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アテナイ

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ヘリックは、巨大な空に浮かぶ輪のついた球根の下に作られた町にはいっていく。ここは鍛冶が盛んな町らしく、街のあちこちで工房が作られ、大勢のドワーフたちが戦っていた
町に一歩踏み入れた瞬間、いきなり体が重くなる。
「ぐっ……体が重い」
いきなり体重が倍になったように感じられて、へリックはうめき声をあげる。
その様子を、街のドワーフたちは嘲笑っていた。
「またバカな人間がやってきたよ」
「人間なんかが来て何ができるんだか」
そんな声が聞こえてきて腹が立ったが、へリックはなんとか体に力を入れて街に入っていく。
(くそ。まずいぞ。鍛えている俺はともかく、このままじゃペガサスが死んでしまう)
そう思った時、一つの馬車が止まり、ドワーフの美少女が降りてきた。
「大変!その子、潰されそうになっているじゃない」
ドワーフの女の子はペガサスにかけより、黄色の魔石を押しあてる。
すると、へたれこんでいたベガサスが立ち上がった。
「ヒヒ―ン」
ペガサスは感謝するように、女の子の顔をなめる。
「あはは。くすぐったいよ」
女の子は嬉しそうに、ペガサスの鬣をなでた。
(ペガサスが初対面の子にこんなに懐くなんて、初めてだな……)
そんなことを想いながら、ヘリックは女の子に頭を下げる。
「ありがとう。おかげで助かった。それにしても、何をしたんだ?」
そう聞いてくるヘリックに、女の子は黄色い魔石を見せた。
「これは「反重力(アンチズシン)」の魔法が込められている魔石よ。これを使って、この町にかけられている重力魔法を無力化したの」
女の子がもつ魔石からは、反重力の魔法が発せられていた。
「そうか。本当にありがとう。俺はヘリック。その馬はペガサスだ」
「私はこの町の領主の三女、アテナイよ。あなた人間の平民でしょう?何をしに来たの?」
アテナイが聞いてくるので、ヘリックはこの街に来た目的を話す。
それを聞いたアテナイは、ため息をついて首を振った。
「悪いことはいわないから、帰ったほうがいいわ。ここにいられるのは、魔力もちで身体強化ができる貴族の冒険者か私たちドワーフだけよ」
そういって、街から出ていくように促す。
「なせだ?」
「あの空に浮かんでいる『土星城』を取り巻いている封神樹は、常に土の重力魔法である「高重力(ズシン)」を発しているのよ」
アテナイはそういって、頭上の球城を指さした。
「なるほど。そのせいでこんなに体が重いのか」
「ええ、私たち巨人の一族は何千年もこの地に縛り付けられていたせいで、すっかり縮んで小さくなってしまったの。今では「ドワーフ」と呼ばれて人間にバカにされているわ」
アテナイはそういって、悲しそうな顔になった。
「なぜここに居続けるんだ?」
「仕方ないのよ。私たち元巨人は、神に反逆した一族。オリンポスの神々の加護を得た、魔法が使える人間たちが支配する世界に出て行っても、迫害されるだけだもの。ああ……せめて魔王様が復活してティターン神族の封印を解いて、人間の帝国から私たちを解放してくれたら、差別されずに生きていけるんだけどね」
そういって、ため息をつく。へリックは彼ら元巨人の一族が、魔王を崇拝しているのを見て、意外に思った。
「なぜだ?魔王が復活したら、この世界は滅茶苦茶になるだろうに」
「それは現在の世界を支配している人間の考えよ。先代の魔王様は私たち亜人類に優しく、同胞として公平に扱ってくれたって伝承に残っているわ」
アテナイはきらきらした目で、魔王への期待を語るのだった。
「……それはわかった。でも、俺はどうしても力を手に入れないといけないんだ。その土星城とやらのことを教えてくれ」
そう言われて、アテナイはしぶしぶ土星城のことを話した。
「ここの空中ダンジョンである『土星城』は、土の魔石が採れるのでよく冒険者がやってくるのだけど、内部には強いモンスターが出現するの。失礼だけど、魔法が使えない平民が生き残れる場所じゃないわ」
そういって、心配した目てヘリックを見つめた。
「土星城?」
「大地神ガイアが封じられている場所よ」
伝説によれば、神話時代に神々の間で争いギガンドマキアが起こり、オリンポス神々に敵対した大地神ガイアがそこに封じ込められているという。
ガイアは大地の神らしく、その居城には金や銀などの宝があふれているといわれているが、その中央部分までたどり着いた者は今まで誰もいない。
「『黄金のリンゴ』は中央部分にしか生えてないのよ。あきらめたほうがいいわ」
「そうはいかない。俺は何とか力を手に入れて、エスメラルダを守らないといけないんだ」
へリックはアテナイの忠告を振り切るのだった。
「わかったわ。でも、その子は置いていきなさい。私が預かっていてあげるから。あなたの命知らずな冒険に、罪のない馬まで付き合わせるのはかわいそうだわ」
「ヒヒン!?」
それを聞いたペガサスは首を振るが、ヘリックは頷いた。
「ありがたい。ペガサスを頼む」
「ええ。もしあなたが帰ってこなくても、ちゃんと面倒みてあげるから。でも、必ず生きて帰ってきなさいよ」
アテナイに見送られて、ヘリックは土星城の空中ダンジョンに昇っていくのだった。

土星城は土属性のダンジョンで、そこからとれる魔石などの鉱物資源がへスぺレウスの経済を支えている。
ダンジョンの中に入ると、大勢の鉱山夫兼冒険者たちが鉱石を採掘していた。
アテナイによると、彼らは罪を犯した罰金を支払えなかったり、破産したりした元貴族たちである。金を稼ぐために、冒険者に身をやつしてここで働いていた。
へリックが土星城に上がると、さっそくモンスターが襲い掛かってくる。
「ギュイ!」
襲いかかってきたのは、緑色をしたグリーンスライムただった。
「くっ」
へリックは重い体を動かして攻撃をかわすと、持っていたナイフで切りつけた。
「ギュイ!」
切りつけられたスライムは一瞬動きを止めるも、ナイフをものともせずに襲い掛かってくる。
「くそっ。もう一度だ……何?」
スライムに食いこんだナイフは、柔らかい体に食いこんで離れず、力を込めて引いても引き抜けない。
その隙に、スライムが体当たりしてきて、ヘリックを吹き飛ばした。
「痛っ!」
壁に叩きつけられながらも、ヘリックは痛みをこらえて立ち上がる。
「なるほど……こいつらには刃物が効きづらいんだな」
ヘリックがそう感じた通り、スライムたちは何の痛みも感じてないかのように元気に動き回っていた。
周囲の鉱山夫たちも、剣や槍ではなく、重量のあるつるはしをふるって殴りつけて戦っていた。
「よし。それならやることはただ一つだけだ。こん棒でぶったたく!」
ヘリックはナイフを捨て、父親の形見であるこん棒を取り出す。そしてスライムに向けて、強引に振り抜いた。
「ギャッ!」
重い鉄の棍棒に打ち据えられ、スライムは木っ端みじんに砕かれていく。
「ふっ。重力魔法『ズシン』がかかっているせいで、こん棒の目方が増えて威力が増しているな。どんどんいくか」
ヘリックは襲い掛かってくるスライムたちを斃しながら、土星城の中心部に向かっていった。
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