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プロローグ〜開幕〜
第二十九話
しおりを挟む______……痛い……。けど、私はまだ……生きている。
「…………ん……」
目を開けると、私は黒御殿の自分の部屋で眠っていた。
部屋には自分一人だけ。隣の部屋では他のみんなの寝息が聞こえてくる。
(ということは、無事終わったんですね……)
意識はまだ朦朧としているが、身体中が痛い気がする。黒御殿の高さよりも高い位置から落ちたから当たり前か。
でも、1番痛みを感じるのは、兄者に絞められた首元。
兄者相手に本気でやりあって生きて帰れただけでも奇跡だ。
意識を失う前に覚えている最後の記憶は、血の塊の上で倒れている兄者の姿。
「あ……二……じゃ」
首を絞められた際に喉が潰れたのか声が上手く出せない。身体も動かそうとすると骨がミシミシと音を立てて、激痛が走る。
でも、私は行かなければならない。兄者に確かめなければならないことがあるから。
彼はきっと、中階層にある鉄窓の間にいるはず。
そこは愛妾部屋同様、分厚い鉄扉に守られた監獄部屋だ。
意識がまだ浮動状態の中、歩けるはずもなく、私は床を這って兄者がいるであろう場所に向かおうとした。
包帯で固定され、思いどおりに動かない手足を無理やり動かす。
痛みなんてどうでもいい。今兄者に会いに行かないと……今会って、喧嘩した後に謝らないと、もう二度と兄者と元の関係に戻れない気がするから。
「その体でどこに行くの?」
床を這う私に誰かが被さる。
聞き覚えのある声のようだが、誰なのか分からない。特定するのも面倒くさい。きっと隣で寝ていた誰かが私に気付いたんだろうと思い、構わず進んだ。
「行くな。戻れ」
「ど……いテ」
「行けば死ぬ。烏水は諦めろ。君を庇った傷が癒えても戦犯として処刑される。彼は助からない」
そんなことは分かってる。だから、会うなら今しかない。今を逃す訳にはいかない。
「これは警告だ。戻れ。せっかく助かった命を落とすつもりか」
「あな……た、だれ」
「私は死神だ」
「し……にガみ」
「私は魂を狩り、世の生命の均衡を保たなければならない。狩り時がくれば、私は誰の魂であろうと狩らねばならない。君の順番も、そう遠くない。寿命を縮めるような真似はするな」
「……どうでも、イい」
「は?」
「どう! でもイい。わた、し……ハ、いま、あい……に、いかな、いと」
「死神からの警告を無視すると? 命を無下にするつもりか」
うるさい。死神だか誰だか分からない奴と話している暇など、私にはない。時間が惜しい。自分の命に縋るくらいなら、依頼なんて受けていない。
例え死に行く運命だったとしても、喧嘩別れのまま気まずい関係で兄者と地獄で再会したくない。
「秋花。私の言うことを聞け」
「うるさい……」
「『うるさい』って」
「あ、なタ……が! ほ、ンモのの、死か……み、なら……兄……じゃを、助け……て」
「…………え……?」
「生、死……の神、なら……わた、しの…よ、め……い、あげる……。から、兄者……たす……け……て…………」
ああ……寝ている暇なんてないのに……。
兄者と最後に、仲直りしたいのに……、意識が、飛んで行く……。
・
・
・
「秋花?」
力尽きた彼女は、私の方を一度も振り向くことなく、一方的に願いを言って眠りに落ちてしまった。
「……ホント、人間って勝手だなぁ」
身勝手な頼み……助けを乞う分際で礼儀も何もない、本来なら相手するに値しない。
それなのに、顰めっ面で畳で気を失う彼女に、私の心は何とも言えない愛しさで満たされた。
それは思わず、笑みが零れ落ちてしまうほどに……
「分かった。この恵那和が、然と聞き取った。君の命を代償に、願いを叶えてあげる♡」
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