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:若社長、呟く:
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辰之進は冷や汗をかいていた。
「辰之進、いいかげんに止まりなさーい!」
怒号にひょいと首をすくめた辰之進はいま、手負いの獣のような女に追いかけられている。
足を少しでも緩めればたちまち追いつかれ、噛み付かれて投げ飛ばされ、骨までしゃぶりつくされてしまう、そんな危機感に煽られて、ふかふかの絨毯が敷き詰められた自分の家の廊下を全力疾走中なのだ。
しかも、獣の脚力は県内トップレベルである。辰之進とて鈍足ではないはずなのだが……。
「こらぁ! 止まりなさーい!」
「くっ……」
逃げるのも俺の自由のはずだ、と心の中で返事をする辰之進である。
「辰之進! あたしの命令に逆らうとはいい度胸じゃないか」
「えーっ、いつからお前が命令を出す立場になったんだ」
「今日からよ!」
お前の雇い主は俺のはずだが、と、心の中で叫ぶ。もっとも、雇用関係は間もなく終了し、婚姻関係になるはずである。
「そんなはずないだろ」
「うるさい! 黙れ! いますぐ止まれ! この変態!」
彩葉の叫びが聞こえるが聞こえないふりをして走る。
「いいじゃないか、そのくらいで怒るなよ」
「いいわけないでしょ、変態! 絶倫馬鹿社長っ!」
びゅん、と何かを投げる音がしたーーような気がして、辰之進は体を急反転させた。
「う、うわ」
辰之進の顔面目掛けて飛んでくる小さな物体をキャッチして無事を確認する。
「彩葉、お前これを何だと心得る!」
どこぞのご老公の側近が印籠を見せながらいいそうなセリフだが辰之進は至って真面目。
「何よ、骨董でしょ。うちの裏庭の蔵にあったものよ。どうせ融資と引き換えにパパが持ってきたガラクタでしょ」
「何がガラクタなものか!」
辰之進の目がくわっ! と開かれた。大事そうに抱え込む茶色い花瓶ーー人間国宝が丹精込めた備前焼の花瓶である。
「え、人間国宝!? これが?」
「然るべき博物館に並ぶ作品だな」
さすがに彩葉の顔色がかわる。
「う、うそ……」
「壊したらきっと大変だぞ」
「どうしてそんな貴重品が無造作に廊下に出窓に飾ってあるの」
「……九条はこれを投げようとするアホがいるとは思わなかったんだろうな……」
「貴重品だものね」
「うむ」
「まって、地震で倒れたら大変よ」
「それもそうだな。あとで、博物館に連絡するよう執事に言っておく」
ことり、と花瓶を出窓に戻す。と、彩葉が辰之進の上着の裾をがしっと掴んだ。
「ん?」
「……捕まえた」
「げっ!」
本能的に、辰之進は逃げようとした。が。
「逃がすものですか!」
哀れ辰之進、華麗にわざをかけられ床に伸びたのである。
辰之進をリビングに連行した彩葉は激怒していた。白い顔が真っ赤になるほどに。ぐいっと辰之進の鼻先に突きつけられたものは、光沢のある布地の山ーードレスである。
「これ。少しは反省した?」
「…………1ミリほど」
「なっ……」
「仕方ないだろ、惚れた女が無防備に立ってたらヤりたくなるものだろ?」
「だからっ……あの状況で発情するとか信じられないの!」
辰之進はしれっとしているが、彩葉が怒るのも無理はなかった。
「ドレスを台無しにするつもり?」
「いいじゃないか、また作れば……」
「今から仕立てて間に合うわけないでしょ、馬鹿」
というのも、披露宴で着用するカラードレスがほぼ仕上ったので試しに着てみていたら、辰之進が様子を見にやってきた。
そこまでは、よかった。彩葉も上機嫌で、
「みてみて! 可愛い!」
と、辰之進の方へ体の向きを変えた。
「ほう。もう少し丈が短めでも良さそうだな」
と、あれこれと担当者と相談をし、担当者がウキウキと退室したのち、モデルでもある辰之進が、美しい立ち方、歩き方を教えてくれた。
「さすがねーーかっ……」
カッコいい、という世にも珍しい彩葉からの褒め言葉はキスによって妨害された。
「抱かせろ……」
「ふ、あ……!?」
「煌びやかなドレスの下は、こんな淫らな身体があるって誰も思わないよな」
あっという間に胸が飛び出してドレスがめくり上げられた。
「きゃ、な、何っ……」
「卑猥だな、カラードレスの下は黒の紐パン……」
するすると紐が解かれて、あっけなく床に落ちる黒い布。
「や、やだぁ……ドレスが……」
「ほら、彩葉の好きなオモチャだよ」
「ひゃ、ああ……!」
遠慮なく這いずり回るローターに、彩葉の意識は全て支配されてしまう。
「足を開いて……そう、壁に手を突いて腰を突き出して……」
もう一つ取り出されたローターが、彩葉の皮膚をなぞる。そうしながら、首筋や肩甲骨あたりを、辰之進がぺろりと舐め、強く吸う。
「あ、あ、やだっ……」
「イイの間違いだろ? 蜜がとろとろだよ」
彩葉の弱いところを知り尽くした男に的確に刺激され、彩葉の思考はあっという間に快楽に染まる。
「気持ちいいだろ……俺に身を任せろ」
「そ、そんな、ドレスが……!」
「気にする余裕があるのか」
低く笑う気配がし、振動が去った。ほっとするまもなく馴染みの感覚が押し当てられた。本当に挿入するのかと慌てて振り返るが、辰之進は意地悪く笑う。
「彩葉だってコレ、欲しいだろ?」
「……え……」
「ここでやめて、いいのか?」
それがどれだけの快感をくれるのか彩葉はよく知っている。しかし今は。
「欲しいだろ?」
後ろから覆い被さった辰之進が、背筋に舌を這わせながら彩葉の胸を揉む。クリクリと強めに突起を捏ねられて彩葉の脳裏は快楽に染まる。
「……こっちは正直だな。欲しいってさ」
雄芯が一気に押し込まれて彩葉の唇から喘ぎが漏れる。やめて、と言いながらも彩葉の背中が大きく撓って震える。
「彩葉……彩葉……」
「う、あ……」
「お前は俺のものだ……俺はお前に……」
ーー俺はお前にとってどんな存在だ? 俺はお前に愛されているだろうか?
辰之進の小さいが切実な呟きは彩葉に届かない。
「辰之進、いいかげんに止まりなさーい!」
怒号にひょいと首をすくめた辰之進はいま、手負いの獣のような女に追いかけられている。
足を少しでも緩めればたちまち追いつかれ、噛み付かれて投げ飛ばされ、骨までしゃぶりつくされてしまう、そんな危機感に煽られて、ふかふかの絨毯が敷き詰められた自分の家の廊下を全力疾走中なのだ。
しかも、獣の脚力は県内トップレベルである。辰之進とて鈍足ではないはずなのだが……。
「こらぁ! 止まりなさーい!」
「くっ……」
逃げるのも俺の自由のはずだ、と心の中で返事をする辰之進である。
「辰之進! あたしの命令に逆らうとはいい度胸じゃないか」
「えーっ、いつからお前が命令を出す立場になったんだ」
「今日からよ!」
お前の雇い主は俺のはずだが、と、心の中で叫ぶ。もっとも、雇用関係は間もなく終了し、婚姻関係になるはずである。
「そんなはずないだろ」
「うるさい! 黙れ! いますぐ止まれ! この変態!」
彩葉の叫びが聞こえるが聞こえないふりをして走る。
「いいじゃないか、そのくらいで怒るなよ」
「いいわけないでしょ、変態! 絶倫馬鹿社長っ!」
びゅん、と何かを投げる音がしたーーような気がして、辰之進は体を急反転させた。
「う、うわ」
辰之進の顔面目掛けて飛んでくる小さな物体をキャッチして無事を確認する。
「彩葉、お前これを何だと心得る!」
どこぞのご老公の側近が印籠を見せながらいいそうなセリフだが辰之進は至って真面目。
「何よ、骨董でしょ。うちの裏庭の蔵にあったものよ。どうせ融資と引き換えにパパが持ってきたガラクタでしょ」
「何がガラクタなものか!」
辰之進の目がくわっ! と開かれた。大事そうに抱え込む茶色い花瓶ーー人間国宝が丹精込めた備前焼の花瓶である。
「え、人間国宝!? これが?」
「然るべき博物館に並ぶ作品だな」
さすがに彩葉の顔色がかわる。
「う、うそ……」
「壊したらきっと大変だぞ」
「どうしてそんな貴重品が無造作に廊下に出窓に飾ってあるの」
「……九条はこれを投げようとするアホがいるとは思わなかったんだろうな……」
「貴重品だものね」
「うむ」
「まって、地震で倒れたら大変よ」
「それもそうだな。あとで、博物館に連絡するよう執事に言っておく」
ことり、と花瓶を出窓に戻す。と、彩葉が辰之進の上着の裾をがしっと掴んだ。
「ん?」
「……捕まえた」
「げっ!」
本能的に、辰之進は逃げようとした。が。
「逃がすものですか!」
哀れ辰之進、華麗にわざをかけられ床に伸びたのである。
辰之進をリビングに連行した彩葉は激怒していた。白い顔が真っ赤になるほどに。ぐいっと辰之進の鼻先に突きつけられたものは、光沢のある布地の山ーードレスである。
「これ。少しは反省した?」
「…………1ミリほど」
「なっ……」
「仕方ないだろ、惚れた女が無防備に立ってたらヤりたくなるものだろ?」
「だからっ……あの状況で発情するとか信じられないの!」
辰之進はしれっとしているが、彩葉が怒るのも無理はなかった。
「ドレスを台無しにするつもり?」
「いいじゃないか、また作れば……」
「今から仕立てて間に合うわけないでしょ、馬鹿」
というのも、披露宴で着用するカラードレスがほぼ仕上ったので試しに着てみていたら、辰之進が様子を見にやってきた。
そこまでは、よかった。彩葉も上機嫌で、
「みてみて! 可愛い!」
と、辰之進の方へ体の向きを変えた。
「ほう。もう少し丈が短めでも良さそうだな」
と、あれこれと担当者と相談をし、担当者がウキウキと退室したのち、モデルでもある辰之進が、美しい立ち方、歩き方を教えてくれた。
「さすがねーーかっ……」
カッコいい、という世にも珍しい彩葉からの褒め言葉はキスによって妨害された。
「抱かせろ……」
「ふ、あ……!?」
「煌びやかなドレスの下は、こんな淫らな身体があるって誰も思わないよな」
あっという間に胸が飛び出してドレスがめくり上げられた。
「きゃ、な、何っ……」
「卑猥だな、カラードレスの下は黒の紐パン……」
するすると紐が解かれて、あっけなく床に落ちる黒い布。
「や、やだぁ……ドレスが……」
「ほら、彩葉の好きなオモチャだよ」
「ひゃ、ああ……!」
遠慮なく這いずり回るローターに、彩葉の意識は全て支配されてしまう。
「足を開いて……そう、壁に手を突いて腰を突き出して……」
もう一つ取り出されたローターが、彩葉の皮膚をなぞる。そうしながら、首筋や肩甲骨あたりを、辰之進がぺろりと舐め、強く吸う。
「あ、あ、やだっ……」
「イイの間違いだろ? 蜜がとろとろだよ」
彩葉の弱いところを知り尽くした男に的確に刺激され、彩葉の思考はあっという間に快楽に染まる。
「気持ちいいだろ……俺に身を任せろ」
「そ、そんな、ドレスが……!」
「気にする余裕があるのか」
低く笑う気配がし、振動が去った。ほっとするまもなく馴染みの感覚が押し当てられた。本当に挿入するのかと慌てて振り返るが、辰之進は意地悪く笑う。
「彩葉だってコレ、欲しいだろ?」
「……え……」
「ここでやめて、いいのか?」
それがどれだけの快感をくれるのか彩葉はよく知っている。しかし今は。
「欲しいだろ?」
後ろから覆い被さった辰之進が、背筋に舌を這わせながら彩葉の胸を揉む。クリクリと強めに突起を捏ねられて彩葉の脳裏は快楽に染まる。
「……こっちは正直だな。欲しいってさ」
雄芯が一気に押し込まれて彩葉の唇から喘ぎが漏れる。やめて、と言いながらも彩葉の背中が大きく撓って震える。
「彩葉……彩葉……」
「う、あ……」
「お前は俺のものだ……俺はお前に……」
ーー俺はお前にとってどんな存在だ? 俺はお前に愛されているだろうか?
辰之進の小さいが切実な呟きは彩葉に届かない。
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