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ビューティv

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アテナイが教室でエスメラルダに呆れていた頃。
「ヘリック。逃げ出した根性なしが!」
馬小屋に戻ったヘリックは、親方にそう怒鳴りつけられていた。
仕事を放り出して冒険の旅に出たことは事実なので、ヘリックはたた黙って耐える。
そんな彼をみて、先輩のヘンリーはニヤニヤしながら告げた。
「おやっさん。こんな奴首にしちまいましょうよ」
しかし、そう言われた親方は、残念そうに首を振った。
「そうはいかねえんだ。こいつはジュピター子爵のお坊ちゃんの紹介でな。こいつをここで働かせろと言われているんだ」
「え?こんな奴がお気に入りなんですか?」
それを聞いて、ヘンリーはちょっとひるむ。しかし、親方はニヤッと笑って否定した。
「ちがうぞ。その逆だ。こいつは平民の分際でお貴族様の令嬢に言い寄る身の程知らずなんで、身分を弁えさせてやれってお達しだ」
「へえ……なら、思う存分こきつかっていいんですね」
ヘンリーは嬉しそうにうなずく。
「ああ。奴隷として思い切りこき使ってやれ」
「わかりやした」
そういうと、ヘンリーはムチをふるってヘリックを叩く。
しかし、ヘリックは平然としていた。
「いきなり、何するんだ。くすぐったいじゃないか」
「ああ!なんだてめえ!」
不敵に笑うヘリックに困惑したものの、ヘンリーはかさにかかって鞭で打ちまくる。
しかし、ヘリックはどんなに打たれても平気な顔をしていた。
(いや~魔法ってすごいな。これが重力魔法『ズシン』の応用である防御魔法『カチン』か」
体の周囲を反重力の力場で覆ってガードすれば、物理的な攻撃はほとんど通じなくなる。ヘリックはニヤニヤしながら、ムキになって鞭をふるい続けるヘンリーを見物していた。
しばらくムチをふるった後、ヘンリーはついに息切れする。
「ちっ……もういい。牧場の馬糞をすべて集めておけよ」
自分の仕事をすべて押し付けて、親方とともに去っていった。
「この広い牧場の馬糞をすべて俺一人で回収しろだって……無理だろ」
そう呟きながらも、ヘリックは余裕顔で笑っている。
「魔法を使わなければな。『反重力(アンチズシン)』」牧場全体に魔法をかけ、馬糞を集める。一分もかからないで掃除が完了した。
「いやー魔法って本当に便利だよな」
しもじみとそんな感激に浸っていると、ヘンリーが戻ってきた。
「何やってんだい!全然片付いていねえじゃねえか……あれ?」
そこまでいったことろで、馬糞のひとかけらも落ちてないことに気づく。
「バカな……なんでこんなに綺麗になって……」
「で、次の仕事は?」
薄笑いを浮かべてそう告げるヘリックを、アテナイは気味悪そうに見つめる。
「ふ、ふんっ」
腹立ちまぎれに馬糞の入った樽を蹴とばして倒すと、「ちゃんと拾っておけよ」と捨て台詞をはいて去っていった。
「……なんていうか、平民もろくなもんじゃねえな。いや、貴族の下っ端になったことで、自分まで強い立場に立っていると勘違いしているのか。哀れなもんだ」
ヘリックがそう思ったとき、授業が終わったアテナイがやってきた。
「ヘリック……」
「おう。アテナイ。それでエスメラルダの様子はどうだった?元気していたか?いじめられていなかったか?」
心配そうにそう聞くヘリックに、アテナイはなんて答えていいかわからなかった。
しばらく迷った後、アテナイは口を開く。
「あのねヘリック。彼女のことはあきらめたほうがいいわ。悪い意味で貴族に染まってしまっているわ」
「なんだと?どういうことだ?」
繭をしかめるヘリックに、アテナイは教室でのエスメラルダの態度を語る。聞き終えたヘリックは、真っ青な顔になっていった。
「そんな……エスメラルダが、俺のことなんてもう知らないなんて言うとは。いや、信じないぞ。こうなったら、直接会いにいってやる」
そういうと、ヘリックは学生寮に向かって走っていく。アテナイは慌ててそのあとをついていくのだった。

学生寮
魔法学園の寮の敷地は男女両用であるが、建物は別である。その女子寮に、ヘリックは来ていた。
みすぼらしいツナギを着ているヘリックを見て、寮の生徒たちが顔をしかめている。
「何あの子。汚らしい」
「学園の生徒かしら。一応魔力は持っているみたい。でも下男みたいな恰好」
そういってクスクス笑う女子生徒たちに、ヘリックは切れてしまう。
「うるさい!」
「きゃぁぁぁぁぁ!野蛮人!」
こん棒を振りかざして怒鳴る不審者に、女子生徒たちはすっかりおびえてしまった。
その時、上品な顔立ちをした五人の美少女がヘリックの前に立ちはだかる。
「お静かに、話があるなら私たちがうかがいましょう」
そう告げる彼女たちからは、高貴なオーラが漂っていた。

「きゃぁぁ。『ビューティV』のお姉さまたちよ!」
「素敵!」
乱暴な不審者にも臆せず守ろうとしている彼女たちに、女子生徒たちから黄色い歓声があがる。
「お話があるなら、私たちがうかがいます」
「あんたは?」
「エーレンタール公爵家の次女。エレル・エーレンタールと申しますわ」
高貴な美少女たちの代表は、スカートを開いて見事な一礼をした。ヘリックは彼女に見覚えがあった。ゼウスに見せられた夢の中で、エスメラルダをいじめる悪役令嬢の代表とされていた少女だったからである。
「もしかして……あんたたちがいじめたから、エスメラルダがおかしくなったのか?」
「いじめた?何のことでしょう」
「とぼけるな!」
頭に血が上ったヘリックは、純真だったエスメラルダがすっかり貴族に染まってしまい、幼馴染だった自分に対してももう知らないという態度を教室で取っていたことを問いただした。
それを真面目な顔で聞いていたエレルは、大きくため息をつく。
「お言葉ですが、私たちはエスメラルダさんをいじめたりしていませんわ。確かに、いい感情は持っていませんけど……」
「そうだぜ。むしろ、あたいたちの方があいつには迷惑かけられているんだ」
赤い髪をした背の高い美少女は、腰に手を当てて文句を言ってきた。
「迷惑だって?」
「私たちは、彼女が仲良くしている男子生徒たちの婚約者です」
メガネをかけた真面目そうな美少女がそうつげる。
「そうだよ。エスメラルダちゃんが来てから、エロス君僕と遊んでくれなくなったの」
小柄な子供っぽい美少女は、そう言って頬を膨らませた。
「あーしも人のことは言えないけどさ。貴族の子女として最低限のモラルはまもっているつもりだし。あいつみたいにとっかえひっかえ男といちゃいちゃするってるのは、どーなんよ」
派手めの化粧をした褐色の肌の美少女は、寂しそうに愚痴をもらした。
「えっ?いちゃいちゃしているだって?」
それを聞いて、ヘリックは真っ青になる。それを見て、派手めの美少女はさらに言い放った。
「あんた。あいつの男なら、ちゃんと引き留めておけよ。人の男に手を出させるなよ」
ほかの少女たちも、ヘリックを責める目つきでにらみつけてくる。逆に文句言われて、ヘリックはどう反応したらいいかかわからなくなってしまった。
「ちょうどいいですわ。あなたがエスメラルダさんのお友達なら、彼女に意見してあげてください。私たちが何を言っても聞き入れてくれませんので」
エレルがそう言った時、奥から数人の男女が出てくる。
「エスメラルダ。今度はどこにいこうか」
「みんなでクラブなんていいんじゃない?」
「いいねぇ。いいクスリが手に入ったんだ、今夜はキメてやるぜ」
いちゃいちゃしながらやってくる男女に、ビューティVは軽蔑の視線を向ける。男五人に囲まれて、すっかり打ち解けた様子の少女は、ヘリックの幼馴染であるエスメラルダだった。
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