異世界転移した先は陰間茶屋でした

四季織

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番外編 勇者と聖女とおまけの俺2

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 約束通り、北小路くんは視察の合間を縫って顔を出してくれた。
 毎日のように街や港、郊外の農園などを殿下と共に視察しているのに、疲れ知らずなのは10代だからか勇者だからか。

 ちなみに、灯さんの力の不安定さは、召喚魔法陣に欠陥があったせいだと分かった。
 手の平に水くらいはともかく、この前のような雨を降らせるほどの奇跡はそうそう起こせないらしい。
 感情の昂ぶりも影響しているらしいけど、詳しく調査はしないそうだ。
 神殿はそれでも象徴として聖女の身柄を要求してきたようだけど、気づいたら神殿支部長や幹部が総入れ替えしてて、灯さんの周りも大人しくなっていた。


「そっか、二人はもう20過ぎてるからお酒飲めるんですね」
「颯人くんっていくつ?」
「この前、18になりました」
「この国の成人って15だから、飲んでも構わないんじゃない?」
「北小路くん、お酒飲んだことないんだ?」

 頷いた北小路くんに、俺と灯さんは顔を見合わせた。

「じゃあ、これから飲みに行く?」

 灯さんの誘いに北小路くんは年相応に顔を輝かせていた。可愛いな。

 入った居酒屋は漁師や船乗りといった逞しい男達で賑わっていた。
 店先に赤提灯がぶら下がった洒落っ気がまったくない店だ。

 北小路くんは椅子代わりの樽に座ってそわそわ周りを見渡してたけど、実は俺だって興奮していた。
 この世界に来てほぼ引きこもり生活をしてた俺は、まだ居酒屋で飲んだことがないんだ。

 女給さんにおすすめを見繕ってもらって、受け取ったジョッキにほくほくしながら乾杯した。

 あぁ、喉越しがビールだ。
 そういや、この世界に来てからアルコール自体摂取してなかったなぁ。

 と。
 向かいを見て、ギョッとした。
 俺が味見がてら一口飲んでた間に、灯さんは一気飲みし終わっていた。

「颯人くん、無理しないでね」

 言ってることはいつもの優しい灯さんなのに、もうお代わりを注文してる。

 肝心の北小路くんは、なんか解せない顔をしていた。
 なんだろう、この眉間にシワが寄って口をムズムズさせてる表情。美味しくないんだな。

「ご飯食べな、北小路くん」
「う。はぁ」

 魚を揚げたようなものを皿によそってあげる。
 灯さんはまたお代わりを頼んでいた。

 結局、北小路くんはお酒に弱かった。それもめっちゃ弱い。
 二口ほど口をつけた程度で真っ赤になって、今はテーブルに突っ伏してる。

 反対に、灯さんはザルだった。
 目の前には空のジョッキが5つ、それに瓶で貰った焼酎もどきを自分で割って飲んでいる。
「勿体ないね」って、北小路くんの残した分も飲み干してた。

 まるでイメージと真逆だ、二人とも。
 焼酎もどきの瓶を空にした辺りで、灯さんが言った。
 
「そろそろお会計しようか……あれ?」
「ん?」

 灯さんが目をやった方向へ俺も振り返る。
 扉を開けて入ってきた人に、思いっきり見覚えがあった。

 ユーシス殿下だ。
 黒ずくめで眼鏡は外してたけど、長い金髪となにより顔で分かる。もしかしてあれで変装したつもりなのかな。

 殿下は迷うことなく、真っ直ぐこちらのテーブルに来た。

「世話をかけましたね」

 というと、酔っ払って寝てしまった北小路くんを姫抱っこで持ち上げた。

「さあ、帰りましょう、颯人」

 筋肉質な北小路くんを難なく持ち上げ、赤い頬に唇を落としてから殿下は帰っていった。

 最近話題の王子殿下の登場に、周囲のおっちゃん達の視線とざわめきが痛い。

「……俺達、今日飲むって急に決めたよね」
「……颯人くん、殿下に店のこと連絡してたっけ?」
「えぇ……ストー……」

 不敬罪で罰せられるのが怖いので、俺は言葉を飲み込んだ。

 あとで、俺達の分も殿下が支払いを済ませてくれてたことを知った。
 そつのない大人な対応に感謝すべきなのだろうが。
 素直に喜べないのは、なんでだろうか。

 もう、北小路くんは飲みに誘わない。灯さんと誓った。


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