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対牛島侵攻

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上自衛隊の艦艇は、、もはや自分では動けない牢獄となり、海上を漂っている。
その様子は、マスコミの報道によって全世界に晒された。
「ごらんください。卑劣な海設都市の策略により、自衛隊の艦艇が捕らえられています。彼等には正々堂々と戦うという侍精神がないのでしょうか」
大韓朝国の影響下にあるマスコミは、必死に海設都市をまともに戦おうとしない卑劣漢だと非難したが、ネットの反応は冷たかった。
「受ける。自衛隊負けてんじゃん」
「卑劣って、こっちから攻めて行って拿捕されたら相手を非難するって、情けなさすぎるでしょ」
「姫子ちゃん。艦艇を沈めないなんて、優しい」
そんな声が広まり、マスコミが海設都市を非難すればするほど国民の目は冷たくなっていく。
「それより、今日本の防衛はどうなっているんだ?主力艦が拿捕されているってことは、日本の海上防衛が無力化されているってことだぞ。今他国から攻められたら」
現在の日本の防衛システムを疑問視する声があがる。彼らの懸念は、けっして間違っていなかった。
「くくく、今なら日本の海上自衛隊は無力化されているニダ。堂々と日本に侵攻できるニダ。まずは対牛島の占拠ニダ」
報道で自衛隊の状況を知り、大韓朝国の大統領、李在寅はニヤリと笑う。
早速、韓朝軍の司令官を呼び出し、日本と大韓朝国の間にある島への侵攻を命令した。
「アメリカは日本と同盟しているニダ。それはまずいニダ」
そう懸念する司令官に、李在寅は希望的観測を告げる。
「今が日本に長年の恨みを晴らす、絶好のチャンスニダ。心配いらないニダ。今回の南方財閥と日本の戦争だってアメリカは動かなかったニダ。金さえ払えば、きっとアメリカは中立を守るニダ。大事なのは既成事実を作ることニダ」
「……分かったニダ」
司令官はしぶしぶ、配下の軍隊に告げる。
「日本侵攻ニダ。目標、対牛海峡と対牛島の占拠」
こうして、大韓朝国の軍隊が侵攻してくるのだった。
「ヒャッハー。逃げるチョッパリは敵ニダ。逃げないチョッパリは訓練された敵ニダ」
「きゃぁぁぁぁぁ」
対牛島では、ふいに侵攻してきた韓朝軍に追われ、島民たちが逃げまどっている。第二次世界大戦後初めての他国からの侵攻に、対牛島の自衛隊駐留部隊は必死に抵抗したが、ほぼ全軍で襲い掛かってくる韓朝軍に対しては多勢に無勢で、ついに上陸を許してしまった。
この事件は、マスコミやネットを通じて日本中に衝撃を与える。
「海設都市に侵攻している場合じゃないぞ。大韓朝国軍が攻めてきた」
「すぐに援軍を送るんだ」
そのような声が政府の間からもあがるが、三階堂首相の腰は重い。
「えーっと。……援軍を送ろうにも陸上自衛隊を乗せられる艦艇が無く……民間船を徴用するには法整備が必要でして……」
そういって、のらりくらりとかわして自衛隊を動かそうとしない。
「お願いします。日米同盟を発動して、大韓朝国軍を追い払ってください」
外務省の必死の訴えにも。アメリカは動かなかった。
「大韓朝国とは日本と同様に、同盟を結んでいる。同盟国同士の争いには、アメリカは関知しない」
「そ、そんな……」
誰にも守ってもらえないとしって、外交官は膝から崩れ落ちる。
「これから日本はどうなってしまうんだ……」
侵略する側から一転、侵略される側にまわり、日本国民たちは途方にくれるのだった。

大韓朝国軍の対牛島への侵攻は、もちろん後醍醐周辺海域に拿捕されている海上自衛隊にも伝わっていた。
「くそっ。本来日本を守るのは自衛隊の任務なのに、我々はこんなところで何をやっているんだ」
「……だが、どうやってもここから動けない。俺たちはこのまま、日本が侵略されるのを手をこまねいてみていることしかできないのか」
自衛隊員たちが歯ぎしりしながらテレビの映像を見ているとき、後醍醐を監視している隊員から報告が入った。
「後醍醐に動きがありました」
「なんだと!」
慌てて甲板に出た自衛隊員が見たものは、ユグドラシルから発進した黒色に輝く『実』の集団だった。
「ま、まさか、ついに我々に攻撃を加えるつもりなのか?」
怯えながら空を見上げていると、黒く輝く結晶体UFOたちは北東に向けて飛んでいった。
「いったい、何をするつもりなんだ……」
自衛隊員たちが呆然としていると、後醍醐から通信放送がはいり、艦艇のすべてのテレビ放送が強制的に乗っ取られる。
「自衛隊の皆様。ただいま対牛島では、多くの国民が大韓朝国軍に攻められて、苦しんでいます」
対牛島の映像が流れる。銃を構えた大韓朝国軍の兵士たちが、罪のない島民たちを追いかけて捕まえていた。
「あなたたちに今一度聞きます。あなた方の役目は日本政府の手先になって、他者を侵略することですか?それとも、日本国民を守ることですか?」
スーツを着た姫子は、涙を浮かべて自衛隊員たちに訴えかけた。
「……決まっている。日本国民を守ることだ」
姫子の問いかけに、自衛隊員たちはそう答えた。
「もう一度、自衛隊の本来の使命を思い出してください。今回だけは、私たちが手を貸してあげます」
その言葉とともに、ユグドラシルの葉から無数のレーザー砲が現れる。
「対外敵迎撃砲『シヴァ』発動」
ユグドラシルから無数のレーザー砲が、上空に浮かぶ結晶体UFOに向けて放たれる。一点集中で有効射程を伸ばしたレーサーは、光ファイバーのように結晶体UFOを経由して角度を変え、一瞬で対牛島にたどり着いた。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ」
対牛島に集結した大韓朝国の艦艇は、上空の結晶体UFOから放たれた反射レーザー砲に薙ぎ払われる。
「すごい。まるでウル〇ラマンの怪獣プ〇ズ魔だ」
「いや、キン〇マンのプリ〇マンのカピ〇リア光線だ」
「違いますよ。あれはエ〇ァのラ〇エルです」
自衛隊員たちは、それぞれの世代のテレビやアニメ知識を思い出して、歓声を上げる。
続いて、反射レーザー砲は対牛島に築かれた大韓朝国軍の陣地に向けられた。
「アイゴー!」
大爆発が起こり、陣地が完全に破壊される。
今まで無防備だった島民を追い回していた大韓朝国軍の兵士たちは、自分たちが一方的に蹂躙される立場になったとたん、銃を放り出して命乞いを始めた。
「今だ!反撃するぞ」
勢いを取り戻した自衛隊駐留部隊と島民たちによって、大韓朝国軍の侵略部隊は制圧される。
こうして、70年ぶりの他国の侵攻を日本は退けたのだった。
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