2 / 6
2
しおりを挟む「こ、ここに残るとどうなるのですか?」
パパは恐る恐る老人に聞いた。
「そんなもん、まだ決めてへんから分からん。気まぐれで決めたからなぁ。
ただ一つ言えるのが、儂の気が変わらん内に早う決めた方がええんちゃう?
知らんけど」
『さっさと決めないとお前達三人御陀仏だ』
そう言っているようだ。ならばこちらの答えはきっと、考えるまでもなく決まっている。
「き、菊乃が……娘がここに残ります! だから、俺達を助けて下さい!」
「お願いします!」
「……それでええんか?」
「ええ! 俺達の代わりに菊乃をここで働かせます! 好きに使ってやって下さい!」
パパ……とても嬉しそう。
さっきまでの怯えた顔が嘘みたい。
それもそうか。今回はダメかと思ったけれど、今回もいつもと同じ様にやればいいから安心したんだ。
「外国に売る事になるかもしれんぞ? もしかさたら身体だってバラされるかもしれん。二度と会えんようになる覚悟は出来てるか?」
「「はい!」」
「……分かった。なら、あんたらの借金は帳消しや」
「ありがとうございます!」
「ありがとうございます‼︎」
パパとママは深々と老人に向かって頭を下げた。ママに至っては嬉しさのあまり涙を流している。
「悪く思うなよ、菊乃」
「じゃあね」
二人は拘束を解かれると、後腐れなくすぐにその場を立ち去った。僕の顔を最後に見ることもなく、大事そうに荷物を抱えて、扉の前のおじさん達を掻き分け部屋を出て行った。
「チッ。罪悪感の微塵もねーな」
逃げるパパとママの背中を睨むおじさんの一人が、小さく呟いた。彼は先程、僕が仕留め損ねたおじさんだ。
「まーええわ。菊乃ちゃんには両親が借りた金、きっちりとここで働いて返してもらおうか。
紹介が遅れたな。さっきはどうも。
儂は松田組の幹部の一人、尾崎 高明や。兵庫出身や、よろしく」
「島 亮介だ」
そして僕を止めた男が島 亮介。
「ほんで、儂が松田組組長 松田 冬詠」
「志水 菊乃。10歳です。
僕はこれから何をすれば良い?」
「お、状況の理解がちゃんと出来とる。ええ子やなぁ。
君を組でどう使うかはまだ決めてへん。せやけど、君の使い道は多種多様になる思てる。
とりえあえず、君をよう知る為にこれからある場所に一緒に来てもらう。高明、手伝たれ」
「へい」
高明に促され、彼の後について行くと3階の角部屋に案内された。
「ここが菊乃ちゃんの部屋な。一応トイレも風呂場も付いてるからそれ使ってまずは体綺麗にして。今日から菊乃ちゃんはここに住み込むわけやねんけど、ウチの組は女手はほとんどおらんくて、男ばっかやから風呂とかは基本ここしか使われへんと思っときや。あと……」
せかせかと部屋中を歩き、高明は色々と僕に説明しながら、奥にあるクローゼットに手をかけた。
中を開けると、色とりどりの衣装がぎっしりと綺麗にハンガーに掛けられていた。衣装だけじゃない、下を見れば何十足の煌びやかな靴も整然と並べられていた。
「そうやなー……菊乃ちゃん、めっちゃ小ちゃいからなぁ。
とりあえず今日は、コレ着て。靴はこれ履いてな」
渡されたのは、明らかに自分が着ている服の材質とは違うパーティードレス。深緑でお腹辺りには黒の大きなリボンが前に帯のようにデザインされた、ノースリーブのワンピースだ。
「あと1時間したら行かなあかんから、今から20分でお風呂入ってきて。ちゃんと髪も綺麗にするんやで」
一体どこへ向かう準備をするのかは全く分からないが、とりあえず時間がないことだけは察した。
着ていた服を脱がされ、すっぽんぽんにされると風呂場へと放り投げられた。
1週間ぶりのお風呂は、とても豪華だった。家の風呂場とは比にならない程広く、カビどころか水滴一つ落ちていない。鏡の前には女物のシャンプーやボディーソープが何種類も並べられていて、何をどう使えばいいのか分からない。一々聞くわけにも行かず、残された時間も多くない為、その辺に置かれていた物を適当に取り出し、身体を洗った。泥や汗でいっぱいだったから、白い泡はすぐに色が濁った。
風呂から上がり、差し出された服を試行錯誤しながらなんとか着た。
脱衣所から出ると待っていた高明のおじさんが、腕を引き僕を鏡台の椅子に座らせると、ドライヤーで僕の髪を乾かし始めた。美容師さんのような慣れた手つきで、あっという間に僕のヘアアップを完成させた。鏡を見ると一週間ぶりに洗ったとは思えないほど、髪に艶が出ている事がすぐに分かった。
そして仕上げに、彼は僕の痛々しい右目の傷に消毒液を塗り、黒の眼帯をつけてその傷を隠した。
「まあまあやな。ほな行くで」
部屋から連れ出されると、今度は駐車場に案内されて車に乗るようにと言われた。ヤクザらしい黒の車。傷一つない。
これからどこに行こうというのだろう。借金を背負わされた娘にこんな格好させて、……どこかに売り飛ばすつもりなのだろうか。
——まあ……どうでもいいか。
言われた通り車の後部座席に乗った。ドアを開けると、中にはすでにタキシードを着た一人の青年が退屈そうに窓の外を見つめ、車に乗って待っていた。
「若、お待たせしました」
「遅い」
『若』と呼ばれる青年は、高明のおじさんを睨むと思い切り舌打ちした。明らかに不機嫌な態度だ。一体どれくらい待たされていたのだろう。
「申し訳ありません」
「何だ、そのガキ」
見た目年齢は中学生か高校生くらい。なのに不意にこちらに向けた視線は、大人よりも鋭く殺気漂うものだった。まるで虎にでも狙われているかのように、背筋に冷たい緊張が走った。
「例の一家の借金のカタです」
「ガキが?」
「はい。どうも今日のパーティーで使えるかどうか試すようで。
菊乃ちゃん。この方は組長のお孫さん、次期組長の春詠さんや。自己紹介し」
「志水 菊乃。10歳」
「チッ。あのジジイ、正気かよ」
「まあまあ。とりあえず、急ぎましょか」
0
あなたにおすすめの小説
ヤクザのお嬢は25人の婚約者に迫られてるけど若頭が好き!
タタミ
恋愛
関東最大の極道組織・大蛇組組長の一人娘である大蛇姫子は、18歳の誕生日に父から「今年中に必ず結婚しろ」と命じられる。
姫子の抵抗虚しく、次から次へと夫候補の婚約者(仮)が現れては姫子と見合いをしていくことに。
しかし、姫子には子どもの頃からお目付け役として世話をしてくれている組員・望月大和に淡い恋心を抱き続けていて──?
全25人の婚約者から真実の愛を見つけることはできるのか!?今、抗争より熱い戦いの幕が上がる……!!
一条さん結婚したんですか⁉︎
あさとよる
恋愛
みんなの憧れハイスペックエリートサラリーマン『一条 美郷(※超イケメン)』が、結婚してしまった⁉︎
嫁ラブの旦那様と毒舌地味嫁(花ちゃん)....とっ!その他大勢でお送りしますっ♡
((残念なイケメンの一途過ぎる溺愛♡))のはじまりはじまり〜
⭐︎本編は完結しております⭐︎
⭐︎番外編更新中⭐︎
クラスで3番目に可愛い無口なあの子が実は手話で話しているのを俺だけが知っている
夏見ナイ
恋愛
俺のクラスにいる月宮雫は、誰も寄せ付けないクールな美少女。そのミステリアスな雰囲気から『クラスで3番目に可愛い子』と呼ばれているが、いつも一人で、誰とも話さない。
ある放課後、俺は彼女が指先で言葉を紡ぐ――手話で話している姿を目撃してしまう。好奇心から手話を覚えた俺が、勇気を出して話しかけた瞬間、二人だけの秘密の世界が始まった。
無口でクール? とんでもない。本当の彼女は、よく笑い、よく拗ねる、最高に可愛いおしゃべりな女の子だったのだ。
クールな君の本当の姿と甘える仕草は、俺だけが知っている。これは、世界一甘くて尊い、静かな恋の物語。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
貞操逆転世界で出会い系アプリをしたら
普通
恋愛
男性は弱く、女性は強い。この世界ではそれが当たり前。性被害を受けるのは男。そんな世界に生を受けた葉山優は普通に生きてきたが、ある日前世の記憶取り戻す。そこで前世ではこんな風に男女比の偏りもなく、普通に男女が一緒に生活できたことを思い出し、もう一度女性と関わってみようと決意する。
そこで会うのにまだ抵抗がある、優は出会い系アプリを見つける。まずはここでメッセージのやり取りだけでも女性としてから会うことしようと試みるのだった。
俺をフッた幼馴染が、トップアイドルになって「もう一度やり直したい」と言ってきた
夏見ナイ
恋愛
平凡な大学生・藤堂蓮には忘れられない過去がある。高校時代、告白した幼馴染の星宮瑠奈に「アイドルになるから」とこっ酷くフラれたことだ。
数年後、瑠奈は国民的アイドル『LUNA』として輝いていた。遠い世界の住人になった彼女との再会なんて、あるはずもなかった――そう、変装した彼女が俺の前に現れ、「もう一度やり直したい」と泣きつくまでは。
トップアイドルの立場を使い強引に迫る元幼馴染と、過去の傷。揺れ動く俺の日常を照らしてくれたのは、俺の才能を信じてくれる後輩・朝霧陽葵の存在だった。
俺をフッた幼馴染か、俺を支える後輩か。過去の清算と未来の選択を描く、ほろ苦くも甘い、逆転ラブコメディ、開幕。
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる