたわけではないが、彩葉も学生時代は忠実にそれを守っていた。

 が――。

 ただいま絶賛『ドS』や『暴君』や『肉食系』と呼ばれるタイプの男が接近中! なのである。

「現実世界でなら、優しくて思いやりがあって知的で……あたしのことを丸ごと愛してくれる旦那さまがいい……そう思ってたのに! こんなの違うし!」
「何の話だ!」
「げっ、地獄耳!」
「だいたい、お前、いいかげんに止まれ!」
 彩葉はいま、先述の理想とは大きくかけ離れた獣のような男に追いかけられている。
 足を少しでも緩めればたちまち噛み付かれて骨までしゃぶりつくされてしまう、そんな危機感に煽られて、ふかふかの絨毯が敷き詰められた廊下を全力疾走中なのだ。
「こら、止まれ!」
 逃げるのもあたしの自由でしょ、と心の中でのみ、返事をする彩葉である。
「お前、召使いの分際でご主人様の命令に逆らうとはいい度胸じゃないか」
「えーっ、自分でゴシュジンサマとか言っちゃうなんてありえない!」
 減点! いや、幻滅。やっぱりこれも、心の中で叫ぶ。
「お前うるさい黙れ! 止まれ!」
「だいたいあたしは、お前って名前じゃありません」
「なんだと!?」
「なので、あたしは何も命令されていません」
 なんて生意気な召使いだ! と、怒気交じりの叫びが背後で聞こえるが、そこは聞こえなかったふりで彩葉は走る。

 人間、しかも成人した二人がどたばたと走り回ってなお余裕があるとはなんて広いお屋敷なのだとしみじみ思いながら、年季の入った螺旋階段を一段飛ばしで飛ぶように駆けのぼる。しなやかな動きの彩葉は、まるで高級な猫のようである。
 目的地は、五階の端にある部屋だ。
 そこに飛び込んで鍵さえかけてしまえば彩葉の勝ち。獣も、鍵を無理にあけて追いかけてくるようなことはしない。
「もう少しっ……」
 だが、
「そこのメイド服をきた女、直ちに止まりなさい!」
 と、螺旋階段の下から、獣が叫ぶ。
 まるでパトカーが非行少年に呼びかけるような言い方に、彩葉はなぜだかカチンときた。
「やーだよー!」
 螺旋階段の下に向かって叫ぶ。ついでにあっかんべー……とやりたいところだが、はしたないのでやめておく。仮にも社長令嬢であるので。
「ガキかっ!」
「いいえ、子供ではありません」
「なにっ」
「先月の誕生日で二十歳になりました。立派な成人です」
 そういう意味じゃねぇ、と地団太踏みながら喚く声。
 ついでに良家のお坊ちゃまにあるまじき言葉遣いで罵ってくる。お父さまに叱られますよ、と言ってやりたいが、それを指摘する余裕は彩葉にはない。
 ついでに彩葉は、あたしの職業は召使ではなくてお屋敷のメイド(ただし、臨時雇い)です、と心の中で付け加えて足をせっせと動かす。
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