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■第2楽章:2つの異なる道標
EPISODE 25:一粒の希望を
しおりを挟む最上階へと到着したトネリコ達の目の前には、血のように赤い水晶で出来た巨大な蕾が浮遊し鼓動の音を出していた。
「まだ、咲き誇っていない。なら、まだ間に合うね」
「リコ」
「多分、触れたらアタシはアタシではなくなる。その一瞬で、アタシを殺して欲しいの」
「なぁ、本当にそれでいいのか?リコ」
「レーヴェの旦那」
「俺は、結局答えなんて出せていない。リコを喪うと思うと、今までの楽しかった日々さえも喪うという事……何一つ、納得なんてしてねぇ!!だけど、やらないといけないってのは分かっているっ!!世界は、何度もループするってのはっ……何度も、この思いを感じる事になるんだとっ!!」
レーヴェはトネリコを引き寄せて、トネリコの温もりを感じながらもトネリコを殺さないといけないという事に覚悟を決めてトネリコから離れる。
「ごめんね、レーヴェ。レーヴェにも、ヴェイグさんにも。とんでもない決断をさせているって、理解はしているの。でも、ループする世界にはしたくない。だって、折角皆と過ごした日々を何度も得ては喪うような世界は辛いだけだから」
トネリコは優しく笑みを浮かべてからレーヴェ達に背向けて、血のように赤い水晶で出来た巨大な蕾へと近寄り見上げる。
これに触れたなら、トネリコという存在は消え去り“アナザー・メメントリ”となり世界の文明をリセットする為に誕生するのだろう。
それと同時に、レーヴェとヴェイグには融合と同時に直ぐに殺してもらうためにも自分の意思を強く出さないといけない。
「(大丈夫、アタシは出来る。やらないと、いけないんだから。元凶として、全てを持っていって元に戻すんだっ)」
トネリコは一歩前に出て血のように赤い水晶で出来た巨大な蕾に触れると、鼓動の音が大きくなり巨大な蕾は花弁をゆっくりと開いては1枚1枚と取れていきトネリコを包んでいく。
それは、2人のトネリコが1つとなるために重なっていく。
そして、全てが1つになり包んでいた花弁は羽根となり舞って散っていくと其処には大人の姿となり長い髪となり背中には四対の歪な翼を生やした目を閉じたトネリコが立っていた。
「リコ」
「……」
「レーヴェの旦那」
「わかっている」
レーヴェは目を閉じている大人姿のトネリコに歩み寄り、トネリコが必死に押さえてくれている事に気付いては首を左右に振ってから大人姿のトネリコを優しく強く抱きしめる。
「絶対に、忘れたりしない。リコとの日々、これから先の事も絶対に忘れたりしない」
「……」
「いつまでも、俺はリコを愛している。一緒に、いるからな」
レーヴェは1つの変わった少し長めの短剣を持っていて、その少し長めの短剣でトネリコの後ろからトネリコの心臓へと貫き自身の心臓も一緒に貫く。
「っ……、レー、ヴェ……」
「おう、ちゃんと側にいるぜ。いつまでも、俺はリコの側にいる。どんな時だろうとも、どんな状態だろうとも……ずっと、一緒だ」
眩しい光がトネリコから放たれると、部屋全体を通り越して世界全体へと放たれ包まれていくと微かに“ありがとう、レーヴェ。ありがとう、みんな”とトネリコの声がしていた。
光が消えたと同時に森林の真ん中で座り込んでいたトネリコは、周りを見渡しては何処となく何かに気付いては少し悲しそうな表情をしていて俯いていた。
「(そうだ、この場所は……。最初、目を覚ました場所で………)」
「お?こんな所に、女の子が1人??」
「………」
草むらから出て来たのは黒紫色をしたロングウルフカットで尻尾を三つ編みにしており、切れ長なキツめのツリ目をした暗めの青緑色の瞳をしている凄く背の高い青年だった。
まだ、“ホムンクルス化”する前のレーヴェだ。
「ねぇ、オニーサン」
「ん?どうした?」
「アタシの事、覚えていますか?」
「キミの事?」
目の前のレーヴェは顎に手を添えて何かを考えてはいるが、どうやらトネリコの事は覚えてもいないし“今までの事”さえも覚えていない。
だったら、頼めるだろう。
今此処で、自分を殺してもらうために。
「オニーサンに、頼みごとがあります」
「え、た、頼みごと??」
「オニーサンにしか、出来ない事です」
「俺にしか、出来ない事……?ってか、こんな所に居たら危ないだろ?都市に行けば、安全は確保されるし」
「いいんです。それより、頼みごとを聞いてください。」
「お、おう?」
トネリコは目を閉じて深呼吸をしてから、瞳を開けて真っ直ぐレーヴェを見ると何故かレーヴェに強く抱きしめられていた。
「え……………?」
「………わりぃ、ラグで直ぐに思い出せなかったぜ。リコ」
「な、なんでっ??なんで、覚えてっ??」
「ちゃんと、全部覚えているぜ?」
「ど、どうして??覚えていたら、アタシの事を殺してもらえないじゃない!?なのに、なんでっ……これじゃあ、繰り返すだけだよっ」
「大丈夫、繰り返させるつもりはない。そのためにも、色々と水面下で準備をしてきたんだ」
「え?」
「とりあえず、“最後のダンジョン”に俺達は向かうぞ」
レーヴェはトネリコの手を掴んで歩き出すと、トネリコは理由がわからないという表情をしてはレーヴェに言われるがままついていく事しか出来なかった。
このままだと、何度も繰り返す世界に閉じ込められてしまうというのにレーヴェは“大丈夫”だと一点張りだ。
「レーヴェっ、ちゃんと説明して?じゃないと、わからないよっ」
「話しながら、向かうから。まず、なんで俺が“記憶所持”なのかって話だよな?」
「う、うん」
「まぁ、話をすると長くはなるけど」
「それでも、いいから」
「わかった」
【トネリコちゃんが、この世界にいるアンタらを助けたいと願っている。それなら、それを護りたいってのもあるんでしょ?だから、差し出された2つの道に悩んでいる】
【っ………】
“リーオに指摘されたレーヴェは、俯いてしまい唇を噛んでいた。”
“自分でも、何となくわかっていた事だ。”
“それを知り合ったばかりの人物であるリーオに、それを見事なぐらいに指摘された事に悔しさを感じていた。”
【そんなに、悩むならさー】
「?」
【俺が、殺してあげようか?トネリコちゃん】
【!?】
“レーヴェはリーオの首へと黒い大鎌を放つが、リーオは不敵な笑みを浮かべては刀で軽々と防いでいた。”
【あはっ、そんなに怒りを見せるなら自分で手をくだしなよ。他人に、しかも知り合ったばかりの人物に殺させるのが癪ならば自分ですべきだ。俺なら、そうする】
【っ……】
【それが、“愛”だと思うけど?それに、1つだけアンタに教えてあげる】
【何を………?】
【トネリコちゃんを犠牲にしないで救うための手段】
【!?、そんなのがあるのかっ!?】
“リーオは不敵な妖しい笑みを浮かべては、岩の上から飛び降りてからレーヴェへと近寄りレーヴェを見上げる。”
【勿論、あるよ?ただし、これは一回きりのチャンスとなるから間違えたりすれば意味を成さなくなる。それでも、その一回きりのチャンスを使ってみる?俺的には、本当は反対だったんだけど……まぁ、別の理由が出来たから特別にって感じになる】
【……?】
【コレ、キミにあげるよ。フィロが、一生懸命に用意したモノだから下手な使い方をした場合……わかっているよな?】
“リーオがレーヴェに手渡したのは、1つの小瓶に入った2つの錠剤である。”
“レーヴェは受け取り、その小瓶に入った2つの錠剤を軽く睨んでは首を傾げている。”
【その錠剤を飲んだ者は、“前回の記憶を所持して次の時に記憶を持ったままと、其処まで手にした知識や技術など継承したままで居られる”ってヤツだよ。だから、キミと別のヤツに記憶所持と技術を持たせた状態でリセットされた世界へと戻る。そうすれば、“最初の邂逅”の時に“ソイツ”だけを殺せるって事だ。フィロの話によれば、接続されるのは彼女が何かを感じた時だから“最後のダンジョン”を先に向かえば“ソイツ”だけを殺せる】
【そんな事が……、出来るのか?本当にっ】
【まぁ、それはキミとキミが同じように物事を託したいヤツ次第って所だね】
“レーヴェは手渡された小瓶を見つめては、何が最適なのかを考えては目を閉じては深く考えていた。”
“自分以外にも、記憶所持でいける。”
“そうなると、誰に託すべきなのか。”
“それは、直ぐに答えが出てレーヴェは目を開けて目の前にいるリーオに小瓶を差し出す。”
【は?どういうつもり?】
【これが、1番の最適解だと思ったからだ。アンタは、オズワルドが推すほど強いってのは分かっている。それなら、アンタも記憶所持していた方がいいって思ったんだ】
【……俺的には、どうでもいいんだけど?それに、ソレが無くとも俺は“覚えている”から。それは、要らないよ。だから、オズワルドにでも託したら?アイツ“ファースト”なら、良い感じにやってくれるでしょ】
その後レーヴェは小瓶についてオズワルドに話をしてオズワルドも承諾し、オズワルドとレーヴェは錠剤を飲んだ。
「だから、俺とオズワルドは覚えているって訳だ」
「なんで、リーオさんはソレを……」
「まぁ、アイツの事だからフィロソフィーの事を考えて決めた事だろうな」
「…………そっか」
「多分、オズワルドも“最後のダンジョン”に向かっている筈だから。失敗しなければ、全部丸く収まる筈だ」
世界が融合する前のままならば、“異世界”に深く関与するような干渉は起きる事はない。
そうすれば、誰一人として傷ついたり何かに取り憑かれたかのように変化する事はない。
「これで、いいんだよね。あるべき形に戻して、そうすれば何事もなく済むって」
「そうだな」
「生きていて、いいんだよね?」
「当たり前だろ」
「うんっ……」
トネリコは俯きながらも、何処となく嬉しそうにしては涙を流していた。
「…………」
レーヴェは何とも言えない表情をしながらも、トネリコをチラっと見てから前を見ては強い眼差しをしていた。
そうだ、これでいいんだ。
2つの世界は、所詮“別々の世界”だ。
NeXT
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