異世界転移した先は陰間茶屋でした

四季織

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番外編 勇者と聖女とお泊り会2

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「ぽめ太くん、退いて!」

 横から灯さんの声がして、虎の前で水が弾けた。
 灯さんが飛び込んできて、俺の前に立つ。
 でも、灯さんの足もカタカタ震えてた。

「あああ灯さん!」
「ぽ、ぽめ太くんが一人で茂みに入っていったから」

 追いかけてきてくれたんだ。

「一人で、うろうろするのは、危ないよ」

 仰るとおりです!
 でも、昨日散策したときは安全そうだったから、調子に乗ってしまったんだ。

 虎もどきは、顔にかかった水をぶるんと一振りで払った。
 豪商を溺れさせた、あのときみたいな大きな力は出ないみたいだ。

「逃げ、逃げよ……ぽめ太くん」
「う、うん」

 灯さんがぐいぐい俺を押すのに、俺の足は全く動かない。
 虎もどきの6つ足がぐっと縮められ、飛びかかるような態勢を作った。

 ギュッと目を閉じたとき。

「灯さん! ぽめ太さん!」

 北小路くんが虎もどきの顔辺りを払いながら飛び込んできた。
 ギャンッと虎もどきが鳴き声を上げる。

 俺達と虎もどきの中間点に立った北小路くんが、剣を構えた。

 虎もどきが低い唸り声を上げる。背を低くして臨戦態勢だ。
 北小路くんは、咆哮を上げて飛び込んできた虎もどきを一撃で叩き伏せた。

 一瞬の出来事だった。
 鞘に剣をしまった北小路くんが、俺達に振り返る。

「お二人の姿が見えなくなって。なんか、変な魔力を感じたので気になって」

 すぐあとに殿下が、少し遅れて護衛の人達が茂みをかき分けてきた。

 魔力が感知できるとか魔法を纏わせて筋力を底上げできるとか、剣に魔法を纏わせたとか。
 なんか、すごいことをさらっと言われた気がする。

 灯さんが「僕の力って……」って呟いてたけど、本当の力が発揮されたらすごいから、灯さんも!


 足元で、ミィと小さな鳴き声がした。
 忘れてた! 仔虎がいたんだった!

「ききき北小路くん、お母さん虎、ここ殺しちゃった?」

 ユーシス殿下と辺りを警戒していた北小路くんが、俺に振り返った。

 足元の仔虎が、よたよたとお母さん虎もどきに近寄っていく。


 どうしよう。俺のせいだ。
 俺が不用意に野生動物に触れたから。
 お母さん虎もどきは、仔虎を取り返そうとして怒ったんだよ。

「あぁ、殺してません、仔持ちだと分かったので。周囲に他の個体はないようです」

 気絶させただけだと聞いて、ほっと息を吐いた。
 そういや、母虎もどきから血が流れてないもんな。

 場馴れした精悍な顔つきに、改めて北小路くんは勇者なんだなって思った。
 
 ユーシス殿下からは、静かにお説教を食らった。
 一人歩きは危険だって言うのはもっともなことだし、無事だったから叱れるんだと言われたら何も言えない。

 それから、謝られもした。
 島の安全については十分確認したはずなのに、危険な目に合わせてしまった、と。

 あれは獰猛な見た目と違い、温厚で害がない魔物だったらしい。
 ただ、仔を産んだばかりで気が立っていたようだ。

 俺の足が竦んで動けなかったのも、魔力に中てられたせいだった。
 魔素のない世界から来た渡り人は魔力にめっちゃ弱いらしい。
 抵抗できるのは召喚で体内に魔力を有する勇者と聖女だけだから、足が竦んで動けなかったのを恥ずかしがることはないとも説明された。

 みんなに迷惑かけたことを謝って、海岸に戻る。
 そのあと、目が覚めた母虎もどきは仔虎を咥えてどこかに行ってしまったらしい。
 頻りに匂いを嗅いでいたっていうから、人間の匂いがついたのを嫌がったんだろうな。

 獰猛な種族なら、人間の匂いがついただけで仔を噛み殺したりするらしい。
 軽率な行為であの母仔にも迷惑かけたんだ。しょんぼりした。


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