35 / 38
番外編 勇者と聖女とおまけの俺2
しおりを挟む
約束通り、北小路くんは視察の合間を縫って顔を出してくれた。
毎日のように街や港、郊外の農園などを殿下と共に視察しているのに、疲れ知らずなのは10代だからか勇者だからか。
ちなみに、灯さんの力の不安定さは、召喚魔法陣に欠陥があったせいだと分かった。
手の平に水くらいはともかく、この前のような雨を降らせるほどの奇跡はそうそう起こせないらしい。
感情の昂ぶりも影響しているらしいけど、詳しく調査はしないそうだ。
神殿はそれでも象徴として聖女の身柄を要求してきたようだけど、気づいたら神殿支部長や幹部が総入れ替えしてて、灯さんの周りも大人しくなっていた。
「そっか、二人はもう20過ぎてるからお酒飲めるんですね」
「颯人くんっていくつ?」
「この前、18になりました」
「この国の成人って15だから、飲んでも構わないんじゃない?」
「北小路くん、お酒飲んだことないんだ?」
頷いた北小路くんに、俺と灯さんは顔を見合わせた。
「じゃあ、これから飲みに行く?」
灯さんの誘いに北小路くんは年相応に顔を輝かせていた。可愛いな。
入った居酒屋は漁師や船乗りといった逞しい男達で賑わっていた。
店先に赤提灯がぶら下がった洒落っ気がまったくない店だ。
北小路くんは椅子代わりの樽に座ってそわそわ周りを見渡してたけど、実は俺だって興奮していた。
この世界に来てほぼ引きこもり生活をしてた俺は、まだ居酒屋で飲んだことがないんだ。
女給さんにおすすめを見繕ってもらって、受け取ったジョッキにほくほくしながら乾杯した。
あぁ、喉越しがビールだ。
そういや、この世界に来てからアルコール自体摂取してなかったなぁ。
と。
向かいを見て、ギョッとした。
俺が味見がてら一口飲んでた間に、灯さんは一気飲みし終わっていた。
「颯人くん、無理しないでね」
言ってることはいつもの優しい灯さんなのに、もうお代わりを注文してる。
肝心の北小路くんは、なんか解せない顔をしていた。
なんだろう、この眉間にシワが寄って口をムズムズさせてる表情。美味しくないんだな。
「ご飯食べな、北小路くん」
「う。はぁ」
魚を揚げたようなものを皿によそってあげる。
灯さんはまたお代わりを頼んでいた。
結局、北小路くんはお酒に弱かった。それもめっちゃ弱い。
二口ほど口をつけた程度で真っ赤になって、今はテーブルに突っ伏してる。
反対に、灯さんはザルだった。
目の前には空のジョッキが5つ、それに瓶で貰った焼酎もどきを自分で割って飲んでいる。
「勿体ないね」って、北小路くんの残した分も飲み干してた。
まるでイメージと真逆だ、二人とも。
焼酎もどきの瓶を空にした辺りで、灯さんが言った。
「そろそろお会計しようか……あれ?」
「ん?」
灯さんが目をやった方向へ俺も振り返る。
扉を開けて入ってきた人に、思いっきり見覚えがあった。
ユーシス殿下だ。
黒ずくめで眼鏡は外してたけど、長い金髪となにより顔で分かる。もしかしてあれで変装したつもりなのかな。
殿下は迷うことなく、真っ直ぐこちらのテーブルに来た。
「世話をかけましたね」
というと、酔っ払って寝てしまった北小路くんを姫抱っこで持ち上げた。
「さあ、帰りましょう、颯人」
筋肉質な北小路くんを難なく持ち上げ、赤い頬に唇を落としてから殿下は帰っていった。
最近話題の王子殿下の登場に、周囲のおっちゃん達の視線とざわめきが痛い。
「……俺達、今日飲むって急に決めたよね」
「……颯人くん、殿下に店のこと連絡してたっけ?」
「えぇ……ストー……」
不敬罪で罰せられるのが怖いので、俺は言葉を飲み込んだ。
あとで、俺達の分も殿下が支払いを済ませてくれてたことを知った。
そつのない大人な対応に感謝すべきなのだろうが。
素直に喜べないのは、なんでだろうか。
もう、北小路くんは飲みに誘わない。灯さんと誓った。
毎日のように街や港、郊外の農園などを殿下と共に視察しているのに、疲れ知らずなのは10代だからか勇者だからか。
ちなみに、灯さんの力の不安定さは、召喚魔法陣に欠陥があったせいだと分かった。
手の平に水くらいはともかく、この前のような雨を降らせるほどの奇跡はそうそう起こせないらしい。
感情の昂ぶりも影響しているらしいけど、詳しく調査はしないそうだ。
神殿はそれでも象徴として聖女の身柄を要求してきたようだけど、気づいたら神殿支部長や幹部が総入れ替えしてて、灯さんの周りも大人しくなっていた。
「そっか、二人はもう20過ぎてるからお酒飲めるんですね」
「颯人くんっていくつ?」
「この前、18になりました」
「この国の成人って15だから、飲んでも構わないんじゃない?」
「北小路くん、お酒飲んだことないんだ?」
頷いた北小路くんに、俺と灯さんは顔を見合わせた。
「じゃあ、これから飲みに行く?」
灯さんの誘いに北小路くんは年相応に顔を輝かせていた。可愛いな。
入った居酒屋は漁師や船乗りといった逞しい男達で賑わっていた。
店先に赤提灯がぶら下がった洒落っ気がまったくない店だ。
北小路くんは椅子代わりの樽に座ってそわそわ周りを見渡してたけど、実は俺だって興奮していた。
この世界に来てほぼ引きこもり生活をしてた俺は、まだ居酒屋で飲んだことがないんだ。
女給さんにおすすめを見繕ってもらって、受け取ったジョッキにほくほくしながら乾杯した。
あぁ、喉越しがビールだ。
そういや、この世界に来てからアルコール自体摂取してなかったなぁ。
と。
向かいを見て、ギョッとした。
俺が味見がてら一口飲んでた間に、灯さんは一気飲みし終わっていた。
「颯人くん、無理しないでね」
言ってることはいつもの優しい灯さんなのに、もうお代わりを注文してる。
肝心の北小路くんは、なんか解せない顔をしていた。
なんだろう、この眉間にシワが寄って口をムズムズさせてる表情。美味しくないんだな。
「ご飯食べな、北小路くん」
「う。はぁ」
魚を揚げたようなものを皿によそってあげる。
灯さんはまたお代わりを頼んでいた。
結局、北小路くんはお酒に弱かった。それもめっちゃ弱い。
二口ほど口をつけた程度で真っ赤になって、今はテーブルに突っ伏してる。
反対に、灯さんはザルだった。
目の前には空のジョッキが5つ、それに瓶で貰った焼酎もどきを自分で割って飲んでいる。
「勿体ないね」って、北小路くんの残した分も飲み干してた。
まるでイメージと真逆だ、二人とも。
焼酎もどきの瓶を空にした辺りで、灯さんが言った。
「そろそろお会計しようか……あれ?」
「ん?」
灯さんが目をやった方向へ俺も振り返る。
扉を開けて入ってきた人に、思いっきり見覚えがあった。
ユーシス殿下だ。
黒ずくめで眼鏡は外してたけど、長い金髪となにより顔で分かる。もしかしてあれで変装したつもりなのかな。
殿下は迷うことなく、真っ直ぐこちらのテーブルに来た。
「世話をかけましたね」
というと、酔っ払って寝てしまった北小路くんを姫抱っこで持ち上げた。
「さあ、帰りましょう、颯人」
筋肉質な北小路くんを難なく持ち上げ、赤い頬に唇を落としてから殿下は帰っていった。
最近話題の王子殿下の登場に、周囲のおっちゃん達の視線とざわめきが痛い。
「……俺達、今日飲むって急に決めたよね」
「……颯人くん、殿下に店のこと連絡してたっけ?」
「えぇ……ストー……」
不敬罪で罰せられるのが怖いので、俺は言葉を飲み込んだ。
あとで、俺達の分も殿下が支払いを済ませてくれてたことを知った。
そつのない大人な対応に感謝すべきなのだろうが。
素直に喜べないのは、なんでだろうか。
もう、北小路くんは飲みに誘わない。灯さんと誓った。
30
あなたにおすすめの小説
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
ルピナスの花束
キザキ ケイ
BL
王宮の片隅に立つ図書塔。そこに勤める司書のハロルドは、変わった能力を持っていることを隠して生活していた。
ある日、片想いをしていた騎士ルーファスから呼び出され、告白を受ける。本来なら嬉しいはずの出来事だが、ハロルドは能力によって「ルーファスが罰ゲームで自分に告白してきた」ということを知ってしまう。
想う相手に嘘の告白をされたことへの意趣返しとして、了承の返事をしたハロルドは、なぜかルーファスと本物の恋人同士になってしまい───。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
愛していた王に捨てられて愛人になった少年は騎士に娶られる
彩月野生
BL
湖に落ちた十六歳の少年文斗は異世界にやって来てしまった。
国王と愛し合うようになった筈なのに、王は突然妃を迎え、文斗は愛人として扱われるようになり、さらには騎士と結婚して子供を産めと強要されてしまう。
王を愛する気持ちを捨てられないまま、文斗は騎士との結婚生活を送るのだが、騎士への感情の変化に戸惑うようになる。
(誤字脱字報告は不要)
騎士は魔石に跪く
叶崎みお
BL
森の中の小さな家でひとりぼっちで暮らしていたセオドアは、ある日全身傷だらけの男を拾う。ヒューゴと名乗った男は、魔女一族の村の唯一の男であり落ちこぼれの自分に優しく寄り添ってくれるようになった。ヒューゴを大事な存在だと思う気持ちを強くしていくセオドアだが、様々な理由から恋をするのに躊躇いがあり──一方ヒューゴもセオドアに言えない事情を抱えていた。
魔力にまつわる特殊体質騎士と力を失った青年が互いに存在を支えに前を向いていくお話です。
他サイト様でも投稿しています。
カランコエの咲く所で
mahiro
BL
先生から大事な一人息子を託されたイブは、何故出来損ないの俺に大切な子供を託したのかと考える。
しかし、考えたところで答えが出るわけがなく、兎に角子供を連れて逃げることにした。
次の瞬間、背中に衝撃を受けそのまま亡くなってしまう。
それから、五年が経過しまたこの地に生まれ変わることができた。
だが、生まれ変わってすぐに森の中に捨てられてしまった。
そんなとき、たまたま通りかかった人物があの時最後まで守ることの出来なかった子供だったのだ。
白金の花嫁は将軍の希望の花
葉咲透織
BL
義妹の身代わりでボルカノ王国に嫁ぐことになったレイナール。女好きのボルカノ王は、男である彼を受け入れず、そのまま若き将軍・ジョシュアに下げ渡す。彼の屋敷で過ごすうちに、ジョシュアに惹かれていくレイナールには、ある秘密があった。
※個人ブログにも投稿済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる