売られた少女とヤクザの息子

ぬん

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移動して30分……
車は、ある有名ホテルの前で止まった。
『ホテルプリンス』……大物政治家や芸能人しか出入りしないと言われている、有名なセレブホテルだ。

「駐車してくるから、若の後ろ付いていき。ええか?絶対に何があっても離れたらあかんで?逃げたと思われて即あの世や」

ホテルの出入り口前で、若と二人降ろされた僕は高明のおじさんにそう釘を刺された。だから僕は、若の後ろを離れなかった。
だけど、そのやり取りを見ていたにも関わらず、若は鬱陶しがっているような態度で、僕を引き剥がすように足早にホテルの中へと入って行った。そして若に釣られて、僕も一緒に中へと入っていった。


「春詠様、お待ちしておりました。」


エレベーターが最上階まで上がり扉が開くと、ホテルの使用人が若を待ち兼ねていた。若が向かったのは、所謂VIPスペースと呼ばれるところだ。

廊下を歩いた先にある大きな扉が開けた空間では、煌びやかとした大々的なパーティーが開かれていた。机の上には、ショーケース越しやチラシでしか見た事がない料理が数々と並べられていた。そのあまりに美味しそうな見た目と匂いが、僕の腹の虫を豪快に鳴らす。ここ最近碌なものを食べていないせいもあって、鳴らしてはいけないと分かっていながらもどうすることもできない。


「なんか食えば?」
「いいの?」
「好きにすれば」


見兼ねたのか、呆れたように若は僕にそう言ってくれた。
若に許可をもらった僕は、遠慮なく一番近くにあったテーブルの料理を貪り始めた。
夢にまで見たこの瞬間。美味しい。いくらでも入る。いつもサンプルを眺めるだけか、パパとママが食べている所を見ているだけだった。夢ならば一生覚めないでほしい。

食べる事に夢中になっていると、何やらクスクスと話し声が聞こえてきた。
その声でふと我に帰り周囲に目を向けると、久しぶりのご飯に美味しそうにかぶりつく僕を周りの大人達は微笑ましく見ていた。

そういえばよく見ると、ここにいる参加者の多くは、僕は。確か、町の電光掲示板やポスターなどで見たことがある。ということは有名人、なのだろうか。


「ご来場の皆様、本日はお越し下さり、誠にありがとうございます。」


参加者が出揃ったのか、ステージ上で組長がセンターマイクで参加者にアナウンスをかけた。


(いつの間に来ていたんだろう)


会場の皆は身体をステージ側に向け、真剣に彼の挨拶を聞き始めた。でも、僕には難しい話はよく分からない。だからその間も僕は構わず一人、料理を食べ続けた。







「冬詠殿、それで此度の催しの目的は一体何かね?」

「それは、ご招待した皆様を見れば分かることだと思いますが?」

「ん?  残念だが、私はテレビでお見かけした人物はいても、ほとんどが初めて言葉を交わす人物ばかりだが?」

「ヒントを申し上げると、ここにいる皆様は同じを抱えております」

「ほう…なるほど。それ故に、このような場所に、が今日はいるのか?」

「まあ、そんな所でございます。また、強いて言うなれば皆さまは、未来の子供達のために貢献している救世主。子供を誰よりも愛し、全ては子供のために汗を流す貴方方の為に、私からの僅かながらの感謝を伝える為にこのような場を設けさせて頂きました。これからも皆々様の働きが、日本の輝かしい未来への発展の礎となることをお祈り申し上げます」

「とかなんとか御託を並べ、本当は松田組をバックアップしている我々への賄賂なのでは?」

「おや、これは失敬」

組長の冗談に、会場内は大人達の笑いに包まれた。


「で……守備の方は?」
「このホテルは松田家が代々オーナーを務めるホテルでございます。使用人共に既に手は回っており、設備も整えられております故、外には届きません。存分に、お楽しみ下さいませ。……菊乃」
「?」

「大人の会話は分からないのに」と思いつつ、呼ばれた僕は仕方なく食べていた料理を置いて、組長の元へ駆け寄った。
すると僕もステージ上に上げられて、皆の視線を一身に受けた。ステージの上に上がると分かっていたら口の周りの汚れをちゃんと綺麗に拭いてから来たのに。


「今日新しく入った組員の菊乃と言います。可愛がって下さい」
「おお!これはまた上玉な」


組長が僕を紹介した途端、参加者達は食い入る様に僕を見て、ステージの方へとにじり寄ってきた。食い入ってしまう程に彼らは子どもが好きなのだろうか。


「これから君はここにいる皆さんのお相手をする」


組長が僕にしか聞こえない小声で耳打ちしてきた。


「皆、菊乃ちゃんみたいな子が大好きやから悦んではるわ。もしも、自分も乗り気なんやったら、右ポケットに入ってるもんでも使って、皆さんを満足させたり」


右ポケット?
僕は咄嗟にポケットの中に入っているものを確認した。いつの間に入れられていたのだろうか。


「……これ…」
『しっぽ』になりなさい。これであんたの組での使い道が決まる」


組長はポンと僕の軽く肩を叩いて降壇した。降壇した後、組長はVIPルームを後にした。そして組長に続くように、若やボディーガードをしていたおじさん達も部屋を出て行った。松田組の関係者は、僕一人だけが取り残された。

その瞬間、僕は組長が僕に何をさせたいのか漸く分かった。


「菊乃ちゃんって言うのかい?」
「可愛いねぇ~」
「こっちにおいで、おじさん達と一緒に遊ぼうねぇ」


ステージ下から伸ばされる手。その手が僕を捉え、引き摺り下ろそうとした時、いつものようにが頭の中をループし始めた。


「さあ」



——『菊乃……良い子だね』


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