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トオルの死
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夕針市
トオルが所有する石炭発電所に、二人の姿が現れる。現実世界は夜のようで、作業員たちはいなかった。
「やった……日本だ。帰ってこれたんだ」
窓の外の景色をみて、カグヤははしゃぐ。
それに対して、トオルは少し落ち込んでいた。
「やっぱり、向こうに残ったほうがよかったかなぁ」
「何?今更後悔しているの?」
カグヤが面白そうにトオルを見てくる。
「メルもいなくなったし、俺にはもうやることがないよ。一応こっちでも魔法が使えるようにと魔石ももらったけど、使い道がないな」
現実世界のトオルは働かなくてもいきていけるぐらいの金はある資産家で、自分をいじめた相手への復讐も終えている。
メルをアスティア世界に帰してユウジへの復讐も果たした。
やるべきことをすべて終えた燃え尽き症候群のようなむなしさをトオルは感じていた。
そんな彼を、カグヤは励ます。
「あなたには電脳世界の支配という特殊技術があるじゃない。それを使って何か事業をしてみれば?なんならお爺様に紹介するわよ」
「興味ない」
トオルはそっけなく言う。そのやる気のなさに、カグヤは少し呆れてしまった。
「仮にも世界を救った勇者様なのに、こっちの世界の君はまるでニートだね。まあ、それくらいの方が誰かに迷惑をかけずにいいのかも」
カグヤがそういったとき、いきなりバタバタというヘリコプターの音がした。
「何?」
カグヤが外を見ると、何十もの軍用ヘリコプターが石炭発電所を取り囲んでいる。
ヘリコプターから何十人もの真っ黒いスーツを着た屈強な男が降りてきた。
「突入!姫様の確保が最優先だ!ほかの者はすべて抹殺せよ!」
殺気立った隊長が命令すると、黒光りする銃を構えた男たちが発電所に入ってくる。
あっという間にトオルとカグヤは確保されてしまった。
「な、なんだ!なんなんだ!」
訳もわからないうちに銃を突きつけられ、トオルは混乱する。
「トオル君!」
「姫様を確保!すぐに御前の元にお送りせよ!」
カグヤは乱暴な振る舞いに抗議するも、男たちに連れていかれてしまう。
残った者たちの中で、トオルに銃を突きつけていた男が隊長に聞いた。
「この者は如何いたします?」
「殺せ。われ等の存在はたとえどの様な形でも庶民にしれてはならんのだ」
隊長が物騒なことを言い出したので、トオルは慌てる。
「ちょっと待てよ。訳もわからないうちに殺されてたまるか!ぐっ!」
次の瞬間、男が持っていた銃が火を噴き、弾丸がトオルの頭にめり込む。
トオルは現実世界に帰還して30分で殺されてしまうのだった。
カグヤを乗せたヘリコプターは、途中で給油をしながら富士山近郊にある自衛隊其地に移動した。
ヘリコプターが着陸すると、着物を着た老人がカグヤを迎えた。
「御前。カグヤ様をお連れしました」
「よくやったぞ」
隊長が敬礼をする。老人は彼をねぎらいながら、カグヤを力いっぱい抱きしめた。
「おお。カグヤ。良くぞ戻って来てくれた。ワシは嬉しいぞ」
「お爺ちゃん。どうして私の位置がわかったの?」
カグヤは首をかしげる。
「お前の体には高性能のマイクロチップが埋め込まれておる。体内電気から自動で充電して半永久的に信号を発しておる。いきなりお前の信号が現れたので、ワシの部下を動かしたのじゃ」
老人は愛情たっぷりにカグヤの頭をなでた。
「そんなのが埋め込まれていたの?ちょっと気持ち悪い」
ふくれっ面になるカグヤを、老人は慰める。
「これもお前のことを思えばこそじゃ。お前はこの日本を支配する女王となる身。当然、あらゆる勢力から狙われているのじゃ」
老人はそういうと、隊長に問いかける。
「カグヤをさらった賊は始末したか?」
「はっ。以前から注目されていた、神崎徹という者が犯人でございます。すでに処分しております」
それを聞いて、カグヤは真っ青になった。
「ち、ちょっと待って。処分って。トオル君に何をしたの?」
カグヤの問いかけに、隊長は自信満々に答えた。
「カグヤ様は何もご心配要りません。死体の処理も完璧に行いました」
隊長はそういって、死体収納袋を開けて見せる。
そこには白目を剥いたトオルの死体が入っていた。
それを見た途端、カグヤはへたり込む。
「嘘……何で……?」
「カグヤ、どうした?気分でも悪いのか?」
心配する老人を、カグヤは全力でビンタした。
「お爺ちゃんの馬鹿!!わぁぁぁぁぁん」
自衛隊基地に、カグヤの嘆き悲しむ声が響き渡るのだった。
夕針 石炭発電所
黒いスーツを着た男たちは、トオルの死体をバッグに入れて、飛び散った血も綺麗に清掃する。
惨劇の跡形もなくなった後、隊員たちは撤収した。
その後、しばらくして部屋の中にあったパソコンが自動で起動する。
画面にはトオルの顔が映っていた。
「いきなり俺を殺すなんて、何者なんだ!」
死の一瞬前、精神をパソコンに移したおかげで消滅を免れたトオルだったが、自分を殺されて心底怒りに震えていた。
「許せねえ。ぶっ潰してやる」
そう思ったトオルは、自分の死体のポケットに入れていたスマホにネットを通じて取り付く。
そのまま自衛隊基地までついていって、カグヤと老人のやり取りを聞いていた。
「おお、可愛いカグヤよ。そんなに怒らないでくれ。こいつはお前を誘拐した犯罪者ではないか?」
「違うっ!トオル君は私を異世界から連れて帰ってくれた恩人なのっ!」
カグヤは泣きじゃくりながら、今まであったことを説明する。
それを聞いた老人は、さすがに気まずい顔になった。
「そうか。それは悪いことをしたな。小僧の遺族には充分な補償をするがいい」
隊長に向かって顎をしゃくるが、彼は困惑した顔で言った。
「小僧-神埼徹の両親は既に亡くなっております。弟もカグヤ様のお話では死亡したようですし、補償とおっしゃられても」
それを聞いた老人はうるさそうに手を振る。
「なら、小僧が理事をしていたなんとかという学園に百億ほど寄付をしておけ。それで騒ぎ立てる者はいなくなるじゃろう」
それで問題はすべて解決したとでもいいたげな口調に、カグヤは怒りを感じた。
「おじいちゃん!人一人が誤解で殺されたんだよ!それだけで済ませていいの?」
老人を責め立てるカグヤだったが、彼は慈悲深い顔をして彼女の頭をなでる。
「おお。カグヤは優しいのう。あのような小僧にまで心を砕いて。じゃが、ワシら竹取の一族は神族の一員、そして日本の真の支配者じゃ。庶民の命など、我らからみれば塵芥のようなものじゃ。気にしなくて良いぞ」
老人はそういうと、隊員たちに命令する。
「カグヤは疲れておるようじゃ。屋敷につれて帰ってゆっくり休ませるがよい」
そういうと、泣いているカグヤを連れて行かせ、老人は護衛の隊員と共に基地に入っていく。
トオルは自分のスマホから護衛隊員のスマホに乗り換えてついていくのだった。
富士山近郊の自衛隊駐屯基地
表向きは中規模の基地だったが、実は日本最先端の装備を持った精鋭部隊に守られていて、核ミサイルの直撃にも耐えられる真の日本の中枢だった。
護衛隊員のスマホから基地のコンピューターに侵入したトオルは、まるでSF映画の研究室のような未来的な設備に驚く。
(すごいな……特に生命工学分野で世界の最先端をいっている。クローン人間技術やサイボーグ技術、果てはゾンビ化や怪物化ウイルス兵器、霊体を使った暗殺兵器まであるなんて)
ここの技術が世間に漏れたら、世界は一変してしまうだろう。
トオルが驚いているうちに、老人一行は地下に降りていった。
「ここまでで良い」
護衛を外に待たせて、老人はエレベーターを降りる。
最深部には吹き抜けになった巨大な空間があり、巨大な銀色の竹のようなものが地面に突き刺さっていた。
「たかが庶民を一人始末しただけで、カグヤがあんなに怒るとはな。仕方ない。形だけでも再生させるか。『竹筒』よ。細胞再生処置開始」
『了解シマシタ』
機械的な音声が響き渡ると、銀色の竹の表面にカプセルが浮かぶ。その中には、トオルの死体が入っていた。
カプセル内に溶液が注入されると、トオルの死体が動き始めた。
『デスガ、コノ体ニハ魂ガアリマセンノデ、精神マデ再生ハ出来マセン』
「かまわぬ。本人のように振舞えるよう直接脳をコントロールするのだ』
『了解。脳ニコントロールチップヲ埋メ込ミマス』
銀色のチップがトオルの額にあいた穴に注入されていく。それが終わったら額り傷もふさがり、トオルは元の姿に戻った。
『簡易蘇生ノタメ、活動限界時間ハ4時間デス』
「かまわぬ。カグヤに別れの挨拶をさせた後、処分する」
老人はそういい捨てて、部屋を出て行く。
(許せねえ。人の体もてあそびやがって。復讐してやる)
すべてを見ていたトオルは、新たな復讐に燃えるのだった。
老人はカグヤが送られた、富士山のふもとにある豪邸に移動する。その隣の席にはトオルの動く死体が座っていた。
「よいか。カグヤに不審をもたれないように、自然に演技するのじゃぞ」
「カシコマリマシタ」
トオルの死体は棒読みで答える。
「ふむ。『竹筒』のコントロールは正常に行われておるな。だが、あまり長話をしたらボロがでるかもしれぬ。玄関で立ち話程度にとておくか」
老人はつぶやきながら、車から降りる。
「お前は待機していろ。しばらくしたら、この死体だけが戻ってくるので、後は適当に処理しておけ」
「かしこまりました。御前」
運転手はうやうやしく頭を下げる。
「よし。ではいくぞ」
老人とトオルの死体は連れ立って豪邸に向かう。玄関にはいると、カエデが待ち構えていた。
「おじいちゃん!なんでトオル君を殺した……え?」
老人に続いて入ってきた少年を見て、カエデはほっとする。少し顔色はわるいが、その少年は神埼徹そのままだった。
「トオル君、無事だったの?」
「ハイ。カグヤサマ。ゴシンパイカケテモウシワケアリマセン」
トオルはなぜか片言で言うと、頭を下げた。
「カグヤ様って?え?」
いつもと違う様子にカグヤは首を傾げるが、慌てた老人のフォローが入った。
「神埼君はあれから我々が手術して、このとおり蘇生した。その後にお前の身分を知って、少し緊張しておるのじゃろう。さあ、これで安心したじゃろう。きちんとお別れして……」
「待ってよ。ちゃんとお礼をしなきゃ。トオル君。異世界から私を連れて帰ってくれて、ありがとう」
カグヤはトオルの前で深く頭を下げて礼をする。
その時、虚ろな目をしていたトオルの目の焦点が戻った。
「別にいいさ。君とはこれから敵対するかもしれないし」
「……え?どういうこと?」
いきなり変なことを言い出したトオルに、カグヤは動揺する。
「俺は蘇生なんかしてない。この体はすでに死体だ」
トオルはカグヤの顔にそっと手を触れる。その手はぞっとするほど冷たかった。
「き、貴様!何を言う!『竹筒』よ!狂ったか?」
「残念だけど、お前の自慢の機械のコントロールは跳ね除けた。今この体を動かしているのは、紛れもなく俺自身の意思だ」
トオルはカグヤから離れ、老人を睨みつける。
「よくも俺を殺したな。この復讐はきっちりとさせてもらう。たとえお前が誰であろうともな。覚悟しておけ」
そういうと、トオルの体は白目をむいて倒れる
「キャーーー!」
今度こそ完全に死体になったトオルを見て、カグヤは絶叫するのだった。
トオルが所有する石炭発電所に、二人の姿が現れる。現実世界は夜のようで、作業員たちはいなかった。
「やった……日本だ。帰ってこれたんだ」
窓の外の景色をみて、カグヤははしゃぐ。
それに対して、トオルは少し落ち込んでいた。
「やっぱり、向こうに残ったほうがよかったかなぁ」
「何?今更後悔しているの?」
カグヤが面白そうにトオルを見てくる。
「メルもいなくなったし、俺にはもうやることがないよ。一応こっちでも魔法が使えるようにと魔石ももらったけど、使い道がないな」
現実世界のトオルは働かなくてもいきていけるぐらいの金はある資産家で、自分をいじめた相手への復讐も終えている。
メルをアスティア世界に帰してユウジへの復讐も果たした。
やるべきことをすべて終えた燃え尽き症候群のようなむなしさをトオルは感じていた。
そんな彼を、カグヤは励ます。
「あなたには電脳世界の支配という特殊技術があるじゃない。それを使って何か事業をしてみれば?なんならお爺様に紹介するわよ」
「興味ない」
トオルはそっけなく言う。そのやる気のなさに、カグヤは少し呆れてしまった。
「仮にも世界を救った勇者様なのに、こっちの世界の君はまるでニートだね。まあ、それくらいの方が誰かに迷惑をかけずにいいのかも」
カグヤがそういったとき、いきなりバタバタというヘリコプターの音がした。
「何?」
カグヤが外を見ると、何十もの軍用ヘリコプターが石炭発電所を取り囲んでいる。
ヘリコプターから何十人もの真っ黒いスーツを着た屈強な男が降りてきた。
「突入!姫様の確保が最優先だ!ほかの者はすべて抹殺せよ!」
殺気立った隊長が命令すると、黒光りする銃を構えた男たちが発電所に入ってくる。
あっという間にトオルとカグヤは確保されてしまった。
「な、なんだ!なんなんだ!」
訳もわからないうちに銃を突きつけられ、トオルは混乱する。
「トオル君!」
「姫様を確保!すぐに御前の元にお送りせよ!」
カグヤは乱暴な振る舞いに抗議するも、男たちに連れていかれてしまう。
残った者たちの中で、トオルに銃を突きつけていた男が隊長に聞いた。
「この者は如何いたします?」
「殺せ。われ等の存在はたとえどの様な形でも庶民にしれてはならんのだ」
隊長が物騒なことを言い出したので、トオルは慌てる。
「ちょっと待てよ。訳もわからないうちに殺されてたまるか!ぐっ!」
次の瞬間、男が持っていた銃が火を噴き、弾丸がトオルの頭にめり込む。
トオルは現実世界に帰還して30分で殺されてしまうのだった。
カグヤを乗せたヘリコプターは、途中で給油をしながら富士山近郊にある自衛隊其地に移動した。
ヘリコプターが着陸すると、着物を着た老人がカグヤを迎えた。
「御前。カグヤ様をお連れしました」
「よくやったぞ」
隊長が敬礼をする。老人は彼をねぎらいながら、カグヤを力いっぱい抱きしめた。
「おお。カグヤ。良くぞ戻って来てくれた。ワシは嬉しいぞ」
「お爺ちゃん。どうして私の位置がわかったの?」
カグヤは首をかしげる。
「お前の体には高性能のマイクロチップが埋め込まれておる。体内電気から自動で充電して半永久的に信号を発しておる。いきなりお前の信号が現れたので、ワシの部下を動かしたのじゃ」
老人は愛情たっぷりにカグヤの頭をなでた。
「そんなのが埋め込まれていたの?ちょっと気持ち悪い」
ふくれっ面になるカグヤを、老人は慰める。
「これもお前のことを思えばこそじゃ。お前はこの日本を支配する女王となる身。当然、あらゆる勢力から狙われているのじゃ」
老人はそういうと、隊長に問いかける。
「カグヤをさらった賊は始末したか?」
「はっ。以前から注目されていた、神崎徹という者が犯人でございます。すでに処分しております」
それを聞いて、カグヤは真っ青になった。
「ち、ちょっと待って。処分って。トオル君に何をしたの?」
カグヤの問いかけに、隊長は自信満々に答えた。
「カグヤ様は何もご心配要りません。死体の処理も完璧に行いました」
隊長はそういって、死体収納袋を開けて見せる。
そこには白目を剥いたトオルの死体が入っていた。
それを見た途端、カグヤはへたり込む。
「嘘……何で……?」
「カグヤ、どうした?気分でも悪いのか?」
心配する老人を、カグヤは全力でビンタした。
「お爺ちゃんの馬鹿!!わぁぁぁぁぁん」
自衛隊基地に、カグヤの嘆き悲しむ声が響き渡るのだった。
夕針 石炭発電所
黒いスーツを着た男たちは、トオルの死体をバッグに入れて、飛び散った血も綺麗に清掃する。
惨劇の跡形もなくなった後、隊員たちは撤収した。
その後、しばらくして部屋の中にあったパソコンが自動で起動する。
画面にはトオルの顔が映っていた。
「いきなり俺を殺すなんて、何者なんだ!」
死の一瞬前、精神をパソコンに移したおかげで消滅を免れたトオルだったが、自分を殺されて心底怒りに震えていた。
「許せねえ。ぶっ潰してやる」
そう思ったトオルは、自分の死体のポケットに入れていたスマホにネットを通じて取り付く。
そのまま自衛隊基地までついていって、カグヤと老人のやり取りを聞いていた。
「おお、可愛いカグヤよ。そんなに怒らないでくれ。こいつはお前を誘拐した犯罪者ではないか?」
「違うっ!トオル君は私を異世界から連れて帰ってくれた恩人なのっ!」
カグヤは泣きじゃくりながら、今まであったことを説明する。
それを聞いた老人は、さすがに気まずい顔になった。
「そうか。それは悪いことをしたな。小僧の遺族には充分な補償をするがいい」
隊長に向かって顎をしゃくるが、彼は困惑した顔で言った。
「小僧-神埼徹の両親は既に亡くなっております。弟もカグヤ様のお話では死亡したようですし、補償とおっしゃられても」
それを聞いた老人はうるさそうに手を振る。
「なら、小僧が理事をしていたなんとかという学園に百億ほど寄付をしておけ。それで騒ぎ立てる者はいなくなるじゃろう」
それで問題はすべて解決したとでもいいたげな口調に、カグヤは怒りを感じた。
「おじいちゃん!人一人が誤解で殺されたんだよ!それだけで済ませていいの?」
老人を責め立てるカグヤだったが、彼は慈悲深い顔をして彼女の頭をなでる。
「おお。カグヤは優しいのう。あのような小僧にまで心を砕いて。じゃが、ワシら竹取の一族は神族の一員、そして日本の真の支配者じゃ。庶民の命など、我らからみれば塵芥のようなものじゃ。気にしなくて良いぞ」
老人はそういうと、隊員たちに命令する。
「カグヤは疲れておるようじゃ。屋敷につれて帰ってゆっくり休ませるがよい」
そういうと、泣いているカグヤを連れて行かせ、老人は護衛の隊員と共に基地に入っていく。
トオルは自分のスマホから護衛隊員のスマホに乗り換えてついていくのだった。
富士山近郊の自衛隊駐屯基地
表向きは中規模の基地だったが、実は日本最先端の装備を持った精鋭部隊に守られていて、核ミサイルの直撃にも耐えられる真の日本の中枢だった。
護衛隊員のスマホから基地のコンピューターに侵入したトオルは、まるでSF映画の研究室のような未来的な設備に驚く。
(すごいな……特に生命工学分野で世界の最先端をいっている。クローン人間技術やサイボーグ技術、果てはゾンビ化や怪物化ウイルス兵器、霊体を使った暗殺兵器まであるなんて)
ここの技術が世間に漏れたら、世界は一変してしまうだろう。
トオルが驚いているうちに、老人一行は地下に降りていった。
「ここまでで良い」
護衛を外に待たせて、老人はエレベーターを降りる。
最深部には吹き抜けになった巨大な空間があり、巨大な銀色の竹のようなものが地面に突き刺さっていた。
「たかが庶民を一人始末しただけで、カグヤがあんなに怒るとはな。仕方ない。形だけでも再生させるか。『竹筒』よ。細胞再生処置開始」
『了解シマシタ』
機械的な音声が響き渡ると、銀色の竹の表面にカプセルが浮かぶ。その中には、トオルの死体が入っていた。
カプセル内に溶液が注入されると、トオルの死体が動き始めた。
『デスガ、コノ体ニハ魂ガアリマセンノデ、精神マデ再生ハ出来マセン』
「かまわぬ。本人のように振舞えるよう直接脳をコントロールするのだ』
『了解。脳ニコントロールチップヲ埋メ込ミマス』
銀色のチップがトオルの額にあいた穴に注入されていく。それが終わったら額り傷もふさがり、トオルは元の姿に戻った。
『簡易蘇生ノタメ、活動限界時間ハ4時間デス』
「かまわぬ。カグヤに別れの挨拶をさせた後、処分する」
老人はそういい捨てて、部屋を出て行く。
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すべてを見ていたトオルは、新たな復讐に燃えるのだった。
老人はカグヤが送られた、富士山のふもとにある豪邸に移動する。その隣の席にはトオルの動く死体が座っていた。
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「カシコマリマシタ」
トオルの死体は棒読みで答える。
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「かしこまりました。御前」
運転手はうやうやしく頭を下げる。
「よし。ではいくぞ」
老人とトオルの死体は連れ立って豪邸に向かう。玄関にはいると、カエデが待ち構えていた。
「おじいちゃん!なんでトオル君を殺した……え?」
老人に続いて入ってきた少年を見て、カエデはほっとする。少し顔色はわるいが、その少年は神埼徹そのままだった。
「トオル君、無事だったの?」
「ハイ。カグヤサマ。ゴシンパイカケテモウシワケアリマセン」
トオルはなぜか片言で言うと、頭を下げた。
「カグヤ様って?え?」
いつもと違う様子にカグヤは首を傾げるが、慌てた老人のフォローが入った。
「神埼君はあれから我々が手術して、このとおり蘇生した。その後にお前の身分を知って、少し緊張しておるのじゃろう。さあ、これで安心したじゃろう。きちんとお別れして……」
「待ってよ。ちゃんとお礼をしなきゃ。トオル君。異世界から私を連れて帰ってくれて、ありがとう」
カグヤはトオルの前で深く頭を下げて礼をする。
その時、虚ろな目をしていたトオルの目の焦点が戻った。
「別にいいさ。君とはこれから敵対するかもしれないし」
「……え?どういうこと?」
いきなり変なことを言い出したトオルに、カグヤは動揺する。
「俺は蘇生なんかしてない。この体はすでに死体だ」
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「き、貴様!何を言う!『竹筒』よ!狂ったか?」
「残念だけど、お前の自慢の機械のコントロールは跳ね除けた。今この体を動かしているのは、紛れもなく俺自身の意思だ」
トオルはカグヤから離れ、老人を睨みつける。
「よくも俺を殺したな。この復讐はきっちりとさせてもらう。たとえお前が誰であろうともな。覚悟しておけ」
そういうと、トオルの体は白目をむいて倒れる
「キャーーー!」
今度こそ完全に死体になったトオルを見て、カグヤは絶叫するのだった。
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