本物勇者に捨てられて次席勇者に拾われた俺

高島静貴( しずたか)

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(26)大食いしよう!①

 大食いをしよう。
 運命に失望した時に。
 宿命に絶望した時に。

 どうせどうにもならないのなら、一時でも忘れたい。ぶつける何かがあったって、良いじゃないか!
 いや、戦うんだ。
 これは戦いへの前哨戦なのだ。
 俺は負けない。


 

「………………だからって、これは無いんじゃないですか………」
「"だから"は何に掛かるんだいジョルジオ君。
俺に君の考えた事を説明してくれるかな」
「いえ、そんな」

 ジョルジオは戦々恐々な思いで対面で座るケイトを見る。ケイトの前に陣取る料理を込みで見る。
 ケイトの前には重量して3.5キロ超えの料理がででん、と置いてある。熱々の大型鉄板の上に魔獣ステーキ肉が、鶏(に似た生物)の唐揚げが、特大サイズの海老(に似た生物)フライが、厚切り豚(に似た生物)カツが、牛(に似た生物)カルビの焼き肉が盛りに盛られ、それ等に隠れてガーリックパスタにオムライスと炒飯が合盛りで並び、しかも炒飯の上には何故かとろけるチーズがてんこ盛りで盛られた、この全て載った一品が店の大盛り標準メニューであった。目安、と注釈があり読むと『※大体三キロ。店長の気分で前後します』なる文章があったが嘘八百もいい所であろう。後はあっても前は神賭けて無いはずである。
 しかもケイトは甘い清涼飲料水があるのに食後に爆盛スイーツ盛り合わせまで注文していた。

 ………………………………恐ろしい。

 ジョルジオが内心怯えた。
 これを戦に臨むかの様な表情でカラトリーを握り締めて見つめるケイトがいる。

「完食出来なかったら…」
「元々自腹だし問題なし」
 シャキーン!と構える。
「無理ですって……」
「限界までやるよ。いや、全部食ってやる。俺の男気を見せてやるよ!」
「………………」

 ケイトの心の振り子は左右に振るだけでは飽き足らず、勢い余って回り過ぎて異次元に飛んでしまったらしい。男気って、その顔で。

 自分は普通盛りのステーキ定食、ただし本日の日替わりスペシャルメニュー"特別提供魔獣肉ステーキ定食"を頼んでジョルジオは呆れて目を細めた。

 例の大物魔族の事件から壁を作ろうとするケイトをそうはさせまいとジョルジオがひたと寄る。
 にこやかに。ケイトと会っている時は当然裏表なく心底にこやかに。それ以外では狙った獲物は逃さない獣の様に、あるいは追尾システム装備の兵器の様なしつこさで。虎視眈々とにこにこしながら壁を潰していく。

 今日は王国のみならず、大陸中に支店を構える飲食店大手、その名も悪名高き"食い倒れ食堂"。
 "食い倒れ"は"食わせて倒す"がいつの間にかそうなっていた店名だ。倒す相手は勿論お客様だ。何故。何故客を倒す必要性があるのかは謎のまま、創業から数えて五百年以上が経つ。
 

 大盛りが売りの大衆食堂だが、その大盛りが他の食堂と一線を画す。この食堂の大盛りとは他所の大盛りの倍が普通なのだ。今ケイトが食べようとしている量はこの店の大盛りとされいるメニューの普通量である。
 メニューの種類は基本的にジャンクフードと言われる危険な料理だ。基本であって、普通の食堂にある様な普通な料理がない訳では無い。比較すると圧倒的にジャンク品が好まれるだけで。一皿上に野菜類がなく、油と脂と糖質の連合軍で出来た不健康で中毒性のある食べ物たちが人々の心を掴んで離さない。

 大昔から変わらぬ方向性と味付けで経営し絶大な支持を得ている食い倒れ食堂は、今や国民の健康を導く立場の政府にとっては政敵の扱いなっている。
 が、これも表面上の事で、公務員は普通に食べに来る。健康を気にする者は皆、健康茶を片手に通っている。幼い頃から家族総出で食べに来る場所なのだ。中毒なのか誰もが程よく洗脳されている。

 手伝いましょうか?
 と言いかけてジョルジオはやめた。
 自力で浮上しているのなら見守ってやった方が良いのだ。
 というか、口を挟めない雰囲気があった。

 悪魔に魂を売り払い仇を目の前にした人間みたいな形相のケイトだが、魂の売り場所を間違えてるとしか思えない。



 ケイトはジョルジオへ謝罪しにお宅突撃訪問をした日に沈むだけ沈んで、数日間ずっと鬱々と過ごした。その間にちゃんと表情にも態度にも出さず普段通りに仕事をこなした。けれど職場を離れ独りになると気分は元にいた場所に戻る。
 その場所に心はうずくまって夜が明ける。
 目覚ましのアラームが鳴れば空元気の現実世界がいつも通り始まる。
 無難に一日をやり過ごす。

 休日にテーブルの上に無造作に放置してあった紙袋がふと視界に映った。
 やっと認識した。
 書店員に貰った本だ。
 ベッドから起き上がりテーブルの上の袋から本を取り出した。
 
 ページをめくる。
 
 勇者と伴侶で当て書きした小説。
 あの映画の原作。
 最後まで見れなかった。でも、ここにはある。見れなかった終章がある。

 やめた。




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