売られた少女とヤクザの息子

ぬん

文字の大きさ
4 / 6

4

しおりを挟む


——『菊乃……良い子だね』


プッシャああああああああああ!!!!


「……え……?」


 途端、僕の腕を掴んだ手は、赤黒い飛沫に消し去られた。


——『さあ、菊乃……昨日のおさらいをしよう』


 そして僕は、手を吹き飛ばした男の喉を斬った……ポケットの中に入れられていた、折りたたみ式ナイフで。


「ぎゃああああああああああ!!!!!!!」


 男が血を流して倒れると、状況を察知した他の参加者達は雄叫びをあげ、一斉に出口の方へと向かった。


「子供が!
誰かぁ!
助けてくれ!」
「開けろぉ!!!」


 逃げようと扉を叩くも、扉は開かない。


——『菊乃、まず最初に確認しなければならないのは、相手の数と位置。
特に、位置には絶対に注意を削いではいけない』


「来るなぁ!!!!!」


追いかけて、追い詰めて


——『次は、相手を殺すために使う自分の武器だ。
でもこれは、手持ちに限らず、周囲を見て武器になりそうな物すべてを指す。
武器と化すものを一瞬で見抜くことが大事だ。重そうな物やガラスのように割れそうな物を探せばいいよ。形にはこだわらなくていい』


「金ならやる!! 金ならやるからぁああぁあ!!!」


 恐怖心を植え付け、命乞いをさせて


——『ここで注意しなければならないのは、手持ちの武器以外の武器は、相手の武器にもなるという事を頭に入れておく事』


 肉を裂き、眼球を抉り


——『人によって位置のズレなどの多少の違いはあるが、他人を瞬殺できるポイントは、大体皆同じだ。
急所と言ってね。
まずは喉元。正面から喉仏を抉るようにナイフを突き刺すんだ』


 苦しみを与え、地獄を見せる。


——『そして鳩尾。身体の中心、お腹の少し上辺りを狙うといい。
でも、即効性はないから、致死量の血が流れるまで相手はまだ生きている。菊乃はまだ小さくて、反撃されると手も足も出せないから油断してはいけないよ』


「あっははははは!!!……」


 これはいつもと同じ光景だ。
 気づけば僕は腹の底から笑って、人を襲っている。もう誰も生きてはない。血を流して、バラバラになった身体が床に転がっているだけ。

 パパとママと逃げる時、僕がいつも通ってきた道の光景と同じだ。


「組長……これ……」
「……志水に払う金は、ちと安過ぎたか」
「は?」
「2億……いや、それ以上の価値はある。期待以上や。
お疲れやったな、菊乃ちゃん」


ぐうぅ……


 口で返事するよりも先に、お腹で返事をしてしまった。動いたからお腹空いたなぁ。


「ええもん見させてもろたお陰で、君の使い道を決められそうや。
とりあえず、パーティーはお開きや。
菊乃ちゃん、粗末になったけどお腹空いたんやったらそこら辺のもん全部食べてええよ」


 空腹が限界だった僕は、待っていましたと言わんばかりに余っている机の上の食べ物に手を出した。だが机の上には死体が乗っていて、料理が下敷き状態に。


「んん!」


 なんとかして抜き出したフライドチキンにかぶりつこうとした時だ。


ペチッ!


「馬鹿、食うなや」


 若に手を叩かれて、チキンのお預けを食らった。それに、何故か若の顔がさっきよりも険しい。


「食べていいって」
「こんな血付いとるもん食えるか!」


 せっかくのご飯……組長からも食べていいって言われたのに。血なんて少し付いているくらいで味変わらないのに。


「来い」
「でも……」
「ええから!」 


 何故若に怒られたのか、僕は分かっていない。多分、若も僕が状況を理解していない事を分かっているだろう。でも若は、汚れた僕の手を引いて会場を後にした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ヤクザの若頭は、年の離れた婚約者が可愛くて仕方がない

絹乃
恋愛
ヤクザの若頭の花隈(はなくま)には、婚約者がいる。十七歳下の少女で組長の一人娘である月葉(つきは)だ。保護者代わりの花隈は月葉のことをとても可愛がっているが、もちろん恋ではない。強面ヤクザと年の離れたお嬢さまの、恋に発展する前の、もどかしくドキドキするお話。

お隣さんはヤのつくご職業

古亜
恋愛
佐伯梓は、日々平穏に過ごしてきたOL。 残業から帰り夜食のカップ麺を食べていたら、突然壁に穴が空いた。 元々薄い壁だと思ってたけど、まさか人が飛んでくるなんて……ん?そもそも人が飛んでくるっておかしくない?それにお隣さんの顔、初めて見ましたがだいぶ強面でいらっしゃいますね。 ……え、ちゃんとしたもん食え? ちょ、冷蔵庫漁らないでくださいっ!! ちょっとアホな社畜OLがヤクザさんとご飯を食べるラブコメ 建築基準法と物理法則なんて知りません 登場人物や団体の名称や設定は作者が適当に生み出したものであり、現実に類似のものがあったとしても一切関係ありません。 2020/5/26 完結

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

溺愛ダーリンと逆シークレットベビー

吉野葉月
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。 立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。 優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?

ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~

cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。 同棲はかれこれもう7年目。 お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。 合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。 焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。 何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。 美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。 私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな? そしてわたしの30歳の誕生日。 「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」 「なに言ってるの?」 優しかったはずの隼人が豹変。 「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」 彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。 「絶対に逃がさないよ?」

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...